分裂する敵、ワカメ丸の倒し方を見つけたテフラとハピネスは『魔法の地図』を使い、現在の階層が乙字型マップであると言うことに気がついた。
現在地は『魔法の地図』上で乙の右下に当たる部分。
よって地図上の右下から左上を目指して、階段を探して二人は進んでいく。
増えたワカメ丸の処理に時間がかかってしまっているので、天井の光も陰ってきている。
そして、道なりに進むと言うことは現れるモンスターとぶつかり続けると言うこと。
「ワカメ丸、三体!」
「増やさないように気をつけて!」
単調な攻撃しかしてこないワカメ丸に対しては、同士討ちを気をつけるために出会う小部屋の中で足を止めずに部屋の縁を走り移動する。そして、斧マスターキーを使わずに、一匹一匹丁寧に拳や蹴りなどで仕留めていく。
……まぁその後は当然ワカメエキス濡れになるのだが、仕方ないのだった。
そんなこんなで、乙の左下側。
中央方向へ上がっていける部屋にたどり着いた時、テフラは次の小部屋へ狭い通路からこっそり顔を覗かせて周囲を見回す。
階段はなかったが、その部屋には『魔法の地図』で青い光点が存在していたはずだった。
「……あれって」
「石だねぇ少年」
再び山積みにされた投擲石を見つける。
地図上には宝のある場所が残り三つ記されているが……、正直期待出来なくなってきたテフラであった。
生ワカメと石が入った肩掛け鞄はまだ空きがあるので、テフラは合計十個の投擲石を肩掛け鞄に入れていく。
その時、ハピネスがパッと顔を上げた。
「少年、何か聞こえないかい?」
「……ああ、足音だ。ここで迎え撃つぞ」
「少年、その……。斧が振りにくいとかはないかい?」
「ん? ああ、一応手のひらは拭っておくか! すっぽ抜けるとまずいからな」
「いや、そう言うことじゃないんだけど……」
ズン、ズン、とテフラは足元が揺れたのを感じた。
手のひらを擦ってワカメエキスのぬめりを取り、マスターキーを構える。
その様子をハピネスは心配そうに見たが、結局何も言わなかった。
結局ワカメ丸が特殊な性質をしているから、テフラが斧を存分に振るえなかっただけかもしれないのだ。
背中の斧を握るテフラは、狭い通路に体を向ける。
テフラが見ている狭い通路から現れたのは、大きな足音を響かせる毛むくじゃらの獣だった。
巨大な狼じみた姿。鋭い牙が口からのぞいている。
ソイツは狭い通路を体を縮めて四足で歩いてくる。
そして、小部屋に入ってくると、人間のように二足歩行で立ち上がり──吠えた。
「GOAAA────!」
ビリビリと、空気が揺れる。
だが、テフラは笑った。
「へッ、上にいた『八本脚』の声の方がデカかったぜ! えっと、お前の名前は……狼っぽいし、でも立つんだろ……?」
名前名前……とテフラが油断なく構えながらも呟く。
きらりと目を光らせたハピネスが命名戦の先行を奪う。
ワカメ丸で先手を打たれたので、ハピネスも名付けがしたいのだ。
「ワーウルフ! ワーウルフだよ少年!」
「えっ!? え、犬、狼だろ? ……狼丸とかはどうだ?」
「ワカメ丸と被ってるからダメ。ハイ、少年! 戦闘だよ! 頑張れー! 気をつけてワーウルフと戦ってね、少年っ!」
「ぐぬぬ……、って言ってる場合じゃねぇ!」
「GURR!」
二足歩行になった狼の怪物、ワーウルフは
────振り下ろす挙動。
テフラには届かない場所での行動。
だが、モンスターが意味のない行動をしてくるとは思えない。
テフラはすぐさま自分とワーウルフの間に『鏡面の盾』を設置して、身を屈める。
そして、弾丸のように『鏡面の盾』ごと、前へと突っ切るように駆け抜ける。
地面を舐めるほどの前傾姿勢。
ワーウルフを睨みつけるように、視線は前に向け続ける。
ガリガリッ! と『鏡面の盾』の表面をナニカが火花を散らして弾ける。
走りながらテフラは見た。
盾の表面を走った火花が、まるで振るった爪のような軌道を描いた事を。
「爪で遠くも切り裂けるってか!」
「少年、あの巨体だ! 絶対近距離も強いよ!」
「おう、分かってる! ──来い、盾ッ!」
ワーウルフは上から下に爪を振り抜いて、流れるような動作。
そのまま毛むくじゃらの両腕を地面に接地──、四足歩行でテフラに突貫してくる!
全身を使った単純なタックル。
まるでテフラの目の前に壁が現れる。
剛ッ! と前に走り出していたテフラに凄まじい風圧が押し寄せる。
テフラは前にあった浮遊する『鏡面の盾』を階段のように設置。
グッ! と強く踏み込む。
それは『八本脚』戦中に行った、浮遊するようになった『鏡面の盾』の新たな使い方!
空中を移動するための足場として活用する、三次元戦闘を可能とする不思議なアイテムの使い方!
