俺は森に帰る途中で、数匹の妖怪を殺しておいた。俺は悪くない。襲ってきた向こうが悪い。
こんなにも非力そうな俺を襲うとは、全く持って紳士の風上にもおけない妖怪だ。
……紳士な妖怪を想像したんだが、気持ち悪くなった。妖怪は妖怪らしくあるべきだな、うん。
翌朝、俺は以前と同じ手段で永琳さんの仕事部屋に来ていた。
研究員?警備員?…ああ、道を教えてくれる優しい人たちのことね。
「で、結局何時に月に行くことになったんだ?」
俺は何かの書類にサインしたり、訂正を入れたりしている永琳さんに話しかける。
業務妨害?知らんな。
「明日の夕方に変更になったわ。でも、準備ができた人には既にロケットに移動してもらっているわ」
何故に変更になったし。
「へえ。まあ、俺は今日、そんな話をしに来たんじゃないんだよね。」
永琳さんは書類仕事を止め、顔をこちらに向ける。
「じゃあ、何しに来たの?」
「妖怪が大規模な群れをなして、こっちに向かってきてるよ。そろそろ、この町の外の森に来てるんじゃないかな?」
ダンッ、という大きな音が部屋に響き渡った。
永琳さんが机を叩いたのだ。その体は怒りのせいなのだろうか、ブルブルと震えている。
「まだ、一般人がロケットへの移動が終わっていないというのに、もう、そこまで妖怪が来ていると言うの・・・?頭の固い人間がいるばっかりに1日分遅れていると言うのに!」
どうやら1日分の遅れが生じた理由は、頭の固い人間がいて、月への移住の説得に時間がかかったからのようである。
自分が必死に手を尽くして月に行くための技術開発を行い、出発の準備もしてきたのに、頭の固い人間に邪魔をされ、普通の人が妖怪に殺される恐れが出てきている。
永琳さんが怒るのは至極当然と言えた。
そんなに固い頭ならば、是非ともその頭を妖怪にぶつけてほしいものである。
永琳さんの言っている『頭の固い』は物理的な意味ではないので、そんなことをしたら、アッサリと妖怪に食べられてしまいそうであるが。
俺が下らないことを考えている間に、永琳さんが荒れてきているので、怒りと焦りの感情をきれいさっぱりに流しておく。
その際にかなり手こずったものの、何とか流せた。
永琳さんは自分が急に落ち着きを取り戻したことに、戸惑いの表情をみせるが、優先順位を考えたのか、俺をチラッと見てから、仕事机の上にある電話機を使って指示を飛ばす。
「とある筋から情報が来たの!妖怪が町の近くまで来ているらしいから、一般人を多少無理やりでもいいからロケットに乗り込ませて!妖怪迎撃班が出撃するのは後!先に一般人の避難を優先させて!核爆弾?タイマーを明日の早朝にでも掛けて、都市中心の地下にでも埋めておきなさい!」
え、核爆弾?なんと物騒な。非核三原則でも設定してほしくなる。
一通りの指示を伝え終えた永琳さんはフウ、と一息着いて俺の方を見る。
「ハジメって能力でもあるの?さっき私の心から不自然に怒りと焦りの感情消えたのだけど」
「あるよ。『流れを操る程度の能力』がね。永琳さんが今言った2つの感情を流しただけ。便利なもんでしょ?」
俺は永淋さんの質問に即答する。別に知られても困る物でもないし、減るものもないし、問題ないもんね。
永琳さんは少し考えるような顔になったが、直ぐにお礼を言った。
「…確かに便利ね。お蔭で助かったわ。ありがとう」
「まだまだこれくらいでは、俺を助けてくれたことへのお礼には足りないよ。」
「それでも、多くの人の命を助けることになるはずよ」
「そうなったら俺も嬉しいよ。じゃ、俺は助かる人がもっと増えるように妖怪達と遊んできますかね」
実は然り気無く借りていたこの部屋にあるフカフカのソファーから「よっこらせ」とおっちゃんぽい声を漏らしながら、俺は立ち上がって、部屋の外に出ようとする。
「待って」
そこに永琳さんから声をかけられて、俺は立ち止まった。
「ハジメは倒れていた所を助けただけとは言え、4日間ほど家に居ただけなのに、何で見ず知らずのこの町の人々のために妖怪と戦おうとするの?それで死んじゃったら月には行けないんだよ?」
永琳さんが不安そうな目で静かに話しかけてくる。
俺はこんなシリアスっぽい空気は苦手なんだがなぁ…
まだシリコンの方が良いや。
「難しい理由なんて無いよ。それに人を助けることに理由なんて必要かな?あと、俺は月には行かないよ?」
それにもう、俺は簡単には死ねないだろうし。
俺はこの一ヶ月の間に体に流れるエネルギーの流れ…所謂、気の流れを活発化させた。
その結果、体の細胞分裂やら血小板の働きやら筋肉の強度など、その他諸々が人外級になった。
怪我をすれば、異常な速度で修復されていくし、やろうと思えば、気弾を作り出し、相手を攻撃することもできるようになった。
これでもう、ドラゴンボ○ルの世界に行って、金髪になった異星人が金色のオーラを出していても、戦えるかもしれない。
勝てるかどうかは置いといて。
また、寿命で死ぬこともなくなった。
偶然町の中で、ヨボヨボのお爺さんを見かけて、「ああ、人間なら寿命で死ぬことだってあるんだよな」と、ふと思い、寿命の流れを止めた。その後ぶっ倒れたけど。何故だろう?
