テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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鑑定屋の爺

 

 村長の館を出て、テフラと双子達の三人は村の一箇所を目指して歩いていた。

 

「さっきの村長達怖かったなぁ」

「何であんなに怒ってたんです?」

「分からないのです」

 

 びっくりしたなぁと三人は歩く。

 テフラは先ほどラカブが話を遮った時、村長が『尾根祭』の名前を出していたことを思い出す。

 

「そういやもうすぐ『尾根祭』だなー」

「です! それにお母さんが言ってたのですが、今回の『尾根祭』は二十年に一度の特別なお祭りって言ってたです」

「美味しいご飯がいっぱいたべれるのですよ! 屋台とかもいっっぱい並ぶのです!」

「へぇー、楽しみだな!」

「「うん!」」

 

 テフラは双子の話に感心する。テフラの両親であるリーブとヒヨはあまり『尾根祭』の日は外に出たがらない。なので、テフラはそういう話題に少し疎かったりする。

 その後、祭りの屋台で何が好きか? と言う話題を続け、『走り出すくらい美味いリンゴ飴』というリンゴ飴がダッシュアップルンの成れの果てということに気がつき驚愕する双子の姿があったりした。

 そうして、そんなこんなで村の中を歩き、ひとつの店の前にたどり着いた。

 そこは何に使うかわからない雑貨が綺麗に整理整頓されて配置されていたり、綺麗に武具が並べられている店だった。

 どことなく店主の神経質さが滲み出ているのを感じる。

 

「ごめんくださーい」

「鑑定お願いしますです!」

「わ、私は外で待っているのです」 

 

『鑑定屋』そう呼ばれる店。

 呼び鈴を鳴らし、少し怖がった様子のサキを置いて店の中に入っていく。すると、店の中にいたねじり鉢巻をした爺さんがジロリと視線を寄越してくる。

 相変わらず偏屈な様子が変わらないことに苦笑いしながら、テフラはその老人に声をかけた。

 

「おはようカイズミ爺! 昨日イッサとサキが初めてのダンジョンに潜ってさ──」

「世間話か? 儂は忙しい」

「わっ、ちょっと待ってくれって! イッサがナイフ見つけたんだ! 鑑定頼むよ!」

「お、お願いしますです」

「……」

 

 要件を告げると、無言で片手を差し出してくる。ものをよこせと言うことだろう。

 昔からこんな感じでどこか偏屈者として有名な鑑定士。それがこのカイズミという男だった。

 

 緊張した様子でイッサがトテトテと店の中を走っていき、大きなナイフを爺さんに渡す。カイズミ爺さんは片腕で受け取ったにも変わらず、全く重そうな様子を見せずにそれを眺める。

 そして。

 

「フン、ただのナイフだな。面白くもなんともない」

「わっとっと!? 何するんです!」

 

 受け取って数秒経たずにイッサに放り投げた。

 

「指くらいは落ちる切れ味だ。自分の指を落とすんじゃねぇぞ餓鬼」

「ひえっ!? それなら鞘に入ってるけど、投げないでほしいです!!」

 

 テフラは憤慨する様子のイッサに苦笑い。そして、サラッと恐ろしいことを言われてナイフとカイズミ爺さんを二度見するイッサの様子に、テフラは懐古する。

 まるで過去の自分を見ているようだった。

 かつてはテフラも手に入れたばかりの手斧を特別なアイテムだと信じてここに持ち込み、ああいう塩対応を受けてイッサみたいに憤慨したものだ。カイズミ爺さんの鑑定の腕は確かで、あの一瞬で見抜くらしい。

 特別なアイテムとかだと、カイズミ爺さんが握った瞬間に数日後に来いと言われたりするらしい。ラカブが使っていたククリなんかもその類である。

 

 ガッカリと肩を落とすイッサに、苦笑いを継続しながらテフラはフォローした。

 

「イッサ。特別効果がなくても大切に使っていれば、ダンジョン産の武器はたまに成長するって聞いたことあるぜ!」

「そのナイフはテメェの手斧と一緒で成長なんざしねぇよ! 用が終わったなら帰んな!!」

 

 このナイフは成長しないらしい。

 ダンジョン産の武器で特別な効果があったりする装備をしつこく使い続けていると、時たま切れ味が増したり、大きさが変わったりすることがあるらしい。それを、武器の成長とこの世界では呼んでいる。

 

 凹んだイッサを慰めているテフラに、カイズミ爺さんの視線が移る。

 視線の先は、主に背中の辺り。

 いつもであれば彼が大切にしている手斧が配置されていた場所。

 

「オイ、クソ餓鬼。斧はどうした」

「げっ!? いやぁ、あはは……壊れちゃって……」

「なぁにィ……!」

 

 蛇に睨まれた蛙のようにテフラがすくみ上がる。この爺さん、店先の物が綺麗に並べているところからわかるように、装備を大切にしない者にやたらめったら厳しいのだ。

 テフラは慌てて弁明を開始する。

 

「お、俺だって手放したくなかったんだけど、ダンジョン内でやばいのが出てきて、さ?」

「大方ビビって投げちまったんだろ」

「そうだけどさぁ……」

「フン。で、ダンジョンに攫われちまったわけだ」

 

 まるで見てきたかのようにズバリ当てられる。ダンジョンに攫われるっていうのは投げたアイテムがどこかに消えてしまう現象の呼び名である。

 だが、投擲アイテムを投げて消える現象の攫われたというのは少し違うと口を尖らせて反論する。

 

