テフラとハピネスは新しい敵を見つけ、小部屋で戦いを挑んでいた。
モンスターは、まるで人体骨格模型のような骨のモンスター。
そのモンスターは、肉のない体を巧みに使って、クネクネと不可解な予想のできない挙動で攻撃をしてくる。
テフラは冷静に戦闘を進め、他の敵が来る前に何とかこいつを倒したいところ。
少しばかり焦りそうだが、そこはハピネスが周囲を警戒しているので大丈夫だと信頼して戦う。
「くっそ、なんかこの階層の敵、攻撃がッ、巧いぜ!? この骨マンめ!」
「頑張れ少年! あとそいつの名前はスカルマンって話し合っただろう!」
「正直ッ、どうでもッ、いいぜッ! オラァ!」
意外と固いスカルマンの拳を、鏡面の盾を上手に使ってテフラも受け流す。
そして、相手が無手のインファイター寄りなので、手斧を牽制気味に振るい、中格闘距離を保って優位に動き続ける。
スカルマンはテフラを見つけ次第急接近してきたので、遠距離攻撃系はおそらくないと思われる。
ちなみに小部屋に入る前。
テフラが骨マンとドヤ顔で命名し、せめてスカルマンにしなさいとハピネスが指摘する一幕があったりなかったり、今後も二人の命名バトルは混迷を極めるだろう。
それはそれとして、戦闘が続く。
テフラは盾によるバッシュと手斧を的確に振るい、無手のスカルマンの右腕をへし折る。からん、と乾いた音で折れた骨の右腕がパージされスカルマンのリーチが短くなる。
「よし、これであとは──! あいつ下がったぞ……!」
同じように左腕もへし折ってやろうと思った時、突然スカルマンの挙動が変わる。
大きく後ろに飛び、テフラから距離を取ったのだ。
今までなかった行動。
テフラから距離を取ったスカルマンは、その場で足踏みを始め、不可解に骨の体を左右に揺らしてその場で
鏡面の盾を体の前に出して、テフラは強く警戒。
だが、目の前のスカルマンはそんなテフラを嘲笑うようにその場でずっと踊り続ける。
テフラは何が飛び出してくるかわからずに動けない。
そんなテフラに、肩のマフラーに隠れているハピネスが声を上げた。
「少年、嫌な予感がする! 詰めて詰めて!」
「おう、わかったぜハピネス! …………!?」
かくん、テフラの踏み出した足から一瞬だけ力が抜ける。
──どんどん力が抜けていく!
スカルマンは、カシャンカシャンと足踏みをして踊りながら、そのテフラの様子を伺っている。
テフラの背筋に怖気が走った。
俺は今、攻撃を受けているんだ! と認識が頭の中で閃く。
「ヤベェ、うおおおおお!」
「少年!?」
直感に従ったテフラは、腰の『鈍足ワンド』を振る。光がスカルマンに直撃し、スカルマンの動きが物凄くゆっくりになる。
そして、テフラは残った力を振り絞り、跳び上がって大振りの強撃を振り下ろす!
激しく骨を打ち砕く音が響く!
体力自体は多くなかったのか、その一撃でスカルマンは倒れた。
スカルマンがバラバラの骨になって、ゆっくりとダンジョンの床に食われていく。
あまり息を切らしていないテフラであったが、妙な倦怠感がまだ残っている。
……いや、倦怠感ではない。
ぐぅううううぅ……!
