「で、どうしようか少年。地図がだいぶ真っ赤になってしまっているよ」
「階段を見つけ次第降りる……か、なんとか倒す方法を見つけるかだな」
テフラとハピネスは『ワープの薬』で逃げ出した後、『魔法の地図』を眺めながら頭を悩ませていた。
地図上には、先程テフラがいた部屋が赤い光点だらけで真っ赤に染まっている。
どうやら、最後の一斉攻撃のせいで分裂する敵『わかめ丸』同士がぶつかり合い、更なる分裂を生んでしまったようだ。
テフラを見失ってしまったせいか、先ほどの小部屋にあった二つの狭い通路から分散してこの階層内に広がっている様子が地図上に映っている。
しばらくすれば、離れた場所のテフラ達の現在地にもやって来てしまうだろう。
「……少年、宝の情報に変えてもらってもいいかい?」
「ん? おう、わかったぜ。何か思いつきそうか?」
「まだ何も。でもせめて少年の手札を増やそうかなって」
「?」
頭を翼でフニフニしていたハピネスが、テフラに指示を出す。
テフラの言葉にハピネスは首を横に降り、青い光点に表記が変わった地図の一箇所を指差す。
そこは今テフラ達がいる小部屋から一番近い小部屋の青い光点だった。
「相手が不思議な体質なんだ。少年、こっちだって不思議なアイテムで対抗するしかない」
「現状だとそれが一番か」
テフラはハピネスの言葉に頷きを返し、示された方へと歩いていく。
そして、ハピネスはテフラを少しだけ心配そうに見上げた。
その視線は、テフラの腕と背中の斧へと揺れていた。
「ねぇ少年」
「どうしたハピネス」
「………うぅん、次の戦闘まで見てから言うよ」
「???」
普段と変わりないテフラの表情を眺めながらその肩の上で、ハピネスは心の中で思う。
──少年、もしかして斧を思いっきり振れなくなってる?
ピンチの時でさえ、斧刃が輝かず衝撃波紋が生まれなかったことを少しだけ、ハピネスは引っ掛かりを覚えるのだった。
◇
軽く移動を終え、テフラとハピネスは『魔法の地図』が示していた青い光点の場所にたどり着く。
その小部屋の中心に、テフラはうずたかく積み上げられたナニカを見つけた。
「お、たか……ら?」
何度か目を瞬いて、顔を擦る。
現実は変わらず、そこには石が山積みになって転がっていた。
まさかと思ってテフラは顔を引き攣らせながら『魔法の地図』を覗き込む。
「これがお宝。というかアイテムか」
「うぅん……。少年、その石何か変わったところはないかい? ダンジョンでは特殊な投擲アイテムが手に入ることもあると聞くよ!」
ハピネス、やけくそ気味にテフラへと確認を依頼。
テフラも何かあれば良いなと、山積みされた石に特殊なところはないか確認していく……が。
見た目はただの変哲のない石。
強いて良いところを挙げるとすれば、ちょうど投げやすい握り拳位のサイズ感というくらいだ。
ハピネスが肩で羽をばたつかせる。
もうそれは駄々っ子の領域だった。
「ええい、期待させといてー! 投げたら爆発する石とか! 投げたらずっと飛んでいくとか!」
「お、お前って恐ろしい想像をするよな……。今まさに触ってるこれが爆発したらどうするんだよ。……でも、投げてみるか!」
ヒュー! カラン。
テフラが投げた石はダンジョンの壁にぶつかり地面に落ちた。
思わずハピネスと目を見合わせる。ハピネスはしょんぼりとした。
どうやら起死回生の策を生み出すには至らなかったようだ。
テフラは自身以上にしょぼくれるハピネスに苦笑いを見せながら、落ち着かせるようにハピネスを指で撫でる。
「まぁ投擲武器はあって便利だしな。ちょうど肩掛け鞄も空いてるし、ちょうどいい。そうだろハピネス」
「……そうだね、少年。前向きに考えよう」
肩を落として、二人は目の前の石の山。
合計十個の投擲石を手に入れるのだった。
テフラが言った通りに空いている肩掛け鞄に投擲石をしまい込み、再び肩にかけようとして持ち上げた、その時にあることに気がつく。
思わずテフラは目を丸くして、今まさに投擲石を仕舞い込んだ肩掛け鞄を上下に振る。
「なんか、思ってたより軽い?」
「むむむ? 何か変なのかい少年?」
肩掛け鞄の中には投擲石が十個というそれなりの量が入っている。
だというのに、白パン一個の時ほどの軽さではないが、妙に軽く感じるのだ。
食品を消費するまでは、それなりの重さだった過去があるのでテフラは首を傾げながらハピネスに相談する。
「ああー、それは多分『鞄拡張の本』の効果じゃないかな。その他に不思議な効果があることはしてないよね少年?」
そういえば、この母からの餞別の鞄に不思議な本を使ったことを思い出すテフラ。
中身が広くなるだけでなく、持ち手が軽くなるというサービス効果に何度も頷いて感心するのだった。
ズリズリ、這いずるような音がテフラの耳に入る。先ほど聴いた音だ。
咄嗟に鞄を肩にかけ、先ほど入ってきた方の通路をへ体を向けた。
そして地図を見る。目の前の通路には赤い光点は一つ……だが、奥の小部屋からゆっくりと赤い光点が三つほどが移動してきているのがわかる。ちらりと今いる小部屋の全体を確認するが────、移動するための狭い通路は目の前にしかなかった。
もう『ワープの薬』はない。
あったとしても、地図上には大量の赤い光点が蔓延っている。
使ったところで、敵のど真ん中に着地するのが関の山だ。
この迫ってくる四体の敵をなんとかして突破する他ないのだ。
覚悟を決めて、斧を引き抜く。
ゆらりとテフラの周りを『鏡面の盾』が回り始める。
「少年!」
「ああ」
通路の奥、見覚えのある姿形がこちらに向かってきている。
湿った植物ワカメを身体中から生やした円形の体。
その頂上から飛び出すナメクジのような突起した目がこちらを見た。
瞬間、ぐるぐるとその場でその丸い体を高速回転させ────テフラに突撃してくる!
