カツカツと音を立ててテフラとハピネスは階段を降りていく。
出来ることであれば『八本脚』というボスを倒したことであるし、『報酬部屋』に辿り着きたいところだ。
辿り着ければレアリティの高いアイテムを手に入れる可能性が出てくるし、現状の手持ちのアイテム不足も解消できるので二人は祈りながら進んでいく。
そして、到着した場所は。
「少年、ここはどうなんだい?」
「……」
「私には……、普通のダンジョンの中に見えるけど」
「俺にもそう見えるよハピネス」
壁は白い岩がゴツゴツしており、床は雑草と砂利が生えた『八本脚』の時と同じようなテクスチャになっている。『報酬部屋』であれば、円形の部屋に白い柱が並び立ち、その中心に絢爛で大きな宝箱が配置されているはずである。
しかしテフラ達の視界に映ったのは、今まで通ってきたダンジョンと同じような小部屋である。
よく地面を見てみると、近くに何かしらの罠もあるようだ。
どう考えてみてもまだまだ続くダンジョンである。
「しゃあねぇ、今まで通り続けるか。『魔法の地図』を見よう」
「そうだね、少年。幸いなことに、敵に待ち構えられてる感じでもなさそうだ」
懐からテフラは『魔法の地図』を取り出し、ハピネスも肩から地図を覗き込む。
敵を示す赤い光点は、やはり配置されておりここが普通のダンジョンということを否応なく示している。
そして。
「お、なんだ?」
「青い点がいっぱいあるってことは……」
「「宝!」」
青い光点がマップ上に五つほどバラバラの場所で光っている。
今まさに欲しい資源の海。テフラとハピネスは思わず地図から顔を上げてお互いの顔を見合わせた。
「行こう少年! 何か食料もあるかもしれない!」
「おう!」
敵情報に変えた地図を片手に握り、テフラは歩き出すのだった。
◇
ズルズルと何かの声が奥の方から響いてくる。いつかのファットラットの時のような音にも聞こえるが、この階層は一度ボスを超えた先の階層だ。そんな優しい敵が現れるとはとても思えない。
現在地は一つ移動した小部屋。
テフラは背中の斧に手をやって柄を握り、今まで邪魔にならないように腕のほうで待機していた『鏡面の盾』がテフラの周りをくるくると回り出す。
手に握った『魔法の地図』では、一つ赤い光点がテフラの方へと向かってくるのを確認できる。
「接敵だね、少年。準備はいいかい!」
「おう、マスターキーの使い方もわかったしな」
「少年、無理をすると自傷ダメージがあるのがわかっているんだからほどほどにだよ?」
「……おう、丸薬をすぐに飲みた、うぷ、く、うっぷ……」
「どうどう、少年、味思い出しちゃったね……。よしよし〜」
緑色の丸薬はしばらくゴメンだと、顔を青ざめさせて胃の辺りをさするテフラ。ハピネスはそのテフラのほっぺたを翼でさするのだった。
二人がそんなことをやっている間にも、敵の音が近づいてくる。
テフラは小部屋の壁端に息を殺して斧を振り下ろせる状態で待つ。ハピネスもマフラーの中で息を潜める。
敵が入ってきた瞬間先制攻撃を決める予定なのだ。
ドキドキとする心臓の音が漏れないか心配になりながら。
────影が、見えた瞬間に上からマスターキーを強く振り下ろす!!
グチャッ! とテフラの手に妙な感覚が帰ってくる。割と強めに振るったつもりだが、マスターキーの斧刃が輝きはしても威力を生み出す衝撃の波紋が生まれない。
何かがおかしいと目を細めるテフラ。
視界に、何か湿った緑色の植物のようなものが切り離されるのがみてとれた。
よく見るとその千切れた緑色の植物のマスターキーが当たった部分が分離して──!?
テフラは斧を振り下ろした体勢のまま、後ろへと強くバックステップを踏む。
本来であれば、切り離された植物がぐにゃぐにゃと形を作っていく。
それはズルズルと、まるで水の中に生えるような植物の葉がボールのようになっていく。
動きは遅いようなので、テフラは油断なく斧を構えながらハピネスに声をかける。
しゅぽん、とマフラーから顔を出したハピネスがパチパチと目を瞬き、記憶をたどりテフラに情報を伝える。
「ハピネスわかるか?」
「図鑑で見たことあるけど、海の葉っぱのワカメってあんな感じだったような」
「……わかめってなんだよ」
「ウゥン! お互い山育ち!」
「とりあえず、海の草ってことでいいか!」
「多分そう! やっちゃえ少年!」
再生した敵の全身像が顕になる。
それは濡れたワカメが、ボールのような形になり頭の先にナメクジのような目を持っている敵だった。
体力が高いのか、防御力が高いのかどうやら先ほどの一撃では屠れなかったようだ。
「ま、なんか遅い敵だしなんとか……!?」
「少年、通路からもう一匹! 同じ敵!?」
たった今敵が出てきてテフラが斧を振り下ろした狭い通路からもう一体、同じ敵が現れる!
