テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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沢のほとりダンジョン2

 

 テフラ達はダンジョン内部に入り、周囲を警戒する。

 

 ダンジョンの内部は、基本部屋と通路で構成されている。部屋は大部屋、中部屋、小部屋といったサイズによって呼び方が異なる。大部屋まで行くと、ダンジョンの一階層が全て一つの部屋になっていて通路が一つもないということもある。

 今回テフラ達が降り立った場所はいわゆる小部屋と呼ばれるもので、別な部屋につながると思われる通路が二つ見える部屋だった。

 

「沢型だな」

 

 ラカブが周辺の構成される壁材や床を見て、そう呟く。テフラもその呟きに無言で頷いた。

 壁にはシダ植物が少し生え、床は少しだけ水気を帯びて濡れている。

 耳を澄ますとどこからともなく水が流れる音、せせらぎが聞こえる。天井は地下に降りたはずなのに、何層も木々の枝々が覆ったようになっていて柔らかな日差しを届ける。テフラは地面の中なのに不思議だな、と毎度ダンジョンの中に入った時に思う感想を頭に浮かべた。

 

「わ、本当に明るいのです!」

「ね! 本当なのです!」

「おいおい、興奮するのはわかるけどさ、あんまり大きな声出すなよ?」

「「はい! テフラにいちゃん!」」

 

 後から恐る恐る入ってきた、同じような顔つきの少年と少女が顔を見合わせて驚いていた。テフラは周りにダンジョン内で人間を見かけると襲ってくるモンスターが周囲にいないことを確認して、双子の子供イッサとサキに軽く注意をした。

 イッサが男の子で、サキが女の子。

 金髪の双子の兄妹である。二人ともテフラと同じように、木製の木の盾をつけている。ニシキ村で使われる標準装備、ある程度座学が終わった後に渡される卒業証書みたいなものだ。

 その間に一番経験が高いラカブがダンジョンの特徴を調べていく。そして頷く。

 

「実際にモンスターを見るまで確信はできないが、多分村長の言った通り、楽な部類のはずだ」

「おう。じゃあ、えーっと俺は……」

「おじさんが子供達の後ろを歩く、テフラは一番前で警戒」

「……逆じゃなくて?」

 

 テフラが、おっさん楽しようとしてない? と不満げにじっとりした目で見つめると、大きくため息をついたラカブが説明をする。

 

「お前は森番の倅だろう。お前がダンジョンに設置されている不思議な罠を見つけなくてどうすんだ」

「あ、そうか」

 

 真っ当なことを言われたテフラは反省するように、頭の後ろを掻いた。

 おじさんにも出来ないことはないけど、と呆れながらラカブは言葉を続ける。

 

「それにお前、後ろから素早いモンスターが来た時、子供に手を出されずに守れるか? 正面からなら子供達の目も合わせて六個あるし、不慣れでもできそうじゃないか?」

「い、言われてみれば……。ラカブのおっさん、色々考えてるんだな」

「馬鹿。お前も何度かダンジョンに潜ってるんだから思い出しとけ」

「お、おう。頑張る」

 

 いっけね、とテフラは反省したように呟いた。

 反省したのを見届けて、ラカブは笑って言葉を続ける。

 

「いいかテフラ、経験だ。テフラも場数を踏めばできるようになるさ。イッサとサキも今の会話を少しでいいから覚えとけ」

「おう」

「「……うん!」」

 

 ダンジョン内を興味津々に、キラキラとした目で見回してたイッサとサキはラカブの言葉にワンテンポ遅れて返事した。

 ダンジョンに入った高揚感で、双子の方は頭に入ってないなー? と渋面を作ったラカブは気もそぞろな金髪双子を見つめて呟いた。おそらくテフラが初めてダンジョンに入った頃にも同じ会話があったのだろう。

 へへへ、と身に覚えがあったテフラは気まずそうに頬を人差し指で掻いた。

 

 パン、とラカブが大きな音を立てて手を叩き、注目を集める。

 

