テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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生贄ダンジョン麓8F


生贄ダンジョン麓13

 

 生贄ダンジョン麓8F、その小部屋。

 テフラとハピネスは、取り返した地図に映った敵と相対していた。

 

 上から大きくなった斧を鋭く振り下ろす。

 見違える速度と勢い。

 ギチッ! と斧を制動するテフラの筋肉が、切り返しの一撃を放つために軋む。

 テフラは歯を食いしばって、斧を地面スレスレで静止させてから、前方にタックルを放つように体ごと斧を下から上へとぶん回した。

 

「ッラァ!」

 

 凄まじい風切り音、激突。

 相対していたスカルマンが、バラバラの骨微塵になって壁へと叩きつけられた後、ダンジョンに食われていく。

 危なげのない戦い。

 とはいえ、テフラにとっては少し問題があった様子で、顔を顰めている。

 マフラーの中からハピネスが、目を輝かせてテフラに声をかける。

 

「少年、その斧すごいパワーになってるじゃないか! 前回の村長の兄を彷彿とさせるよ!」

「……おう。そうだといいんだけどな、いてて」

「? あれ、怪我をしたのかい?」

 

 テフラは周囲に敵がいないことを確認すると斧を壁に立て掛けて、右腕の付け根のあたりと胸筋を痛そうにさする。

 今まで出来ていた動き、急制動からの切り返し攻撃。

 それが今までと比べ物にならない勢いで行われてしまう所為で、しなやか寄りなテフラの筋肉に負荷がかかってしまっている。一応テフラなりに考えて、体全体を使って斧を振り回すようにしているが、手癖になっている右腕部分の矯正がうまくいっていないのだ。

 

「くそぅ、じゃじゃ馬になっちまったなぁ」

 

 僅かに涙目でテフラが、コンコンと斧の柄をノックする。当然といえば当然だが、斧からの返答はない。

 ため息をついて、再びテフラは斧を持ち上げて担ぐ。

 その様子を見届けて、ハピネスが慰めるように声をかけた。

 

「少年、でもこのパワーなら不思議なアイテムがなくても『八本脚』戦もなんとかなるかもしれないよ。迫ってくる触手を、こうドバンズバンとだね!」

 

 しゅっしゅ、翼でシャドーするハピネス。

 それに呆れた表情でテフラは言葉を返した。

 

「最初から最後まで全力で振抜ければ、ハピネスが言うことも出来るだろうけどさ……」

「うむうむ。それに短い時間とはいえ、力を上昇できる『パワーアップの薬』もあるからね! 心配しすぎなくても大丈夫だよ、少年っ!」

「でもさ、短い時間なんだろ? 効果が切れて何も出来なくなることがないように、訓練することは必要だぜ」

 

 鞄に入っている真っ赤な液体の入った小瓶『パワーアップの薬』の存在。

 だが、シーフキャットを追いかけるときに使う選択肢に上げられなかったほど、効果時間が短いとハピネスが言っていたことも思い出す。

 やはりテフラは薬前提での戦闘を考えるのはやめておきたい。

 

 そんなこんなでテフラとハピネスは戦闘を繰り返す。

 

 そして、テフラの手に斧が僅かに馴染んできた頃、宝箱のある部屋にたどり着くのだった。

 ささっと地面の罠などを確認して、宝箱に近づき斧を振り上げる。

 

「「どっこいしょ〜!」」

 

 いつもの通り斧マスターキーが箱ごと打ち砕く。

 いい加減、宝箱とは開けるものということを忘れてしまいそうなテフラである。

 木片が砕け散り、化けていたミミックが断末魔を上げる。

 

 その時、両刃になった斧刃がきらりと輝いた気がした。

 テフラは目を丸くして瞬く。

 

「ん?」

「少年! 何かいい物が落ちたのかい!」

「……いや、それはこれからだぜ」

 

 マフラーから顔を覗かせるハピネスが、テフラの様子に首を傾げる。宝箱が今ダンジョンに食われていっている最中なので、ドロップ品はまだである。

 テフラが気になったのは、斧が『成長』の時ほどではないが、うっすら光った気がしたのだ。

 どうにも、ハピネスは気がついていない様子。

 テフラは首を傾げて、たった今振るった斧マスターキーを引き寄せて眺める。

 しかし、何かが変わった様子は見えなかった。

 テフラは疑問を内に秘めとくよりも、肩の友人に相談しようとした──。

 

