妖怪から逃げるためにロケットのある施設へ向かう一般人とは反対方向に進み続ける男が1人。
つまり、俺だ。
一般人とは反対方向に進んでいるせいで、時々一般人とぶつかりそうになるのだが、俺は流れるような動作でその一般人を避けていく。素晴らしいだろ?俺が人混みの中を誰ともぶつからずに歩き抜いていく様は。
ただし、確かに『誰とも』ぶつかっていないけど、一般人の持っている荷物に俺の腕がぶつかったりするんだよね。女性用のハンドバックの底の部分の角っこが当たった時はタンスに足の小指をぶつけた時のように痛い。
軽く涙目になるレベルだ。
「ちょっと!そこのあんた!何で私とぶつかったクセに謝りもしないのよ!」
「ぶつかってない。触れただけだよ?だよだよ?」
「つべこべ言ってんじゃないわよ!」
「すいませんでした。じゃ、急いでいるのでこれにてサヨナラ」
なんか気の強そうなおばちゃんの腹に手が触れてしまった。当たってないし、ぶつかってもいない。触れただけだと言っておこう。
おばちゃんの腹は弾力があって面白かった。手が当たった………じゃなかった。手が腹に触れた瞬間に『もにゅ』っという感触とともに手を弾かれた。
だから手が触れただけだってば!ぶつかってないよ?ぶつかってないからね!
そのあとも何度か同じようなことがあったが、何とか人混みを抜け、妖力が漂う森まええやって来た。
なんだか妖怪よりもさっきのおばちゃんのような人間の方が厄介な気がする。俺はもう疲れたよ……
しかし、俺は疲れてもその場で立ち止まるわけにはいかない。
一般人をロケットに誘導するために四苦八苦している八意夫妻や、月に行くためにロケットを研究し開発までもをやってきたであろう永琳さんの努力を無駄にしないためにも、ここで俺が妖怪の進軍を止め、少しでも多くの妖怪を殺す必要がある。
俺の精神安定のためにも必要なことだ。
なぜなら人間がいてからこそ成り立っているとも言える妖怪達から流れ出る、自分が消滅するかもしれない恐怖や、勝手に月に行こうとしている人間に対する怒り、もしくはただの殺人衝動や人間を食べたいなど、様々な感情が妖怪達から感じ取れてしまうからだ。
これは俺がまだ能力をうまく制御できていないことの証であるとも言えるのだろう。
というか、流れ出る感情が人間を食べたい、殺したいなどの本能に従ったままのものが多いので、隠そうともされていない感情が、俺が流れを絶ち切ろうとしても絶ちきれず、俺に流れ込んでくるのだ。
これが人間から流れ出る妖怪に対する恐怖の感情なら、まだ同じ人間として共感できるし、受け入れることもできる。
しかし、今俺に流れ込んで来ているのは妖怪の感情だ。
他の生物のが抱く感情を理解しろと言われても、無理としか言いようがない。
ただでさえ、考え方の違う人間の感情や考えを理解するのにも一苦労なのに、人間と妖怪のような対立している相手の感情を理解し、受け入れろなんて無理にも程があるだろう。
ましてや、人間を食べたいなんて感情は理解不能だ。俺はゾンビじゃあないし。
完全に俺の愚痴になりかけているが、俺からしても町の住民からしても、妖怪は殺すべき相手なのだ。
日夜問わず、理解不能な感情を垂れ流す妖怪を許すまじ。判決は有罪なのだ。極刑なのだ。俺に皆殺しされる刑なのだ。
目があったら死刑。腹が立ったら死刑。何もしてなくても死刑。拒否権はない!
おっと失礼。取り乱したようだ。
COOLになれ、俺。そう、COOLだCOOL。カッコいいよ。
……よし、落ち着いた。
「クフフ、もうすぐ人間の町だぜ?」
「いやぁー、ここまでの道のりが長かったな!」
「でもその苦労ももうすぐ報われるんだぜ?そう考えればやる気も出るってもんよ!」
「そうだな!やってやろうじゃねえの!がはは!」
俺が一人で下らない漫才をしている内に、妖怪の集団の場所まで来たようだ。
手が背中や脇やら腹から生えている、何の妖怪だよ、とツッコミたくなるようなのもいれば、全身が綿のようになっていて触ると気持ち良さそうな妖怪など、様々な種類の妖怪が揃っている。
種族こそ違う妖怪が多いが、どの妖怪達も共通して『もうすぐ着く人間の町で一暴れしてやろう』といった感じの様子が見てとれる。
どうやら町まで行くのに相当な時間が掛かったせいで、溜まってきているストレスが爆発しそうなのだろう。きっとこの妖怪達が生き続けたら、将来的にハゲになるに違いない。ストレスのせいで。そもそも髪の毛のない妖怪もいるが、そこは置いておく。
俺はコイツらを問答無用でさっさと殺そうと思ったが、もしも町に妖怪が到着してしまい、避難できていない一般人が襲われた時のために少しだけ時間稼ぎをすることにした。
「おいおい、そんなに元気なのはいいと思うが、少しだけ休んでいかないか?俺はこの後暴れるために力を蓄えておきたいんだが……」
周囲の状況の流れに巧く溶け込み、妖怪達に人間の俺という存在が、
ついでに、光の流れを変えて、俺の姿が異形の化け物のように見えるようにしているため、俺が人間だということに気づける妖怪は少ないだろう。
「力を蓄えるか……良いんじゃねえか?よし!ここで一旦休憩を取って、その後は全力で人間町を襲撃するぞ!」
「「「おう!!!」」」
リーダー格っぽい妖怪が俺の意見を取り入れて、休憩を宣言した。
