もごもご。
頭の上からパン屑が落ちてくる。
「ハピネスぅ……。ご飯は肩か地面で食ってくれ。流石にこぼれて来るのは嫌だ」
「ふみゅ? むぐむぐ、すまないね少年。恥ずかしいがどうも、この口はうまく食べれなくて……」
「まぁ鳥だしな……。サンドイッチの時みたいに食べさせてやろうか?」
「…………今更ながら考えると少し恥ずかしいから遠慮しておくよ」
鳥でもやっぱそう言うところは気になるんだな。テフラは落ちてきたパン屑をパンパンと払いながら考える。ぴょんぴょこと手慣れたようにテフラの頭から肩に移動するハピネス。その両翼でうまい具合にフワッフワの白パンを抱えているのだから、なかなか器用だ。
今二人がやっているのは、鞄に詰めきれなかった食品を胃に収納するという重要な任務。
麻袋のチーズと白パンを食べれる分を食べていく。限界を超えて食べると胃が膨らむ感覚がするテフラだった。
まだ鞄の中に母のヒヨが詰めてくれた『尾根祭』の屋台の食品が入っているが、ダンジョン攻略において食料は大事である。
『休憩階層』にあった日記では食料が無くなって飢えてしまった様子が書かれていたように、ダンジョンで食べ物を手に入れるためにはモンスターを倒したり、宝箱から落ちることを祈らないといけない。今回は運よく手に入っているが、常に手に入ると考えるのはよろしくないのだ。
だから、無理やり限界まで二人で食品を食べていく。
「……少年、そろそろ私お腹いっぱいになってきてしまってね」
「結構余っちまったな。でも、二人にしてはかなり食べたほうだぜ」
ミニマムサイズの青い鳥、ハピネスだったがどこに入るんだ? と思うくらい食べていた。
よくよく考えたら彼女はお腹が空かないボディとか言っていたので、ここで空腹に苦しむのはテフラだけだったりするのだが、テフラは気がついていなかった。ハピネスは食事の楽しさを思い出したので、余って置いていってしまうなら食べたいと言う精神である。
◇
食事休憩まで終え、ようやく二人はアイテム整理を終えて狭い通路から出る。
『魔法の地図』で安全を確認しながら、『パローレミングス』のいる小部屋を避けて移動をしていく。
『パローレミングス』の在中している部屋は、合計で三つある。ゲンナリしながら、二人はそこを経由しない通路を選んで移動をする。
今テフラが閃いている作戦の一番良い場所。
──その三つの中心になる場所へ、コソコソと進んでいく。
「やはりそうだ。少年、この階層にはあの弓猿人はいないみたいだぞ」
「……正直助かる。アイツがいるだけで、この作戦の成功出来るかどうかが変わってくるからな」
ハピネスが地図を見るテフラの頭で呟いた。
『パローレミングス』という本来ボス存在がいるせいだろうか? 素早く移動をして『魔法の地図』上でもわかりやすかった赤い光点の主であった弓猿人が存在しないのだ。
そして。
「……ここらが限界か?」
「おそらくそうだね、少年。覚悟はいいかい?」
「へへ、そんなもんとっくに出来てるぜ。ハピネス、マフラーに来い。苦しくないか?」
「うむ、良いマフラーだね少年。着け心地が最高だよ」
「当然だぜ。俺のお袋が作ったんだからな!」
ぐいぐいとテフラのマフラーの中にハピネスが収まる。首にくすぐったい感覚がするが、堪えて準備をする。
手に持ちたるは『大部屋の本』だ。
手汗で手のひらが滑るのをズボンで拭って、本を開く。
テフラは高々と大声で、本に浮き上がってきた文字を誦じる!
「いくぜぇ……! 『道よ開け。壁を壊せ。この視界を遮るものはない!』」
「しょ、少年! すごい、壁が……!!」
「分かってたことだろ? できれば階段をここで見つけたいんだ! ハピネス、地図!」
「ああ、任せたまえ!」
轟音!
地響きの激しい音が発生して、テフラの周囲から順番にどんどんどんどん、ダンジョンの青い壁が取り払われていく!