「いや、もう本当にどうしようもなくてさ。一瞬の隙でもいいから作りたくて投げたの! そしたら、目の前でバラバラに砕け散るし……」

「────オイ、その状況詳しく教えろクソ餓鬼」

「へ?」

 

 ずい、と座っていたカイズミ爺さんが身を乗り出してテフラを呼んだ。

 そして、戸惑っていたイッサにしっしと犬猫を祓うように手を振る。

 

「双子、お前はもう帰んな。いくら願おうがそのナイフはただのナイフだ。この馬鹿みたいに無くすんじゃねぇぞ」

「うう……、はいです。テフラ兄ちゃんばいばい」

「あ、ああ。じゃあな」

 

 不貞腐れた様子で、イッサはナイフを抱えて店を出て行った。

 暗い店内の中で、カイズミ爺さんとテフラが二人向き合う。

 

「昨日のダンジョンか?」

「そうだけど……。村長から口外するなって……ん? アレはアレのことだけか?」

「あの太っちょなんざ放っておけ。儂を優先しろ」

「我儘すぎる……。でもダンジョン内のことならしゃべって平気かな?」

 

 口止めされていたのは『魔法の地図』のことだけだっけ? とテフラは首を傾げる。

 カイズミ爺さんが目を細めて、テフラを見る。村長のマクキタラが何か益になることで口止めさせてるなと、経験則からすぐにわかった。まぁその辺りは興味ないとばかりに言葉を続ける。

 

「儂が聞きてぇのは、武器がバラバラに砕けたってところだ」

「おう」

 

 もうこれは喋るしかないよなぁ、とテフラは諦めモードで話を始めるのだった。

 

 

 ◇

 

 

 テフラはダンジョン内で起きたことをカイズミ爺さんに告げ、黒影の怪物の話をする。と言っても、木盾が砕けたことと手斧が砕けた部分の話をメインにだ。

 

「────で、俺は逃げ切ったんだ」

「…………」

 

 話を聞く途中で、喫煙パイプを口に咥えたカイズミ爺さんは目を瞑って話を咀嚼している。

 静かにダンジョン産の柱時計がコツコツと時を刻む音だけが響いた。

 しばらくして、爺さんは大きく煙を空に吐いた。

 そして言葉も吐く。

 

「クソ餓鬼、テメェの武器はテメェを守ったのかもしれんな」

「???」

「何もわかってねー面しやがって……。二つ普段しねぇ壊れ方してんだ。で、テメェらは二人だったんだろ」

「俺とサキだけど」

「代わりに死んだんだろうさ」

 

 カンッ! と強めに音を立ててカイズミ爺さんがパイプの灰を捨てた。

 お前が大事にした武器が、あの階層で死ぬ運命を捻じ曲げたんじゃないかと老人は話す。

 

「世の中には絶望的なダンジョンってぇのは存在するもんだ」

「カイズミ爺さんでも?」

「……おうよ、幾つも見てきたもんだ」

 

 どこか遠くを見て、カイズミ爺さんが告げる。

 この鑑定屋の中にある雑貨も、昔に爺さんがダンジョンで拾ってきた物である。テフラの目の前の老人も数えきれないほどの修羅場を潜ってきた猛者なのだ。

 そのさまざまな経験をした老人が、若者に知恵を授ける。自分の経験をもとにした、かけがえのない知恵と思い出の話。

 

「手斧に感謝しとけ。テメェはたまたま運良く生き残ったと思ってるかも知れねぇが、武器の命が散ったからテメェの前に階段が開いたんだと思うぜ」

「おう……」

 

 神妙な顔でテフラは前までいつも持っていた手斧を思い返す。なんだかんだ、愛着があってこの歳になるまでずっと使い続けてきた相棒であったから、思い出には事欠かなかった。

 カイズミ爺さんにテフラは元気よく首肯する。

 

「……よく分かんないけど、分かった!」

「クソ餓鬼ィ、分かってから分かったという言葉は使え!!」

「うおッ!?」

 

 唐突に老人がキレる。

 いや、まぁテフラが悪いのだが、残念ながらテフラの理解力は低いのだった。

 急にしんみりした老人が癇癪を起こしたので、テフラは飛び上がって後ずさる。

 

「仕事の邪魔だ! 帰んな!!」

「お、おう! なんかごめん、でも話してくれてありがとうカイズミ爺さん!」 

「フン、次があればお前も何かもってこい。そら、帰れ帰れ!」

 

 分かったー! と今度こそちゃんと理解を示してテフラは手を振りながら店を去っていく。

 …………偏屈老人が言葉に乗せた、次にダンジョンに入っても生きて戻ってこいという激励には気がついていない辺り、テフラらしいが。

 

 

 余談であるが、カイズミという老人は近隣でも有名人であった。

 それは鑑定の精度が凄まじいと言う理由と。

 

 そして、鑑定をする際に莫大な金額を請求されるという理由から。

 

 ────頑固者で偏屈で激怒しやすいタチではあるが、老人は村の若人達には甘いのだった。

 

 

 ◇

 

 

 遠い昔の話だ。

 友人のクソ餓鬼が一人、祭りの後に消えた。

 そのクソ餓鬼を探して年を経て、クソ餓鬼を二人見送った。

 今年またクソ餓鬼がいなくなる。

 老人は窓から尾根を睨みつけた。

 

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