テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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生贄ダンジョン麓5F


生贄ダンジョン麓3

 

 ワル魔導を倒し、ついでにミミックも薙ぎ倒して進むテフラとハピネス。

『魔法の地図』を片手に、敵のいる方向へ進んでゆく。

 

 そんな最中。

 ぴょこぴょことハピネスがテフラの頭の上で跳ねる。

 

「少年! 少年の村では尾根の神様を祭ってたと言っていたけど、どういう御利益があったんだい?」

「えぇっとそうだな……。あんまり意識したことはないけど、簡単なダンジョンをくれるって感謝をしてたぞ。ほら、この儀式さえ行えば子供でも入れるようなダンジョンを作ってくれるからさ」

 

 ハピネスの問いに、テフラはあまり考えたことのなかった尾根の神様に対して感謝していた事柄を思い出す。

 その回答に、首を傾げるハピネス。どうやら認識の齟齬があるらしい。

 

「簡単なダンジョンの感謝? それって良いアイテムが手に入りにくくなるはずなのに、それを感謝するのはどうなんだい?」

「へ? そうなのか?」

 

 ハピネスの知っているダンジョン攻略とは、不思議なアイテムを手に入れて生活を豊かにしていくことだ。

 それこそ前の階層の『ダンジョンショップ』で見かけた素晴らしい装備や、今では一回一回麻袋で手に入れてる食品がたくさん湧き出る鞄など、命の危険はあるがそれだけのリターンがある方がかつては好まれていたのだ。

 

「うぅむ、私の時代と違うのかなぁ。少年、外のその簡単なダンジョンでこんなにいっぱい不思議なアイテムが見つかることはあったかい?」

「いや、食料とかが多かったな。不思議なアイテムは、ほとんど出てこないぜ」

「それを感謝というのは、少し変な気がするね。程よく良いものが出土するダンジョンの方が、村は栄えるんじゃないかい?」

「……それは、そうだ。でも、人死にが出ないのを……感謝してるんじゃ?」

「そもそも、ダンジョンは神々の娯楽劇場だと言ったよね少年。そんな簡単で単調なダンジョン、神々が楽しむと思うかい?」

「……」

 

 テフラはニシキ村での生活を思い出す。

 生贄ダンジョンでたくさんの不思議な効果を持つアイテム等を拾ってこそいるが、特別良いアイテムが手に入るということはほとんど無かったはずだ。あったとしても、それは先ほど手に入った『帰還の洋燈』のような使い切りで、報酬部屋ですら過去のテフラが手に入れた手斧や双子のイッサが手に入れていたような変哲のないナイフなど。

 言われて見れば、安全なだけで恩恵は少ないような……と凝り固まっていたテフラの視点が少し解れる。

 

「……ハピネスの言う『王様』っていうのが、何かしてるのかな?」

 

 そう、テフラが聞くと。

 ぴたりと、頭の上で跳ねていたハピネスが動きを止めた。

 

「……私の言う『王様』? そんな言葉を、私は君に言ったか? いや、アイツは確かに……そうだけれど」

 

 ハピネスが訝しげな声でテフラに頭上から声をかける。

 テフラ、痛恨のミスに気がつく。

 ハピネスはアイツや栄光を忘れられないバカなどと揶揄をしていたが『王様』などとは一度も使っていない! 

 

「ヘァッ!?」

 

 口を滑らしたことに気がついたテフラは変な声が出て、白目を剥いて滝汗を流す。

 これはドジ、いやドジじゃない! ちょっと失敗しただけだ! と頭で大量の言い訳。

 テフラから変な声が聞こえたハピネスは疑心が強まる。

 いや、疑心と言っても、尾根を登る意味も知らなかった青年が『王様』という単語を使ったのかが気になっているだけではあるのだが。

 

「しょうねーん??」

「……あれ、ほら、アレだよ!」

「どれだい少年?」

 

 別に店主とやりとりしたことを話しても良いとはテフラも思っている。

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 手錠の腕輪の余りとはいえ支払えた金銭はたった500dcだ。

 まるで昔話のような抽象的な話で黒幕が『王様』で、ハピネスが大変だよとしか聞けなかった。

 それは横で眠っていたハピネスが過去を回想した、鳥籠のような王国と尾根の神を嵌めたその国の王の話。

 流石のテフラも、その国のお姫様がハピネスだってことくらい想像がつく。

 

 もっと具体的な話を聞くのであれば、また何かアイテムを拾ってダンジョンショップを訪れる必要があるだろう。

 

 だから、何を知ったのかを全然話しても良いのだが……。

 ハピネスがテフラに話していないことを勝手に、しかもお金で聞いてしまったのが無性にテフラの罪悪感を刺激するのだ。

 気を許してくれて、アイテムの識別関連で世話になっているのに、図らずも相手がおそらく話したくないと明言した部分の事情をわずかでも知ってしまったのだ。

 

 ────このおしゃべりな青い鳥に、嫌われたくない。

 テフラはそう思うと、口がうまく動かないのだった。

 

 ギリギリ頭の上にいてくれてるから、疑問に思うハピネスはテフラの変化に気がついていない。

 うおおお、頑張って上手くごまかせ俺!! とテフラは顔を真っ赤にして奮闘。

 わちゃわちゃと手を振りながら必死に弁明を行う。その必死なテフラの様子が、さらにハピネスに疑念を抱かせているのに、この男気がついていない。

 

「い、言ってなかったけ!? ほ、ほら、最初に! ええと。……あ、そうだ!」

「……たった今思いつかなかったかい少年?」

 

 言い訳を思いついたテフラは、ハピネスの嘴ツンツンと共に放たれた言葉を何も聞こえなかったふりをした。

 