「ほれほれ、どうせこれから潜っていくんだ。ダンジョン観察もそのへんで切り上げときな」

「「はい、おじさん!」」

「よし。じゃあ、せっかくだテフラ、移動する道もお前が決めて歩いてみろ。イッサとサキに良い所見せてやれよ?」

「……わかった。よっし、行くぞー!」

 

 テフラ達は言われた通りの隊列、テフラを先頭に金髪双子を中心に置き、殿をラカブにした隊列でダンジョン内を進み始める。

 通路が二つあるので、とりあえず適当に近い方から進むことに決めたテフラ。

 

 小部屋を出て、一方の通路に入ろうとした時……。

 ザリッ、と正面の通路の方から足音が響くのを感じた。

 咄嗟にテフラは手で後ろに止まれと指示をする。

 通路に少し足を踏み入れた場所のまま、盾と手斧をテフラは構え……、ラカブに首根っこを引っ張られた。

 

「ぐえ、おっさん!?」

「テフラ、通路から敵なんだ。狭い場所で戦うより、部屋の入り口で待ち伏せ、だろ?」

「あ! ……ご、ごめんラカブのおっさん!」

「謝るのは後だ。テフラは通路から見える部屋の中、少し離れた場所で待機。イッサとサキはテフラの後ろ。武器は持ってるな?」 

「「はい、スリングショット!」」

「……お願いだから、おじさんに当てないでね? コホン、今回はおじさんが手を出すから、テフラはいなすことだけ考えろ。イッサとサキは待機」

「おう!」

 

 ザリ、ザリザリ。とゆっくり足音が近づいてくる中、慌てて行動をするテフラと子供達。 

 ラカブだけ落ち着いた様子で、小部屋の壁に張り付いて腰のククリナイフの柄を引き抜き、柔らかく手の中に握り込んだ。

 テフラも腰を落として木盾を正面に構え、後ろ手で肩に担ぐように愛用の手斧をぎゅっと構えた。そのテフラの背中から、ひょっこりと双子が頭を覗かせてY字のスリングショットを握りしめる。

 

 ついに、通路を鳴らす音の主。

 モンスターが通路の暗がりから現れる。

 

 ソレはずんぐり太った胴体をしていた。

 しゅるりと伸びた、しなやかな尻尾。

 ギラリと尖る、触れれば肉が裂けそうな大きな齧歯。

 

 ザリザリザリ、地面が鳴る。

 それは足音ではなく、ずんぐりした体が地面を引きずる音だった。

 ――大鼠。

 人の胴体ほどある大きな鼠が姿を現した。

 そのモンスターの正体を知っているテフラは大声で告げる。

 

「おっさん、ファットラットだ! おいお前、俺が相手だ! ほれ、双子も声出せ声」

「……僕らはここです!」

「こっちなのです!」

 

 テフラは声を出して壁に張り付き隠れるラカブに正体を告げ、そのまま相手の気を引くために声を張る。ついでに恐る恐ると双子も、少し裏返っていたが声を出す。

 モンスターの名前を聞いて片眉を上げたラカブは、ククリナイフから手を離す。

 

 部屋に人間、テフラと双子がいることに気がついたファットラットは野太い声を上げながら、モンスターとしての本能で部屋に飛び込んでくる!

 

 瞬間。

 

「おじさんきーっく」

「ギュイ!?」

 

 気の抜けた声と共に、飛び込んできたファットラットの横っ腹に向かって、ラカブが蹴りを放った。

 ポヨーン! 気の抜ける音がして、そのままファットラットは小部屋の地面を転がった。

 

 当然、それだけで致命傷になるわけではない。

 相手が起き上がる前に、攻撃を加えなくてはいけない。

 

 しかし、この小部屋にいる人たちは慌てず、そのまま動くことはなかった。

 何故なら。

 

 ラカブの蹴りで、地面に転がされたファットラットはジタバタともがいて……もがき続けていたから。

 

「えっと、ファットラットは足が短くて、転んだら立てないんだ」

「……ちょっと可愛そうなのです」

「あんなにポンポン大きくなりたくないです……」

 