 ばさっ。

 

 ──が、タイミング悪くアイテムがドロップしたようだ。まぁ後からでいいかと、テフラは考えて落ちていた不思議な本を拾い上げ、ハピネスと眺める。

 

「これは『鞄拡張の本』だね! 使うと少しだけ鞄の中が大きくなるんだ! よかったね少年、君のお母様からいただいた鞄の容量が増やせるよ!」

「おお、そいつは助かるな! ……でも、戦闘には使えないか」

「こればっかりは運次第だから、仕方ないよ少年」

 

 まぁ、早速使うか。とテフラは不思議な本を開く。

 ハピネスもテフラの肩から覗き込む。

 

 そこには全然見たことのない文字が大量に踊っている。

 本来であれば、本を使うための詠唱が載っているはずなのだが……。

 テフラはなんで本が読めないのか疑問符を浮かべた。

 

 その様子を、ハピネスが胡乱な目で見て呟いた。『鑑定の本』の時に見覚えのある光景だったからだ。

 

「……?」

「少年、もしかして使い方を……。『鑑定の本』の時と一緒だよ?」 

「あ……! お、思い出したってば!」

 

 恥ずかしげに顔を真っ赤にしたテフラは『鞄拡張の本』を鞄に当てて、今度こそ本の中に浮かび上がり始めた文字列を力一杯読み上げるのであった。

 

 

 ◇

 

 

 テフラの鞄の中を拡張し、二人は再びダンジョン内を進んでいく。

 鞄の中は、かつて村長の家でラカブが売りに出した見た目よりも多く入る鞄『保存の鞄』のように、見た目よりも深く広く物がしまえるように変化した。 

 

 歩きながらテフラは先ほどの斧が光ったような気がしたことを思い出す。

 先ほどタイミング悪く中断したハピネスへの確認を行う。

 

「なぁハピネス、さっき宝箱……というかミミックを壊した時に斧が光った気がしたんだけど」

「本当かい少年? ……うーん気がつかなかったなぁ。何か変わったところがあるのかい?」

「いや、それがわからねぇんだ、って危ないから斧には触らないようにな」

「うむ!」

 

 テフラが肩に担いでいる斧を眺めるために、ハピネスがテフラの頭の上にぴょこぴょこと移動。そしてしげしげと観察を始めた。

 何かわかることがあるかなぁとハピネスの言葉を待っていると、左手に握っていた『魔法の地図』上で、こちらに近づいてくる赤い光点を確認する。

 

「ハピネス、マフラーに戻ってくれ」

「うむ? 敵かい?」

「おう、観察はその後だ」

 

 その場で、テフラが構える。

 狭い通路なので、横に振らないように注意しないとな……。とテフラはリーチが伸びた犠牲に取り回しが悪くなった斧を何度か握りなおす。

 

 そろそろテフラの視界に映ってもおかしくない頃、ペタペタという足音が先から聞こえる。

 姿が透明なモンスター、ナニモノだ。

 ちらりと『鏡面の盾』を見て、敵の位置を確認。

 斧を今までのように空振りして戦うのは、テフラの腕の負担が大きいので若干戦い方を変える。

 

 先手必勝。

 自らの攻撃範囲入るか入らないかのタイミング。

 テフラはナニモノがいるだろう場所に向かって飛び込みながら、上段に左足で見せかけのケンカキックを放つ。

 

 そして、いつものように空振りに終わり……。

 ドン! とケンカキックに見せかけた左足を地面に振り下ろし、四股を踏みながら右腕を上から思いっきり振るう! 

