テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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生贄ダンジョン境界3F


ドロップ品整理

 

 テフラとハピネスは、先ほど戦闘を行なった部屋から戦利品を狭い通路へと運び込み、確認をしていく。

 

 ついでに、自分のカバンの中身の回復アイテムも確認をする。

 ダンジョンに入ってから結構使っているからだ。残数の把握は必須だろう。

 緑色の丸薬、数は減って来ているが、まだ二十個はあった。いや、二十個しかないと言うべきか。

 ダンジョン内で薬草を見つければ、数は増やせるのでドロップすることを期待したい。

 

 先程の戦闘で手に入れた物の確認を始める。

 食品麻袋が二つ。中身はチーズとフワッフワの白パン。じゅるり、とよだれが垂れそうになるが、後のお楽しみに取っておく。

 不思議な杖は三本。不思議な本は二冊。

 そして、親玉ファットラットがドロップした宝箱から鈍い光を放つ腕輪が一対。

 

「少年、随分集まったな」

「おう、そうだな。結構敵倒したし、元から部屋に落ちてた分もあるだろうぜ」

「……で、どうだい? 何かいい方法を思いつきそうかい?」

「うぅーん、とりあえず杖から見るか」

 

 不思議な杖と不思議な本を床に並べて、テフラはハピネスと相談をする。

 鑑定士ハピネス曰く、不思議な杖の内訳はこれだ。

 

 一本目。

 紫色の小粒の宝石がついた、電気ビリビリが飛んでいく雷の杖。これは隣り合った人物がいると、どんどん感電して電気が広がっていく杖だ。過去に敵が近くにいる状態で杖を使って自分も感電している人がいたのをハピネスが見たことあるらしい。

 名前は『稲妻ワンド』多分打てて三回と予測。

 

 二本目。

 緑色の中位の宝石がついた、光が当たった物を遠くまで吹き飛ばす杖。文字通り、敵にあたれば壁に当たって止まるか、杖の効果が切れるまで問答無用で光の飛んでいった方向に吹き飛ばす杖である。

 名前は『吹き飛ばしワンド』打てて四回と予測。

 

 最後の三本目。

 見る場所で色を変える小粒の宝石のついた、光が当たった物をしばらくの時間、杖の持ち主と同じ姿に変えてしまう杖。光が当たった身代わりがいる場所では、まるで本来の杖の持ち主が見えなくなってしまったかのように、その姿を変えた身代わりをモンスターが追いかけて攻撃するそうだ。

 当然デメリットがあり、身代わりをダンジョン内のモンスターが倒してしまうと、一階で起きた時の様にモンスターが『成長』してしまうので細心の注意がいる。

『身代わりワンド』打てて三回と予測。

 

 そしてテフラの腰にある、宝石が砕け散った『場所替えワンド』だ。

 杖は宝石が目安になっているが、杖自体を敵に投げ当てれば効果を発揮する、とハピネスに言われてテフラはその存在を思い出した。

 

「うーん、杖だけじゃまだ無理だぜ。『稲妻ワンド』を遠くから部屋に打てば行けるかなとも思うんだけど、一部屋が限界だろうし」

「確かにそうだね少年。まだ階段がある部屋がわからないから、我々はしらみつぶしに見ていく他ないものなぁ」

 

 腕を組んで唸るテフラと、その頭の上でコツコツとテフラの頭を嘴で刺激するハピネス。

 そんな二人が次に目移りしたのは不思議な本だ。

 

 不思議な本。

 ソレは中に書かれている文章を読み上げると、その本に刻まれた魔法が効果を発揮するという物。

 不思議な杖は飛んでいく光にしか効果がないが、不思議な本は読み上げた場所の小部屋全体に影響を与えたりするものもある、いわば全体に不思議な効果を撒き散らす便利道具であった。

 ただし、一回読むと風化したように手の中でバラバラになってどこかに消えていく。

 一回限りのここぞという場面で使うアイテムだ。

 ただ杖のように一瞬で振れるわけじゃないので、使うのに少しだけ猶予が必要である。読み上げてる途中に、親玉ファットラットのようなモンスターから強撃を喰らえば、当然途中で読むのが止まってしまって効果を発揮することができない。

 

「では、不思議な本だね」

「おう!」

 

 あるのは二冊。

 クイッ、存在しないメガネを上げる仕草をしてハピネスが内訳を説明する。

 

