テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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『ボス階層 八本脚』


弾丸の如く

 

 体色を真っ赤に染め上げ、体から湯気を噴き出す『八本脚』に対峙するテフラとハピネス。

 

 その『八本脚』の変貌した姿はボスとしての二段階目。想定より早いペースでの変貌に、テフラの斧マスターキーの真価が発揮されたことを如実に表していた。

 しかし、これからは今まで中央から触手だけで攻撃をしてきていた『八本脚』が、全身を使って襲いかかってくるという事だ。

 

 それでも『八本脚』に対し、円を描くように逃げるテフラ。

 先ほどのダメージがまだ抜け切らない脚に檄を撃って止まらないように走り続ける。

 その左手には先ほどベルトから抜き出した『鈍足ワンド(1)』が強く握り締められていた。

 

「来るよ少年! 止まって杖を構えて!」

「おう!」

 

 ハピネスの指示に従い、走るのをやめていつでも杖を振れるようにするテフラ。

 

『────────!!』

 

 そのテフラの左右真横に、強い風切り音。

 バタバタとテフラの服が風に強く靡く。

 

 触手が左右に三本ずつ、テフラを逃さない壁の様に伸びる。

 それは動くテフラに向かってではなく、外周に向けて──自身を固定するためのアンカーのようにダンジョンの壁に突き刺さった! 

 

 そして本体だけがジリジリとテフラたちから離れていく。

 左右残り一番下の四本目に当たる触手二本で器用に後退しているのだ。

 触手についた吸盤で体を固定しながら下がっていっている。

 

 俯瞰して見ると、それは触手がゴムで、巨大な頭が礫。

『八本脚』自身を弾丸とするスリングショット。

 

 先ほどの階層に対しての全体攻撃ほどではないが、凄まじい威力の攻撃だとハピネスが事前にテフラに伝えた行動だ。このまま行くと弾丸のように飛んでくる『八本脚』本体に、左右を触手の壁に囲まれたテフラとハピネスは無惨にも押しつぶされてしまうだろう。

 

 だが変に足掻くことなくテフラは油断なく杖を構えながら、ある作戦のためにハピネスの指示を待ち続ける。

 それでも不安は不安だ。

 立ち止まっていると、体当たり攻撃を受ける自分の死が簡単に想像できてしまうからだ。

 ちらりと視線が揺れて『八本脚』の左の触手、上から三番目の触手に目がいく。

 

 ──そこには一段階目の時につけた大きな打撲痕が残っていた。

 

『八本脚』がどんどん体を遠くに引っ張っていく。

 出来うることなら今すぐに脱兎の如く逃げ出してしまいたい。

 

 だが──大きなダメージを与える作戦のために、決してここから逃げ出すことは出来ない! 

 

 テフラの頬に冷や汗が流れ始め、ハピネスに思わず声をかける。

 

「まだか!」

「まだ……、()()()()()()()()()!」

「くそ、待つだけって怖いなちくしょう! あ……、いや、びびってねぇけどさ!」

 

 ずっと心の中で押し殺している弱音が思わずこぼれてしまう。

 常日頃が前向き思考のテフラでも、連続で危機に陥ってしまい、先ほどの攻撃でダメージを受けたのが効いているのかもしれない。

 初めて戦闘中に弱音をこぼすテフラに、ハピネスがマフラーの中でそっと寄り添ってくる。

 その体は震えていたが、勇気をくれる一言をテフラに与える。

 

「わ、私も怖い! けど、少年がいるから大丈夫……!」

「……おう、俺もハピネスがいるから頑張るぜ」

 

 絶対に負けられない、とテフラは男の意地で気合を入れ直す。

 

 ギチギチ、左右でテフラたちを囲む触手が嫌な音を立て始める。

 引き絞られた弓の弦に似た音。

 今にも目の前の巨大な質量が攻城兵器のように飛んでくるのを幻視しそうになる。

 

 しかし、その音。

 触手が限界まで引き伸ばされた音。

 それこそがハピネスの待っていたモノ。

 

 ハピネスが翼を振り下ろし、テフラに号令をかけた! 

 

「今だよ少年!」

 

 テフラがすぐさま『鈍足ワンド』を振って、光を放つ! 

 光は放たれた矢のような速度で、今にも飛び出してきそうな『八本脚』に当たった。

 光の当たった『八本脚』は鈍足状態に陥る。

 

 だが、ボスモンスターに状態異常は効果が出ることには出るが、耐性があるのかすぐに元に戻ってしまう。いつかの踊るスカルマンのように長々とかかってくれるわけではないのだ。

 

「左の三だよ少年!」

「分かってるぜハピネス!」

 

 杖を振るったテフラは、先ほど確認した『八本脚』の触手。

 

 左から三番目の()()()()()()()()()()()()()()の場所に向けて斧を何度も振るう! 

 

「頑張れぇええええ、しょうねえええええん!!」

「ァアアアアアアアア゛!!」

 

 先ほど覚えた斧マスターキーの特性を活かし、自身のできる最大限の体の使い方をして遠心力を使った回転攻撃を連続でテフラは仕掛け続ける。

 振るう斧刃が強く何度も輝き、その場に衝撃波の波紋を放つ。

 

 引き伸ばされる時間の中、そんな強攻撃を何度も放った後に──。

 

 ────ビキッ!!! 

