テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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テフラとハピネス

 

 ハピネスを解放し、テフラは封じられた部屋を後にする。

 そのハピネスといえば、テフラの頭の上にしがみついて興味津々に周囲を見回していた。

 テフラにとっては代わり映えしない気がする『休憩階層』のフロアだが、ハピネスにとっては新鮮に映るらしい。まぁ鳥籠の中からずっと同じ光景の場所で閉じ込められていたのだから、わからないでもないのだが……。

 

「少年、少年! すごいぞ、天井の光のパターンが全然違う! 今まで見ていたどのパターンとも当てはまらないぞ!」

「へぇ、そりゃすごいな」

 

 と、テフラの灰色の髪の毛を引っ張りながら、天井を見上げてバランスを崩して落ちそうになっていたり。

 

「少年少年しょうねーん! あっちに行こう、いややっぱりこっちだ、でもそっち!」

「うんうん、あっちこっちそっちね」

 

 とスコココ! とテフラのおでこを突きまくて方向を指示したり。お前唇うんぬんどうしたと言わんばかりの行動。まぁ以前に鳥籠も突いていたし、鳥だしなぁ……とテフラは呆れる。

 でも決してテフラはハピネスが喋ることを遮らず、『魔法の地図』を見ながら簡単な相槌を返してやる。久しぶりという言葉が陳腐に感じるほど長い間閉じ込められていたのだ。嬉しくて仕方がないのだろう。

 テフラだってそのくらいの気持ちを汲むことはできる。返事は雑だが。

 

「はいはい。とりあえず昨日寝た場所まで戻るから。えっと、ここがここだから……」

「…………少年、さりげなくすごいアイテム持ってないかい?」

「うんうん、すごいすごい」

「少年……? なんか雑になってないかい?」

「おう、そうだな。うんうんざつざつ」

「やっぱり雑じゃないか!」

 

 ぷんぷん! とハピネスがテフラの上でわちゃわちゃ跳ねる。

 テフラ的にはさっさとこの休憩階層を出て、ダンジョンの攻略に向かいたいところ。睡眠食事もしっかりとったし、先に進んでもいいと思っている。

 だがしかし、昨日寝る前に見た日記なども気になるし、ハピネスが鳥籠の中で見ていたテフラ以前の儀式の人物の結末……行先も気になっているのも確かだ。その辺りの確認をしてからでも、先に進むのは遅くはない。

 ……ただあの部屋に戻って日記を読む間、ハピネスがうるさくて集中出来無さそうというのは問題だな。テフラはそう思い、

 

「ハピネス」

「む、やっとまともに取り合う気になったか少年? ふっふっふ、仕方ないなぁいっぱいお喋りを、コホン、語り尽くそうか!」

「悪いけど、ちょっと一人で待っといてくれ」

「がーん!!」

 

 むんず、と頭の上のハピネスを掴もうとするが……。

 

「しょ、少年、お願いだ! 私を一人にしないでくれ!」

 

 ものすごい勢いでハピネスはテフラの手から逃げる。

 頭からぴょんぴょこと上手に肩に移動。どこか焦りが感じられる気がした。

 何か理由がありそうだ。

 捕まえようとしていた手を止め、テフラは話を聞く姿勢。

 

 逃げるのをやめたハピネスは、ぐりぐりとテフラの母からもらったマフラーに頭を押し付けながら、小さな声で喋る。

 

「……これが、私の夢じゃないとは分かってるんだ。だって、斧で鳥籠壊すような乱暴な手段で誰かが助けに来てくれるなんて考えた事なかったもの」

「へぇへぇ、乱暴で悪かったな」

「でも、その…………、一人だと怖いのよ」

 

 くぐもった声で。

 何かを堪えるような声。

 

「またあの鳥籠で目が覚めて、何も変わり映えしない時間に戻って。──ああ、夢だったのねって思うのが、とても恐ろしいの」

「……怖いなそれは」

 

 うーん、参った。

 しかめ面のテフラは頭の後ろで手を組んで考える。

 とりあえずといった体でテフラは、マフラーに顔を埋めるハピネスに向かって呟いた。

 

「じゃあ、静かにしてろよ? 少し集中したいんだからな?」

「うん。ってあっ、ゴホン! うむ!」

 

 なぜか咳払いをして、ハピネスは返事をする。口調が変わっていたりしたが、テフラは普通に気がついていなかった。

 

「よし! そうと決まればあの日記を読みに行くか……って待てよ?」

「? どうしたんだ少年? もしかしてその日記の文字が読めないとかかい?」

 

 その時テフラに閃きが走る。

 にまっと笑って、ハピネスに向かっていい笑顔を向けるテフラ。

 ハピネスは首をかしげる。

 

「へへへ、後でのお楽しみだ。お前にとびっきりのプレゼントをやるよ。でも先に日記だ!」

 

 プレゼント……? ハピネスが目を丸くしてテフラの顔を見つめ。

 ぼふん! と頭から湯気を出して早口で喋り出す。

 

