休みを取らずに、走り続けて約12分。俺は町の入り口に立っていた。
能力を使っていないので、気の流れが普段より悪いが、3分も記録を縮めることに成功した。
俺はここまで来るのに全力疾走をしてきた。お蔭で息が上がっていて、呼吸を調えるのに時間がかかりそうだ。
しかし、そんな悠長なことをしている暇はない。
町は、俺の立っている町の入り口から見える場所だけでも、酷い惨状となっている。
建築物は壊されて瓦礫の山と化し、火災の発生している所もあった。
綺麗に舗装されていた道路はひび割れ、瓦礫で埋まる等していて、以前の面影はなくなっていた。
道の端に人工的に植えられていた植物なんかは跡形もなく消えている。
これ程の被害を出すのに一体どれ程の妖怪が町に入り込み、暴れたのか。
一般的や永琳さん達は無事なのか。
ロケットは動かせるのか。
この惨状を見ると次々と不安な事が思い浮かんでくるが、ただ立ち止まって考えている場合ではなかったことを思いだし、不安な考えをしないように、まだ皆無事でいてくれることを願いながら、俺は遠くの方にある妖力の濃い場所を目指して再び走り出した。
道を塞ぐようにして倒れている電柱を飛び越え、瓦礫の山の僅かな隙間を走り抜け、ひたすらに妖力の多い場所を目指した。
走っている内に徐々に叫び声が聞こえ、何かが爆発するような音も聞こえてきた。
段々とその音は大きくなり、もう大分近くまで来たなと思いつつも瓦礫の山を飛び越えた。
その先にあった光景は、恐ろしいものであった。
恐らく一般人なのであろう人間がちらほらと見えるのだが、その後ろを犬型の大きな妖怪が追いかけていた。俺は助けようと思ったのだが、それより速く妖怪が逃げていたしその人間に飛びかかり、人間は見るも無惨な事になった。
別の場所では妖怪迎撃班なのかどうなのかは知らないが、銃やら剣やらで戦っている。おい、剣か銃かで統一しろよ。
あ、剣の人が銃の人の誤射を受けて倒れた。あ、そこから戦列が乱れた。
あ、剣の人達が妖怪に物理的にも比喩的にも呑まれて……ハッ!見ている場合じゃない!
一般人の方は残念ながら死んでしまったが、せめてこっちの妖怪迎撃班の人だけでも助けないとな。
永淋さんだって一人でも多くの人と一緒に月に行きたいだろうし、俺としても目の前で助けれたかもしれない人が死ぬのは嫌だしね。
俺は戦列が乱れたせいで動揺している妖怪迎撃班の人達の感情の流れを『恐怖』に持っていき、戦闘から逃げ出すようにした。
いくら一ヶ月間戦闘の特訓をした俺でも、多くの人間を守りながら戦うには実力不足だしな。多くの妖怪を1人で相手することになるが、まだ守りながら戦うよりも楽だろう。だから、逃げてもらった方が俺的には良い。
目の前で同僚の人間がアッサリと妖怪に殺されて、町の人間を助けるために戦っていたハズの妖怪迎撃班の人達は『次は自分なのか』『嫌だ、まだ死にたくない』といった様な感情に既になっていた上に、更に俺の能力のせいで完全に戦闘を行えるような心境の者は居なくなった。
1人の人間が武器を捨てて逃げ出し、それに釣られてもう1人、また1人と逃げ出して行き、最後には全員が逃げ出した。
その逃げ出した妖怪迎撃班の人達の後を追おうとした妖怪がいたが、俺はその妖怪を『霊力カッター』で切り殺した。
大分残りの霊力が少なくなっていて、この戦闘を生き残れるか分からないが、『霊力カッター』で妖怪を殺したため、他の妖怪の視線が俺に集まる。
「ウガァ!」
人間を喰い、町を破壊してきたため、非常に興奮しているのだろうか、一体の妖怪が獣のような叫び声と共に俺に飛び掛かって来たのを境に、他の妖怪も俺に襲いかかってきた。
どの妖怪の体も返り血に濡れ、多くの人間を殺してきたことがわかる。その目もまたぎらつき、ただ俺だけを見ている。