作戦の初めの行動は『大部屋の本』でフロアの壁を全部とっぱらい、運が良ければ階段を見つけて飛び込む、だ!
その間、テフラは一つの杖を構えて必死の形相で周囲を見回す。
それは次の階層に進む階段を見つけるためだ。
テフラが杖を握っていない方の手に持ったままだった『魔法の地図』をハピネスに見せながら、指示を待つ。
「少年、最初の部屋が開くぞ!」
「……ッ、だめだ階段が見えねぇ」
「それでも作戦通りだ、
一つ壁が打ち壊され『パローレミングス』の三つあるうちの一つの小部屋が大部屋化に巻き込まれる。その部屋にいたスラットの群れがテフラに気がつき、襲い掛かろうと向かってくる!
テフラは地図を懐にしまって、急いで最初に自分が戦った部屋の方へと走り出す。
その間も、大部屋化の壁破壊はどんどん進み新たな『パローレミングス』が現れ、テフラを見つけてスラットが殺到する!
テフラはその様子に、作戦通り! とニヤリと笑った。
作戦その二!
階段を見つける前に大部屋の壁破壊が『パローレミングス』のいる部屋に到達した場合。
初めに戦った場所へと逃げ込む。そこは敵がいない部屋だ。
そして『パローレミングス』の習性を利用する。
親玉ファットラットより先に、取り巻きのスラット達が襲いかかってくるという習性だ!
先ほどの部屋で戦った時にしていた行動。
親玉ファットラットは取り巻きのスラットがいなくなるまで遠距離攻撃でチーズ塊を投げる行為しかしてこないのだ。
どんどん、スラット達が親玉ファットラット達から離れて大部屋の一箇所に集っていく。
それはテフラが逃げた方向で、テフラがいる────大部屋の角!
「少年、まだか! すごいいっぱい来てるぞ!?」
「分かってたことだろ! まだだぜハピネス。まだ後ろが、一団になってねぇ!」
大部屋の角にたどり着き、テフラが後ろを振り返ると灰色の波が向かってきた。
その全てがスラットの群れ。
あれに飲み込まれれば、いかに万全な状態でもテフラの実力では太刀打ちできないだろう。
ハピネスがマフラーの中でぎゅっと縮こまったのを感じて軽く撫でてやる。
それでもまだタイミングを測る。
まるで津波のように、群れがテフラを骨まで食い尽くさんと迫ってきて……!
「ここだ!」
テフラは紫色に輝く宝石のついた杖『稲妻ワンド』を振るった!
その杖の効果は単純、隣り合った存在がいなくなるまで激しい電流が群れの末端まで走っていくという物だ!
杖から光が飛び出し、先頭のスラットに当たる。
瞬間、近くにいたスラットから順々に電流が最後尾までどんどん流れていく!
「うおっ、まぶし、うるさッ!?」
連鎖連鎖連鎖、電流が隣り合ったスラット達へとどんどん繋がって激しい光になる。
だが、テフラは気がつく。
スラット達は随分と痛そうだが、ダンジョンに食われるところまで行っていないのだ。
慌てた様子でテフラが、二度の『稲妻ワンド』を振るう。
あの痛いのもう一回来るの!? ギョッとした顔で、光が飛んでくるのを先頭のスラットが見る!
「キュ、きゅい、きゅーっ!!」
キッ! と飛んでくる光を見て顔つきを変えたスラット達が取った行動、それは!
バッ! と宙高くに跳ねた!
そして後ろのスラットもタイミング良く飛び上がった。
「えええっ!? そんなのアリかよ!?」
回避するつもりだ!
安易に二度目を振るったテフラが今度はギョッと目を剥く。
咄嗟にしては凄まじい連携。きっと親玉ファットラットを中心として取り巻きをしていた時間の全てがそこにあった。
まるで大縄跳びのように光を、必死な顔つきでスラット達がジャンプして避けていく!
そう、大縄跳びのように。
「ぎゅ、ぎゅい! ──────ぎゅぃいいいい!?!?!」
パチン、光がタイミング良く飛ぶのに失敗したスラットに当たった。
瞬間。
再びスラットの群れは稲妻の如く激しい電流にさらされる!
