テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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沢のほとりダンジョン5

 

 三階層に下る。

 一階や二階と特に変わり映えのすることのない、シダの生えた湿った壁。

 ただ、少しだけ水の音が強く感じられるようになっただろうか。

 

 降りた場所は一つの小部屋。

 部屋自体は今までと変わらない。

 だが、今まで見なかったものが一つ部屋の端に置かれていた。

 喜色を滲ませる声で、テフラは後ろを振り返りながら声を上げた。

 

「宝箱だ!」

「「わぁ!」」

「ハハッ。おじさんになっても、コイツばかりはいつ見ても心躍るな!」

 

 木製の宝箱。

 不思議なアイテムなどが入っていたりする、ダンジョンの糧の代名詞。

 テフラ達は、はやる気持ちを抑えて、宝箱の周りを確認する。

 特に罠はないようで、頷くと一目散に双子が宝箱に走っていった。

 

「おーい。ほとんどないけど、宝箱の中に敵が入ってることもあるから気をつけるんだぞ」

「「うん!」」

「やれやれ、わかってるのかね? まぁ教導中初めて宝箱を見つけたら、子供が開ける決まりがあるから気持ちはわかるが」

 

 初めての開封、そういうジンクスがある。

 初めてダンジョンに入った人間が、初めて見つけた宝箱を開けると中身が良いものになるという与太話。そう、誰も調べたことがないから与太話だ。だが、この手の運が絡むものには、願掛けがあると気持ちが上がる。

 ちなみに、テフラが装備している手斧も、この手の宝箱から現れた物である。

 この手斧には特殊な効果などはないが、炎や雷などを纏う武器なども出現することがあるらしい。……まぁ、今入っているような易しいダンジョンでその類が出現することは珍しいのだが、やはり期待はしてしまう。

 

 イッサとサキも、宝箱から『特別』が現れることを期待して、翡翠色の目をキラキラ輝かせながら宝箱に手をかける。

 

「いっせーのーでで開けるですよ?」

「はいなのです!」

「「いっせーのーで!」」

 

 ガチャ! と勢いよく双子が木でできた宝箱を開封。

 すると、モンスターと同じように宝箱がダンジョンに食われ、地面に吸い込まれていく。

 続いて、光と共に、何かが地面に残った。

 

 わぁ! と顔を輝かせながら、二人は見せびらかすように抱え上げた。

 

「当たりだ。コイツはいくつあっても良いからな」

「おう」

 

 ラカブが双子が手に持ったソレを見て頷く。テフラも自分が腰に下げたソレを撫でて頷き返す。

 『帰還の洋燈』

 ソレを二人は笑顔で持ち上げた。

 ダンジョンから脱出するためのアイテム。高頻度で見つかるアイテムではあるが、ダンジョンに潜る際には必須とされているアイテム。

 ニシキの村では、村長家が個数管理を行うアイテム。

 なので、双子の手元に残るものではない、が代わりに──。

 

「『帰還の洋燈』を村長さんに持っていけば、村で美味しいものとか融通してもらえるようになるからなぁ。よかったじゃないか二人とも」

「はい、家族もよろこぶです! それに、宝箱一個だけだったので、サキと喧嘩にもならないです!」

「良い物が一個だけでても、イッサと喧嘩をするのはダメなのですよと、お母さんが言っていたのです!」

 

『帰還の洋燈』を村長に納品すると、村ぐるみでその家に礼をするという風習がニシキの村にはあった。なぜなら、このアイテムさえあれば危険なダンジョンに潜ってしまった際に人命が助かるから。

 そして。

 一番の理由はコレ。

 

 ──ダンジョン内でレアアイテムを入手した際の即時脱出が可能であるから。

 

 例えば、富をもたらす大量の黄金。

 例えば、泉ほどの水を沸き出す割れやすい瓶。

 例えば、入れた食品が痛んだり腐ったりしなくなる壺。

 

 ダンジョンでの攻略に、ソレらは持ち歩くことが不便で最悪の場合捨て置かなくてはならない。

 『帰還の洋燈』を持って複数人で潜っている時、その中の一人が『帰還の洋燈』を使い、ダンジョン攻略には不要だが人間にとって糧となるアイテムを持って、先に脱出することができるのだ。

 

 『帰還の洋燈』は、人間にとってダンジョン攻略に必須で不可欠なアイテムであるのだ。

 

 今回見つかった『帰還の洋燈』はイッサがテフラと同じように腰に下げて持ち運ぶ。嬉しそうに、下げた『帰還の洋燈』を撫でて嬉しそうにイッサは笑っている。

 

 そうして喜び合ったのも束の間、ダンジョン攻略は再開された。

 

 

 ◇

 

 

 階段を見つけるために、再び探索を進める。

 相変わらず狭いダンジョンの通路から少し広めの部屋に入った時、新たなモンスターを発見した。

 

 そいつはファットラットにどこか似ていた。

 ヒョロリとした尻尾に、鋭そうな齧歯類の牙。

 スンスンと、左右に三本髭の生える鼻を鳴らしてテフラ達を感じ取り、襲いかかってくる。

 

「ぢゅー!」

 

 部屋に一人だけ足を踏み入れたテフラは、双子を守るように木の盾を構える。そして、まだテフラの後ろで狭い通路内にいるラカブ達に、見つけたそのモンスターの名前を告げる! 