なんの力も持たないただの人間ならば恐怖のあまり逃げ出すこともできず、このまま死ぬかもしれないが、俺は一ヶ月間戦いに身を置いていたので、硬直することもなくすぐに行動を起こすことができた。
一番最初に飛び掛かってきた妖怪を、気で強化した拳で殴り飛ばし、瞬時に次の標的を探す。
次の標的を見つけ出したら、直ぐ様ソイツを殴り飛ばす。殴られた妖怪が後ろにいた他の妖怪達を巻き込みながら飛んでいったのを視界の隅で確認しながらも、また次の標的を探す。
こうしてみると、一方的に俺が攻撃している様に思えるが、実際は違う。
俺が一体の妖怪を殴る間に、他の妖怪が2、3体ほど俺に攻撃しているのだ。
俺はそいつらの攻撃を時には避け、時には掠りながらも狙った相手に拳を打ち付けているのだ。
気で身体強化をし、視力と脳の処理速度を上げても避けきれずに掠ってしまう。
まるで俺の未熟さを嘲笑っているかのようだな。
俺はそんな事を考えながらも妖怪を殴る。
また1つ、傷が増えた。
…直ぐにその傷は塞がれた。以前に気の流れを活性化させておいてよかったと思う。
そうでなきゃ、今頃は傷だらけになっていただろうな。
だからこそ安心して攻撃を続けられる。
殴る。避ける。殴る。避ける。殴る。掠める。殴る。避ける。
殴る。避ける。殴る。避ける。殴る。避ける。殴る。避ける。
殴る。避ける。殴る。掠める。殴る。掠める。殴る。避ける。
殴る。掠める。殴る。避ける。殴る。避ける。殴る。掠める。
殴る。掠める。殴る。避ける。殴る。掠める。殴る。掠める。
何度同じような動きをしてきただろうか。
それでも少しずつ、少しずつながらも、俺を囲んでいた妖怪達の数は減っていった。
……それに比例するように俺が傷を負い、回復する回数は増えていったが。
いつの間にか俺の体の所々から血が流れていた。
どうやら妖怪達の攻撃を何回か『掠めた』ではなく『当たった』らしい。
傷は塞がっても流れ出た血は元には戻らないのだ。
拳に付いた血は俺の血だけではなくて、妖怪達の血も混ざっているのだろうな。
だって、拳が真っ赤に染まるほどの血が付いているのだから。
また性懲りもなく襲ってきた妖怪を殴る。
殴られた妖怪はその体に拳大の穴を開けて吹っ飛び、俺が殴ってきた妖怪達の死骸の山の一番上にドサリと落ちて、山の一員となった。
新人の歓迎はないようだ。先に妖怪の死骸の山の一員となったやつらは、俺からの『死』という名のプレゼントで歓迎どころではないのかな。
だって、ほら、顔を真っ青にして、嬉しそうに………してるわけないか。明らかに苦しそうな顔してるし。
脳内で1人寂しく暇潰しに色々考えているうちに、最後の一体を殺した。
その最後の一体も他の妖怪と同じ様に山の上まで飛んでいき、ドサリと落ちた。
おめでとう。君が一番上だよ。No.1だ。
あ、でも、死んだから目出度いもなにもないか。
…俺の周りが静かになったと思ったら、今度はロケットのある場所辺りが騒がしくなってきたようだ。
ここで妖怪にロケットを壊されては、俺の今までの努力は無駄になるし、八意家の頑張りも水の泡だな。
俺の霊力は残り僅か。気は使えるけど、集団相手にはキツイな。特に一体一体倒しか倒せないのがめんどくさい。
技とか使ってみたいけど、まだそこまで気を上手に使えないんだよな…
いや、それよりも人命救助、人助けが先だな。
めんどくさいとか、そんな個人の感情は集団の中では優先すべきことではないし。
何より、人が死んでしまうかもしれないのに、それを『めんどくさい』という理由で無視できる程、俺は命を軽く見ているつもりはないし、図太い神経を持っている訳でもないんだよね。
妖怪を殺しているのは、単純に俺がまだ人間でいるつもりだから。
つまり人間を害する妖怪は殺すということ。
寿命はなくなったが俺は人間を止めたつもりはない。
まあ、1億年ほど生きたら、「俺、人間を自称するの止めようかな…?」なんて言うかもしれないがな!