以上の2つのことにより、俺はもう、簡単には死ぬことのできない体になったのだ。
フフフ、なにも怖くないのだよ。あ、でも核爆発は勘弁かな。能力で何とかしないと、流石に死ぬと思う。
「立派な人間ね。でも、ハジメは月には行かないのね・・・」
「生きてたら、また会う日が来るでしょ。んじゃ、今度こそ、行くとしますかね」
永琳さんの部屋を出た俺は階段を使って一階まで降りた。
施設の一階には、ロケットへ乗る為の道があり、そこにはすでに多くの人が来ていた。
人々の顔は一様にして暗く、妖怪に対する恐怖がありありと伝わってきた。
ロケットに乗る為の列が中々進まないせいで、「周囲の人に早く進めよ!」と、怒鳴り散らしている人もいる。
「押さないでください!」
「慌てずに、落ち着いて手行動してください!」
「列の途中でプリンを配るのを止めてください!」
その群衆に指示を出す人が数人いる。
よく見れば、桜琳さんと永賀さんも指示の手伝いをしているようだ。
挨拶に行きたいところだが、先に行くべき場所があった。
俺は列の中に無理やり割り込み目的地まで、人と人の間を駆け抜ける。
時々人にぶつかったりもしたが、たいした怪我を負わせることもなく、目的地に着いた。
「プリンください!プリン!プリンを!」
「はい、どうぞ」
「嬉々としてプリンを受け取りに行くのを止めてください!?・・・アレ?ハジメ?」
「あ、桜琳さん。お久しぶりです。その節はお世話になりました」
このとろけるような甘味、カラメルの味も堪らない。
「って、列の途中で立ち止まらないで!?」
俺は桜琳さんに首を掴まれて、列の外まで引き摺られていく。ア~レ~…
俺は引き摺られつつもプリンを味わう。うむ。旨い!
そういえば、このプリンも月に行かないと食べれなくなるのか。
う~む。やはり月に行くべきか?いやいや、やっぱり地上に残って世界を旅する方がいいだろう。
プリンのせいで月に行きたくなったが、俺は地上に残る決意をした。
危ない。孔明ならぬ、プリン配りの店員さんの罠にかかる所だった。
お、おおお俺をプリンで釣ろうなんて100年速いぜ!?
プリン、美味しいです。
「ハジメはプリンを食べに来たの?それとも避難に来たの?」
「それは半分正解、半分間違いだね。妖怪退治しに行こうとしたら、美味しいプリンが配られていたから、立ち寄っただけだよ」
「いや、正解だとしたら、両方ともやろうとしている事が可笑しいぞ?」
「あ、永賀さん。お久しぶりです。」
桜琳さんと話していると、永賀さんもこっちに来た。
ああ、二人がこっちに来たせいで、二人によって統制のとれていた列がまた崩れていく……
それに、俺がやろうとしている事が可笑しいなら、列の途中でプリンを配り始めるのがそもそも可笑しいのである、と俺は主張したい。
お蔭で、妖怪退治する前に思わぬ道草を食うハメになったではないか。よくやってくれた、プリン配りの店員よ。
「いや、そこは怒るところだろう……?」
地の文にツッコミを入れないでくださいな、永賀さん?
「まあいいや。今度こそ俺は妖怪退治に行くんで。お二人ともどうかご無事で!」
「え、あ!ハジメ!?」
桜琳さんが驚きの声をあげるが、俺はそれを無視して、人の波をうまく避けていき、近くの出口から施設の外へ出る。
妖怪たちの発する隠しきれていない妖力がこでも感じ取れた。
どうやら大分近くまで来ているらしい。
丁重におもてなしをして、早く(土に)お還りになって頂かなくちゃな。
俺は軽く準備体操をして、妖力の発生源目指して歩いていった。
時々すれ違う、妖怪への恐怖の感情を隠そうともしない人々の「どうして危険な方へと向かうのか」という怪訝な視線を受けながら。
最近急に暑くなってきましたね。
お久しぶりです。俺だよ、俺!トロントロンだよ!いや、もう暑さで体がトロントr(略
熱中症には気を付けようね。