「避けれる速度ではあるんだけどな……!」
「分裂に注意……注意なんだけど、どうしよう少年!」
転がり攻撃自体の速度はテフラが見てから避けれる速さだ。
テフラは素早くその場で横に回避をして、ワカメ丸の転がり攻撃を回避する。
そして、ワカメ丸はテフラの後ろにあった壁に強くぶつかるのだった。
ワカメ丸は目を回しているのか、のそのそと壁からゆっくりと立ち上がりを見せる。
明確な隙。
だけれど、テフラは歯がみする。
攻撃すれば増える、そんな敵とどう戦えばいいのだ!
そんな時、ハピネスが何かに気がつく。
「少年、あいつ今増えなかった……!」
「は? 攻撃してないのに増えられても困るぜ?」
「違うよ少年! あいつ、壁に強くぶつかったのに増えてないんだよ!」
転がり攻撃自体が高威力で、自身が目を回すほどの衝撃を受ける様子の転がり攻撃。
周囲に湿ったワカメがわずかに飛び散るが、そこから再生する様子は見せない。
ハピネスが必死で考える。
「……少年、さっき拾った石を投げて!」
「お、おう!? よくわからねぇけどわかった!」
テフラは斧を左手に持ち変えて、肩掛け鞄から先ほど拾った投擲石を抜き取り、振り抜き投げた!
良いコントロール、良い速度で石はまだ目を回しているワカメ丸に当たり……、そのままダンジョンに攫われて消えていった。
投擲物の末路。
だが、テフラは投げたフォームのまま目を見開く。
「増えてない」
「……打撃だ! 少年打撃で戦って! ……いや、待って」
「ちょ、まっ! ととと!?!? 早く行動を決めてくれ!」
斧の面で殴りかかろうとしたテフラは急停止。
起き上がったワカメ丸が不思議そうにテフラを見ていた……がすぐさまその場で高速回転の転がり攻撃をしてくる。慌てるテフラはその場で踊るようにくるくると回避!
テフラ渾身の指示待ち。
下手に殴りかかると増えられても困る。
「……ちょっと勿体無いかもだけど、石を全部使っていいからそれで倒して!」
「えええ!? あと九個しかないんだぞ!」
「わかってるよ、少年。でも、ここは未知の階層なんだ! 少しでも情報が欲しいよ!」
「……おう! 信じるぜハピネス!」
再び壁にぶつかり目を回しているワカメ丸に向かって、どんどんテフラは石を投げていく。
そして、合計で五つ投げて残り五個になった時。
ワカメ丸はぐっちゃりとただのふやけたワカメ塊となって、ダンジョンに食われていった。
その様子をテフラの肩の上からハピネスは光明を見つけた表情で見つめる。
すぐさま地図を見る。
残り三つの赤い光点はすぐそこに迫っている。
ハピネスが確信を持った様子で頷いた。
「少年、倒し方はわかったよ」
「おう。でも投擲石はあと五個だぜ」
「うぅん、それは取っておこう。次の実験だ」
トントンとテフラの腕を叩いてハピネスは言った。
「徒手空拳で、相手をちぎらないように倒せるかい……?」
ハピネスのその言葉にテフラは目を丸くすると。
──ニヤリ、口元を吊り上げてムキッと腕の筋肉を見せつけるのだった。
ワカメ丸を書いてるとスー○くんが頭をよぎる……。
現在アイテム
E:斧マスターキー
E:『鏡面の盾』
未鑑定『太陽のペンダント』
投擲石(5)
『鈍足ワンド(0)』
『吹き飛ばしワンド(5)』
白パン1 緑色の丸薬十粒
塗り薬 包帯