────それは、凄まじいほどの空腹感だった。
テフラのお腹が大きく鳴る。
腹が減って、力が抜けていく。
思わず、近くにあった壁に寄りかかり、お腹を抑えた。
しゅぽっとマフラーから顔を出したハピネスが、何の音か理解できずに、慌てて周囲の確認をしている。
そして顔が真っ青になったテフラの様子に気がついた。
「一体今の音は何だったんだい少年? ってだいじょうぶかい少年!?」
「俺の腹の音……。やばい、スッゲェ腹が減ってきた」
「え!? ……お腹が空くほどの時間がたったかな? 確か一度ドロップ品の整理をしたときに、間食をしたじゃないか。少年、もしかして食いしん坊かい?」
ハピネスがテフラの服の上からでも引き締まっているお腹を見て、怪訝そうに尋ねた。
テフラは空腹感でフラつきながら、ハピネスに言葉を返す。
返事さえも億劫そうなテフラの様子に気がついたハピネスは、慌てて血の気の引いたテフラの頬を翼でさする。
「…………食いしん坊なのは否定しないけどさ、ダンジョンの中での空腹具合ならある程度コントロールできるつもりだぞ。お前はだいじょうぶか、ハピネス」
「う、うむ。私は、これと言って空腹は感じない体だから……」
「多分だけど、あの骨やべえぞ……」
「???」
「悪い、先に食わせてくれ……。もう限界だ、倒れる……!」
『魔法の地図』を確認して、周囲の敵情報を確認。
テフラは肩掛け鞄から『尾根祭』で母ヒヨから選別としてもらっていた食品を取り出して、掴んでは口に押し込んでいく。
ガツガツと、味わう余裕もなさそうに必死で飲み込んでいく。
唖然として、ハピネスはその様子を見ていた。
ある程度食べて、ようやく一息つけたのか、テフラは寄りかかっていた壁から離れて、狭い通路に入って隠れる。
『魔法の地図』で、今の部屋にまた向かってくる赤い光点を見つけたのだ。
敵と戦うならば、こちらが先に視界に収めてから戦いたい。
ハピネスがマフラーの中でじっとして、テフラの考察を待っている。
口元についた食べカスを親指で拭いながら、テフラは自分が味わった事からスカルマンの踊りの意味を導き出す。
「スカルマンが踊り出しただろ」
「うむ。何か嫌な予感がしたんだが……。もしかして、あれでお腹が空くのかい?」
先ほどの戦闘を思い出す。
スカルマンがカシャカシャと骨を鳴らしながら、その場で踊り始めたのを中心にだ。
「あれをずっと見ていたのは、悪手だったな……。多分、あいつが踊ってる間は俺の腹が減っていくみたいだ」
「えぇ……。そんなことあり得るのかい?」
「意味わからない攻撃だけど、流石はダンジョンだな! 敵も不思議な攻撃を仕掛けてきやがるぜ……」
あの日記。
餓死してしまった何代も前の儀式の人物の様子を思い出し、身震いする。
「……あの部屋の天井で見ていた時は、この辺で一番弱そうだと思っていたんだけどね。ごめんよ少年」
「ハピネスは悪くねぇよ。敵と戦う以上仕方なしだ。ほら、次行くぞ!」
思考を切り替えたテフラは、謝るハピネスをマフラーの上から優しく撫でる。
そして、最後にぽんぽんと軽く叩くと、再び盾と手斧を構えた。
小部屋に敵が入ってきたのだ。
地図をしまい、狭い通路からバレないように覗き込む。
そのモンスターは先ほど見た姿。
「スカルマンだな」
「気をつけたまえ少年。私はお腹が空かないから大丈夫だが、食料は有限だよ」
「おう!」
威勢よく返事を返し、テフラは小部屋の中に飛び込んでいった。
一定のダメージを与えると、スカルマンは先ほどと同じように踊り始める。
「もう覚えたぜ!」
がしゃん! カシャカシャ踊り出す所にすぐさま詰め寄って、すぐさま手斧を振るう。
すると、踊り始めたスカルマンは、反撃をしてくることなく地に伏して、ダンジョンに食われていくのだった。
複数敵がいるときに、こいつが出てきたら相当厄介だなと想像力を働かせたテフラは、なおさら慎重にダンジョンを進んでいくのだった。
◇
手に持った『魔法の地図』がほとんど埋まりそうになってきた頃。
テフラとハピネスは、再び宝箱を見つける。
「「……」」
テフラとハピネスは静かに目を合わせ、宝箱の後ろに回り込む。
そして。
「「どっこいしょーっ!」」
背後から、何の躊躇いもなく斧を振るうのだった。
パキン、と宝箱は真っ二つに分かれてダンジョンに食われていく。
モンスターが倒れるときにあげる断末魔なども特にない。
どうやら、本物の宝箱だったらしい。
「お? 少年っ!」
「綺麗な剣だなー! いいもんじゃないかこれ!」
「うんうん! やったね少年!」