唖然、テフラは思わず自身の懐に意識を割く。
そこには『魔法の地図』がある。
「なっ!? 『魔法の地図』だと一体だけだっただろ!?」
「もしかしたら映らない敵かも少年! 気をつけて!」
テフラとハピネスが会話をする通り。
テフラが斧を振り上げるまで、『魔法の地図』に映っていた赤い光点はたった一つだけだったのだ。
何か嫌な予感がしつつも、テフラは斧を振り上げる。
幸いなことに、敵の動きは遅い。
「ワカメの集合体……、ワカメ丸だな! オラァ!」
「ワカメボールとかでも、少年!?」
そして再び、近くに居た方のワカメの集合体『ワカメ丸』が、グチュリ! と音をさせて真っ二つに裂け────すぐに再生を開始する!
「う、おっ!?」
思わずテフラは更なる攻撃。
両側で、同じように再生を開始したワカメ丸をさらに二等分。
しかし。
「だめだ! こいつら、なんて再生力、ってか数が増えてないか!?」
「……少年、一度攻撃をやめて!」
何かに気がついたハピネスがすぐさま、指示を出す。
だが、テフラは通路に控えていたワカメ丸が地面に煙を立てるほどの高速回転を見せているのに気がついた。
そして、目の前で再生している
やべっ、とテフラが思うとすぐにテフラの身を守るために空中を飛んでいた『鏡面の盾』が横に受け流すように、高速回転をしてきたワカメ丸を受け流す。
凄まじい音!
バチン! と『鏡面の盾』がのけぞるようにしながらテフラのための壁になる。
守り切ると、すぐさま『鏡面の盾』はテフラを守るように衛星のようにぐるぐると回り始めた。
なんとかなったと、テフラは壁際から部屋の中心に戻るように動き、ハピネスに告げる。
「ありがとう盾!! 何かわかったのかハピネス!」
「うん! 少年、あいつら『魔法の地図』に映っていなかったんじゃない!」
グチュり、グチュリ。生理的嫌悪感を放つ音を発しながら、小部屋の中にワカメ丸に轢かれたワカメ丸が────再生して数を増やす。
「攻撃をするたびに敵の数が分裂して増えてるんだよ、少年!!」
「……マジかよ」
テフラの目の前には、すでに八体のワカメ丸が生み出されていた。
全てが同じ姿形になっていく。
そして、再生をしたワカメ丸からどんどんその場で高速回転を────!
テフラの周りを飛んでいた『鏡面の盾』も、どのワカメ丸の攻撃から防げばいいのかわからずに右往左往をしている。
ぞくり、とテフラの背中に悪寒が走る。
こいつら、一斉に攻撃してくるつもりだと直感的にわかってしまう。
一体二体であれば受け切れるかもしれないが、流石にこれだけの攻撃を一気に受けてしまえば────死ぬ。
「少年!」
加速する思考。
倒せない敵。
ここは部屋の中央で、通路に逃げ出すにしても距離がある。
であれば、
すぐさま、腰のウエストバッグに腕を突っ込み乱雑にソレを抜き出す!
────小瓶を頭の上で握り砕き、中に入っていた銀色の液体を全身で浴びた!!
大量のワカメ丸がたった今までテフラが立っていた場所を駆け抜けていく。
それを眼下にテフラは天井に向けて飛び上がっていく。
テフラがたった今浴びたのは『ワープの薬』と呼ばれる薬。
飲んだり浴びたりすれば、かつての敵シーフキャットのように天井に飛び上がり、この階層の別な場所へとワープするというもの!!
ダンジョンの天井に到達すると、妙な浮遊感。
視界が眩い光に包まれ、パチパチと弾け。
「わあああああ、少年ー!?」
「ハピネス!」
──落ちていく。
テフラは持ち前の運動神経をうまく使い、きれいな着地を決め、ハピネスはマフラーの中でもみくちゃになった。
飛び上がった以上、落ちるのは当然である。
テフラはダンジョンの別な場所へとワープした。運が悪ければ、ワカメ丸のすぐ近くにワープしてもおかしくはないのだが、今回は運が良かったようだ。
幸いなことに、テフラがワープした場所には敵がおらず……ホッと二人は一息をつく。
そしてこの階層にやたら増えてしまったワカメ丸の倒し方について、二人して頭を悩ませるのだった。
ふえるわかめ。この世界で分裂レベリングは……。
前回吹き飛ばしワンド(5)を所持品から完全に忘却していたので追加しておきます。
現在アイテム
E:斧マスターキー
E:『鏡面の盾』
未鑑定『太陽のペンダント』
『鈍足ワンド(0)』
『吹き飛ばしワンド(5)』
白パン1 緑色の丸薬十粒
塗り薬 包帯