 

「おっさん、スラットだ!」

「あいよ。後ろの方は見とくから、双子にいいところ見せてやれ」

「おう!」

 

 スラットの見た目。名前的に某初心者向けの序盤モンスターをイメージしてしまうが、この世界では痩せたネズミである。

 ファットラットがものすごく太ったオオネズミとするのなら、スラ ットはソレを細く、……病的なまでに細くしたガリガリのネズミであった。決してコンパチブルキャラクターではない。

 

 ガリガリの細身の割に、素早く力強い動き。

 スラットはテフラに飛び掛かってきた。

 ファットラットの遅さに目が慣れていたイッサとサキが、目をパチクリとしてその様子を見ていた。頭に体がついていっていない様子。ファットラットで調子に乗った子供が、はるかに素早いスラットに痛い目に遭わされる事例は多い。

 

「オラァッ!」

「ぢゅ!」

 

 実はそんな痛い目にあったことのあるテフラは飛びかかってきたスラットを、油断せずに木盾で横殴りにバッシュ。

 強打して弾き飛ばす。

 スラットは、弾き飛ばされた割に器用な着地を見せる。

 そして、地面に降り立つと今度は地面を真っ直ぐ突貫してくる! 

 

「小さくてやりにくい、けど!」

 

 テフラはいつも通りの、左手の木盾を前に、右手の手斧を肩に担ぐ構え。

 それは姿勢を低く固定し、木盾に身を隠す防御の構えであり。

 そして、一歩踏み込みながら素早く武器を振るう事が出来る構えである。

 

 森番の倅であるテフラが習った戦い方は一つだけであった。

 特別な技なんてない。

 構えて、振るって、またすぐに構える。

 特に『またすぐに構える』を重点に、ひたすら反復練習させられた。

 

 使っている武器『手斧』。

 その武器の振るい方も、三つだけを鍛え上げさせられた。

 

 一つは、上から全身を使って振り下ろす強力な一撃。

 もう一つは、柄を短く握り、横に薙ぐ様に振るう牽制。

 最後は、下から敵をかち上げる、勢いのある一撃。

 

 今回は、ゴルフスイングの様に、下からスラットを手斧でかち上げる! 

 

「どりゃぁ!」

「ぢゅ!?」

 

 テフラは、スラットを下から弾き飛ばした手斧を、すぐに肩に構え直す。油断なく、再び弾き飛ばされたスラットを睨む。

 鼻先から叩き飛ばされ、白目を剥いたスラットが、ドサリと音を立てて地面に伏す。

 

 そして、ゆっくりとダンジョンに食われていった。

 

 小部屋の敵が今消えたスラット一匹だけだったことを目視で確認し終えると、テフラはようやく構えを解くのであった。

 

「よっし、倒したぜ!」

「ファットラットなんかよりとっても速いモンスターだったです!」

「ばんばんってやっつけちゃったのですよ! テフラ兄ちゃん、すごいのです!」

「へッへへー、どんなもんよ!」

 

 テフラの戦いを見て目を輝かせる双子に、嬉しそうにテフラは胸を張った。ニョキニョキと鼻が伸びていく様子が幻視された。

 だが、そんなテンションが上がったテフラを胡乱げな表情でラカブが注意を促す。

 

「はいはい、倒したらさっさと部屋の中に入ってね。またさっきみたいにドジするぞ」

「お、おう! わりぃおっさん……。もう罠にかかるのは懲り懲りだからな……」

 

 先ほど無様に吹き飛ばしの罠で壁に貼り付けられたことを思い出し、顔色を悪くしたテフラは平常心平常心、と気持ちを落ち着けるのであった。

 

 その後今いる階層をしばらく巡り、時折現れるスラットを的確にテフラ一行は処理していった。

 その中で双子も戦いを経験する。

 先ほどテフラがやったように、一人で倒すのではなく二人がかりであったが、上手い連携でスラットと戦闘をする。

 

「僕が弾くです!」

「私が撃つなのです!」

 

 同じようにつけた木盾を、イッサが先ほどのテフラを真似るように飛びかかってくるスラットをうまく弾く。

 子供のイッサでも、弾くことだけに集中すれば、直線的な動きしかしてこないスラットは上手く捌けるようだ。

 そして、弾いたスラットを片割れのサキが、スリングショットでうまく狙い、ダメージを与える。

 

 それを何度か繰り返し、スラットは倒れた。

 

 倒れたスラットからアイテムがドロップする。

 それは中が膨らんだ麻袋。

 

