テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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『休憩階層 王都中央広場』


森番モリビト護り人

 

 濡れた体を拭き、暴れ回った青い鳥ことハピネスがようやく落ち着いた頃、再び二人は『休憩階層』に繰り出していた。

 向かうのは、ハピネスが開けて欲しいと言っていた店の扉の場所だ。

 そこは噴水の直ぐ近くで、先ほどまで素振りをしていた場所の近くだった。

 

「ツーン」

「いい加減機嫌直せってハピネス」

「ツン!」

「ほ、ほらー、お前が言ってたのここだろ? 開けてやるからさぁ、な?」

 

 テフラの頭の上で、ハピネスがそっぽを向く。

 やれやれと、呆れながらテフラは声をかけ続ける。どことなく尻に敷かれる男の図にも見えなくもない。

 

 ちなみにグルグルと回っていた『鏡面の盾』も空気を読んでか、テフラの背中に張り付くようにして浮遊をしていた。

 

 ハピネスもそろそろ機嫌を戻すべきだと思ってきたのか、モゾモゾと居住まいをただして、宥め続けるテフラの頭の上で返事を返した。

 

「……少年、揶揄いは時に人を傷つけるんだからね?」

「おう、悪かったよ……」

「よろしい、少年を許しましょう」

 

 はぁ、とテフラは大きくため息。ようやくこのお喋りの相棒が黙って時折つついてくる時間が終わりを告げると安堵のため息だ。

 テフラとハピネスは仲直りをすると、盾騒動の夢の話前、素振りに来た時に後で開けて欲しいと言っていた店の前をたむろする。

 

「で、開ければいいのか?」

「この体じゃ開けられなくてね、悪いけど開けて欲しいんだ」

「おう、分かった」

 

 Openと書かれたサインボードにチラッとテフラは目をやってから、ドアノブを握る。

 そして、キィィと軋む音をさせながら扉を開いた。

 

 中は雑貨屋のようだ。

 ハピネスがポツリと言葉を溢す。

 

「ここも、そのまま」

「何だよ、知ってるのか?」

「……ちょっとね」

 

 誤魔化すように言って、ハピネスは早く中に入ってくれとテフラの頭皮を刺激する。

 ソレをくすぐったそうにしながら、テフラは指示された通り店の中へと入っていく。

 すると、今度はテフラが目を輝かせて、一つの棚の方へと近寄った。

 

「お、ダッシュアップルン人形じゃねぇか!」

「おや、少年も知っている物があったのかい?」

「へへ、俺も作ったことあるんだぜ。何でも、ニシキ村の興りに食糧に困ってた時、助けたモンスターがこいつらなんだとよ」

「へぇ……。何でそんな物がここに」

 

 テフラは、自分の村で見慣れた人形を見つけたのだ。

 それは木彫りのリンゴに手足を生やした謎人形……、というよりもニシキの村のダンジョンに出没するモンスターだった。

 何というか、荒削りな素人感溢れるそれが埃ひとつない棚に飾られていた。

 

「あ……」

「お、ハピネスも何か見つけたのか?」

 

 テフラの頭の上で、ハピネスも何かを見つけたように吐息をこぼした。

 テフラが首を傾けて質問すると、ぴょんぴょんと頭から肩に降りてきて、テフラに翼で方向を指し示す。

 そこには、美しいガラス細工の器がいくつか飾られていた。

 テフラがそちらに近づくと、ハピネスがテフラの肩からぴょこんと跳び、飾られている棚に降り立つ。

 

「あ、おい。それ割れやすいから気をつけろよ」

「うん、知ってるよ……」

 

 青、赤、緑、それぞれを間近で懐かしそうにハピネスは翼で優しく撫でる。

 テフラは首を傾げた。

 

「そんなに珍しいのか? 『ニシキ切子』だぜそれ」

「え、知っているのかい少年!?」

「知ってるもなにも──」 

 

 テフラは無造作に飾られていたソレを手に掴み、近くにあった窓から入ってくる天井の光の当てた。キラキラと光が中で反射して、ハピネスにはまるで宝石よりも美しく思える。

 

「──うちの村の名産品だぞ? 綺麗だろ、遠い昔にどっかの王様に献上してたみたいな話もあるんだぜ? ま、誰も信じてないけどさ!」

「……」

「? どうしたよ、そんなに口を開いて」

 

 ハピネスは、遠い昔の記憶をたどる。

 この店の主人、尾根のダンジョンを超えて外から物資を運ぶ商人は何と言っていたか。

 

