テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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ささやかな日常

 

 鑑定屋を出てテフラは辺りを見回す。

 どうやらイッサとサキは帰ってしまったようだ。

 

「まぁしょうがないか」

 

 頭の後ろで手を組んで、テフラは苦笑い。イッサ結構凹んでたもんなぁと思い出す。

 初めて手に入れる武器、特に報酬部屋で手に入った武器。

 それに対する子供の目から見た期待感はそれはそれはすごいものだ。

 

 なんたって宝箱を開封すると光と共に、目の前にふわっと武器が出てくるのだ。

 それがどんなに普通で特別じゃない武器だったとしても、子供心にワクワクとドキドキを与える。まるで、自分が特別な物語を開始する主人公になった気分だ。

 テフラもそうだった。

 かつて報酬部屋で現れた手斧をキラキラした目で眺め、若干物騒ではあるが毎日のように振り回したものだ。うん、お袋におだてられて朝から晩まで薪を割りまくって、ご近所におすそ分けしたほどだ。

 

 子供の頃、と言っても五年程度前だがその頃のことを思い出して懐かしむ。

 テフラは頭の後ろで組んでいた手をほどき、背中に手を回して何かを掴もうとした手が空を切った。

 

「……感謝かぁ」

 

 子供心や冒険心を共にした相棒(手斧)はもう無い。

 先ほどカイズミ爺さんが言っていた事を思い出す。確かに自分が運よく助かったって思うよりも、武器が身を挺して守ってくれたと思う方がなくした武器に対する思いが変わってきた。

 惜しい惜しいと思うより、ありがとうという気持ちが強くなる。

 

 テフラはこの村のどこからでも見える尾根に向かって、手を組んで深くお辞儀をした。きっと尾根の神様が、この感謝を大切にしていた武器に伝えてくれると信じて。

 尾根の神はこの村を優しく見守ってくれていると、彼は信じている。

 

「うし、行くか!」

 

 そうして、彼は再び歩き出す。

 どこかその足取りは、先ほどよりも軽く見えた。

 

 

 ◇

 

 

 テフラは家に帰り着く。

 母のヒヨは昼食の用意をしているようで台所の方で作業をしており、父のリーブは森の方へと異変の影響で大型獣が降りてきていないかの確認行っているようだ。

 玄関を開けて、テフラは自分の部屋に向かう。

 

「ただいまー」

「あら、早かったわねぇ。おかえりなさい」

「部屋の天井修理してくるー」

「はーい、お昼は昨日のチーズと入荷してたダンジョン米で『とろーりチーズリゾット』よ!」

「ヒュー!」

 

 大好物でテンションが爆上げしたテフラが口笛を吹く。ダンジョン産の食品は美味いし、母の料理は絶品なのだ。

 そんな昼食を楽しみにしたテフラは、朝の天井の穴を手慣れた様子で修理する。

 若干板が薄いのは防衛本能であるが故だろうか。また突き破っても痛くない素材である。

 そんなこんなで一人で部屋で作業を終えて落ち着いた頃、村長のマクキタラの言葉を思い出し、自分のベッドの上に座り込んで『魔法の地図』を取り出すのであった。

 

「『魔法の地図』どうしよう」

 

 しゅるりと地図を開き、再び紙面を見る。

 そこにはテフラの家の間取りと、台所で作業をしてるヒヨが左右に動く様子と、部屋でじっとしているテフラの姿があった。

 ふと、テフラの頭に悪い考えが……。

 

「……これ、泥棒に渡ったら」

 

 ぞわり、鳥肌が立つ。

 今は自分が持っているからそんなことに使われないが、もしかして他人が持っているとしたら恐ろしくてしょうがないアイテムなんじゃ? と少し怖くなったのだ。

 慌てて首を左右に振る。

 

「いや、でも宝の場所とかわからない……し」

 

『魔法の地図』上の光が変わった。家の間取りはそのままで、人間を示していた白色が消え、切り替わって青色の光が映る。

 テフラの顔面から血の気が引いた。

 その青い光が集まっている場所は、父のリーブがダンジョンで取ってきたアイテムの金庫の場所であった。

 

「…………………………やばくないかこれ?」

「テフラ、お願いがあるのだけどー」

「ほわぁぁああ!?」

 

 扉の前からヒヨの声。

 びくりと背筋を跳ねさせたテフラは叫ぶ。

 台所にいたはずなのにいつの間に!? というかこれを他の人に見つかったらやばい!! 

 慌ててテフラは『魔法の地図』の隠し場所を探して、キョロキョロと視線を走らせる! 

 

 しかし、テフラが叫んだせいで扉の向こうのヒヨが慌てたようだ。

 ガチャリ、扉が開く音がする! 

 ちょっとマテェーッ!? テフラは心の中で叫んだ。

 

「え? え? 何かあったのかしら!?」 

 

 ええいままよ! バッ!! とテフラはベッドの下に『魔法の地図』を隠した。

 驚きの元凶。ヒヨが慌てた様子でテフラの部屋の扉を開き、あらぁと口を手のひらで抑えた。

 

 ヒヨにはテフラが慌てた様子でベッドに突っ伏して、ベッドの下に手を突っ込んでナニカを隠している様子に見えたのだ。

 

 ────導かれる答えは一つ! 