 一冊目は読むと、現在いる階層のダンジョンの壁を全て打ち壊し、小部屋と通路をなくして大部屋にしてしまう本だった。

 名前は『大部屋の本』と呼ぶことにする。

 ただし、これは使うと今まで隠れていた壁が全てなくなってしまうので、階層の全ての敵に一瞬で見つかってしまうとんでもない本だったりもする。過去の儀式の人間の中には、効果がわからずにこの本を使ってしまって弓猿人に遠くから狙われ続けて痛い思いをしてしまった人物がいたんだそうな。

 

 二冊目は読むと、今持っているアイテムの名前を判別識別してくれる不思議な本。これはテフラも見たことがあり、カイズミ爺さんのところに行くと大金がかかると言って、草臥れた顔のラカブがトホホと言いながら使っているところを見たことがあったのだ。

 名前は『識別の本』と呼ぶことにする。

 これは本に効果名前の分からないアイテムをくっつけて、本を読むことで効果がわかるという物だ。

 

 パチン! テフラが何かを思いついたように指を鳴らす。

 どうやら、何か思いついたようだ。

 それをハピネスに伝えていく。

 

 すると、その脳筋らしからぬ閃きを見せたテフラに、君って頭使うことできたのか……? と驚きの目でハピネスがテフラを見る。どうやら、良い回答をテフラが出せた様子。

 

「……そうだね少年。今の手持ちだといくつか方法があるけど、それが一番かなぁ。でも失敗すると相当危険だよ?」

「どの道ダンジョンは危険な場所! だろ?」

「いやぁ、そうだけど……。あ、そういえば腕輪はなんだい? 流石にこれは私も見たことなくてね。少年には分かるかい?」

「俺も分からん! ……だからさ、識別しちゃおうぜ」

 

 ニヤリ、テフラは『識別の本』をポンポンと掌で叩く。実はテフラ、初めて不思議な本を使うのでワクワクが止まらないのだ。

 だが、その様子にハピネスが目を細めて告げる。

 見ている場所は、テフラの軽くなった左腕だ。

 

「少年、それはいいんだが……。後から出てくる物で、効果を知りたいものが出たらどうするんだい? 主に、盾とか」

「うっ、それは……。でもよぉ、このまま腕輪を装備するのも怖くないか?」

「着けない、というのも選択のうちだよ少年!」

 

 よく分からない鈍い光を放つ一対の腕輪。

 親玉ファットラットからドロップした宝箱に入っていたアイテム。

 ボスモンスターである『パローレミングス』から落ちたアイテムなので、それなりに良い物だと思うのだが、いかんせん二人にはこの腕輪の効果がわからない。

 

 ダンジョン産装備のアクセサリーといえば、それぞれが不思議な効果を持っている。

 テフラの父リーブが持っている腕輪と首飾りはつけている者の力を増幅させる効果があったりしたし、ラカブが着けている指輪には睡眠や混乱といったダンジョンのモンスターや罠で起きる不思議な術を防ぐといった効果がある。

 だがダンジョン産装備のアクセサリーは上記の様な良い効果ばかりではなく、付けた人間を陥れる罠のような効果を持つ物も存在する。

 例えば、装備している人間を壁があろうがモンスターが見つけ出してしまう指輪だったり、装備したら忘れっぽくなってしまう首飾りだったり────。

 

「でも、もしかしたらこの腕輪にいい効果があって、ダンジョン攻略がうまくいくかもだぜ?」

「それはそうだけど……。少年、もしかして腕輪は付けたい、本は読みたい、のダブル欲求に負けてないかな?」

「ギックゥ!?」

 

 テフラの背中が跳ねる。なんでバレたと言わんばかりに目が泳いだ表情だ。

 呆れた、と言わんばかりのハピネスだったが、まぁいいかとテフラの頭の上に座り込んだ。

 

「少年」

「な、何!?」

「いい物だったらいいね」

「お、おう! ……あれ、読んでいいのか?」

 

 テフラは頭の上にいるハピネスに聞く。ダメだと言われると思っていたのだ。

 くすくすと笑いながらハピネスがそんなテフラに言う。

 それもそのはずだ。

 

「一階層、見ていたよ。『アイテムは使ってなんぼ』なんでしょう、少年?」

「おう、そうだぜ。俺が尊敬する人の一人がそう教えてくれたんだ」

「ふふ、いつか会って見たいものだね。まぁ山頂に着けば、いや着けばこそか……難しいだろうけどね」

 