 

 攻撃をしていた触手が先ほどまでの限界まで引き伸ばした音とは別な嫌な音を立てる。

 それは亀裂。

 

 平時は太く固い触手だろうと。

 限界まで引き伸ばされた触手であれば────! 

 

『── ── ── ── ! ?』

「ふふ、少年やってしまえ! 引き伸ばしたゴムは途中で切れると、弾けてすごい勢いで戻っていくのさ! とっても痛いんだよ!」

「いい加減、千切れ、やがれェー!!」

 

 鈍足状態になった『八本脚』が足掻こうと視界の端に見える。

 

 それを尻目に、テフラは全身を使って大きく回転。

 そして空中に飛び上がって──! 

 テフラは自身が出せる限界の一撃を、亀裂の入った触手に叩きつける!! 

 

 鈍足状態になった『八本脚』は足掻こうと、自身の本体を固定している左右一本ずつの触手を地面から離そうとするが、あまりにゆっくりすぎる体の動きで間に合わない……!! 

 

 ブチブチブチィッ!!! 

 ついに左の触手が一本、斧マスターキーの一撃により切り拓かれる。

 当然、切り離された一本は切り離されたゴムのような勢いで『八本脚』の方へと戻っていき……! 

 バチンッ!! 

 凄まじい音をさせ本体の顔面に凄まじい衝撃を与える。

 その瞬間、左側で壁にアンカーを打っていた触手のバランスが崩れたのかその他の残り二本も同じように壁から切り離されて────! 

 

 ────右のアンカーを支点にして、弾けたゴムのように右方向へと本体がダンジョンの壁へと凄まじい追突を起こす!! 

 

『── ── ────』

 

 この部屋に入ってからの一番なダメージが、皮肉なことに『八本脚』自身の力によって引き起こされる。

 鈍足状態のせいか、それともテフラの攻撃判定になったのか『八本脚』は頭の上で星を飛ばして、壁でひきつけを起こす。

 まるで先ほどのテフラと同じようだ。

 無様に自慢の八本ある触手をのたうち回らせ、全身で痛みを表している。

 

 

 だが『八本脚』の横には幸せの青い鳥はいない。

 

 

「はは、作戦成功だよ少年!」

「ああ、()()()!」

「うん、やっちゃえテフラ!!」

 

 明確な好機。見逃すことなく行動を開始する。

 テフラはすぐさまウエストバッグから赤い液体の入った小瓶を飲み干した。

 それは『パワーアップの薬』と呼ばれる不思議なアイテム。

 摂取した者の力を短い時間、一時的に凄まじく上昇させるシンプルな薬! 

 

「ォ、……! 尾根の神よ!! 照覧あれェッ!!」

 

 全身が湯立つような、凄まじい力が全身にみなぎってくる。

 体の底から叫びたい、そんな興奮がテフラの脳裏を支配する。

 しかしその欲求をねじ伏せ、ギチギチ……!! と斧マスターキーを構え。

 前に進むために踏み込んだ。

 

 ──灰色の鋭い眼光が『八本脚』を捉えていた。

 

 さらに踏み込む! 

 マフラーの中でハピネスが必死にしがみついてるのを感じる。

 先ほどまでテフラに向かって放たれていた触手と同じような速度。

 距離があったはずの距離が一瞬で詰まる。

 近づいてくるテフラには気がついているのか『八本脚』が苦し紛れに触手をうねらせる。

 

 ──翼の装飾が美しい『鏡面の盾』が、自立して主人を守る。

 

 地面に踏み込む! 

 それは最後の一撃を放つための、強烈な足踏み!! 

 

 ──天高く振り上げられた斧が、その刃を美しく鋼色を反射する! 

 

 

「────俺が、ニシキの村のテフラだァあああああああ!!!!!」

 

 

『八本脚』の顔面に『パワーアップの薬』で上昇した力全開で、斧マスターキーを振り下ろす!! 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 衝撃が何重にも波紋を生み出し、『八本脚』の全身に伝播する。

 ビリビリと強烈な反動が幾重もの輪を作ってこの階層を揺らす! 

 

 光り輝く斧刃が『八本脚』を断頭するが如く、地面に叩きつけるように押しつけ続ける──!! 

 

 そして、遂に。

 

『──────……』

 

 ゆっくりと『八本脚』の巨体が地面へと押し込められていった。

 それは、この『ボス階層』のボスモンスターがダンジョンに食われていったということを表していた。

 

 静かになった部屋には二人だけ。

 

 マフラーから恐る恐る顔を出した青い鳥と。

 無言で勝鬨を上げるように、拳を天高くに振り上げた青年の姿が残る。

 

「しょうね、わっ。ふふ、お疲れさまテフラ」

「……ああ、本当に疲れたわ。ありがとなハピネス」

 

 拳を振り上げた青年は、そのまま疲れ切ったようにドサリとその場に腰を下ろす。

 青年は肩にいる青い鳥に向かって自身の頬を寄り添わせて喜びを示し、青い鳥もその頬に小さな体を押しつける。

 

 ハピネスの情報がなかったら、きっとここまで上手く戦うことはできなかっただろう。

 これから先の階層がどうなっているかわからない。

 ハピネスの見ていた場所もここで終わりだ。

 

 だけれど、テフラにはなんとなく二人で一緒ならきっと切り抜けることができる。

 そんな希望を自身の胸の内に強く感じるのだった。

 

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