バチバチバチ! 激しい雷鳴と稲妻!
一団になっていたスラット達がぎゅいー!? と断末魔の大合唱。
まるで、無念……と言っているかのようにスラットの群れは目を回し、真っ黒こげになってダンジョンに食われていった。
電流が当たらなかったのか、数匹はまだスラットが残っているがその程度なら大丈夫。
本当に避けられてしまうんじゃないかと焦って出た冷や汗を拭って、テフラは今度は大部屋の角から離れるように駆け出す。
当然それは、先ほどまでスラット達の波が来ていた方向。
今倒した敵のドロップアイテムが落ちている方向。
眩しく光る円形のブツ────今一番欲しいアイテム『盾』が落ちている方向!
だが、敵もそれを拾うことを、簡単には許してくれないようだ。
先ほどの角に、三方向からチーズ塊が飛んで来た。
ジグザグに動いて、投擲物と重ならないように頭を使って前へとステップを踏んで避ける。
ほとんどのスラットを倒したことによって、今度は親玉ファットラットが動き出してしまったのだ。
三匹の親玉ファットラットは、チーズ塊をダンジョンの床から補充を始める。
ぎゅっとハピネスがマフラーの中でテフラの首にしがみつく。
その感覚に、絶対に負けらんねぇな! とテフラは気合を入れて一歩一歩を踏み込んだ。
ベルトに宝石が小さくなった残り一回分の『稲妻ワンド』を差し込み、左手で別な杖を引き抜く!
その引き抜いた杖は。
────既に宝石がなかった。
右手で背中から手斧マスターキーを引き抜き、近づいてきたスラットを数匹叩き飛ばす。
盾を目指す。
その最中に、拾えるアイテムを蹴り上げるようにして拾う。
何か液体の入った謎の小瓶、新しい杖。
そして盾の目の前に。
親玉ファットラットの一匹が立ち塞がる。
敵はテフラに向かって、その巨体から繰り出される強撃を放つ。
そして二方向、弾を補充したのかチーズ塊が飛んできて、絶体絶命────。
「サンキュ! 大活躍だったぜ、お前!」
「場所がえだーっ!」
利き腕じゃないので慎重に、それでいて素早く下投げで。
左に握った宝石が砕けた『場所替えワンド』を、目の前の親玉ファットラットに投擲する!
テフラの視界が切り替わる。
目の前にあった『盾』を拾い上げ、そのまま真っ直ぐ足を止めない。
まるで表面が鏡のような『鏡面の盾』だ。
美しさに視線が吸い込まれそうになるが、無理やり振り切って脇に挟んでそのまま駆け出す。
残り三匹の親玉ファットラットが怒りに咆哮し、巨体を揺らしながら駆け寄ってくる。
遠くにいる二匹は投げた次の弾を探すよりも先に、距離を詰めてくるつもりらしい。
その必死に追いかけてくる姿に、テフラはニヤリと笑ってみせた。
ここが『ボス階層』であれば、奴らを倒さなくてはいけなかっただろう。
だが、テフラにとって、『ボス階層』ではないこの階層での勝利条件はただ一つ!
「おせぇよ! へへ、じゃあなー!」
視線の先にある、地面に大口開いた階段。
そこに向かって一目散に駆け出す!
あと少し。
──あと少しの所でハピネスが警告を叫ぶ!
「少年。場所替えを行ったヤツが投げてくるぞ!!」
「分かってる!」
場所替えをした一匹は、投擲物に持っていたチーズ塊を使っていなかった。
その一匹が今まさに、振りかぶり投擲する瞬間!
テフラはベルトから、杖を抜き放ち振るった!
それは緑輝く宝石の杖!
「ぶっ飛べッ!」
親玉ファットラットがチーズ塊を投げる前に、光が届き────!
光と共に奥の方へと吹き飛んでいく!
『吹き飛ばしワンド』だ!
テフラとハピネスは親玉ファットラット達の声を背に、次の階層に続く階段へと飛び込んでいくのだった。
お気に入り感想評価ここ好き、本当にありがとうございます。
そして、誤字報告をしてくださる方にも感謝を。
ストックが既に切れているのに投稿頑張れるパワーになってます。