テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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生贄ダンジョン麓7F


生贄ダンジョン麓11

 

 テフラとハピネスは、モンスターが狭い通路で敵を追い越さないという性質と、中央の小部屋に身代わりを設置することで『魔法の地図』を盗み出したシーフキャットを追い詰めることに成功した。

 

 目の前には『魔法の地図』持ったまま反撃しようとしているのか、深く構える風呂敷頬被り二足歩行の泥棒猫モンスターのシーフキャット。

 そして、その背後ではこちらを見ながら下半身を砕かれ『鈍足』状態のスカルマンが手拍子を鳴り響かせながら、相手の腹を減らせるハラヘリダンスを踊っていた。

 

「少年、相手は逃げてばっかりだったけど、油断しちゃダメだよ!」

「おう、わかってるって!」

 

 テフラから、狭い通路を抜けられないようにしながらの先制攻撃。

 いつもの構えから、低い姿勢で飛び掛かるようなシーフキャットを下から掬うように、手斧でのかち上げを放つ! 

 

 たたたん。

 シーフキャットが細かく横に揺れるような足捌きを見せて、テフラの一撃を見事に躱す。

 そして。

 

「んにゃ!」

 

 飛び上がりながら、テフラに反撃の爪攻撃を仕掛けてくる。

 宙に浮いた。

 ──浮いてしまった。

 

「なんだ、逃げ方は上手かったのに。こっちは単調なんだな……!」

 

 ニヤリ、テフラの顔に笑みが浮かぶ。

 飛んで爪を放ってくるシーフキャットと自分の間に『鏡面の盾』をきつく固定する。

 

 ギリギリ! シーフキャットの鋭い爪攻撃が『鏡面の盾』の表面を掻きむしる。

 衝撃、ジリっとテフラの脚がわずかに下がる。

 

 まるで金属を引っ掻くような嫌な音が周囲に響いて、マフラーの中に隠れるハピネスがぞわぞわぞわー! っと、体を震わせた。

 

 だが、テフラはお構いなしだ。

 ()()()()()()()を待って、シーフキャットを盾で払うでもなく、されるがままにしていた。

 そのシーフキャットは、盾に攻撃をしても埒が明かないと思ったのか一度仕切り直すために、爪で引っ掻いていた『鏡面の盾』を足蹴にして、仕切り直そうと──。

 

「お前が乗せてんのは、床じゃなくて俺の盾なんだよ!!」

「んにゃー!?!」

 

 ────シーフキャットが盾に体重を乗せた瞬間、テフラが盾がぐんっと自分の方に引いて半歩下がる! 

 

 スカッ、後ろへと下がろうとしたシーフキャットが、無様にピンと足を空中に伸ばして目を白黒させて驚愕している。

 足場にしようとした盾とテフラが、シーフキャットの足の長さが届かない位置に行って、身動きの取れない空中で隙だらけの滞空時間を晒していた。

 

「返してもらうぞ!!」

「────ぎゃ」

 

 手斧マスターキーの全力振り下ろし! 

 跳ね飛ばすでもなく、怒りの乗ったテフラの一撃がシーフキャットの胴体を捕らえ────ダンジョンの床に盗人を裁くギロチンを彷彿させる迫力で斧刃と共に打ち据える!! 

 

 断末魔にすらならない言葉。

 シーフキャットは白目を剥いて、空いた大口から唾を吐き散らしながら、ダンジョンにズブズブと食われていく。

 そして、その場にはシーフキャットに盗まれた『魔法の地図』だけが、パサりと残っている。

 

 ぐぅうう〜……。

 テフラの腹がなる。

 

「少年、しまらないね」

「しゃあないだろ? ……お前は敵だけど、ありがとな。でも、ダンジョンにさっさと食われてくれ」

「カカカ……」

 

 こちらを見て、手拍子をしながら踊っていた動けないスカルマンにテフラはお腹を抑えながら、少しだけお礼を言った。

 でも、それはそれとしてトドメの一撃を送るのだった。

 

 

 ◇

 

 

 スカルマンを倒し、テフラが『魔法の地図』を拾った頃、天井は薄暗くなってきておりもう少しで『掃除人』が現れる時間だ。

 だが、階段はここから北東の小部屋にあることを記憶している。

 だから、この場で少し食事をしても十分間に合うはずだとテフラは考えた。

 

