テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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生贄ダンジョン6F


生贄ダンジョン麓6

 

 透明なモンスター『ナニモノ』を『身代わりワンド』を上手く使い、何とか倒したテフラ。

 ナニモノがダンジョンに食われた後、突然『鏡面の盾』が輝き始める。

 

 キラキラと輝く『鏡面の盾』をテフラとハピネスは見つめた。

 元々から、きらりと輝く丸い盾。

 表面がまるで鏡のように美しく磨かれており、その外周に不思議な紋様の言葉が一周刻まれていたことを覚えている。

 今輝きが収まりつつある『鏡面の盾』は、その紋様の言葉が二重になり縁にわずかな装飾が生まれていた。

 

「少しだけ盾が大きくなったか……?」

「少年……! これが『成長』なんじゃないか!」

「お、おお! やったなハピネス!」

 

 テフラが持っていた盾の一番の変化に気がつき、それに対してハピネスが『成長』のことを思い出させる。

 元々、上の階層で倒せるだけワル魔導やスカルマンを倒していたテフラ達。

 どうやら苦戦を強いられたナニモノを倒したことにより、鏡面の盾がついに成長を果たしたのだ。

 テフラとハピネスは喜色を滲ませ、顔を合わせて笑い合った。

 

「てことは、店長の言ってた固くなったり不思議な守りが……ハピネス、すぐにマフラーに入れ!」

 

 ペタペタ。

 再びどこからともなく足音が……! 

 ハピネスが慌てて、マフラーの中に飛び込む。そして、思い出すようにテフラの体を心配した。

 

「……! 少年、体が」

「いいから、何とかする!」

「う、うん」

 

 息をつく間も無く、ナニモノの足音をテフラの耳が聞き拾う。

 正直、体のだるさが許容値を超えてる気がするが、ハピネスを心配させまいと虚勢を張って小部屋の角で待ち受ける。

 

 テフラは縋るように、たった今成長をした『鏡面の盾』を見た。

 そして、────盾の鏡に映る不思議な影の姿を見つけた。

 

「こいつは……!」

 

 鏡面の盾の二重になった紋様が、美しく煌めく。

 目視では見えないナニモノの姿を、成長した盾が暴いたのだ! 

 

 テフラには一つ前の戦闘で主人を上手く守ることができなかった盾が、敵の姿さえ見えれば使ってくれると信じて『成長』して応えてくれている気がした。店主が言っていた不思議な守りとはこういうことか、と体感をする。

 思わずテフラは息を呑み──。

 

「へへへ!」

 

 盾に返すように、強気に笑いかける。

 ゆっくりとペタペタ足音を立てて、こちらに向かってくるナニモノの方向を、テフラが見据えて構えた。

 

 敵が近接する。

 

 ナニモノがテフラに攻撃を放つ前に、一度テフラから先行して空振りの攻撃を相手に送る。

 空振るとわかっているその牽制の手斧は、ナニモノへと正確に位置を捉えられている事を伝え、ナニモノを驚かせた。

 

『鏡面の盾』の中の敵が驚きながら、大きく後ろに下がるようにテフラの攻撃を避ける。

 隙だらけの動き。

 となれば、ここからは先ほどの戦闘の焼き増しだ! 

 

 壁際からテフラが飛び出し、大きな隙を見せたナニモノを盾で払い、手斧で打ち抜く。

 何故居場所がわかるのか、それが分からないナニモノは動揺したようにさらに後ろに下がり……。

 

「見えてるぜ!」

 

 止めの一撃を、隙を晒した体に叩き込まれる。

 がちゃん! ナニモノが倒れた場所に、少し豪華そうな宝箱が現れた。おそらくダンジョンに喰われたのだろう。

 

 テフラはそれを確認してから、鏡面の盾をポンポンと優しく叩く。

 どこか満足げに、キラリと『鏡面の盾』は光り輝くのだった。

 

 

 ◇

 

 

「少年、お薬! お薬の時間だよ少年!」

「わかってるって」

 

