テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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生贄ダンジョン境界3F


生贄ダンジョン境界4

 

 最後の取り巻きのスラットを打ち倒し、狭い通路に不敵に笑って斧を構えるテフラ。

 対するは広い部屋でテフラを見据えて陣取る『パローレミングス』親玉ファットラット。

 

 ゆっくりとテフラに向かって近づいてくる雄叫びを上げながら近づいてくる親玉ファットラット。

 その動きをしっかりと目測を測りながらテフラは、マフラーに潜むハピネスに呟く。

 当然、図っているのは彼我の距離。

 

 先制の一撃を喰らわせるために必要な条件。

 

「前に動くから、しっかり捕まってろよ」

「へっ? 少年ここで戦うんじゃないのかい? って、きゃあああ!?」

 

 言うや否や、テフラは今まで保守していた狭い通路から身を躍らせ、目の前の小部屋の中に飛び込む。今まで動かなかった敵が、まさか飛び出してくるとは思っていなかった親玉ファットラットは、慌てて距離を詰める。

 テフラから先に一歩。

 親玉ファットラットが慌てて一歩。

 

 何も考えず、敵との距離を詰めることしかしなかった親玉ファットラットは──。

 

 眼前に両手持ちで振られた、大振りの手斧。

 頑丈な鳥籠すらブチ破ったマスターキーの刃先が、鼻先にぶちかまされる! 

 ばちばち! 視界の中で星が弾ける親玉ファットラット。

 だが当然ボス個体としての意地がある。雄叫びを上げながら、手に持ったチーズ塊でテフラに殴りかかった。

 

「────ぉっも……!」

「少年!」

「平気だ!」

 

 両手で斧を振るった後、すぐに体勢を戻して構えたテフラが木盾でソレを逸らす様に弾こうとしたが、敵の巨体から繰り出される攻撃はとても重い。

 ギチィッ! と木盾が嫌な音を立てる。

 だがソレでも普段の訓練通りすぐに反撃に転じ、斧を振るっていく。

 

 純粋な殴り合い。

 

 斧という武器を使っている脳筋の割に、盾使いが上手いテフラが致命傷を避け、親玉ファットラットの体力を削る。

 親玉ファットラットは、その巨体ゆえのタフネスで斧の攻撃を受けながらも強撃を繰り返す。

 

「少年、このままだと……!」

「平気だ! 『パローレミングス』には弱点がある!」

「本当だろうね!? 最悪、私が囮になってでも……」

「俺を信じろハピネス!」

 

 このまま続ければ、親玉ファットラットが勝ってしまう。

 このまま続くと、と考えたハピネスがマフラーの中で小さな悲鳴をあげる。

 だが真剣な表情のテフラは愚直に攻撃を捌いては、攻撃を繰り返す。

 

 そして。

 腕力に物を言わせた強撃を繰り返していた親玉ファットラットが、手に持っていたチーズ塊をテフラに向かって投げた! 

 その行動にテフラの笑みが深まり、木盾で飛んできたチーズ塊を弾くと少し後ろに下がって、素早く腰カバンに手を突っ込む。

 

「へへ、こういうところは変わらねぇな! よし回復だ!」

「へ? そんな隙を作って大丈夫なのかい!?」

 

 取り出したのは、緑の丸薬。

 ダルくなってきた体を回復させる薬。

 口に放り込み、不味さ苦さで涙目気味に口から舌を出すが、我慢して嚥下。

 再び親玉ファットラットに突っ込む! 

 

 明確なテフラの隙だった。

 だが、親玉ファットラットからの攻撃は来なかった。

 

 なぜなら、再び両手で大振りにマスターキーを振るうテフラの目の前には。

 ダンジョンの床をフンフンと嗅いで、新たに投げたチーズ塊をダンジョンの床から引きずり出している親玉ファットラットがいたからだ。

 

 この行動こそが、テフラがニシキ村の子供でもファットラットに勝てると思っている理由。

 強いボスモンスター故の、ダンジョンを作る神々に設定された行動だ! 

 

 

 ◇

 

 

 ダンジョンとは神々の娯楽劇場である。

 ダンジョンの中で行われる事、全てが喜劇で悲劇で演目だ。

 恐々とダンジョンに入ってくる様も、宝を見つけて喜ぶ様も、強敵から逃走する様も。

 

 当然、人間とモンスターが戦い、鎬を削る様子も演出の一部である。

 

 だが、モンスターがあまりに強過ぎれば挑む人間がいなくなってしまう。

 逆に強力な武器が人間達に出回ると、難易度が簡単になってしまう。

 だからこそ、ダンジョンを作る神々は設定をする。

 

 ソレは一階層から強力なモンスターが生まれない様にする制限だったり。

 ソレは潜り始めに特殊なアイテムや特別な装備が出てこないような配慮だったり。

 

 そして。

 ボスモンスターが強力無比な力で、脆弱な人間を蹂躙することも良しとしない。

 

 神々がダンジョンに、人間に求める演目とは。

 愛と知恵と勇気で一欠片の希望を掴み取る事や、一つの踏み間違いで足を踏み外す綱渡りの絶望なのだ。

 

 

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 ◇

 

 

 再び殴り合いが始まる。

 ビリビリと強撃を木盾で受け流すテフラの左腕が軋む。

 だが、不敵な笑みを止めることは決して無い! 

