幕間、上中下になりました……。
目を閉じて幸せな記憶を辿っていた青い鳥は、音のない『休憩階層』で目を開く。
ただ噴水の音、水の流れる音と。
「ダンジョンなのに、空はあの頃と変わらないなぁ」
雲ひとつない美しい青空を、あの頃と同じように見上げる。
少し寂しくなって、ポツリと言葉をこぼす。
いつかのように、笑う人たちはいない。
それもそのはずだ。
ここはダンジョンなのだから。
「……」
ぴょんぴょん、と別な場所まで歩いてく。
見覚えのある城に尾根のダンジョンを越えていろいろなものを運んできていた商人。
その人が経営していた店の前。
Openと書かれたサインボードが、無人の店の前に置かれている。
扉を開けようとして……。
「……この体じゃ開けられないようだね。鳥だもの」
流石に人間が使うサイズの扉を、人間の肩に乗れる程度の小鳥の姿じゃ開けることはできないようだ。
仕方ない。
ため息をついて、後でテフラに開けてほしいと頼もう。
ハピネスはそう思って、テフラがいた部屋へと戻っていく。
そうして部屋に戻ると、変わらず深い眠りについていたテフラの近くの机で、テフラが余っている布や枕などで簡易的にこしらえてくれた自分用のベッドに収まって眠りにつく。
しばらくして、ハピネスがうなされたような声を上げる。
まるで悪夢を見ているように、身じろぎを何度も繰り返した。
だが、それを止めるテフラは熟睡中。
そんな時。
──きらり、二人が寝静まった部屋で『鏡面の盾』が光った。
◇
夢を見る。
かつて暮らしていた城で目覚めるところから始まる夢。
終わりの始まりの夢。
繰り返し見る、あそこの鳥籠に封じ込められるまでの夢。
でも大丈夫。
道中が怖くても、最後に彼が助けに来てくれるから。
──だから、今回も耐えられる。
その日は、いつもと何も変わらない変哲のない日になると思っていた。
朝起きて格好を整えてもらって、先生たちに将来のための授業を受けて。
自身に少しずつ与えられた執務をこなして、それが終わったら城下へとお忍びで繰り出して。
ここまでが数百年前までの、私のいつも通りだった。
でも、ここから先に、終わりが待っている。
ただの記憶だ。
だから、たどって同じように歩く。
城へ帰ると。
いつも裏で挨拶をしてから扉を開けてくれる『護り人』がいなかった。
何だか不安になって、初めて自分で扉を開けて。
声も音もしなくて。
不安になりながら周囲を見回して、恐る恐る城へと戻っていく。
ゆらゆらと国旗だけがいつもと変わらず揺れていた。
普段城へ戻ったら迎えてくれるメイドが来ない。
こんな日もあるんだ珍しいな、といつもと同じ道を周りに誰もいないのがとても不思議な感覚で。
城の中庭まで戻って、ようやく異変に気がついた。
誰もいない。
ゆっくりと誰にも見つからないように歩いていた忍び足が、徐々に駆け足になる。
そして窓から城の外を見て、足が止まった。
城下町が、巨大な黒い百足に襲われていた。
火の手が上がっている。
怖気が走り、悲鳴をあげて再び駆け出す。
向かった場所は。
きっと誰かがいるだろうと信じて、謁見の間まで走ったんだ。
止めた足を、重い足を前に進める。
辿り着けば、謁見の間で父が私を────。
「────……ぉぉぃ!」
「?」
声?
顔を上げて前を見る。
すると。
「おぉおおおい!! あんた! ヤベェって! なんかやばいんですけどぉ!!」
ここにいるはずない灰色の髪の青年が引き攣った表情で、謁見の間のある廊下の先から走ってきた。
凄まじい速度だ。
思わず私は、混乱して変な声が出る。
「ええええ少年なんで!?」
「ええええ、じゃないっ! というか俺は青年だろうどうみても! 俺確か寝てたはずなんだけどな……! って違う! あんた小さい鳥見なかったか! 青い鳥! 『休憩階層』で休んでたはずなのに、なんか知らない広い場所で目が覚めちまったんだよ!! いつか見たやばい化け物に知らない街が襲われてるし、どこなんだここは!!」
純朴そうな顔立ちで、引き締まった体を灰色のカーディガンに身を包み、なぜかきらりと光る『鏡面の盾』だけを装備した青年。
ここにいるはずのないテフラという青年が、なぜか私の夢の中にいた。
唖然として、私はその場で立ち止まる。
知らない。こんなこと知らない。
思わず変な笑いが込み上げてくる。
出会ってまだそう時間が経っていないはずなのに、私は彼が助けてくれる想像をしてしまったのだろうか……?
でも、ここでまで想像した彼の力を借りなくても大丈夫。
いつもと同じだから、そう思って謁見の間へと──。
──ガシッ!
ガシ……? テフラの節張った手が私の肩を掴んで……掴まれた!?