少しだけ休めることに喜ぶ妖怪の姿がちらほらと見えるが、どちらかというと休憩を取らずに町を襲撃したそうな妖怪の方が多そうだ。
この後で俺に殺されるのに、呑気なもんだな。
「…おい、そこのお前」
リーダー格の妖怪が俺の方を向いて何かを言っている。
まさか俺のことじゃないだろうな、と思いながらも俺は無視をした。
「お前だよ、お前。そこで一人で立っている変な見た目の妖怪!」
「え?ああ、俺か。それに変な妖怪言うな。どこをどう見たって立派な普通の妖怪だろ?」
「「「いや、その見た目でそれはない」」」
結局、話しかけられていたのは俺だったようだ。
俺が話しかけられていることに気づかなかったせいか、少しイラついた様子でリーダー格の妖怪が俺のことを変な見た目の妖怪と呼んだ。
他の妖怪に俺の姿がどう見えているかは俺にはわからない。わかるのは、取り敢えず妖怪っぽく見えるような見た目と言える(かもしれない)ことだ。
残念ながら普通の妖怪を主張したら、周囲で聞き耳を起てている妖怪達とリーダー格の妖怪に否定されてしまったが。
解せぬ。
「どこに熊の顔をして、人間の胴体を持ち、蟷螂のような足で、手の部分が触手のような普通の妖怪がいるか!?」
「「「うん、うん」」」
まじか。その見た目で立派な普通の妖怪はないな、うん。
周囲の妖怪達の頷きにも納得だよ。
というか、恐い。自分が作り出した偽りの見た目だけど恐すぎる。
想像したらチビりそうだな。
「それに……」
リーダー格の妖怪が俺を見る目を鋭くして言う。
「お前が持っているその力は、妖力じゃなくて、霊力だろ?ここにいる妖怪は誰も霊力を持っていなかったはずだ。お前は人間だな?」
あ、霊力を隠すの忘れてた。
ここ1ヶ月で自分が霊力持っていることに気づいたばかりだから、ついつい忘れちゃうんだよなー……
さて、ここからどうしたものか。
周囲の妖怪達は既に俺を取り囲んで戦闘準備を整えている。
どの妖怪も俺を殺そうと目を血走らせている。
ただでさえ、見た目も怖いのに、そんな目をされたら恐怖のあまり、人間なら誰でも両手を挙げて「助けてくれー」と叫びながら、一目散に逃げるだろうな。
当然俺は逃げないし、周囲を囲まれているので逃げれないのだが。
「確かに俺は人間だな。それで、俺をどうするんだ?」
俺は無駄な力の消費を抑えるために、光の流れを元に戻し、妖怪達に俺の本当の姿が見えるようにする。
これで、俺が確実に人間であることが分かったため、妖怪達からの殺気の籠った目線が一層強まった。
この殺気の籠った目線だけでその内、体に穴でも空くかもな。
「馬鹿なこと聞くな。殺すに決まってんだろォ!!」
リーダー格の妖怪は俺の問いに、フッと馬鹿にしたように鼻で笑い、俺に殴りかかってきた。
俺はそれを難なく避けて、リーダー格の妖怪の脇腹辺りに、逆に蹴りを喰らわせた。
リーダー格の妖怪は俺に蹴りを喰らって、近くの木にぶつかったが、あまりダメージを喰らった様子はなかったようで、普通に立ち上がってきた。
中々に丈夫な体をお持ちのようで。
たくさん遊べそうで俺は嬉しいぜ。
「殺せるもんなら殺してみろよ?逆に殺してやるぜ?」
軽くどや顔で挑発してみた。
当然、周囲の妖怪達は俺のどや顔にイラっとしたのか、俺の言葉にナメられていると思ったのか、全員で一斉に俺を攻撃してきた。
「死ねやァ!その顔を跡形もなく消し飛ばしてやるぜぇ!」
「俺の顔でそんなにムカついたのよ!?」
俺は突進してきた妖怪を足払いで転けさせ、バランスを崩した所で腕を掴み、他の妖怪のいる場所へ投げ飛ばす。
その間にも、他の妖怪が俺を殺そうとして、妖力弾を飛ばしてきたり、殴ってきたりするので、それを避けていく。
敵の妖怪には今のところ強い者は居ないので、何とか俺は戦えているが、もし強い妖怪が出てきたら危ないかもしれない。
そのためにも、できるだけ早く敵を倒すべきだろう。
そう判断した俺は、体から溢れている霊力の流れを操り、刃状にしたものを妖怪が多く密集してそうな場所に放つ。
俺が刃状にした霊力を放った場所にいた妖怪は上半身と下半身がサヨウナラをして、絶命した。
「名付けて……『霊力カッター』だぜ!どうだ!参ったか!」
「「「・・・・・・」」」
俺が技を命名した途端にどの妖怪も静かになって、何とも言えない様な目をして俺を見る。
俺の命名がそんなに素晴らしかったのだろうか。
というか、せめて何か反応してくれよ。俺が残念な人になってしまうだろうが。
この場は今、何が起きたか分からないという驚きの表情を浮かべている上半身と、血が出ていて気持ち悪い下半身と、霊力カッターという素敵な命名をした、どや顔の俺と、「こいつ……ダメなヤツだ……」みたいな顔をしている妖怪達という、奇妙な光景が広がっていた。
しかも誰も喋ろうとない。
何だこの状況。
俺を殺すんじゃなかったのか?
そもそも町を襲撃しようとしていたんじゃなかったのか?
俺がこの謎な状況に動揺していると、実はまだ生きていたリーダー格の妖怪が呆れたような、全てどうでもよくなったような表情でポツリと呟いた。
「……こいつをほっといて、町に行こうか…」
どうも、最近急に忙しくなってきた作者です。
小説を書く時間が減ってきて大変だよぅ…
取り敢えず、失踪とか蒸発の予定はないので、安心してね!