 

 初めは悲鳴をあげていたハピネスに至っては、マフラーの中でしゅっしゅ! と翼をはためかせ声援まで送っている。

 

「よっし! 少年脇腹がガラ空きだ! やっちゃえー!」

「へへ、まかせなァッ!」

 

 そんな殴り合いの果て。

 ついに体力の限界を迎えたのか、目を回しかけた親玉ファットラットが最後に全てをかけた一撃を振るってくる。

 今までで一番強烈な一撃。

 バギんっ! 最後の一撃を受け流したテフラの木盾が真っ二つに壊れて、ダンジョンに食われていく。 

 

 だが。

 

「終わりだぁ!」

 

 テフラがトドメのつもりで放った攻撃が、でっぷりとした親玉ファットラットの胴体に突き刺さる。それを最後に親玉ファットラットは白目を剥いて後ろ向きに倒れ、ダンジョンに徐々に徐々に食われて消えていく。

 

「他に敵は……いないな! さ、流石に疲れたぁ……」

「お疲れさま少年! すごかったぞ少年! 格好良かったぞ少年っ!」

「へへ、だろ? ……けど、ちょっと休みたいな」

「うむ! 任せたまえ少年、地図を見せてくれれば警戒しておくよ。ゆっくり座って休息をとるべきだね」

「分かった。ありがとなハピネス」

 

 どさっ、とその場に座り込んだテフラが、その灰髪に飛び乗ってきたハピネスと疲れ気味に会話をする。

 周囲を見回すとスラットの群れが落としたと思われる、何かが入った小さな麻袋や不思議な杖や不思議な本、そして親玉ファットラットが食われた場所に現れた宝箱が鎮座していた。

 流石にこの辺の整理は休んでからしよう、と敵にみつかりにくい場所である狭い行き止まりの通路へと疲れた体を引きずってゆく。

 

 その時、背中の手斧。

 マスターキーが薄く少しの間だけ光った。

 

 青年と青い鳥はソレには気がつかないで、先ほどの戦いの事を歓談するのだった。

 

 

 ◇

 

 

 結局手斧の光に気が付かなかったテフラは、体のだるさが平時に戻る程度に休憩を終え、ダンジョンの地面でぴょこぴょこしながら『魔法の地図』を見ているハピネスに声をかける。

 

「敵は来そうか?」

「この部屋には近寄ってきていないな。もしかしたら、あの『パローレミングス』が占領してたから、入れないものと考えているのかもしれないね」

「……まぁあいつ場所取るからなぁ。ボス部屋以外で初めて見たぞ」

 

 不服です、と言わんばかりに腕を組んでテフラはため息。

 そんなテフラに地図を見ていたハピネスは、残念なお知らせといったふうに地図の上を翼で指す。

 

「ボスだったのかい? 地図を見ると、まだ数体はいるぞ?」

「………………まじ?」

 

『魔法の地図』を覗き込んだテフラは、地図上の赤い点がうじゃうじゃある小部屋の数に白目を剥いた。

 なんだこのクソダンジョンは、とか若干面倒臭そう。あまりそういうことを考えないテフラだが、一階の弓猿人とミミックや二階の罠部屋のせいで、このダンジョンに対するストレスが限界突破してきている。

 

 ため息でその場を誤魔化して、その後に見るのは自分の左腕だ。

 そこにはダンジョンに入ってから大活躍していた自身の木盾の姿がなく、少し違和感を覚える。

 

「流石に盾がないと厳しいかなぁ。今の部屋に階段は……」

「ないね、少年どうする?」

「どうするって、……そうだな」

 

 テフラはハピネスと視線を合わせてから、親指で今しがた『パローレミングス』と戦った部屋を指差した。

 

「あんだけアイテムがあるんだ。ま、なんとかなるだろ!」

 

 そう言って、ニッと僅かに不安そうだったハピネスに笑いかけるのであった。

 そして思い出す様に聞く。

 

「そういやさ、ハピネス。お前って次のボス階層までは知ってるって言ったよな」

「そうだけど、何かあったかい少年?」

 

『魔法の地図』を仕舞いながら聞いてきたテフラの質問に、ハピネスは首を傾げる。ぴょんぴょんと腕をつたって、テフラの頭の上にしがみつく。

 

「んじゃ、このダンジョンで出るアイテムの効果って少しでいいから分かるよな! 天井の光のパターンとかも覚えてたし、頭いいもんな!」

「頭が良いというか、暇だっただけなんだけどね。一応、記憶力はいいから一通り覚えていると思うよ」

 

 ならよし! 

 ぱしんと手を打ち合わせてテフラは先ほどの部屋に戻る。

 そして、地面に広がったアイテム達を見て呟く。

 

「最終手段の、突っ込んで階段に飛び込む以外に他の行動が取れる可能性がある。頼りにしてるぜハピネス」

「アハハ、任されたよ少年! ……なんだ。こんなちっぽけになった私にも、役に立てることがあるじゃないか」

「うん? 何か言ったかハピネス」

「なんでもなーい! さぁどんどん私を頼ってくれたまえ、少年っ!」

 

 先ほどの戦闘で、自分の無力さをマフラーの中で噛み締めていたハピネス。

 そんな自分でもこの少年の役に立てることはあるんだ。

 そう思うと、俄然やる気が湧いてくる。

 

 小さくなった呟きはテフラには届かなかったが、鳥籠から出してもらった恩を僅かでも返そうと、アイテム達の効果を記憶の底から思い出し、アイテムを拾っては首を傾げるテフラに教えていくのだった。

 





 次回は遂にアイテム整理をしたいところ。
 無限沸きしそうだった緑の丸薬君の残機が設定されます。

 祝!十万字突破!
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