テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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生贄ダンジョン麓7F


生贄ダンジョン麓10

 

 耳を澄ます。

 ただひたすらに耳を済まして待つ。

 刻々と時間が過ぎていくのを感じられ、手に汗を握るが……、現状の打てる手では受動的な作戦になってしまう。

 

 ──タタタ。にゃりん……? タタタタタ! 

 

 カッ! と待ち人の足音を聞いたハピネスが小さな目を見開いて、聞こえた方向に翼で指し示す。

 白パンを口に放り込みながら()()()()()()()()()()テフラが、一気に口の中のものを飲み込み。

 

 その後に、すぐさまハピネスが指差した方向に全力疾走。

 小部屋の罠は仕込みの段階で、テフラが肝心な場面でドジをしないように暴いたので、思いっきり駆けても平気だ。

 

「聞こえたよ! 少年、北だ! チャンスは一度きりだよ!」

「ング……! おう、わかった!」

 

 この階層の形は『田』型で、すでに全てのエリアは回り終わった。

 テフラとハピネスはとある仕込みを終え、『魔法の地図』を盗み階層内を逃げ回るシーフキャットを追いかける。

 

 天井の日は翳り始め、時間の経過を感じさせる。

 急がなくては『掃除人』が現れて、『魔法の地図』どころか自分達の命まで失ってしまう瀬戸際だ。

 

 現在地は、中央の部屋。

 そこから『田』の北部分の突き当たりまで全力疾走。

 

 そして、この作戦。

 最大の分水嶺。

 一度でいいから、シーフキャットの影を捉えなくてはいけない……! 

 

「少年、私は予定通り右!」

「おう、俺は左……えっと左は……」

「盾つけてる方だよ!」

「お、おう!! わかってるって!」

 

 北の丁字路、その突き当たりが迫る。

 一番の障害だと思われた、見えない敵のナニモノに進路を塞がれることもなくテフラは壁にぶつかるような速度で駆け抜け────! 

 

 マフラーから顔だけを覗かせ、突き当たりの右を見据えるハピネス。

 そして急ブレーキを踏みながら、左の通路を見つめるテフラ。

 

 ────タタタ。

 

 テフラの視界に、黒い影をとらえる。

 

「見つけたぞ!! くそぉ、二択外しちまった……!」

「よく見つけた少年! 仕方ない、中央の保険が効いているうちに追い詰めるんだ!」

 

 なぜか残念がるテフラが見つめた左の方。

 その角、北西にある小部屋に飛び込む風呂敷を背負った猫モンスター。

 シーフキャットの姿を見つけ出す! 

 その影を、テフラは必死で追いかけ始めるのだった。

 

 

 ◇

 

 

 間抜けな灰色髪の人間が追いかけてくる。

 シーフキャットは自慢の健脚を回し、後ろから足音が聞こえるのを、口元をにゃりんと歪めて笑う。

 

 猫の手が握っているのは古ぼけた羊皮紙だ。

 地面に転がっている素晴らしい『成長装備』よりもこっちが気になってしまった。

 

 この階層に同じ姿をした仲間がいないことも気になるが、とにかくあの人間の持っているアイテムの中でコレがどうしても気になってしまったのだ。

 気になって盗んでしまった以上、シーフキャットはそのままダンジョン内の別な場所にワープをして嫌がらせをする。

 

 それが自身の役目で、仕組みだから。

 

 見覚えのない場所。

 自分の足は本来であれば、こんな岩場の走りにくいダンジョンを走るようにできていないはずなのだが。

 だがまぁ、ここに生み出されてしまったなら仕方ない。

 自身の役目を全うするだけだ。

 

「待ちたまえー! つつくぞー! 痛いんだぞぉー!」

 

 後方から声が聞こえる。

 全力疾走している人間の、その肩から人間なのかモンスターなのか判断に困る青い奴が声を出しているようだ。

 

