部屋を訪れるワカメ丸達を、文字通り
磯臭くなってしまった小部屋には二つほど、木製の宝箱が落ちていた。
それはこの部屋に訪れたワカメ丸のダンジョンに食われた末路だった。
「ぜっゼェ……。これは臭いな……」
顎を上げて肩で息をしながら、テフラは疲れた様子で額を腕で拭った。ぬるっとするがもう気にしない。気にしたところでどうにもならない。
そんな時、マフラーの中からヌルテカした状態の青い鳥ことハピネスが顔を覗かせる。
「少年お疲れ、合計で二十匹くらい倒したんじゃないかい! 頑張ったよ、偉いぞ少年!」
「へへ、まぁこんなもんよ! なんとか分裂させずに凌ぎ切ることができたな。ハピネスの機転のおかげだぜ」
「ふふ、少年が使っていた格闘技のおかげでもあるよ!」
笑うテフラは力瘤を作った。
その時に服から絞られたワカメエキスが地面にぼたぼたと垂れるのをハピネスは見ないふりをする。テフラもそんなハピネスの頭の上に、少し乾燥してきたワカメが乗っているので指で取ってやる。
二人の目からはハイライトが消えていた。
「……このぬるぬるが一瞬で取れるアイテムドロップしないかな」
「……いつ来るかわからないボス戦に備えたいけど、今回ばかりはソレが欲しいね」
意見を一致させ、テフラとハピネスは宝箱を開けることにする。
モンスターからドロップしたのと、手が滑るので斧を振り下ろすのはやめておく。宝箱を壊したついでにすっぽ抜けて飛んでいき、投擲アイテム扱いになってダンジョンに攫われるのを危惧しているのだ。
テフラは宝箱の裏側にまわり、踵落としを送った。
彼にとって宝箱とはすでに、開けるものではなく壊すものになってきているようだ。
ぱこん! 良い音がして、宝箱の蓋が割れてダンジョンに食われていく。
もう一つの方もぱこんと同じように開ける。
ドチャ、と麻袋が二つ落ちる。
テフラは目を瞬いた。
ハピネスも封じられた部屋で見覚えがあったのだろう、目に光を取り戻し頷き合う。
「これはニシキの村で良く見た食料品が入っている奴だ!」
「少年、よかった! 懸念が一個減ったよ少年!」
すでに白パン一個しか無かったので慌てて駆け寄り、麻袋の中を覗くと。
「……」
緑色の湿った海藻がこれでもかというほど詰め込まれていた。
テフラには先ほどまで散々倒したモンスターと全く同じ材質に見えた。
そっと、横の麻袋の中も覗き込む。そこにも緑色の海藻が押し込められていた。
一度、目を擦ってから離れる。
そして先ほど宝箱を割った位置まで戻ると、テフラはハピネスに声をかけた。
「これはニシキの村で良く見た食料品が入ってる奴だ!」
「……少年、何度やっても中身は変わらないんだよ。うん図鑑で、食べ物とは……ウゥン」
「これ食えるのかよぉ……! どうやって食うんだよぉ……!!」
テフラは崩れ落ちた。
何も言えないハピネスは翼でテフラの頬をぺちゃぺちゃと叩くのだった。
この後テフラは恐る恐る生ワカメを口に入れる。人生で一度も口にしたことのない食材なので恐る恐るな様子だ。
不思議なダンジョンである以上、チーズや白パンなどと同じ食材ジャンルだ! そう強く思い込む。
そして、なんとも言えない顔で咀嚼をするテフラに、ハピネスが感想を尋ねる。
「どう? 食べれる少年?」
「……胃には溜まりそうだぜ。まぁダンジョンで出るってことは多分食える!」
「少年は満腹度が30上がった!」
「なんだそれ」
その場で、食えるだけワカメを食べるテフラ。
肩掛け鞄の中にも麻袋を中身が漏れないように、しっかり封をして入れておく。
ダンジョン内で食べれるものは大事だから仕方ないのだ、と強い自己暗示をした。
それに既に肩掛け鞄も外側はワカメエキスでビタビタなのだ。もうしょうがないと割り切っている。
──この時のテフラとハピネスは知らなかった。
生のワカメは特殊な消化酵素がなければ消化できない、その事実を。
後日に腹痛に苦しむテフラに対しハピネスはワカメ丸の呪いだ! と二人であたふたすることになるのだが、今は置いておこう。