『こいつは『護り人』様方が外に拠点として作った開拓村で作り始めた工芸品でね。名前は村の名前を頭につけるからこれからだそうだ』

 

 唖然と口を開きながら、ハピネスは震えた。

 少しして、首を傾げたままのテフラに言葉を返す。

 

「少年、もしかして。君のいう森番って『護る』って意味があったり……」

「え? いや、森番は森番だろ? ……あ、いや。そういや昔親父が何か言ってたような」

 

 テフラがニシキ切子を棚に戻して、何かを思い出すように上を向きながら顎を押さえる。

 

「確か……『尾根連なる森に続く道を先祖代々守ってる。尾根に魂が帰る道』みたいなことは言ってた気がするぜ?」

「あ、はは。……そんな偶然、いや、そうか。そうだったのね……」

「って、おい!? ハピネス、どこか痛むのか!?」

 

 ポロポロとハピネスが、小さな目から涙をこぼす。

 テフラは慌てふためいた。

 涙をこぼしながらも、ハピネスは眩しいものを見るようにテフラを見つめ続けた。

 

「本当に、本当に君は……。()()()は『護り人』だったんだ……」

「いやだから森番……。ああー、わかった森人? 森人でいいから! 何だ、猿の真似でもすれば泣き止んでくれるのか!? ウキキ!」

「ぷ、ふふ……あはは。本当に、助けに来てくれてたんだ。だから、だからこそ私は、果たさないと」

「ハピネス、泣き止んでくれよぉ……」

 

 遠い昔。

 尾根に囲まれた王国があった。

 そこはダンジョンでしか資源が取れない国。

 尾根を越えるにもダンジョンを超えなくてはならないし、当然国に戻るためにもダンジョンを通らねばならなかった。

 

 その国には当時の精鋭『護り人』と呼ばれる者たちがいた。

 質実剛健。

 鋼の心を持つ人間達。

 その王国の護り人達は装備に紋様を刻んでいた。

 

 ソレは、テフラが着ている魔除けのカーディガンと同じ。

 彼らはその紋様に、国の印に恥じないように生きていた。

 彼らは国民の憧れ。

 ダンジョンを攻略して糧を得る役割。

 人間の力を神に見せて楽しませる役割。

 

 そして。

 

 ────国のために尾根の外で、拠点を築く役割を与えられた者もいた。

 

 だが突然尾根の向こうに帰れなくなった彼らは二十年に一度だけ尾根のダンジョンが開くことに気がつく。

 

 国の安否を確かめるために、存亡を確かめるために。

 子供しか入れなくても、ただ一人しか入れなくても。

 その紋様に誓いを立てて、戦い続けていた村があった。

 

 今はもう忘られてしまったし、ただの忌むべき風習となってしまったけれど。

 目の前の灰色の青年のように、戦い続ける人がいたのだ。

 

 ソレがわかっただけで、ハピネスは涙が止まらなくなってしまう。

 

「目に何か入ったのか? 埃か? あー。少ないけどチーズとパンがあるぞ! 食べるか!?」

「ふふ、平気よテフラ……。ううん、少年大丈夫だよ」

「ほっ……、っと」

 

 ようやく落ち着いたように泣き止むハピネス。

 そして棚からテフラの胸へと飛び込んだ。テフラは困ったようにそれを受け止め、胸に顔を押し付けてくるハピネスにされるがままだ。

 

 この『休憩階層』は、変な夢を見たりハピネスがおかしくなったりと散々なテフラ。

 さっさと『八本脚』への対策を済ませて、先に進むことを決意する。

 

「まだここ見てくか?」

「……うぅん、もう大丈夫だよ少年。ありがとう」

「おう、いいってことよ。んじゃ出るか……って待て、これ貰っていくか!」

 

 テフラは部屋から出る前にそっと一つダッシュアップルンの木彫り人形を拝借した。

 手元の食糧が少ないし、せっかくなので人形に込められたご利益にでも縋ろうと思ったのだ。

 それを見てハピネスはどこか面白そうに笑う。

 

 もしかしたら、その木彫りの人形が。

 

 ────テフラの先祖が作った物だったら面白いなと、とても楽しげに笑うのだった。

 





 盾くんは神様からの推したよアイテム。(途中参入)
 斧くんは爺さんが昔手に入れた旅の品。(旅始まり)

 ──何だか転校生ヒロインと幼馴染ヒロインみたいですね!

 土日、更新お休みします。
 次回から、八本脚戦です。

 お気に入り評価感想ここ好き誤字報告、いつもありがとうございます……。
 何とかこの小説は五十話超えることが出来ましたよ……!
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