テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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特別なアイテム

 

 円卓の上に、クルンと丸まった羊皮紙を出す。

 興味深そうに大人のマクキタラとラカブがそれを見つめた。

 

「なんに使うか全然わからないんだけど、中の方に模様があって…………あれ?」

「? どうかしましたか?」

「いや……あれ? こんなんだったっけな」

 

 羊皮紙の模様が変わっていた。前回は円形の模様の真ん中に白い光点が二つであった。

 だが、今見てみると四角の模様が複数あり、その中の一つに光点が五つ集まっている。手に入れた時に一緒に確認したサキにも見せると、驚いたように目を瞬かせる。

 

「形が変わってるのです」

「やっぱり変わってるよな?」

「ふぅむ……。少し借りても?」

 

 マクキタラが首を傾げながら手を差し出す。テフラは特に拒む様子なく羊皮紙をマクキタラに渡した。

 受け取ったマクキタラは質感や光に透けるかなど、つぶさに観察し、何かに気がついたように立ち上がった。

 

「これは……? おお……! まさか……! おお!」

「マクキタラ……? まさか、アレか!?」

「「「???」」」

 

 マクキタラは羊皮紙を開きながら、部屋の中をうろうろと動く。そして目を見開いた。

 重そうなふくよかな体で急に走り出し、部屋の扉を開けて廊下を確認する。

 その様子をテフラ達は首を傾げて見守る。ラカブだけが何かに気がついたように席から立ち上がった。そして、今いる部屋の外周をゆっくりと移動し始める。マクキタラは立ち止まり、羊皮紙をなぞりながらラカブの移動と紙面との視線を行ったり来たり。

 

 そしてサムズアップして頷き合った。

 

 二人は年甲斐もなく、大人達がワクワクとした表情で反復横跳びを始める。凄い楽しそう。

 子供達は大人達のシュールすぎる暴挙に困惑して顔を見合わせて、恐る恐る声を上げた。

 

「あのぉ……、知ってるアイテムなんですか?」

「知ってるも何も、おいテフラやったな! アレはおそらく『魔法の地図』だ!! 後でおじさんにも見せてくれよ!」

「ホッホッホ、もう少し楽しませてくださいな! ぐわっ、腰が……!?」

「マ、マクキタラァーッ!」 

 

 魔法の地図? テフラは言葉を咀嚼して……飛び上がった。ついでにマクキタラは腰を痛めた。

 

「本当に!?」

 

『魔法の地図』それはダンジョン内で途方もなく役に立つアイテム。

 ダンジョン内での味方の位置を示したり、敵の位置を示したり、はたまた宝の場所を示すこともあると言われるダンジョンに潜る人間からしたら垂涎の代物。テフラとイッサとサキが目を輝かせて、腰を抑えるマクキタラの元に集い『魔法の地図』を受け取った。

 ラカブはその様子を微笑ましそうに見つめながら反復横跳びを続けていた。

 

「こ、この壁際を左右に動いてるのがラカブのおっさんってことか!? じゃあ、これは俺!?」

「ぼ、僕もこれです? あ、動いたです!」

「テフラ兄ちゃん、イッサ見ててなのです! 動いてるのです?」

「「う、動いた!!」」

 

 部屋の中をチョロチョロとサキが動き回り、羊皮紙を見つめていたテフラとイッサが目を剥き出して驚く。

 しばらくの間『魔法の地図』の発見によるお祭り騒ぎが続き、落ち着いたのはマクキタラが持ってきたお茶が冷めた頃であった。

 

 

 ◇

 

 

「コホン……。では、皆さん落ち着きましたね」

「ハハッ、一番はしゃいでたのはマクキタラだけどな」

 

『魔法の地図』はテフラの手元に帰ってきており、左右から未だ飽きが来ていないイッサとサキが目を輝かせてそれを覗いている。

 咳払いをしたマクキタラは場を切り替え、話を戻そうとする。

 

「森番の倅テフラ」

「お、おう……じゃなくて、はい!」

 

 顔を真剣そうな様子に切り替え、マクキタラは唇を湿らせ話を続ける。ラカブがその様子を複雑そうな表情で見ている。マクキタラの今の表情は、外部の村と有利に交渉するときに見せる表情だからだ。

 