 声を聞いたシーフキャットはその場で、少しだけ足踏みをして足音と笑い声を出して挑発をする。

 

「ムッキー! なんだねあの猫! 失礼なやつだなぁ!」

 

 それがシーフキャットの攻撃だ。

 考えが単調になればなるほど、自分を追いかける人間はドツボにハマっていく。

 

 そういう風に自身は作られている。

 

 この階層であれば、外周をぐるぐる回っているだけでアイツらは追いつけない。

 今みたいに挑発をして追いつかれそうになった場合は、中央を経由してまた撹乱してやればいい。

 

 必死に追いかけているが、決して自分には追いつけないだろうと『田』型の西丁字路から中央へ……。

 

「にゃにゃ……?」

 

 おかしい。

 

 ────中央の小部屋から人間の気配がする。

 であれば、自分はそれとは違う方向へと逃げなくてはいけない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 後ろから人間が迫ってきている。

 あまり考えてる時間はなさそうだ。

 

 曲がろうとした道を諦めて、すぐさま南に走り抜ける。『田』型の南西にあたる小部屋に飛び込んで、後ろを確認する。

 

 灰色の髪の人間が、人間にしては凄まじい速度で走っているのが見えた。

 だが、挑発するようにふりふりと尻尾を揺らす。憤怒したように人間の肩にいる奴が、青い翼をばたつかせている。

 それを見届けてまた笑い声を届けると、今度は南の通路を駆け抜ける。

 

 そして、先ほど人間の気配がして行けなかったので中央を経由して……。

 

「……にゃんにゃ?」

 

 やはり、中央から人間の気配がする。

 大方、シーフキャットが中央に逃げ込むところを隠れた人間が捕まえようとしているのだろう。

 

 だが、無駄だ。

 人間の気配を感じ取ることにかけては、シーフキャットというモンスターは非常に長けている。

 そのうち、自分を追いかけてきている奴も体力が切れて間に合わなくなるだろう。

 

 決して、あの程度の速度じゃ自分の健脚には決して追いつけないのだから。

 

 後ろを見るとやはり余裕のなくなった灰髪の人間が、()()()()()()()()遅くなった速度で走ってきている。

 これだから人間はダメなんだ。

 嘲るように再びその場で笑ってやってから、南東を抜け東の通路の丁字路で────。

 

 ────両足を半ばから砕かれた骨のモンスターが、非常にゆっくりとした動き『鈍足』に踊っていて、道を通せんぼしている。

 

 通り抜けたい。

 後ろから人間が迫ってきているから通り抜けたい……! 

 踊っているだけの骨モンスターの横を通り抜けたい!! 

 

「んにゃー!」

 

 だが、それはモンスターがやってはいけない事だとインプットされている。

 

 モンスターとして、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「!?!?」

「ぜっ……! おい……ついた……ぞ!!! ああくそ……腹減ってきた!」

「はーはっはー! 覚悟したまえ泥棒猫君! さぁ『魔法の地図』を返してもらうよ! やっておしまい少年!」

「んにゃ!?」

 

 そうして、ダンジョンのルールに阻まれたシーフキャットは、後ろから迫ってきた人間に追いつかれるのだった。

 

 

 ◇

 

 

 時は遡り、スカルマンが中央の部屋にやって来た頃。

 ハピネスがテフラに耳打ちした内容は。

 

「ええっとね、天井でずっと見ていたから知っているんだけど、モンスターってお互いを絶対に乗り越えたりしてないんだ! スカルマンの特徴の踊り出したらその場にいるっていうのを利用して、道を塞いで追い詰めよう少年! それが第一段階!」

 

 現状取れる案として一つをひり出した。

 もちろん、この案にはいろいろな不明点やデメリットがあった。

 スカルマンがその場で踊り続けていた理由はテフラが対面して待機していたからという可能性もあるし、当然スカルマンが踊り続けていれば対象者のテフラはお腹が減り続ける。

 