 頭の上にいるので、ハピネスの顔が見えないテフラ。

 なんだか少し悲しそうな声音な気がした。体の力を抜いたのか、ハピネスの柔らかな羽毛のむずがゆい感覚がテフラの頭の上で広がる。

 なぜ難しいと言うのか、よく分からなかったがテフラは顔を明るくして、親指を立てて声に出す。

 

「難しくなんかないさ。その時は大事な友達として紹介してやるぜ」

「ふふ。少年、もしもその時が来たらよろしくね」

「ああ。まぁ大丈夫だぜ、なんたって俺はニシキ村で一番ツイてる男テフラだからな」

 

 決め台詞のようにそう言って、ハピネスの反応を待つ。

 さすがだね少年! と今までのように言われるのを待っていた。

 けれど。

 

「……ああ、本当に夢のようね」

「?」

 

 ハピネスの小さな言葉が、テフラの耳をくすぐってどこかに消えていった。

 くすくす、ハピネスは疑問符を浮かべるテフラの様子を見て、静かに笑い続けるのだった。

 

 

 ◇

 

 

 よくわかんねぇけどヨシッ、と気合を入れ直したテフラが『識別の本』を開く。

 そこには全然見たことの無い文字が大量に踊っていた。

 パチパチ、目を瞬く。

 

 テフラは困ったように頭の上で静かになってしまったハピネスに声をかけた。

 

「ハピネス、読めないんだけど……」

「ん? 少年、ちゃんと識別するものを本に当てたかい?」

「あ、忘れてた」

 

 しっかりしたまえよー。ハピネスが緩い声で声をかける。

 どうも先ほどの話から、力が抜けてしまっているようだ。

 ぐぬぬ、テフラは鈍い光を放つ一対の腕輪を『識別の本』の背表紙に当ててもう一度中身を見る。

 すると、中の文字がぐるりと揺らいで、テフラも読める言葉の列になる。

 

 口に出して文字を読み上げると不思議な本は使用されたことになると聞いていたテフラは、少し緊張で乾いた口を開いた。

 

「『ここに示す。万象を示す。其の名──』うおっ!?」

 

 そこまで読み上げると、ボロボロ……! と本が崩れ落ちていく。

 完全に溶けるように空気に消えていってしまった。

 テフラは、手の中の『識別の本』は消えたが、頭の中に道具の名前と効果が浮かび上がってくる。

 そんな頭の上から、静かに様子を見ていたハピネスの声がかかる。

 

「どうだい少年? 良いものだったかい?」

「へ? ……ああー、その」

 

 本が消え、手のひらに鈍い光を放つ一対の腕輪だけが残ったテフラ。

 彼は、その腕輪を困ったように見つめ……。

 

 そっと、地面に置いた。

 

「付けると腕輪と腕輪がくっついて拘束される『手錠の腕輪』だってさ……。しかもなんか呪われてるってさ」

「……それは、その。……鑑定してよかったね、少年?」

「……おう」

 

 腫れ物に触るようにテフラを慰め、ハピネスはドン引きしながら腕輪を見た。そんなやべーものをボスモンスターが落とすな、といった顔だ。

 

 呪い、それは呪われたアイテムを身につけた際に、それを外そうとする時になぜか外す気が失せると言うとんでもないダンジョンの不思議な罠。おそらく『手錠の腕輪』を腕に装備していたら、両手が強制的につながった手錠状態でこの先のダンジョンを攻略しないといけなくなっていたのは想像に容易い。

 

 テフラは地面に置いた腕輪を見下ろし、大きくため息。

 その後は、ヤベー物が万が一にも腕に装備されてはいけないと、足で壁のほうに押し退ける。

 ……が、せっかく『識別の本』まで使って鑑定したのに、捨て去るのは勿体無いとサンドイッチを食べて空いた場所に、細心の注意を払って肩掛け鞄の中に放り込んだ。

 

「ハーッ! 封印!」

「……捨ててもいいと思うけどね、少年」

「もしかしたら何か役に立つかもしれないもん! どっかで使うかもだもん!」

「少年、幼児退行してるぞ……。そんなに期待してたんだね」

「……くっそー」

 

 しょんぼり顔で、テフラはいじける。

 ハピネスはそれを見て、またくすくすと笑うのだった。

 お宝だと思ったアイテムが良くないアイテムであることも、またダンジョンの醍醐味なのである。

 





 鈍い光を放つ一対の腕輪。
 鎖のない手錠である。
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