「お分かりでしょうが『魔法の地図』は大変希少なものです。それを売れば、数代困ることなく暮らせる富を手に入れることも可能な代物」

「す、数代!?」

「ええ、それを村に還元していただければ、何不自由ない暮らしを提供しましょう。貴方がダンジョンに潜る時だけ『魔法の地図』が使われるよりも、村で共有し、ダンジョンが見つかるたびに皆で使用する方が良いと思いませんか?」

 

 テフラの声が裏返る。

 ただ売るだけで莫大な財産を手に入れられるアイテム。湧いて出た望外の幸運。

『魔法の地図』を使ってダンジョンに潜り、アイテムを手に入れる生活も良いだろう。だが、ダンジョンには常に危険が付きまとう。

 黒影の化け物の姿がテフラの脳裏をよぎる。

 マクキタラが言葉を続ける。

 テフラの知っている優しい村長のなりは潜められていた。

 

「思い出しなさい。それを手に入れるために、どのような危険がありましたか? 死を覚悟したのではないですか?」

「それは……」

「ダンジョンはどうです? 常に命懸け、強い者に預けて攻略してもらった方が良い気がしてきませんか?」

 

 ズブズブと、若いテフラの脳にマクキタラの言葉が染み込んでいく。

 じっと手元の『魔法の地図』に視線を落として、テフラは悩む。

 

「そして、テフラ貴方は『尾根祭』で「おい」……」

 

 ────バン! 

 

 テフラと双子が肩を跳ねる。

 話を黙って聞いていたラカブが円卓を掌で叩き、鋭い視線でマクキタラを睨みつけていた。

 マクキタラも怖じず顔に笑みを浮かべ、ラカブを見つめ返す。ただし、目は一切笑っていなかった。

 

「奪いすぎだ」

「村のためです」

「何度も言うが、納得していない」

「ラカブ、貴方の家の口伝ではどうなってます?」

「…………だから根こそぎ奪っていいと?」

 

 テフラには何のことかわからない会話。

 ぎゅっとイッサとサキがテフラの腕を掴む。そこで我に帰ったテフラは、直感のまま二人を止めることにした。

 

「あの! 少し、考えさせてください! ほら、イッサのナイフの鑑定にも行かないといけない、な? な!」

「う、うん! ね、サキ!」

「はいなのです!」

「ふぅむ……?」

 

 普段の柔和な様子を潜めたマクキタラは自身の顎をしばらく触って、緊張しながら話の間に入ってきたテフラを見つめる。背筋がぞわぞわと悪寒を伝えてくるが、テフラは頑張って目を逸らさない。

 数秒、無言の間が続く。そして、テフラが冷や汗でダラダラになった頃。

 

「──分かりました。ただ『魔法の地図』に関しては他言のないように」

「お、おう! じゃあ、失礼しますですぜ!」

「ラカブは残りなさい」

「…………」

 

 口調がボロボロになったテフラは、そのまま立ち上がってイッサとサキを連れて部屋を退出する。

 村長の館を出るまで、三人は緊張してカクカクとした足取り。

 そして、館から出て全員揃ってようやく人心地がつくのであった。

 

「一体、何だったんだ……?」

 

 三人揃って大きくため息。

 テフラは手に収めた『魔法の地図』を一瞬眺めて、どうしたものかと後ろ髪を掻くのであった。

 

 

 ◇

 

 

 先ほど会話をしていた部屋の窓から、マクキタラが館から出ていくテフラ達の姿を眺めていた。

 ラカブが円卓に頬杖をつきながら、胡乱げにそれを見ている。

 しばらくして、口火を切ったのはマクキタラだった。

 

「二十年に一度の特別な『尾根祭』がくる」

「……誰も覚えていない。やめればいいだろ」

 

『尾根祭』それは毎年行われるニシキ村の行事。先ほどマクキタラが言いかけたのはこれのことだ。

 例年であれば尾根の神に豊作祈願やダンジョンでの無事を祈る祭り。

 太鼓を打ち鳴らし、踊り歌い酒を呑み明かす、笑顔の溢れる楽しい祭りだ。

 

 だが、二十年に一度の『尾根祭』は特別なのだ。

 森の異変が起こる年、二十年に一度行う鎮魂祭。

 その本当の名前は『尾根錦祭』と言う。

 