宝箱がダンジョンに食われ、そこに残ったもの。
それはショートソードと言われるタイプの両刃の剣だった。
美しい鋼色の刀身、握りやすい柄に格好いい鍔。
見るからに業物という事がわかる。
本来であれば、ものすごく喜ばしい事である。
はず、なんだが……。
うぅむ、とテフラは頭を悩ませた。
それもそのはずだ。
「持って行きたい。持って行きたいけど、邪魔だなぁ……」
「……流石に鞄に入らないもんね。腰も背中も着けると邪魔になるね。どうするんだい少年?」
テフラとハピネスは今持っているものを眺める。
腰に揺れる『帰還の洋燈』や魔法の杖。
先ほど食品を食べて少し軽くなった肩掛け鞄に、手当て用の回復剤や水筒、ウサちゃんガマグチなどが入っているキツく腰に固定されたウエストバック。
背中の腰から上は斧ホルダーにマスターキーが存在感を示していた。
左腕には鏡面の盾まである。
テフラは全く苦にしていないが、全て合わせると結構な重量になっている。
そして、足元のたった今ドロップした美しい剣を眺めて唸る。
所謂大荷物といった所だろうか。
これ以上持つと、戦闘に支障をきたしてしまいそうだ。
『魔法の地図』を取り出し、まだいっていない場所を眺めてみる。
地図のほとんどは明らかにされ、残すはまだ見つかっていない階段のある場所だけだろう。
ガリガリと後ろ髪をかきながら、テフラはボヤく。
「ダンジョンショップがあれば売りに行くんだけどなぁ。素人でもわかるくらい良さそうな剣なら、あの店主さんも喜んで買取してくれると思うんだけど……」
「そうだねぇ。店主さんに喜んでもらいたいのかい少年? ねぇ見惚れてたもんね少年?」
「ち、ちげーって! 確かにエッ……すごい格好で目で追っちゃったのは本当だけどさ」
「……少年」
『ダンジョンショップ』が生成されるかどうかは運次第。
一つ上で『ダンジョンショップ』に出会った二人には、いつ店主に会えるかがわからない。
それまで持っておくわけにはいかないしなぁと、テフラは悩む。
そして、ひとつ頷いた。
「仕方ないか。いいこと考えたし、有効活用するぜ!」
「おや、少年持っていくのかい? ……ちなみにどう有効活用するんだい少年」
テフラはとりあえずといった感じで業物の剣を拾い上げる。
胡乱げな表情で尋ねるハピネスの問いに、テフラは。
「────次の敵に投げる」
キリッとした顔で、親指を立てた。
「……ウゥン、いや、勿体無いと、思うけど。投げるのかい……? 消えちゃうよそれ?」
「知ってるって」
頭が痛そうに翼で頭を抑えるハピネス。
ダンジョンで武器などを投げて、敵に当たると消え去ってしまう現象のことを知らないのかい? と言った感じだ。
その言葉に、唇を尖らせてテフラが不貞腐れる。
「仕方ないだろ。あっても邪魔なんだし『帰還の洋燈』があっても村まで持って帰れないんだからさ。俺だってこんな格好いい武器持ち帰れるなら持ち帰りたいってば……」
「そうだね……。ここで寝かせておくのもあれだものね」
「おう」
そう言って会話を切り上げると、ブンブン! テフラは拾い上げた業物の剣の重さを確かめるように何度か片手で振る。
おそらく、テフラは斧でなくても、構えと振ることを意識すれば様々な武器を使いこなせるのだろう。
彼の戦い方の基本形は、振ってまた構えて再び振るという地味なものだからだ。
そのくらい剣の振り方が様になっていた。
そして重さを確かめると、『魔法の地図』で敵の位置を確かめて進んでいく。
次に見つけたモンスターの姿を見た瞬間、綺麗なフォームと共にテフラは叫んだ!
「ハー! 投擲っ!」
「ギッ!?!?」
見事な投擲。
綺麗な放物線を描きながら美しい刃が煌めき、ワル魔導の顔面に業物の剣がぶち当たる。
ワル魔導はとんでもなく高価そうで鋭い武器が飛んできて、びっくりして襤褸ローブの中で目を剥き出した。思わず呆然としてしまい、駆け込んできたテフラへの対応が遅れてボコボコにされた。
そして、素晴らしい戦果を与えた業物の剣は、スゥーと何処かへと消えていく。
どことなく寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。
カバンの中で一銭も入っていないウサちゃんガマグチが、心底もったい無さそうにウサ耳をヘニョらせるのだった。
不思議なダンジョンで、持ちきれない武器とか泣く泣く投げますよね……。
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