 そのことをテフラがハピネスに伝えると、ハピネスがテフラのお腹を見た。 

 

「少年、もしかしてお腹が空いてきたってことかい……?」

「ん? まぁスカルマンが踊ってたんだからな」

 

 でも倒したから、早く飯食わせてくれ……。とテフラは肩かけ鞄から食品を取り出そうとして────ハピネスが慌てて止める。

 

「違うよ少年!! 早く『魔法の地図』を見て!」

「……? お、おうわかったけど」

 

 ハピネスの剣幕に、慌ててテフラが懐にしまった『魔法の地図』を開く。

 赤い光点が()()()()()()に一つ存在した。

 それは徐々に東の、今まさにテフラ達がいる場所へとゆっくり向かってきていた。それを見ると、ハピネスが慌ててマフラーの中にモゾモゾと潜り込んで言葉を続ける。

 すでに彼女は臨戦体制。

 

「げ、敵が来てるのか。……って中央から?」

「少年、分かってるよね。私たちは中央の部屋で『身代わりワンド』を使ったんだ! つまり、中央の身代わりが生きていれば少年のお腹が減ることはないんだよ!」

 

 テフラのお腹が空いている。

 それはとあることのサイン。

 そのサインとは──。

 

 ──その身代わりが、モンスターに倒されたということを意味する。

 

 ぞくり、テフラの背筋に悪寒が走る。

 それは、いつだってテフラを救ってきた直感。

 視界の端に光。中央の小道から、謎の光が見え。

 

 テフラは咄嗟に北の道へと、地面に飛び込む! 

 

 パチン。

 中央の部屋から飛んできた謎の光が、先程までテフラが立っていた場所で弾け──―。

 

 ────金糸の刺繍がされた漆黒のローブを着た、立派な杖を持った魔道士が瞬間移動するように現れていた。

 

 テフラはまだ見たことがなかったが、ハピネスはその杖の効果に覚えがあった。『飛びつきワンド』と言われる、光があたった場所に杖の所持者を瞬間移動させる、不思議な杖! 

 

 突然現れた魔道士が、床を転がったままのテフラにむけて、その立派な杖を鋭く振り下ろす。

 ガキンッ! 立派な杖がダンジョンの床を激しく打ち付ける!! 

 前転するようにして、必死でテフラはそれを避ける。

 そして、うまく体制を整え膝立ちになりながら、『鏡面の盾』を構えて敵の姿を視界に収めた。

 

 ローブから覗く鷲鼻。

 その特徴的な容姿に、着ている服と杖が変わっていようがテフラは名前を思い出す。

 

「ワル魔導、あいつが『成長』したのか……!」

「少年、気をつけて。背中を向けたら撃たれるよ……!」

 

 一難去ってまた一難。

 せっかく『魔法の地図』を取り戻したというのに、現れた強敵がテフラの行く末を阻む。

 天井の光は、徐々にこの階層に入れる時間が残り少ないと、妖しい黄昏色へと染まっていく。

 

 冷や汗を垂らしながら、テフラは手斧を抜き放つのだった。

 

 

 ◇

 

 

 膠着状態。

 テフラがジリと前に動けば、ピクリと後の先をとるつもりのアク魔導が手に持った立派な杖を揺らす。

 逆に、テフラが後ろに動いても奴は先ほどと同じように杖を振って、一瞬で距離を縮めて襲ってくるだろう。

 

 先程、地面に叩きつけられた杖の威力をテフラは思い出す。

 ……到底、自分の膂力では受けきれない気がした。

 受け流すことができればいいだろう。

 

 だが、この『アク魔導』というモンスターは、杖捌きが巧いのだ。

 成長する前のワル魔導の時であっても、テフラが油断したとはいえテフラの体制を崩して攻撃を当ててくるほど。

『成長』を果たしたモンスターがそれよりも劣っているとは考えにくい。

 

 まずいな……、とテフラは一度動けば始まってしまう戦闘の中で高速で思考する。

 腰に残っている不思議な杖は『鈍足ワンド(2)』だけ。

 使うのは良い。使えば、おそらくこの戦闘は切り抜けられる。

 

 だが。

 

 あと『八本脚』と呼ぶボス部屋まで、ハピネスの情報では探索できる部屋は後一階層しかないのだ……! 

