テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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生贄ダンジョン麓7F


生贄ダンジョン麓9

 

 風呂敷を頬被りした泥棒猫のモンスター『シーフキャット』に、『魔法の地図』を盗まれたテフラとハピネスは、今いる階層内を急足で探索していた。

 アイテムを盗んだモンスターは、その階層を逃げ続けるという習性があることをハピネスが知っていて、テフラはなんとかして『魔法の地図』を取り返そうとしているのだ。

 

「少年、後ろからスカルマンが!」

「おう、分かった! けど、先に正面から来てそうなナニモノ!」

「ひえッー!? 頑張れ少年っ!」

 

 見るだけでダンジョン内の敵の配置が分かった『魔法の地図』の恩恵の偉大さが分かる。

 テフラとハピネスは今まで避けることができていた、狭い通路内での戦闘が発生していた。それも、モンスターによる挟み撃ちだ。

 

 狭い通路で手斧と盾を構え、テフラは戦闘を行う。

 戦闘自体は上の階層で徹底して戦闘を行うことをしていたので、幸いなことになんとか対応はできるようだ。

 

 正面のナニモノを大ぶりの攻撃で後ろに下がらせ、その後盾で打ち抜く。体力が減らなければスカルマンは踊り出さないので、優先してナニモノを処理していく。もしもスカルマンが踊り出した場合は、ナニモノを攻撃するふりをして下がらせ、スカルマンを倒すことに優先順位を変える心算。

 

 ナニモノへと、トドメ攻撃を放つ。

 すぐさま反転して襲いかかってきたスカルマンの軽快な骨捌きを、『鏡面の盾』で弾いた。

 しかし、ここでナニモノの姿が見えない特徴がいやらしく効果を発揮する。

 

 ゴッ! とテフラの背中に衝撃! 

 肺から息が抜け、前のめりになってしまう。 

 

 この威力、ナニモノの攻撃だ! 

 先ほどトドメのつもりで放った一撃が、どうやら致命傷になっていなかったのかもしれない。

 ナニモノはダンジョンに食われるところが視認できないから、複数体と同時戦闘する場合はかなり面倒であると認識を変える。

 

 前の階層での、始まりを思い出したのかハピネスが悲鳴をあげる。 

 

「少年!」

「安心しろ……! ────、おっしゃぁッ!」

 

 正面から迫り来るスカルマンに即断即決。

 テフラは前のめりに倒れながら、ベルトから『鈍足ワンド(4)』をスカルマンへと放つ。

 宝石が小さくなり、残り回数が三回になる。

 

 杖から光が迸り、拳を放ってきていたスカルマンへと直撃する。

 

 テフラはナニモノに殴られた勢いのまま、地面に倒れ込むようにして鈍足になったスカルマンの殴り攻撃を回避。

 さらに倒れ込んだ時、床に手をついて、ググッと体を支えた。

 

 流れるように手を軸にして、殴られた後方へと水面蹴りを放つ! 

 

「少年、目が回るぅ〜!?」

「舌噛むッ、から!! 黙って、捕まってろぉおっ!!」

「ほわぁああああッ!?」

 

 すかっ。

 

 手応えはない。おそらく避けたのだろう。

 だが、今回は当たらないことも想定していたので大丈夫だ。

 

 大きく後ろへと避けるナニモノの特性的に、再度攻撃が来るには時間がかかるはず! 

 ならば!! 

 

「っし、ラァァッ!」

 

 そう考えたテフラはさらに床についた腕へと力を込め、水面蹴りを放って回転している体を慣性のままに、ぐるりと体を捻りながら脚を動かす。

 

 鈍足になったせいで殴りかかった体勢から戻れていないスカルマンの胴を、鉤のように膝裏で捕まえ────! 

 

 ゴキリッ!! 狭い通路の壁へと、叩きつけるように捨て、進路を無理やり開ける! 

 

 地面について無理やり回転させていた腕を、開いた進路の方へとハンドスプリング。

 叩きつけの後に、起きあがろうと蠢いたスカルマンの頭の骨を、全体重乗せて勢いよく踏み砕く! 

 

「へへッ! 森番を舐めるなよ! 倅だけど!」

「うぅ、少年ぐるぐるするぅ……」

 

 激しい動きにもみくちゃにされたハピネスがぐるぐると目を回して、マフラーに絡まっている。

 頭を粉砕されたスカルマンが、ダンジョンに食われていった。

 

 曲芸師のように、素早い動き。

 こんな動きができても、父のリーブが全て乗り越えてくるのだからたまらない。

 朝の組み手を思い出して、こんな状況なんて屁でもないと、テフラは不敵に笑う。

 

 スカルマンがダンジョンに食われ始めたことを確認すると、すぐさま『鏡面の盾』でナニモノがいるであろう方向と、スカルマンがいた方向まできちんと索敵。

 そして、残りがナニモノだけだとわかるや否や、すぐさま普段の構えを取り、ナニモノへ今度こそトドメを送るのだった。

 

 

 ◇

 

 

 急足で、テフラたちは階層内を進む。

 ある程度、急がないとおそらく逃げ切られてしまう予感がテフラの中にあるのだ。

 狭い通路に入ると、奥から足音が聞こえてくる。ナニモノの特徴的なペタペタ音ではなく、誰かが小走りで走り抜ける音だ。

 

 ────タタタ。……にゃ、タタタタ。

 

「くそ、足音は聞こえるんだけどな。姿を見るまで行けないぞ……」

「こっちに気がついたのか、すぐ反対へと音が消えていってしまうね少年」

 