 

 テフラの右腕と斧に凄まじい手応え、振動が跳ね返ってくる。

 油断なく、すぐに両手で斧を引き戻し、流れで放てる突きの構えをしながら『鏡面の盾』を確認。

 今の一撃でナニモノの影がダンジョンに食われていくのが見えた。

 前の手斧状態の時では何度も武器を振う必要があったことを思う。

 

 やはり『成長』した斧マスターキーの威力は目で見えるほどに上がっている。

 

「うし、コイツはこのやり方で良さそうだな」

「少年って全身使って戦うよね……。ものすごく揺れる〜」

「……悪い、気をつけて戦うよ」

「いや、少年は悪くないよ。私が我慢をしないといけない問題だね。私もムキムキになれば……」

「……お姫様とは?」

 

 ビビビ、と帰ってきた振動に羽をささくれ震えるハピネス。

 軽口を叩いて、斧が大きくなって変わった反動について一言。

 

 テフラはムキムキになったハピネスを頭の中で想像した。

 続いて、そのマチョネスが頭の上や肩に乗っている自分を想像。

 肩が凝りそうだなぁとのほほんと考える。

 どうやら力が上がっても、テフラの頭の中ではハピネスは飛べないらしい。

 

 そして、羽を繕い終わるとハピネスが声を上げた。

 

「そうだ。少年、確かに斧が光っていた」

「本当か!? 全然気が付かなかった……」

「まぁ少年は基本的に敵との戦闘に集中してるからね。この辺りの観察は私に任せてくれたまえ!」

 

 ハピネスがいうには、ナニモノを攻撃したときに斧が光ったように見えたらしい。

 トドメが原因なのか、攻撃が当たったからなのかはまだわからない。

 それはこれからの検証次第だと告げる。

 

 テフラはふと、考えた。

 あの『ダンジョンショップ』の糸目バニーガール店主が、あれだけの大金を机に乗せてまでこの『成長装備』を欲しがっていたのだ。もしかして、この武器って何か特殊な力が備わっているのでは……? と。

 

 すごく今更である。

 

 そうして二人は戦闘中に斧が光るタイミングを確認し始める。

 どうやら、敵に攻撃が当たったときに光っているらしい。

 

「何かの効果が発揮しているとは思うんだけど……、それがわからねぇなぁ」

「少年、その斧は君の父と鑑定屋のお爺さんの餞別なんだろう? であれば、そう悪いものではないと私は思うよ」

「……まぁそれもそうだな。カイズミの爺さんの鑑定は超一流だったしな!」

 

 ……もしかして『成長装備』だったから渡しただけだったりして。流石にその言葉は表に出さずに引っ込めるハピネスなのだった。

 

 そうして二人は、ダンジョン内の現れるモンスターを、検証ついで鍛錬ついでにどんどん倒して先に進む。『魔法の地図』に映る、この階層最後の青い光点の場所へと辿り着いていく。

 

 この先の戦いの内容を決める、最後の宝箱の中身は……。

 

 からん。

 どこか見覚えのある緑色の大きな宝石がついた杖が落ちる。

 それは『吹き飛ばしワンド(5)』だった。

 ボス戦『八本脚』との戦いで使えるかというと……。

 

 青年と青い鳥は、二人して頭を押さえ、深くため息をつくのだった。

 

 

 ◇

 

 

 青い紋章が輝く。

 

 ついに大切な青い鳥が、ボス階層まで行ってしまう。

 その前に捕らえなくてはならなかったのに。

 あそこは尾根の神の置き土産。

 こちらからは手を出せない場所なのに……! 

 

『王様』が血が滲むほど拳を握り、歯を食いしばり、ダンジョンを行く青年を睨みつける。

 

 ──本当に大切なものなのか? 

 

 ぎちぎちと、背中の影が笑う。

 そうだ! あれは大切な……大切な……!

 

 ──なんで大切だったか思い出せないんだろう? じゃあもういいじゃないか。

 

 何かを忘れた『王様』が客席で項垂れる。

 

 青い紋章が。

 栄光ある国の印が、ゆっくりと陰っていく。

 その様子を、背中の影が眺めている。

 

 ムカデの形をした黒影の怪物が、一対の目をうっそりと細めて笑った。

 苦悩する『王様』を見て、気分がよさそうに嗤っていた。

 





 王様関連の視点の説明は幕間でハピネスの回想入れますので……。
 読み返すと、まだ読者への情報量が足りない気がしてオリジナルの難しさを痛感します。

 ここ数日、日間ランキングを少し彷徨えてるみたいなので、感謝感激雨霰です。
 いつも読んでくれて、本当にありがとうございます。
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