「おや、おやおやおや! しょうねぇーん? もしかして傷心している私の姿にビビッと恋心の一つや二つ芽生えてしまったのかい? いやぁ、モテるのは辛いなあ! でもなぁ、どうしよっかなぁ! んんー、助けてもらっちゃったしなぁ! ふっふふー!」

 

 それに胡乱げな表情でテフラが一言。

 

「いや、恋って……。お前鳥じゃん」

「むっきー! だから私は美人ですごいって何回も言ってるじゃないか!」

「えぇ……でも鳥じゃん……」

 

 頭に井形マークを貼り付けて、スコココ! と、見た目は青いシマエナガみたいなツラしてるくせに、キツツキのようにテフラの頬を突き始めるハピネス。

 躊躇のかけらもなくほっぺたを突いてくるし、やっぱ鳥じゃん。テフラはほっぺたが痛かったので、指でハピネスの嘴を抑える。

 そんなこんなで元気を取り戻したハピネスとテフラは日記のある部屋へと戻るのだった。

 

 

 ◇

 

 

 テフラは日記を開いて、固まった。

 

 初めに食糧が徐々に減っていく日々の書き込み。

 そして、途中から食料が尽きたと書かれていて、先に進むほかないと書かれている。

 ページを捲ると、それなりに先の階層のモンスター……滲んでてよく見えないが『八本脚?』と書かれている。恐ろしい恐ろしいと何度も連なるように書かれ、特に有用なことが書かれていない。

 その『八本脚?』から、命からがら『帰還の洋燈』を使い逃げたが、ここに戻ってきてしまうということと、あんなモンスターに勝てる訳がないという絶望が何度も何度も書かれている。

 最後に尾根の神へと恨み辛み、ニシキの村の者への憎しみなどがぎっちり書き込まれ、最後にお腹がすいたと書き損じた文字でこの日記は終わっている。

 

 テフラは眉根を揉んでマッサージ。

 人の切羽詰まった時の悲しい悪意が見えて、気分が悪くなったのだ。

 きっと日記の人も本来は優しい人だったに違いないと、テフラは先人に黙祷を送る。

 

 ちなみに恐ろしく書かれていた『八本脚?』については、足がそんなにいっぱいあるなら一本ずつ使えないように斧で叩いていくか、と前向き思考だ! 

 テフラはもう一度日記を最初からめくり、唸る。

 

「……うーん、村長と親父の名前は書かれてないし知らない人の名前ばかりだ。誰が書いたものなんだろう」

「何が書かれているのか知らないが、その日記は多分……少年から五代くらい前の少女が持っていたものに似ているな」

「ってことは百年くらい前の日記ってことか!? 全然古くないぞ!」

 

 ペラペラと日記をめくるが、全然劣化した形跡がない。

 なんでだろう、テフラが首を傾げていると、昨日テフラが睡眠をとったベッドの上で跳ねて遊んでいたハピネスが疑問を解消する。

 

「この階層の役割は書物を守ることにあるんだと思う。国の栄光や歴史、日々の暮らしや国で発生した娯楽小説なんかを保存するためにね」

「なんでダンジョンの中にそんなものが?」

「それは……、かつての栄光を忘れられない馬鹿がここを作り出したんだろうさ。尾根の神をだまくらかして、自らが神様気分ってね。ふんっ!」

「……栄光を忘れられない馬鹿って?」

 

 テフラが率直に聞く。彼は村長の館でわからないことを素直に聞けるいい子だった。わからないことが多すぎたのが玉に瑕だったが。

 テフラのその疑問に、ハピネスが呆れたように声を出す。

 

「えぇ、少年? 君はその馬鹿から尾根の神を助けにきたのだろう? その尾根の神を困らせているのもその馬鹿さ」

「え? ええー!?! 尾根の神様、助けがいるくらい困ってるのか!?」

 

 驚いた様子のテフラが椅子を吹き飛ばして、すごい勢いで立ち上がって、ベッドの上のハピネスに詰め寄る。だが、驚いていたのはハピネスも同じだった。

 あんぐりと嘴を開いて目を丸くして、詰め寄ってきたテフラに言葉を返す。

 

「??? 君は、尾根の神を助けにきたんじゃないのかい……? ちゃんと我が国の国旗まで服に刻んだ護り人じゃないか!」

 

 ほらほら! テフラの灰のカーディガンとマフラーに刻まれたニシキ村の魔除けをハピネスが翼で示す。それに困惑するのはテフラだ。

 

「??? 国旗? 護り人? これはうちの村に伝わる魔除け紋だぞ? 俺はニシキ村にある『尾根連なる森』の森番の倅テフラだ。護り人っていうのはそれに関係あるのか?」

「「???」」

 

 テフラとハピネスはまじまじと視線を合わせて、お互いに疑問符を宙へと浮かべる。

 どうやらハピネスはこのダンジョンに本来挑む理由を知っている様子。テフラは疑問を解消するために腕を組みながら、ハピネスに首を傾げて見せた。

 