 テフラは敵の姿が見えれば『鈍足ワンド(3)』で、足を遅くしてすぐに決着をつける積もりだった。

 しかし、敵はこちらを煽るように近くまでくると、足音を響かせて存在だけをアピールして走り去ってしまう。

 そして、追いかけようとして走ると……。

 

「少年、小部屋! 罠注意! 後宝箱、多分ミミック!」

「……ぐぬぬ、いくつかあるぜ。暴いていこう」

 

 すぐさま小部屋へとぶつかり、上の階層の小部屋よりも多めに設置された罠に足を停められてしまう。

 こんな時に『目に良い薬』があれば……! そう思ってしまうのも致し方ないだろう。

 浮ついた気分で調子に乗り、あの時飲んだことを強く反省する。だが、飲んでしまったものは仕方ないのだ。せめて、あの時と同じアイテムがドロップしないかを強く祈る。

 

「頼むぜ……!」

「なんかこい、なんかこーい!」

 

 ハピネスが、一生懸命翼をパタパタしながら祈りを捧げる。

 テフラは宝箱の後ろに回って、斧でいつものように砕き割った。

 断末魔。やはりミミック。

 そして、ドロップしたアイテムは……。

 

「薬だ!」

 

 中身が真っ赤な液体の入った小瓶。

 思わず声を上げたテフラは、肩にいるハピネスを見つめた。

 それは……。

 ハピネスが、視線を落として悔しそうに呟く。

 

「……少年、それは飲むと一時的に力がすごく上がる薬だよ。『パワーアップの薬』というべきか」

「素早さとかは上がらないのか? 力が上がるなら、脚力も!」

 

 もしかして、光明が見えたのか? そう思ってテフラは目を輝かせるが、ハピネスの顔色は優れない。

 言いにくそうに、正確に効果を伝える。

 

「効果が、かなり短い間なんだ。具体的にいうと、少年がよく戦ってる戦闘時間ぐらい。……少年、シーフキャットを視認できないかぎり、見失って効果が切れるだけだと思う」

「今は、使えないか……!」

 

 テフラは『パワーアップの薬』を握りしめ、僅かに焦りながら天井を見据えた。

 天井はまだまだ明るく、夕暮れのような黄昏色には程遠い。

 だが、このままでは時間も苦労も水の泡になってしまうだろう。

 そんな確信があった。

 

「階段がもう見つかっているのが、タチが悪いぜ」

「アイツのことだもん。さっさと降りて、諦めろって笑ってるんだ」

 

 実は地図を盗まれた部屋の横の小部屋で、すぐに階段が見つかってしまっているのだ。

 敵から先に進めという、嫌な意志を感じてしまう。

 

「……少年、最悪の場合は」

「へへ、ハピネス。それを考えるのはまだ早いぜ」

「けれど……」

 

 ハピネスが、俯いて言葉を吐く。

 別にテフラも『掃除人』が現れる時間になれば、諦めて階段を降りるつもりだ。

 だが、今弱音を吐いてる時間があれば、取り返す方法を考えた方が建設的だと強く思う。

 

「ハピネス」

「うん……」

「急いで回ったから、多分この部屋が最後の未確認部屋だよな」

「少年のダンジョンの回り方を考えるに……。ここが中心の小部屋で、小道が四つあるから、そうだね」

 

 テフラは今入ったばかりの小部屋を見る。

 階層の外周をぐるりと一度周り、最後に分かれ道に入った中央の小部屋。

 それがここだった。

 

 例えるなら『田』という字。

 それの四カドと中心が小部屋になっている階層である。

 

 今中心にいるテフラが聞いたシーフキャットの足音は、南の狭い道から聞こえたので、おそらくまだ南西か南東にいるはずだ。

 

 腕を組んでテフラは唸る。

 そして、周囲に敵がいないかを『鏡面の盾』で確認しつつ、必死で考える。

 ハピネスもその肩で、必死に頭を翼でモミモミしながら考える。

 

 手斧と盾を除く、所持している不思議なアイテムはこれだけ。

『太陽のペンダント』効果は不明。

『鈍足ワンド(3)』敵の目視ができないために、当てられない。

『身代わりワンド(0)』宝石が砕け散っているが、投げて当てさえすれば使用可能。

『パワーアップの薬』短時間の強化薬で、敵を目視してから飲んで追いかけるでは間に合わない。

『食料品類』腹を満腹にするほどの白パンとチーズ類。

 

「……どうする」

 

 そんなふうにテフラが考えていると。

 

 ──タタタ。ニャニャーン! タタタタ。

 

 再び煽るように、足音と声が。

 今度は東からだ。つまり南東か北東にいると言うことだろう。

 

 集中力を掻き乱すようなシーフキャットの煽りに、思わずテフラの額に青筋が走った。

 

 相手が疲れるまで背後から全力疾走してやろうか……? 

 テフラの脳筋節が炸裂しそうになる。

 

 そんな時、部屋の中に骨のモンスター『スカルマン』が入ってきた。

 咄嗟にテフラは構え、スカルマンを見たハピネスがマフラーに潜り込み………、閃いた!

 マフラーに入った瞬間、シュポン! と顔だけ飛び出して、テフラに耳打ちする! 

 

「そうだ少年! ええっとね────────!」

「…………っへへ!」

 

 その『閃き』を聞き終わったテフラは、近づいてくるスカルマンの肉のない骨だけの両足を見て……、悪い笑みを浮かべる。

 そして。

 

「────お前、ちょっとそこで踊っていかねぇか? へへへ……!」

 

 そう言い放って、スカルマンへと襲い掛かるのだった。

 

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