祝福された鏡面の盾をずっと眺めていたいテフラだったが、流石にダンジョン内でそんなに時間を浪費して良いわけでもない。ひとまず区切りをつけて、ぴょこぴょこ自分の周りを飛び跳ねていたハピネスを肩に乗せて、盾を取りにいく過程で拾えたアイテムを確認する。
不思議な杖の方は、薄灰色の大粒な宝石が輝く杖。
これは光が当たった相手の行動を遅くしてしまう鈍足効果のある杖だそうだ。
『鈍足ワンド』使用回数は五回と多めで嬉しい。
ベルトに刺した杖の回数を一応チェックしておく。
『稲妻ワンド』後一回。
『吹き飛ばしワンド』後三回。
『身代わりワンド』後三回。
杖は使えばなくなる消耗品だ。頼りにしすぎるのも良くないだろう。
だが、その分道を切り開く力になる。
大切にここぞという場面で使っていこうとテフラはハピネスと頷き合った。
「で、これが何かわかるか?」
「うーん、ちょっと待ってね少年。喉元まで出かかってるんだけど……」
そして、問題の謎の小瓶だ。
ハピネスが、小瓶見覚えあるんだけどなぁ、と翼で頭をモミモミして思い出そうとしている。
その間手隙のテフラは、謎の小瓶を天井から落ちる灯りに透かして観察する。
美しいエメラルドグリーン。透明度があり、光が透過しているのを感じた。
「ええとぉ、確か飲んでる人がいたのを見たことがあるよ。飲んだ後、なにかあった気がするんだけど、思い出すからちょっと待ってね少年」
「……これを飲んだ? 美味いのか?」
「いや少年、そこは味じゃなくてダンジョンのアイテムだし特殊な効果の方を気にするべきだね……。ええと、どんな効果だったかな」
何かを思い出そうとするハピネスの言に、興味津々のテフラが左右にゆっくりと小瓶を振る。
ちゃぷん、小瓶の中で揺れる液体はどこか粘性を含んでいる気がする。
これが飲み物? テフラは首を傾げていたが、キュポッと小瓶の蓋を外し、少しクンクンと匂いを嗅いで頷く。
おい待て、何を頷いたんだ少年とハピネスが聞こうとした瞬間。
グイッ! テフラは一気にその液体を自身の口の中に流し込んだ。
その様子にビビって羽をばたつかせるハピネス。ええ!? と若干ドン引きしているようだ。
「ちょっと待ってねって言ったでしょ少年! そんな得体の知れないものを飲むなんて……、いや飲み物って言ったの私だけどね!?」
「お……? 柔らかなミントの香りが鼻をすっと突き抜けて、まるでハーブ園の中を駆けているような……!」
「そんな冷静にテイスティングしてるんじゃない少年アホなのか!? ぺってしなさいぺって!」
ごくん、とテフラの喉が飲み込む動き。
するとピカーン! テフラの目が熱を持つ。
あまりの違和感にテフラは瞬きを何度も繰り返し、思わず手で目を抑えた。
「うおおお!? なんか目にビリビリ来る!」
「ああああ! もう言わんこっちゃない! げってしなさいげって!」
慌てたようにテフラのほっぺたをペチペチ高速で叩くハピネス。
────そして、テフラから見える世界が変わった。
「え、少年? 少年……? なんか目がキラキラしてるんだけど、目の中になにか光があるんだけど少年!?」
「なんかよくわからねぇけど、今まで以上に世界がよく見えるぜ!」
キラキラお目目になったテフラがそこにいた。走る林檎のモンスターであるダッシュアップルンとかがよく出してるキラキラが目の中に宿っている。
そこでハピネスは過去にこの液体を飲んでいた人間もこんな感じになっていたと思い出した。
本当に思い出すまで飲むのはやめて欲しかったハピネスである。
そこでキョロキョロと周囲を見回していたテフラが、突然物を投げるモーション。
「ハァーッ! 投擲ッ!」
「少年!?」
少し離れた場所の床に、空になった小瓶を投擲する。
急な行動、ちょっとハピネス驚き疲れてきた。
ぱりん、ざぱっー! 割れた場所に、天井から紫色の液体が滝の如く降り注いだ。
床にドクロマークが浮き出る。
毒の罠だ。あの紫色の液体を被ってしまうと、体に力が入りにくくなる。
唖然とハピネスがその罠発見の様子を見ていた。
どうやら、テフラが飲んだのは目に良い薬と言われる物だ。
普段よりも洞察力が鋭くなって、隠れた罠が発見できるようになってしまった様子。
ちょっとテフラの見た目が変になってしまったこと以外は、良いことなので黙りこくるハピネス。でもなんか納得いかなかったので、こんっとほっぺたを強めにつつく。
「少年、次からは効果のわからないようなアイテムは、モンスターに投げて内容を確認するんだよ? もしも毒だったら私が不安なんだ、頼むよ?」
「おう、次からな! へへ、でも大丈夫だっただろ?」
「……」
ハピネスは目を細めて、テフラの顔を伺った。
何かテフラの様子がおかしいと感じたのだ。
先ほどから、どこか地に足がついていない浮かれた様子。
……視線は左腕の盾にチラチラといっているので、おそらくテフラの悪癖である注意散漫が出てしまっているのだろう。
テフラは青年と自分で言ってはいるが、まだまだ人生経験の少ない一六歳の人間だ。
「……少年、ちょっとお話をしようか」
テフラの適当な返事に、ハピネスが静かな声音で怒った。
テフラの肩の上、彼の耳元で今の行為がどのくらい危険なことなのかを指摘していく。
ダンジョン内でアイテムの識別が難しいとはいえ、待てば正体がわかるアイテムまで適当に扱うのはよろしくない。それに、ただでさえ高難易度のダンジョンであるのに、適当なことをして足を掬われる可能性もある。もしも今の薬が逆に盲目になってしまうようなアイテムだったら、君の頼みの綱である『魔法の地図』を見ることすらできなくなるんだぞ、と反論を許さずに指摘していく。
「それとも、君にダンジョンのことを教えてくれた人たちはそんなことも教えてくれなかったのか?」
うっ、と図星を指摘されたテフラがたじろいだ。自身がこういう行動をすると、テフラにいろいろ教えてくれたニシキ村のみんなの顔に泥を塗る行為になると自分で思ってしまったのだ。
その様子を見て言葉を止めるか考えるハピネスだったが、今後こんなことが無いようにテフラが最も嫌がることだろうと思って、最後に一言付け加えた。
「君が適当なことをして死んだら、私もダンジョンに食われるんだよ少年」
さっ、と青年の顔から血の気がひいていく。その様子にぐりぐりと青い小鳥は頭をほっぺたに押しつけた。自分が生きているという体温を理解させるために引っ付いた。
「……その、悪い。ごめんなさい」
「ちゃんと反省したならいいさ。……許すよ少年」
厳重に注意をされて深く反省をしたテフラは、体温を押し付けるハピネスにしっかりと謝罪を入れる。
左腕を上げて鏡面の盾を見つめて、大きく首を横に振った。
呟く。
「なんか盾貰って浮かれてた。本当にごめんハピネス、それと注意してくれてありがとな」
「祝福をくれた神様に怒られるよ。……ハイ、この話は終わり!」
「……うし!」
ぱんっ! と自分の頬を強く叩いたテフラ。その後、大きく深呼吸をして胸に手を当てて心を落ち着ける。
目の中のキラキラは治っていないが、顔つきだけは普段通りに戻るのだった。
少ないですが、停電が頻発しているので投稿できなくなる前にシュート!