 その上で。

 テフラは肩かけ鞄の中の食品類の量などを鑑みて。

 

 ──ニヤリと笑って、ハピネスの作戦に乗るのだった。

 

 中央の小部屋にやってきたスカルマンを、テフラ達はうまく誘導して東の丁字路まで連れて行く。

 中央への道と北への道を塞ぐように、スカルマンの両足を破壊して踊らせた。

 かつて戦闘中に右腕を破壊することができたからこそ思いついた、念を押す移動をさせない方法だ。

 足を破壊されながらも、スカルマンはしっかりとその場で手拍子などを刻んで踊り始め、その場から動き出さない。

 

 作戦の第一段階が成功する。

 

 テフラは空腹について、一つ対処をした。

『鈍足ワンド(3)』を振るって、道を塞ぐスカルマンの踊りの速度を遅くしたのだ。

 意外にも効果があったようで、急激に減る満腹感が、緩やかな一定期間で食事をすれば耐えられるほどの減少量になる。

 

 これで道を一箇所塞いだ。

 

 そして、問題の中央の小部屋だ。

 ここを使われてしまうと、この作戦は意味をなさなくなる。

 今は中央にテフラがいるので、シーフキャットはここへと入って来ていないが、本来であれば通り道にして来るはずだ。

 

 それについて、ハピネスが更なる作戦の内容を告げる。

 

「後は第二段階だよ! 少年、後は『身代わりワンド』を中央で使いたいんだ!」 

「……だけどよ、それってもしかして動かないやつを捕まえないといけないんじゃ?」

 

 身代わりを中央に置いて、シーフキャットがここを通らないようにしたいということはテフラにもわかった。だが、そいつを足止めするには、現状スカルマンを踊らせるしかない。『鈍足ワンド』もあるにはあるが、あれは動きを遅くするだけだ。決してその場に食い止めるものではない。

 

 流石にスカルマン二匹に踊られたら、空腹でシーフキャットを追いかけてる場合じゃない。

 もそもそとチーズを齧るテフラの顔が青くなる。

 チッチッチ! とハピネスが翼を振った。

 ちゃんとテフラのことを考えた案のようだ

 

「大丈夫。『身代わりワンド』で変化されると、モンスターは杖の所有者を狙わなくなるんだ。だから、君を襲っている状態異常が身代わり相手に襲い掛かるんだよ、少年!」

「???」

 

 もうっ! とハピネスが理解力の足りないテフラのお腹を指す! 

 

「少年に来てるハラヘリの踊りが、その身代わり相手に行くの!! 動けなくなるくらいお腹が空くんでしょ!」

「……天才かよ。もぐもぐ」

 

 空腹効果により、身代わりをしたモンスターをその場に食い止める作戦だ。

 

 全然思いつかなかったと、テフラが最後の一欠片を口の中で飲み込む。

 空腹を耐えるテフラにハピネスが、ただ……と言葉尻を弱めて続ける。

 

「……一つ問題があって、身代わりがやられたら中央に逃げられてしまうんだ。だから、その身代わりを時が来るまで守って……おそらくチャンスは一度きりだし、運試しになるし、目を話した隙に身代わりを倒したモンスターが『成長』するかもしれない。それでも少年やってくれるかい?」

 

 現れる一か八かの賭け部分。

 そして、強敵が発生することへの示唆。

 

 それに対してテフラは。

 

「おう、信じてるぜハピネス」

 

 簡単に肩にいる友達の言葉を信じて、作戦を承諾するのだった。

 そうして、しばらく空腹になりながら中央の部屋で敵を待つ。

 何も知らずに入ってきたナニモノに、『身代わりワンド』をヒットさせてスカルマンのハラヘリダンスの対象をナニモノへと移り変わらせる。

 

 そして、逃げ出せないように、身代わりしたナニモノを足で押さえつつ。

 

 二人は耳を澄ませて、タイミングを待ち続けたのだった。

 

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