 バッサバッサと翼を広げて、ハピネスが急ぎ伝える。

 先ほど盾を見ていたせいで、回復するまもなく連戦となってしまった。だから、何はともあれ回復するべきだと、テフラの容体を心配しているのだ。

『魔法の地図』を開いて赤い光点がないことを確認しつつも、テフラは警戒を怠らず、腰のカバンから緑色の丸薬を二つほど取り出し嚥下する。一つでは次に急な戦闘が起きた時に体力の回復が間に合わない気がしたので、あまりしたくない二個飲みである。

 

 父リーブとの組み手訓練の後で使うために、慣れ親しんだ味ではあるが、やはり苦いものは苦い……。

 一つ目を涙と涎が溢れ出しながら、にがそうに顔を顰めて飲み込み、二個目を口に入れた瞬間えずきそうになって、必死で嚥下する。

 どんどんどん! と胸を叩いてテフラは頑張って飲み込んだ。

 

 短い付き合いながら、我慢強そうに思えるテフラがこうなる苦さと分かり、ハピネスは恐ろしいものを見るように緑色の丸薬を見つめる。

 

 これが、ニシキ村の常備薬である。

 余談だがこの緑色の丸薬は、ダンジョンの外で生成するアイテムとしてはこの世界的に見ても、かなりの速度で回復を促進させるアイテムであり、儀式の人のために渡せるものがないかとニシキ村の伝統と歴史が作ったオンリーワンのアイテムだったりする。

 

 と言っても、ダンジョンに潜れば大怪我を治すようなアイテムも手に入る可能性があるので……。

 当然ながら、ニシキの村に訪れる旅人は二度と口にしないそうだ。

 

 薬を飲み終わり、勝手に溢れてきた涙をパパッと拭ってテフラはよし! とハピネスと一緒に気合を入れ直した。

 二人で『魔法の地図』を確認する。

 地図上のまだ部屋が記されていない場所には、赤い光点がいくつか示されていた。

 

 この中に、ナニモノも含まれているかは後で確認するとして、常にあの独特の足音を聞き逃さないようにテフラが聞き耳を立てておく。

 

 そして、二人はワクワクしながら、ナニモノがドロップした宝箱の前に立った。

 

「少年、何が落ちるかな? 木で出来た宝箱よりも豪華そうだよ!」

「さぁな。ま、開けてみようぜ!」

 

 モンスターからドロップした宝箱なので、ミミックということはないだろう……が。慎重に慎重を期すべきだろう。

 いつも通り、後ろに回っていつもより豪華そうな宝箱に手斧マスターキーを振るう。

 この手斧、鍵の名の面目躍如である。

 

 案の定、ミミックではなく普通の宝箱だったようで、二つに割れてダンジョンに食われていく。

 前回、業物の剣が落ちたことを考え、『八本脚』戦に備えて不思議な効果の薬品系が手に入れば……! と二人は手を合わせて祈った。

 

 すると。

 

 宝箱のあった場所に、一つの鞄が現れた。

 思わず、テフラとハピネスは顔を合わせてガッツポーズ! 

 

「よっしゃ! ダンジョンで手に入る鞄っていいものだってラカブのおっさんも言ってたぜ!」

「やったね少年! ……でも、今持ってるカバンの内どちらかが干渉しそうだけど」

「…………とりあえず、物を一回入れてみるか。見た目よりたくさん入る『保存の鞄』なら、お袋には悪いけど鞄の入れ替えだな」

 

 肩から下げていた母からの選別の鞄を寂しそうに撫でたテフラは、腰に下がっている一番大きな物であった『帰還の洋燈』をドロップした鞄に入れた。

 これで大量にアイテムが入るなら、少し寂しいが生き残るために必要なこととして、テフラは割り切らないといけない。

 

 チャリン。

 テフラは目を瞬く。

 

「……ん? んん!? 消えちまったぞ!?」

「えっ!? ……あれ、少年?」

 

 カバンの中に入れた『帰還の洋燈』が、どこかへ消えていってしまった。

 騒然とするテフラ。

 しかし、ハピネスが何かに気がついたように、テフラの肩からカバンの中を指差した。

 

「少年、あれってdcじゃないかい?」

 

 慌ててテフラが鞄の中身を確認すると、じゃらららと中で金色のコインdcが揺れた。

 どうやら、中に入れたはずの『帰還の洋燈』が今の所役に立たないお金になってしまったようだ。

 これでは、緊急脱出が出来なくなってしまう。

 