──テフラは身を反転するように捩りながら、高く跳び上がる。
眼下、ワーウルフが暴風のようにテフラがいた場所を駆け抜ける。
バタバタと、テフラの灰髪とマフラーが風に靡いた。ハピネスがいつものごとくマフラーの中でもみくちゃになる。
ワーウルフは飛び上がったテフラを追撃するために、動かしていた体を急停止させる。だが慣性に従う体はズザアア、と擦過痕を残しながら横滑り。
それを見逃すテフラではない。
空中で斧を頭上に掲げ、重力に従って落ちながら斧を強く振るう。
斧はそのまま吸い込まれるように、宙を見上げるワーウルフの顔へ当たった。
────だがすぐさま当たったはずの斧がワーウルフの腕に払われる!
「GAAAA────!」
「んな、効いてねぇ!?」
空中で体制を崩され、テフラは驚愕して目を剥く。『八本脚』でさえ怯むマスターキーのはずなのに……! と頭の中が疑問で埋まり、体の動きが止まってしまう。
身動きができない状態。
テフラの眼前に、ワーウルフの拳が迫る。
まるでコマ送りになる視界の中、テフラは
瞬間、空気を切る音。
ガンッ!! 『鏡面の盾』がワーウルフの拳へ俊敏に飛び込み、拮抗。
──だが、押し切られ……!
ハピネスが叫んだ!
「少年吹き飛ばし!」
「────ッ!」
ほぼ反射でハピネスの指示に従い『吹き飛ばしワンド』を振るう!
ワーウルフは至近距離で『吹き飛ばしワンド』の光を受け、後ろの壁まで吹き飛ばされていった。
テフラも空中から無様に落ちて、ダンジョンの床に転がる。
ワーウルフも壁に叩きつけられてからすぐに頭を左右に振って状態を確認して、テフラに向けて再び両腕を振り上げた。
心内の動揺を噛み殺し、テフラは横に走り抜ける。
背中の方で、ダンジョンの床に火花が走る。
そんな最中、ハピネスがテフラに言い聞かせる。
「一撃で倒さなくていい、少年!」
「でも、マスターキーは強い力を加えれば──」
テフラは『八本脚』戦で行ったマスターキーの真価を発揮する方法をハピネスに、伝えようとして。
その途中で、ハピネスが大声を上げて遮った。
それはテフラにとって大事なことを思い出させる言葉。
「本来君は大きな一撃じゃなくて、手数で攻める方が得意だろう! 忘れたのかい、少年ッ!」
「! おう、やってみるぜ!」
「なんでさっき倒せなかったとか疑問はいろいろあるだろうけど、それは後でだよ!」
柄の先をぎゅっと握っていた両手を解く。
斧を右手を斧刃近く、左手を柄の方を握った。
マスターキーが成長して『八本脚』戦からずっと大振りしていた斧を細かく振える構え。
手斧型の時とは違い、村で訓練していた構えが使えないので今即興で考えた使い方。
だけど、どこかしっくりと来て頷く。
「……そうだよな、大振りし続ける必要なんてどこにもないもんな。お前はボスでもなんでもないんだからよ」
独りごちるテフラ。
飛ぶ爪斬撃の後、ハピネスとテフラが会話をしていた間にも行動をしていたワーウルフが接近していた。
思念。
左腕の肩の辺りに『鏡面の盾』を呼ぶ。
そして、テフラも左肩から突っ込んでくるワーウルフに立ち向かった。
一見無謀にも思える行い。
甲高い音。
『鏡面の盾』にワーウルフのタックルが当たった音。
テフラに衝撃──は来ない。
なぜなら盾は自立して浮いているのだから。
その音が鳴り、ワーウルフの突進の速度を盾が僅かに緩める。
と同時、テフラはぐるりと回転するようにステップを踏んで、ワーウルフのタックルをスレスレで回避。
無駄に飛び上がったり、格好をつけた三次元軌道などではない。
だが洗練されている動き。
「親父との組手で、あんな飛び上がり、捕まえられて地面に叩きつけられてたぜ! オラよッ!」
「GUU……!?」
ステップをしながら、テフラは握り直したマスターキーを横を通り抜けるワーウルフの脇腹に食らわせる!
先ほどの顔面への叩きつけよりも、はるかに少ないダメージ量。
だが、テフラ自身は先ほどよりもはるかに安全だ。
ローリスク。
それこそが不思議なダンジョンを攻略するに当たって一番大事なモノ。
ボス『八本脚』を倒し、気が大きくなっていたテフラが忘れかけていた事柄だ。
「目が覚めたぜハピネス。ありがとな」
大事なことを思い出したテフラは、ワーウルフとの距離ができた後に、斧を肩に担いで鼻を擦り肩の友人にお礼を言う。
「ふふ、どういたしまして!」
ハピネスもテフラの調子が戻ってきたと感じて笑みを送る。
そうして大振りをやめたテフラの前に己の技を完封されたワーウルフは、数回の衝突の後にあっけなくダンジョンに食われていくのだった。
お気に入り感想評価ここ好き誤字報告いつもありがとうございます。
誤字脱字が本当に多くて……本当に申し訳ない。
現在アイテム
E:斧マスターキー
E:『鏡面の盾』
未鑑定『太陽のペンダント』
投擲石(15)
『鈍足ワンド(0)』
『吹き飛ばしワンド(4)』
白パン1 生ワカメ五食分 緑色の丸薬十粒
塗り薬 包帯