 ふん、とラカブの言葉を鼻で笑うマクキタラ。顎で窓の外をしゃくって尾根を指す。

 

「早すぎる掃除人。落とし穴の先に今までと違うダンジョン。見たこともない黄金の罠、黒影の怪物」

「……」

「分かっているだろう? ()()()()()()()()()()()()()

「本当に?」

「少なくとも生贄を捧げて異変が治らなかった事はない。逆に生贄をささげなかった年は……」

 

 静かに長いため息。ラカブも目を伏せた。

 そして。とマクキタラは言葉を続けた。

 

「今回の生贄はテフラであった。それだけだ」

「おじさんが変わってやれればなぁ」

 

 分かり切っているが、ラカブは口に出さざるを得ない。

 マクキタラは首を横に振った。

 前回の生贄の弟である彼は、そんなことは過去に試したと呟く。

 

「私の父も試したさ。だが、まずダンジョンに入れなかった」

「リーブとヒヨさんは納得してるのか?」

「馬鹿め、納得する親がいるかよ……! だが、彼が生まれる前から決めていた、決まった。それだけだ」

「とてもいい子だぞ? 村の役に────」

 

 ぎりっとマクキタラの固く歯を噛み締めた音が聞こえる。ラカブの言葉尻が萎む。

 

「そんなこと百も承知だッ!!」

「……そうかい」

 

 口調が厳しくなるマクキタラ。

 彼の険しい視線の先、森の奥。

 尾根の入り口のあたり。

 

 そこには一つ、ダンジョンの入り口があった。

 そこは二十を超える年齢の人間は決して入れない、尾根を登ると言い伝えられる不思議なダンジョン。

 過去には名前があったといわれている。しかし、口伝にすら残っていない。

 恨み辛みで塗りつぶされ、いつしか忘れ去られた。

 現在の呼び名。忌み名はただひとつ。

 

『生贄ダンジョン』 

 

 村の中でも知るものしか知らない。

『帰還の洋燈』を持たせても、帰ってきた子供はいない。

 アイテムを確保して帰ってこれるようなダンジョンであれば、知ってる人も増えるだろうが、帰ってこないのだから忘れ去られていく。そして、森も越えなくてはならないために、近づく機会すらほとんどない。

 

 二十生きて『尾根錦祭』を経験した人間も、いなくなった者をダンジョンで冒険に失敗して食われた程度にしか考えていない。この世界ではよくある死因で、辻褄合わせに都合がいいからそうなっている。

 

 マクキタラは、やるせなさそうにため息をついた。

 そして、頭に血を昇らせたのが落ち着いてきたのか、ラカブにひとつ謝罪する。

 

「……すまない、ラカブ。少々欲に目が眩んでいたようだ」

「だろうな。ガキにあんな目向けてるんじゃないよ、本当に」

「ハァ、何だってあんな希少なアイテムが舞い降りるんだ……」

 

『魔法の地図』の時の話。

 確実に目が眩んでいたと言い切れるマクキタラは反省するように頭を抑える。

 

「ここでの会話は口外するな。『魔法の地図』もだ」

「やれやれ、わかってるよ」

「…………ホッホッホ。できれば、彼がこちらに譲ってくれると嬉しいのですがねぇー?」

 

 作った村長の皮をマクキタラが被り始めた。

 ラカブは話は終わりだと感じて席を立つ。

 

「まぁ、気持ちは分かるが『手に入れた物は手に入れた者が決める』ってな。村の掟を押し付けるなら、この村の掟も守らにゃな?」

「ホッホ、分かっていますよ」

 

 去り際に一言。

 その会話を最後にラカブも部屋から立ち去っていった。

 

 

 ◇

 

 

 広い館にマクキタラは一人っきり。

 静かな時間が戻ってくる。

 

 変わらず尾根を眺め続けて、一つの考えがマクキタラの脳裏に浮かぶ。

 テフラが持ってきた『魔法の地図』。

 

 アレがあれば、前回の生贄。

 自分の兄は『生贄ダンジョン』から生還することができたんじゃないだろうかという、淡い……今はもう意味のない考え。

 

「……にいちゃん、村長って難しいことが多いよ」

 

 最後にポツリとこぼし、マクキタラは首を横に振って村長の執務に戻るのであった。

 




 
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