「……うーん、ハピネス。もしかして色々と詳しかったりするのか?」

「いや、詳しいというか……。とりあえず少年の都合を聞かせてくれないか? それからすり合わせをしよう」

「おう、分かった」

 

 まずテフラが頷いて、事の経緯を話した。

 村近くのダンジョンの異変。

 二十年に一度の儀式。『尾根錦祭』の話。

 そして、テフラの話。

 ずっと繰り返されてきた悲劇を、尾根の神に止めるようにお願いをして、生きて帰るためにダンジョンに挑んでいるという事を話した。

 

 ハピネスは黙ってテフラの話を聞いて、最後に疲れたようにため息を吐いた。

 しばらく逡巡して呟く。

 どこかその様子は悲しそうに見える。

 

「そうか、そうだね。何百年も、アイツは…………。少年、いえテフラ」

 

 先ほどの会話でようやく知った、自分をあの場所から連れ出した人物の名前を言う。

 机の上のランプだけが静かに輝き、薄暗い部屋の中にいる二人の影を作る。

 

「過去の精算をしたいんだ。手伝ってくれないかい?」

「……そりゃいいけどよ、何を手伝うんだ?」

 

 ぴょん、とハピネスは跳び、テフラの腕を伝って肩に行き、最後はテフラの頭の天辺に登って大きく羽を広げて宣言した。

 

「この『生贄ダンジョン』を攻略するんだ! 尾根の神を助けにいくぞ!」

「へへ、そりゃ分かりやすくていいな。俺の村は尾根の神様を信仰してるんだ。大事な神様が困ってるっていうなら、助けに行くに決まってるだろ!」

 

 テフラは鼻を擦って笑い、装備の確認をして小部屋からハピネスと共に飛び出した。

 

「少年! 行くぞ!」

「おう!」

 

 

 ◇

 

 テフラは走る。

 

 そして、休憩階層の次の階層につながる階段の前についた────途端テフラ特急急停車。

 キキィー! と急ブレーキをかけたせいで、ハピネスがツンのめって頭から落ちかける。

 

「ちょ、少年!? 止まる時はゆっくりじゃないと危ないじゃないか少年!」

「へへ、悪い悪い。忘れ物を思い出してさ」

 

 そういうとテフラは歩き出した。

 向かう先は目の前の次の階層につながる階段ではなく、鎖と錠前のあるハピネスが囚われていた部屋だ。

 

「ちょっとここに降りてな」

「? 少年? ここにはもう何もないぞ?」

「いいから」

 

 近くのテーブルの上にハピネスを避難させ、テフラは笑顔で封じられた扉の前に立った。

 そこにはテフラ一人分だけが入れる穴が開いており……。

 

「ぜぇあああああああッ!!!」

「しょ、しょうねん……?」

 

 テフラが斧で余すことなく扉を滅多撃ちにする。

 呆気にとられて、ハピネスは呆然とそれを見ている。

 バギバギ! と鎖と錠前以外の部分がどんどん砕けていき。

 

 最後に、テフラが助走をつけて渾身のドロップキックを放つ!! 

 どごん!! と凄まじい音を立てて、扉が吹き飛んだ。

 

「よし!」

「よしじゃなぁーいっ! え、どうしたの少年? き、気でも触れてしまったのかい」

「触れてたまるか! ほら、さっき言ったあれだよ」

 

 堂々と腰に手を当てて、テフラはドヤ顔で言った。

 

「────プレゼント!」

「はぇ……?」

 

 置かれたテーブルの上で、ハピネスが動きを止める。

 先ほど、日記を読む前に言っていたテフラの言葉だ。

 ゆっくりと意味を咀嚼するハピネスに、テフラが朗らかに説明をする。

 

「こんくらい印象的にぶっ壊しとけば、お前の夢ん中でも俺がぶっ壊しに来るかもだぜ!」

「え? それだけのために……?」

「だって、あそこに戻る夢が怖いんだろ? ついでに鳥籠と部屋の中もやっとくか?」

「ふ、くっ、少年って……くくく……本当に、ふふふ!」

 

 ぷ、ふふ。あはは! と机の上でハピネスが転げ回った。

 心底楽しそうに転がって、勢い余って机の上から地面に落ちた。

 

「ぐえ」

「お、おい! 大丈夫かよ、お前飛べないんだから……」

 

 慌てて駆け寄るテフラが見たのは。

 それでも楽しそうに笑うハピネスの姿。

 ハピネスは言葉を紡ぐ。

 

「ハハハ! 少年、君について、このわずかな時間で脳筋でドジでアホっぽいということが分かった!」

「馬鹿にしてんの???」

 

 唐突な性格批判に憤慨するテフラ。

 そしてハピネスは、

 

「そんな君が────」

 

 両翼を器用に使って、

 

「────私を助けてくれて本当に嬉しかった。ありがとうテフラ!」

「……おう!」

 

 まるで物語のお姫様がするように美しいお辞儀をするのだった。

 




 なお青いシマエナガっぽい見た目である。
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