「え!? そんなことあるのかよ。待って、返してくれって!」 

「……少年、鞄はしゃべらないよ」

 

 鞄の中身をひっくり返すように、テフラは持ち上げた鞄を振る。

 しかし、何も落ちてこない。

 

「???」

「もしかして! 少年、カバンの中に手を突っ込めるかい?」

「お、おう? ……いや、だめだ。中のdcまで手が届かない」

 

 テフラの手が『帰還の洋燈』をそれなりのdcに変えてしまった鞄『換金の鞄』の中で、見えない壁に阻まれてしまう。

 がっくし、とテフラの肩が落ちる。

 せめてウサちゃんガマグチを中に入れて、お金を回収できれば……。

 

「お、そうだ!」

 

 テフラ、閃く。

 その様子にハピネスは嫌な予感がした。こういう時にテフラが閃くことって、鳥籠を力技で開けたりした時のことを思い出してしまう。

 あの机に設置されていた状態から、斧で勢いよく射出されたことをハピネスは忘れていない。

 

 力瘤を作って、テフラは言い放った。

 

「あのガマグチで中から移し出せば良いんじゃないか! よし、となれば!」

「……そういえば、それ買っていたんだね少年。ってストップストップ! 止まりなさい少年! 入れちゃだめだよ少年! 絶対ろくでもないことになるよ少年!」

 

 テフラがウサちゃんガマグチを『換金の鞄』の中に突っ込もうとした時、ハピネスが懸命に羽をばたつかせてテフラの動きを止める。

 アップリケのウサちゃんがホッとした表情に見えるのは気のせいだろうか……? 

 

「中に入れたものをお金に変えるんだから、中に入れたらそれがお金に変わっちゃうよ! ドジじゃすまないよ少年!」

「…………………………ドジじゃない、失敗してないからドジじゃない!」

「考えてなかったんだね少年」

「ぐぬぬ」

 

 初回限定で安くしてもらったウサちゃんガマグチが、一瞬でロストしそうになっている。

 もしもそうなっていたら、店主に合わせる顔が……いや、あの店主はまた売れるから喜びそうだ。

 うふふ、という幻聴がどこからともなくテフラの頭に響いた気がした。

 

 首を振って、テフラは幻聴を払った。少しドギマギしてしまうのは気のせいということにしておく。

 そして、腕を組んで唸る。

 

「壊すしかないか……?」

「結局それに落ち着くねぇ」

 

 流石のハピネスも、不思議な効果に守られている鞄の中からアイテムを取り出すことは思いつかなかったようだ。

 珍しく暴力的な解決方法に是と返した。

 だんだんテフラに似てきてる気がしないでもないが、きっと気のせいだろう。

 

 背中の手斧に手を添えたテフラ。そこに思いついたようにハピネスが意見を述べる。

 

「……少年、壊すのはちょっと待ってみよう。せめてこの階層を回るくらいまでなら持って回ってもいいじゃないか。もしかしたら、また業物の剣なんかが手に入って、このカバンに入れて換金できるかもしれないよ、少年っ!」

「……戦う前に、地面におけばいいか。そうだな、そうしてみるぜ」

 

 そうして二人はドロップした『換金の鞄』を握って、姿の見えない敵『ナニモノ』に気をつけながら攻略を開始する。

 そうして歩き出した時。

 

 テフラがハピネスに心情を一つこぼした。

 

「実はさ、これが『換金の鞄』で、少し安心したんだ」

「どうしてだい少年?」

 

 不思議そうに首を傾げるハピネス。

 ポンっと母のヒヨから貰った鞄を叩いて、テフラは軽い笑みを浮かべた。

 

「鞄を交換しなくて済んでさ。お袋が思って渡してくれた物だから、やっぱ大事にしたいんだ」

「……うん。大事にしていこう少年」

「おう!」

 

 少し年季の入った肩掛け鞄。

 それが戦闘や探索で邪魔になっていなかったことを考えると、やはり母ができるだけ考えて自分に渡してくれたという愛を、テフラは改めて理解するのだった。

 





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