「そうそう、あの部屋に入ったときスッゲーいっぱい喋ってたもんな! そのときに言ってたぜ! 多分、言ってた!! 三回くらい言ってたかもな? いや、四回? いっぱい言ってた!」

「言ったかなぁ」

「言ってたって!! あ、敵が近けーな! 大変だ、倒さなきゃなー!」

「……少年、何か隠してるよね?」

 

 ダメだ、ごまかしきれねぇ! 嘘が死ぬほど下手なテフラの体が跳ねる。

 どのくらい下手かという昔の例を出すならば、昔森で拾った猪の子供のウリ坊を、ぬいぐるみと言って家に持ち帰ったことがあるくらい下手だ。

 半日後にヒヨ謹製牡丹鍋になって少年期のテフラは泣いた。

 

 ジト目になったハピネスがぴょこんと肩に降りてきて、そんなテフラの顔をじっと見つめる。

 しばらくその視線から、テフラは身を捩って顔を隠し……ため息。

 残念ながら、隠し事をやめるようだ。

 

「その、悪いハピネス。俺嘘下手なんだ……」

「……うん、今完全に理解したよ。少年はドジだしね」

「ドジじゃねぇ、失敗することが多いだけだ」

「それがドジだよ少年……」

「「…………」」

 

 

 そういって、困ったように灰色の後ろ髪を強めに掻く。

 しばし無言。

 

 考えをまとめたテフラが、おそるおそるポツリとこぼす。

 

「店主から、ほんのちょびっとだけこのダンジョンについて情報を買ったんだ」

「うん」

「昔尾根の神様が別に見守ってた国があって」

「うん」

「そこの『王様』が、尾根の神様を罠にかけちまったんだってさ」

「……うん」

「で、お前はどっかの国のお姫様だったんだろ? つまり……流石に俺でも想像がつくぜ?」

「……そう。そうね、知ってしまったのね」

 

 テフラの肩で茶々を入れることなく、ただ頷いて聞いていたハピネスを掌に乗せて視線を合わせて向かい合う。

 

 非常に心苦しそうな様子で、テフラはハピネスに謝った。

 

「『休憩階層』で、お前が『話したくない』って言ってたことをお金で勝手に聞いちゃった気がしてさ、本当に悪い……。ごめんなさい」

「どうして謝るの? テフラはたまたまお金を払ったら、本当に偶然知ってしまっただけじゃない。謝る必要なんてないわ」

 

 それは。

 テフラは口ごもって……はっきりと言った。

 

「友達に、嫌われたくないだろ。その、勝手に聞いてごめん」

「……ともだち」

 

 ぱちくり、ハピネスが目を瞬いて繰り返すように呟いた。

 

「? 友達だろ? というかお前なんか口調が変じゃないか? なんか気持ち悪いぞ」

 

 ついにテフラ、ハピネスの口調が変わったことに気がついたが、普段と違う喋り方すぎて違和感を覚えてはっきりと言ってしまう。

 彼らしいといえばらしいのだが、なんかもう雰囲気ぶち壊しである。

 

 ハピネスがワナワナと震えて俯く。

 そして、ガバッと顔を上げた!

 

「なんっ……!? 謝ったと思ったら、すぐ暴言を吐くのは良くないぞ少年!」

「げっ!? 悪りぃ! だって、なんか今までと違う変な喋り方してなかったか?」

「あ、また変って言ったね少年! もう許してやらないぞ少年!」

「わあああ、ごめん! ほんとごめんって! でも聞き慣れなかったんだってば!」

「それって変ってことだよね少年」

「っだあああ、違うってもう二度と言わないからごめんって!」

 

 ぷんすこ! とテフラの掌の上で憤慨するように飛び跳ねるハピネス。

 それに慌てるテフラは、必死で平謝りする。

 その頭を何度も下げるテフラの様子を、プイッと横を向いて……。

 

「……ふふ」

 

 ハピネスはひっそりと嬉しそうに笑う。

 

「もう、本当にしょうがないなぁ少年は。許してあげるのは、今回だけだよ?」

「た、助かった……」

 

 そうして二人はまたダンジョンを進む。

 

「ねぇ少年」

「なんだよハピネス。変じゃないって、全然変じゃない」

「……そうじゃなくてだね」

 

 コホン、とハピネスは仕切り直すように言葉を続ける。

 

「次の『休憩階層』くらいでさ、少し私の話聞いてくれるかい?」

「! おう、いくらでも。へへへ……」

 

 友達。

 その言葉で、隠し事の下手な青年に隠し事が多い青い鳥は、少しだけ距離を縮めるのだった。

 

 

 ◇

 

 

 青い紋章が輝く。

 奪い取った客席で『王様』がぎりぎりと親指を噛む。

 その額には、青筋が浮かび上がっていた。

 

 前回の鳥籠で穏便に捕まえようとしてやったのに、もはや許せん。

 しかも何だあの倒し方は、よくも虚仮にしてくれたな……! 

 

 あの粗野で野蛮な男は敵をなるべく倒して進もうとしているようだ。

 あの『店主』のいる場所は覗けなかったが、ダンジョンのフロア内で声に出せば私に聞こえる。

 

 すでに今の階層に降り立った奴らには手を出せないが、次の階層で目に物を見せてくれると拳を握る。

 

 そうだ。

 絶対に取り戻さなくては。

 あれは私の大切な……大切な……? 

 

 首を横に振る。

 思い出せないということは全てどうでも良いということだ。

 

『王様』はにんまりと笑みを浮かべて、次の階層に物を追加していく。

 

 ダンジョンをいじる『王様』の背後で、まるでムカデの様な大きな影がぎちぎちと笑った。

 





 鳥籠のような国。
 そこの青い鳥のお姫様。
 ……つまりハピネスは、鳥!!
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