1億年も先の事なんて今の俺じゃ、解らないけどな。できれば人間であり続けたいものだ。
「おい、左翼どうした!?何ィ!?負傷者多数だと!?なら後退させて……中央は余裕があるから5班と6班を空いた部分に入れろ!」
「了解です!クソッ、ロケットの発車まで時間を稼がないといけないのは解るのだが…」
「このままだと発車まで持たないかもしれないな」
「……空いた穴を俺達で何とかして埋めた上で、妖怪どもを全滅させる勢いで殺っていくしかないのか…」
色々考えているうちに、ロケットの発車場所まで来たようだ。
考え事している間に色々と終わらしてしまうのは俺の悪い癖だな。
俺が来たときには、歴戦の戦士のごとく指揮を執る永賀さんと、その指示に従う5班と6班の隊長らしき二人の会話が聞こえた。
二人の会話の声のトーンから察するところ、負傷者多数で戦力的にも押されぎみらしく、戦況は悪いようだ。
それにしても永賀さん。まるで人が変わったかのような指揮を執りますね。恐い恐い。
多くの人の命がかかっているから、当然といえば当然か。
さて、俺も戦うとしますか。
場所は…戦況の悪いらしい左翼部分にでも加勢しますかね。
俺は後方で銃を撃っている人間の側に行き、話しかけた。
「援護しに来ました。どの辺に加勢すればよいのでしょうか?」
「ん?永賀さんから言われたのは5班と6班だけだったような…?いや、この際だ。戦力が増えるのは歓迎するべきだな。よし、あそこに盾を持ったやつと銃を持ったやつがいるだろう?そこに加勢に行ってくれ!」
指示された方を見ると、確かに盾を持ったやつと銃を持ったやつが二人だけで4、5体の妖怪相手に防戦一方となっているのが見えた。
盾を持ったやつが妖怪の攻撃を防いでいる間にもう1人が銃で撃っている。
弱い妖怪はそれで一撃で殺せているようだが、力を持った妖怪は中々殺せずにいて、苦戦している。
二人とも体のあちこちから血を流していて、このまま戦っていると妖怪の餌になってしまうのも時間の問題のように思える。
「分かりました!逝ってきます!」
「お、おう…(いま『逝ってきます』って言ったような…?)」
なんか変な反応された。解せぬ。
それはどうでもいいから、先ずは援護だな。
今度は苦戦している二人の元へと走っていく。
…何だか今日は走ってばかりいるな。そろそろ疲れてきたかも。
その間にも戦局は変化していく。
その手に持つ大きな盾で攻撃を反らし、受け止めてきた盾のやつを鬱陶しく思った妖怪達が、銃を持ったやつを無視して、一斉に盾を持ったやつに攻撃を仕掛けたのである。
今まで妖怪達は、銃を持ったやつからの攻撃を警戒しながら、盾を持ったやつに攻撃をしていたため、盾を持ったやつが1人だけでも捌ききれる程度の攻撃だったのである。
それが銃を持ったやつからの攻撃によるダメージを省みずに、盾を持ったやつに攻撃を仕掛けるとどうなるか。
元々人間よりも妖怪の方が力が強いのである。そんな妖怪達の攻撃を盾で思いっきり受けてしまったため、盾を持ったやつは後ろで銃を撃っていたやつよりもさらに後方まで飛んでいき、その先にあった瓦礫の山に突っ込んでいった。
突然の事に呆然としてしまい、動きを止めてしまった銃を持ったやつに向かって、妖怪達は容赦なく攻撃を仕掛けようとしている。
この光景を見ることのできる位地に俺はいるが、まだ戦いの場に着いておらず、全力で走っても銃を持ったやつへの攻撃を受け止めるのには合わない。
ならば遠距離攻撃に頼るしかないだろう。
俺は残り少ない霊力をかき集め、刃の形を作り出して、妖怪の方に飛ばすと同時に叫ぶ。
「おい!そこの銃を持ったやつ!伏せろぉ!『霊力カッター』!」
銃を持ったやつは、妖怪が目の前まで来ていて、絶望の表情を浮かべていたが、俺の言葉にはなんとか反応できたようで、その場に伏せた。
次の瞬間には、俺が残り少ない霊力をかき集めて作り出した、薄いが広範囲に及ぶ『霊力カッター』が、伏せたその頭上を妖怪達を真っ二つにしながら飛び去っていった。
その『霊力カッター』に少し遅れて俺も戦場に到着する。
「ここの妖怪は全部俺が引き受けた!そこの人は吹っ飛んでいった仲間をつれて下がって休んでおいて!」
一先ず命の危機が去り、ホッとしている銃をやつに向かって、俺は言った。
「助かったが…一人で大丈夫なのか?」
「さっきの技を見ただろう?心配はいらないから、早く下がった下がった!」
「…すまない。後は任せた」
実際には残り1、2発しか射てないのだが、そんなことを知らない銃のやつは大人しく下がってくれた。
正直なところ、今の俺では誰かを守りながら戦い続けるのは厳しいからな。下がってくれて逆に助かった。
銃のやつは盾のやつを瓦礫の山から救出して、安全な後ろの方へと向かっていった。
…盾のやつは血まみれで、息をしているかも怪しいところだが、治療がまだ間に合うことを祈っておこう。
俺は俺で、また戦わないといけないからな。八意家にはお世話になったからその恩返しも含めて、この妖怪達を倒す。
「第三ラウンドかな。気は身体強化のみ。『霊力カッター』はあと射てて数発。だが妖怪ども。お前らは全員俺が倒してやんよぉ!」
そう叫び、強化した拳で一体目の妖怪に大きな穴を開けた。
町全体にはまだまだ妖力の反応が多く残っていた……
ちなみに、ハジメが前話のようなチート技を使わないのは単純に霊力不足から。
ハジメの能力は霊力を使用しております。
(今回に解説入れようとしたら忘れてた…とは絶対に言わないぞ)
遅くなってすまぬ。リアルが忙しいのだ。
か、代わりに文字数が普段より多いから、それで許してね…ね?
ハジメ「ね?じゃねーよ。文字数多くても、内容が薄いじゃねえか。全然ストーリーも進んでないし…」
………(無言で目をそらす)
ハジメ「(ダメだコイツ。早く何とかしないと…)まあいい。エタらないようにするつもりだから、よろしく」
こんな駄作を読んでいただき、ありがとうございます。