 ずんぐりとした体に生えた、ちまっとした小さな足がシュッシュッシュと空気を蹴り続けていた。

 ファットラットは必死で体を動かしているが、太った体はうまく動いてくれない。最低でも横向きになるくらいで片方の足が地面に着いてくれなかった。

 

 ダンジョンには特殊な制約があるのか、例外もあるにはあるが、一層目から強い魔物が現れることはほとんどない。

 なので、ファットラットは今回のように教導向きのダンジョンのモンスター代表となっているのだった。

 もしも、ファットラットではなく危険なモンスターであれば既に『帰還の洋燈』を使って、ダンジョンから脱出する手筈である。

 

「っと、イッサとサキはちょうどいいから止めをさす練習だな」

「……う、うん」

「……いいの?」

 

 テフラは構えを解いて、木盾のついた左手で転がったファットラットを指差す。

 ファットラットは自身を指差すテフラの姿に危機感を感じたのか、さらなるスピードでシャカシャカと足を動かして空を蹴る。悲しいかな、腹の脂肪のせいで一切起き上がれそうな気配はなかった。

 ごくりと喉を鳴らしたイッサとサキが、それぞれの武器であるスリングショットをファットラットに向けて構えた。

 

「やるですよ!」

「う、うん。いっせーのーででなのです!」

「「いっせーのーで!」」

 

 空を切る音。石の礫が飛んでいく。

 バチン! ばちん!

 

「ぎゅいーっ!?」

 

 金髪双子の飛ばした石が当たったファットラットが断末魔を上げて、目を回して動くのをやめる。

 動かなくなったファットラットが、ダンジョンの地面にずるりと飲み込まれていく。

 

「よし、ちゃんとやれたな。モンスターが死んだらこう言う風に地面に吸い込まれるんだ。これをダンジョンに食われるって言うんだぜ!」

「やれやれ。……ダンジョンのモンスターが死んだってわかるからな。食われるところまで、キチンと確認をしっかりしろよ」

 

 よしよし、とテフラは金髪双子の頭をくしゃりと撫でる。

 それを見ながら、ラカブがテフラの言葉に同意するように頷いて言葉を補強した。

 

 

 ◇

 

 

 『ダンジョンに食われる』。

 それがこのダンジョンでの死。

 ダンジョンの土に吸い込まれて消える。

 運が良ければ、モンスターがダンジョンに食われた時に、何かアイテムを残すことがある。

 それを人間はドロップアイテムと呼んでいる。 

 強いモンスターほど希少なアイテムを落とし、弱いモンスターはあまり価値のないものを落とす。

 

 人間はモンスターを倒した後に落ちるアイテムを回収する、それを人々は一つの糧としているのであった。

 

 そして、人がダンジョン内で敗北した場合も。

 骸も残さずに、消えていく。

 運が良ければモンスターと同じように、ドロップアイテムとして遺品が残される。

 

 ダンジョンに食われるとは、そういうことだ。

 

 

 ◇

 

 

 ことん。

 軽い音。ファットラットがダンジョンに食われた場所に、何か物が落ちていた。

 

「初の戦利品だな! ……まぁその、数は減っちまったけどさ」

「石を二個飛ばしたら一個になって帰ってきたです……」

「戦利、なのです……?」

 

 先ほど射った石の礫と同じサイズの石ころが一つだけ落ちていた。

 基本的にモンスターに当たった投擲物はどういう理屈かはわからないが、矢であろうが石であろうが、そのまま消える。ダンジョンの外ではそんなことはないので、ダンジョンだけでの現象。強い投擲物を何度も再利用させる気がない、神々の仕掛けとされている。

 ちなみに、ダンジョン内で味方に当たった場合の矢や弾も消え去るので、フレンドリーファイアなんかは本当に気をつけないといけない。

 

 がっくし……。

 双子は肩を落として、その戦利品を見つめるのであった。

 

 この後、双子がお互いに石ころを譲り合う展開になったりするが、兄のイッサが妹サキに譲り、全員は再び先に進んでいくのであった。

 





こういう話を書いていると、途中で投げたFF14のディープダンジョンとかやりたくなってくる。
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