「いてて……。サキ、やったですよ!」

「うん! ……イッサ、腕大丈夫なのです? 守ってくれてありがとうなのです」

「腕も痛むですけど……、なんだか体がだるいです」

 

 スラットを弾いて盾をつけた場所の腕が痛くなったイッサが、顔を顰めながらまともなドロップ品の喜びを共有しようとする。サキはそれよりもイッサの腕を心配して、お礼を言う。

 サキに心配されたイッサは自己判断で大丈夫とは言わず、戦闘を見守っていたテフラとラカブに視線を向けた。

 

「ほれ、おじさんに見せてみろ。テフラ、ドロップ品取ってこい」

「おう! すぐ持ってきてやるぜ」

 

 すぐにラカブが動き、イッサの腕を確認して腰のカバンから緑色の塗り薬を取り出す。

 ダンジョン産の傷の治りが速くなる薬草を調合した薬品だ。

 腕は軽い打撲。

 盾を外して患部に塗り込み、素早く包帯を巻く。

 イッサは驚いたように薬を塗られた腕を上下に振る。すぐに痛みが消えていったのだ。

 

「腕はこれでいいだろう。それでまだ体の方はだるいか?」

 

 我に帰ったイッサは真剣なラカブに見られているなか、ぴょんぴょんとその場で跳ねて体の調子を確認する。

 

「あっ! ええと、……やっぱりちょっとだけ体が重いです」

「そうか。これも飲んでおけ」

「に、苦いやつです……」

 

 そして、不安げにラカブに言葉を返す。

 ラカブは頷いてから、再び腰の鞄を探って別な緑色の丸薬を取りだし、イッサに渡した。

 それを見たイッサは顔をしかめた。……村で使われている疲労回復や滋養効果のある特別な薬だ。

 

 特別に効くが、特別に苦い奴だった。

 大人でも、これを飲みたくないという理由で怪我を隠す人もいるくらい苦い。

 頭がガンガンするくらい苦い。

 

 丸薬を渡されたイッサは、ものすごく嫌そうな顔で口に運ぶのを何度も躊躇いながら、がんばって飲み込んだ。

 えずいていたのは、見なかったことにするべきであろう。

 頑張ったな、とラカブはイッサの頭を撫でてやる。

 

 イッサは口から涎をだばーっと出しながら、涙目で頷くのだった。

 

 

 体のだるみはダンジョン内で、ある事の大切な指針である。

 それは、ダンジョンに食われるかどうかということ。

 人間側から判断できる数少ないヒント。

 このヒントをスルーしていて、重い一撃や罠を喰らった際に人間は限界を迎えて気絶をして、そのままダンジョンに食われてしまう。

 イッサとサキは、ニシキの村の未来を作る子供たちだ。

 キチンと、丁寧な対応をして処置をしていく。

 

 

 そんな中、テフラが先程倒したスラットが落とした麻袋を持ってくる。

 

「おいこれっ、結構重いぞ! 良いもの入ってるかもな!!」

「本当なのです?」

「本当本当、ホレ」

 

 拾ってきたテフラが、サキに麻袋を手渡す。自分の身長の半分以上あるそれを、抱き締めるように受け取った彼女は驚いた顔でふらつく。

 

「わっ!? お、重いし、中がゴツゴツしてて固いのです……」

「サキ、僕にも見せてです!」

「うん!」

 

 慌てたように、イッサがサキの横まで飛んでくる。

 二人で麻袋の口に手をかけて、顔を見合わせ。

 にっこり笑って、言葉を合わせる! 

 

「「いっせーので!」」

 

 開かれた麻袋の中身に、テフラ一行は息を呑んだ。

 鮮やかな黄金の輝きが、辺りを満たす! 

 

「そ、それは……!」

「ハハッ! 美味そうだな!」

 

 色を表現するならば、黄金色としか表現できない魅せる美しい色合い。

 そして、なにより麻袋を開いた瞬間から辺りに広がるその薫り! 

 

「じゅ、じゅるりー……なのです」

「サキ、はしたなじゅるりですよ!」

「……そういうイッサもよだれ出てるのです」

「……えへへ」

 

 薬の苦さで苦しんでいたイッサが先ほどとは違う表情で涎を垂らした。メシの顔である。

 芳醇な甘さのある薫り、乳が発酵した濃厚な匂い。

 麻袋の中は、大量の穴あきチーズ。

 いわゆる『エメンタールチーズ』がこれでもかと言うほど詰め込まれていた。

 これには思わず、テフラも空腹を感じて腹を抑えた。

 

「……これぞ、ダンジョンの醍醐味だな」

 

 若者達の腹を空かせた様子を見て、訳知り顔でラカブが頷く。彼もグゥ〜とお腹が鳴っているのだが、もはや恥ずかしがる年齢ではないようだ。堂々と涎を垂らしていた。

 

 ダンジョン産の食い物は、めちゃくちゃ美味い。

 無事に帰ってから、これを肴にする酒が楽しみになったラカブなのであった。

 




ダンジョン飯好き。
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