 ここで杖を使ってしまえば、次の階層で不思議なアイテムが手に入らなかった場合が、非常にまずい。

 

 使うか、使わないか……! 

 テフラは悩む。

 それをまるで、待っているかのようにアク魔導は動かなかった。何かがおかしいと感じた時、マフラーからハピネスがくぐもった声を上げる。

 

「少年、考えてる時間はないよ……! 天井が……!」

 

 ついに夕暮れ色に空が染まる。

 

「キキキ……!」

「まさか! お前、これが狙いか!」

 

 時間切れが迫る。

 テフラは臍を噛んで、この敵の膠着状態の狙いにようやく気がついた。

 ハピネスが悲鳴を上げるように、テフラに叫ぶ。

 

「少年!! 命に変えられない、使って!!」

 

 テフラはもう時間がないと『鈍足ワンド(2)』を振るう。

 それに合わせて『アク魔導』も杖を攻撃するように振ってくる。

 

 テフラが振るった『鈍足ワンド(2)』はしっかりと仕事を果たし、攻撃をしてくるアク魔導を『鈍足』させることができた。テフラがそれを一瞬で判断すると、遅れてくる杖の振り下ろしを避けて、足払いをかける。

 しっかりと、相手に食らわすことができた足払いは、アク魔導の体制を崩し、十分に逃げ出せる時間を得られただろう。

 後は、逃げるだけ……! そう思ってテフラは踵を返し。

 

「少年、戦って」

「なっ、ハピネス!?」

 

 ハピネスの震える声を聞いた。

 

「戦って!! 強敵と戦えば『成長装備』は育つのだろう! 次の階層でいいアイテムが手に入るかわからない以上、こいつを倒してでも成長させないと!!」

 

 逃げ出したいのだろう。

 あの封じられた部屋の天井で見たことがあるのだろう。

 あの恐ろしい『掃除人』を、きっと見たのだろう。

 

「『八本脚』に勝てる可能性が減るんだ! やるしかないんだ、少年っ!!」

「ぅ、うぉおおおおお!!! 『掃除人』がくる前に倒せば良いんだろ!! やってやるよ!!」

 

 それでも。

 ハピネスはそれでも言った。

 ここで『成長』したモンスターでも倒さない限り『八本脚』を倒せる可能性は低いと! 

 テフラも覚悟を決めて、両手で手斧を構える。

 

 防御を考えない、攻撃だけに重きを置いた構え。

 

 壁が、床が、ダンジョンが。

 

 ────徐々に赤く染まってくる。

 

 テフラは起きあがろうとしているアク魔導に武器を振るう。

 当然、鈍足中とはいえアク魔導も、いやらしい位置へ巧みに立派な杖を配置して、致命傷を避けるように動く。モンスターとしての使命を果たそうとしてくる。

 ワル魔導ですら、体力がそれなりに高かったのだ。

 アク魔導はテフラが放つ渾身の一撃を受けても全然倒れる気配がない。それどころか、立派な杖で迎撃しようとしてくる。

 それでも、諦めずに何度も何度もテフラは武器を振り下ろす! 

 

 攻防は僅かな時間。

 

 決死のテフラがトドメの一撃を放つ! 

 アク魔導が断末魔を上げてダンジョンに喰われていく。

 残った場所には、宝箱がドロップ。

 テフラはせめて開けなくてはと宝箱に斧を振るって、さっさと開ける。

 

 手斧マスターキーが、光を放って………────! 

 

 ────ぎぃいいい……。

 

 どこかで扉が開く音がした。

 

 寒気、怖気、殺気。

 

 その全てが、テフラとハピネスの全身に突き刺さる。

 宝箱から落ちた『液体の入った小瓶』を確認することもなく、とにかく握って。

 再び不服そうにピカピカ光る『成長』した手斧マスターキーを背中にしまい込む。

 

 テフラは、中央の小部屋から迫ってくる『掃除人』から逃げ出す。

 階段を確認していた事もあって、テフラとハピネスは──。

 

 ────命からがらなんとか逃げ出すことに成功するのだった。

 





 後半がちょっとバタバタしてしまった……。
 死神様もアワアワして見てました。
 でもそれでも、仕事は仕事ですからね。
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