「笑ってる場合じゃないって! いや、なんかこの馬鹿でかい建物から出れないし、なんか見覚えのある噴水がある場所が爆散して行ってるし!! 俺の友達助けに行かないといけないんだよ!」
「……テフラ、もしかして起きてる?」
「寝てるよ!! いや、寝たけど起きたのか!? ダンジョンの『休憩階層』で寝たと思ったら、起きちゃって知らない場所にいるの!!」
「何それこわい」
テフラは私の前に来ると、急ブレーキをかけたようにキキィと煙を上げながら止まり、私の肩を必死に揺さぶって話し出す。
あまりの必死さ。
よくわからないが、彼は私の夢の中に入ってきてしまったらしい。
……多分あまりにも私の予想外のことをするから、これ本物のテフラだなぁと何となくわかってしまった。
どうやら彼は、鳥の姿の私を探しているらしい。
ああ、彼らしいな。
「って、アンタ……! 階段で……」
「?」
私の肩を揺さぶっていたテフラが、至近距離でぼっと顔を真っ赤に染め、掴んでいた手を話して後ずさった。
そういえば、彼は女性に耐性がないんだった。
『ダンジョンショップ』の店主に、顔を赤らめて必死で顔を逸らしていたのを思い出す。
ずっと鳥の姿だったから、こういう表情をされるのは新鮮だなぁ。
「ぇ……ええと。って、俺の馬鹿! 美人に気を取られてる場合か! アンタ、ハピネスって名前の青い小鳥を知らないか? 俺の大事な友達なんだ!」
「ふふ、美人って……。本当に君は面白いね」
「さっきから笑ってばかりだし、謎の余裕がありすぎる!? ……頼むよ、アンタしか見つけられなかったんだ。何が起こってるのかわかるなら教えてくれないか?」
「青い鳥なら大丈夫。ここは夢の中、遠い昔の夢よ」
私はテフラに説明をしてあげる。
ここは夢の中。
何で彼がいるのかわからないけど、『休憩階層』が中央広間だったから何か不思議なことでも起こってしまったのだろうか。
「……よくわからねぇけどわかった。とりあえず目が覚めればいいんだな! うおおおお、覚めろ!!」
「ああああ! しょうねn……テフラ、そんなに頭を壁に打ち付けてはいけません!! あああ、ほら夢の中なのにそんな大きなたんこぶが……!」
ドドドドド! と中央広場が黒い大百足に壊されていくのをバックにテフラが頭を壁に連打する。慌てて私はそれを止める!
──やっぱこれ本物のテフラだ!!
そうだ、であれば鳥の時に言ってやれなかったことを言うチャンスだ。
今度は私がテフラの肩を捕まえて、いつもの距離で声をかける。
「もう、貴方は無茶をしすぎなんです! すぐに極端な方向に走って、ちゃんと考えて行動してください!」
「近いっ!? わ、わかった……! 近いから、その離れてくれ……!!」
またテフラの顔が真っ赤になる。
どうしたのだろう、やはり今頭を打ち付けたのが効いたのだろうか。
バッッとテフラが私から距離を取る。
……何だろう、不思議と寂しさを感じるのはなぜだろうか。
とりあえず、このままでは埒が開かないので彼を夢から覚ますために、いつもと同じことをしなくては。
あれほど頭を打ち付けても目を覚ませないのであれば、いつも通りの終わりを迎えてしまえば目が覚めるはずだ。
「テフラは、ここで待っていてください」
「……あいつを倒さなくて良いのか?」
窓の外の大百足を指差すテフラ。
斧もないのに、彼は戦う気満々だったのだろうか。
私は苦笑いをして首を横に振る。
「いいえ、私が謁見の間に行けば目が覚めると思います。そこで私が父に……捕まれば」
「……まじでよくわからねぇ」
がっくし、テフラは肩を落とす。
そして、後ろ髪を掻いた。
「アンタの夢ってことか? で、この先に行けば夢が終わるってことか?」
「ええ、そうよ」
私はテフラに笑かけて、歩き出す。
テフラは窓の外を見て顔を顰めて何かを考えている。
……彼を起こすために、早く済ませてしまおう。
そう思って、私はテフラを置いて歩き出すのだった。
けれど、背中の方から声がかかる。
「あ、ちょっと待ってくれよ。俺も行くぜ!」
「……つまらない結末だよ?」
私はテフラを振り返ってそう言った。
だけどテフラは、胸を張って言葉を吐く。
「アンタにとっては夢でも、俺にとっては現実みたいに感じるんだよ! だから、ここから出れないならアンタについてく。ダンジョンで見る夢ってのに意味がありそうだから見届ける!」
「……ふふ、好きにするといいわ」
「おう」
テフラらしい言葉。
私は再び歩き出した。
頼もしい私の『護り人』を後ろに連れて。
あまりにまとめられないので、幕間が上中下になります。
ストーリーを書き出さないと……。
ボス戦待ってください。
追記。
十九時間に合わなさそうです。
本日中には投稿します。