 

「ふふ、テフラもお年頃ね」

「ち、違う! いや、違うけど違うの!!」

「でも、そういうことは夜にやりなさい?」

「違ぁーう!!」

 

 昼間っからエロ本を読み耽るのはどうかと思うという親視点のヒヨから軽い注意が入り、テフラは顔を真っ赤にして誠に遺憾であると吠えた。

 いや、でも『魔法の地図』とかいうやばいアイテムと思われてないからいいのか? とかよくわからない感情で情緒がぐちゃぐちゃである。

 

「テフラ。終わってからでいいから、お父さんを呼んできてね」

「だから違うって! ああ、もう!! すぐ呼んでくる!!」

「ふふ、お願いね?」

 

 ヒヨがあらあらあら〜、と楽しげに部屋を出ていった。

 テフラは顔を真っ赤にしたまま、部屋から飛び出す。

 

「もう!」

 

 そしてすぐに戻ってきて、ベッドから『魔法の地図』を取り出していつも付けている鞄に片付ける。身から離して誰かに見つかったらやばいアイテムの処置法をテフラはまだ知らない。

 

 思春期の青年としてはいただけない勘違いを受けたまま、テフラは森の方へと走り出すのであった。

 

 

 ◇

 

 

 森の中。

 朝訓練をしている森の広場まで向かう。

 ゲンナリ、意気消沈した様子でテフラはたどり着いた。

 

「はぁ……。とりあえず親父を探すか」

 

 森の広場には、リーブが森の向かった場所が分かる森番の印をつけられている。

 今日は森の奥の方を見にいくと示された印だ。

 

 テフラは慣れ親しんだ森の道を、頭の後ろで手を組みながら歩き出す。

 

 森の奥に向かう道。

 向かう方向の木々にも、通る道を示す括り紐が等間隔で付けられていた。

 森で迷子になっても森番の印ですぐに村に帰れるようになるシステム。村で迷子が出た際は広場や村で狼煙が炊かれて、この印を使って村に戻ってくるのだ。

 

 先にリーブが進んでいるから問題はないと思うが、テフラも森番の自覚を持って括り紐が古かったり途切れたりしている場所がないかを点検しながら進んでいく。

 さほど時間が経たない頃、大きな弓を背負った筋肉隆々の大男の背中を見つけた。

 肩には仕留めたであろう兎が下がっている。弓を手の中に持っていないので猟の最中でもないだろう。

 声をかけても良さそうだ。

 晩はうさぎかな、とテフラは思いを馳せながら、距離がある状態で声をかけた。

 

「おーい親父」

「……テフラか」

「おう、お袋が戻ってこいってさ。何か用があるみたいだぜ」

「分かった」

 

 リーブがテフラに気がつき、振り返る。

 そしてリーブはテフラの横に並び、一緒に森の道を戻っていく。親子二人っきりであるが特に会話はなし。だが、テフラはこの森を無言で歩く時間が結構好きだった。それにリーブの動きや視線を見ていると、森番として学ぶことがまだまだ多いと感じているのだ。

 

 そんな時、ふと今なら人がいないし『魔法の地図』について相談できると思い、テフラはリーブに声をかける。

 

「なぁ親父、とんでもないダンジョンのお宝が手に入ったらどうすればいいんだ?」

「具体的に言え」

「いや、えーっと」

 

 村長から口止めされてるし、名前は出さない方がいいよなぁとテフラは頭を回す。

 

「あー、ほら。『帰還の洋燈』みたいにさ、村で管理した方がいいようなアイテムとかさ! いや『帰還の洋燈』は例えで、そんなすんごいアイテムっていうかぁ?」

「手に入れたのか」

「え゛!? いや、別に……?」

 

 冷や汗を流しながら挙動不審になったテフラを、白々しい目でリーブが見た。

 はぁ、と深いため息を出しながらリーブは一言。

 

「大事にしろ」

「……いいのかなぁ」

「『手に入れた物は手に入れた者』だ。村の掟を忘れるな」

 

 そう言って再び無言になるリーブ。

 うぅむ、とテフラは頭を悩ませる。とんでもない代物を自分で管理仕切れるのか不安なのだ。

 

「……悪いことに使えるアイテムだったりしたら?」

 

 そう、弱音のように父に伝える。不安そうに俯いて、テフラは零す。

 ふっ、とリーブが柔らかく笑った。

 

「お前は手斧を人に振るったか? 誰かに怪我をさせたか?」

「はあ!? そんなことするわけないじゃん!」

 

 テフラは俺はそんなことしない! と手斧を大事に使ってたし、()()()()()使()()()()()()()()とリーブに憤る。

 するとテフラの灰色の髪に、リーブのでかい手が置かれぐしゃぐしゃと撫でられた。

 

「なら大丈夫だ。悪い使い方がわかっているなら、そう使わなければいい」

「…………おう」

「もしも手放せば悪用されてしまうならば、お前がしっかりと握っておけ」

「おう!」

 

 子供扱いされてむず痒いテフラは撫でられた場所をガシガシと掻く。

 そしてリーブが早足に道を進み始めた。

 

「腹が減ったな。飯だ、急ぐぞ」

「お、ちょ。待ってよ親父!」

「飯を食えば、悩み事も減る」

「……昼飯は『とろーりチーズリゾット』って言ってたぜ!」

「急げ! 冷めるぞテフラ!」

「速ッ!? 待ってよ父さん!?」

 

 すごい勢いで先を急ぎ出した父の大きな背中を、慌てて追いかけるテフラ。

 どちらの顔にも、笑顔が浮かんでいる。

 

 

 そんな森番親子のささやかな日常を、尾根が静かに見守っていた。

 





アプリ版シレンを始めたらやっぱめっちゃ面白くて良い……。
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