◇
地面に座り込みむしゃむしゃと生ワカメを貪る蛮族プレイを堪能したテフラは立ち上がった。
流石にこの階層に降りてから時間が経ってきている。
天井の光も僅かに陰ってきているので、探索を急足でしなくてはいけない。
勿体無いがこの階層初めに見た『魔法の地図』に示された残り四つのお宝よりも、階段を探すことをメインにしなくてはならないだろう。とはいえ、回ってない部屋を巡るので手に入れられる確率は大いにあるのだが。
「よし『魔法の地図』の敵を示す赤い光もだいぶ減ったことだし急ぐぜ」
「うん! でも、ワカメ丸と会った時は落ち着いて冷静に対応だよ? 今度大量に分裂されたら、時間切れになって『掃除人』が現れてしまうかもしれない」
「おう」
返事をしてテフラは急足で狭い通路を進んでいく中、ハピネスが思いついたように言う。
「そうだ少年。ワカメ丸が印象深くて忘れがちだけど、あのモンスターはまだこの階層で一種類目の敵だからね」
「……そう言えばそうだったな」
「ワカメ丸みたいに時間稼ぎされる分裂系……が二種類いるとは思わないけど、注意しておくに越したことはないと思うよ」
「分かった」
大量にワカメ丸と会敵したせいで忘れがちだが、この階層であったモンスターとしては一種類目だ。『ボス階層』を超えた先の敵が一種類とはあまり考えにくいとハピネスは思ったのだ。
『成長装備』のために経験値が欲しいところではあるが、この階層に来てからの時間経過を考えると出来るだけモンスターは避けた方がいいかもしれない。
そう思って『魔法の地図』を見てみるが──そうは問屋が卸さないようだ。
「……多分この階層、乙みたいな形になってると思うぜ。戦闘は避けられないかもしれない」
「どう言うことだい少年?」
「ほら、見ろ。この右下がさっきまで俺たちがワカメ丸と戦った部屋。んで、ここが『ワープの薬』で逃げ出した場所。そこから、まだ倒しきれてないワカメ丸の光点を追っていくと……」
テフラが指差すそこは『魔法の地図』上で、一番右下にあった。
狭い通路が一つしかないどん詰まりになった部屋だ。
テフラは地図の赤い光点にそって指を動かしていく。左下から斜めに上がって行き、『ワープの薬』を使った部屋の地図中央に辿り着き、さらに赤い光点の形を追っていくと……、指の動きを見届けたハピネスは確かにと頷いた。
「確かに少年が言うように乙という形になっているように見えるね。一番奥へ行く前に、階段があればいいのだけれど……」
「運がいいことを祈るしかねぇな。まぁ逆に一番奥であれば、全部のお宝拾っていけるって考えられるさ!」
そして二人は赤い光点が今いる部屋に迫ってくることに気がつき、テフラは拳を構えてハピネスは逡巡してからまだ乾き切っていないマフラーの中へと飛び込む。
初めのように姿を隠してからの強襲はワカメ丸がいるせいで出来ない。
ゆっくりと狭い通路から近づいてくる敵を、大きく呼吸をしながら待ち構える。
そういえばニシキ村で教えてもらったことが、悪い方向に向かったのは初めてだなと苦笑い……。
……ふと、テフラは思う。
まるでニシキ村で子供が覚えた事への対策のようだな、と。
「いや、流石に考えすぎか」
「少年?」
「なんでもないぜ! ハピネス、ワカメ丸だ! ぬるぬる我慢しろよ!」
「ふええ、やっと乾いてきたのに……」
首を横に振ってテフラは『鏡面の盾』を足の甲に設置し、転がり攻撃の予備動作の高速回転をし始めたワカメ丸に対して、手をクイクイと動かして挑発するのだった。
ちなみにワカメエキスは、ダンジョンの床に接地すればダンジョンに食われて消えます。
ダンジョンの床をコロコロテフラとコロコロハピネス。
……テフラ君は手のひらを一度床で拭ったのに気が付かなかったみたいですね。
現在アイテム
E:斧マスターキー
E:『鏡面の盾』
未鑑定『太陽のペンダント』
投擲石(5)
『鈍足ワンド(0)』
『吹き飛ばしワンド(5)』
白パン1 生ワカメ五食分(New!) 緑色の丸薬十粒
塗り薬 包帯