テフラdeダンジョン   作:唯のかえる

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『生贄ダンジョン中腹10F』


生贄ダンジョン中腹6

 

 隙のない立ち回りをすることを思い出し、ワーウルフを倒したテフラとハピネスは先に進む。

 階段はまだ見つかっていない。

 現在地は『ワープの薬』を使った中央の小部屋。

 

「少年、一応の確認なんだけど」

 

 ハピネスがテフラに確認をしようと声を上げた。

 テフラは周囲の罠を警戒しながら首を傾げる。

 

「もしかして、少年斧を思いっきり振れてないんじゃないかい?」

「ワーウルフの顔面に斧をぶつけた時の話か?」

「それだけじゃなくて、ワカメ丸に先制攻撃した時とかもだね」

 

 うぅん、とテフラは顎に手を当てて悩み込む。

 どうやら当人としては意識していない部分らしい。

 しかし、疑問に思う部分もあったのかこう答える。

 

「一応、思いっきり振りかぶった訳だし……いや、どうだろう振り切れてないのか? マスターキーの斧刃も輝かなかったもんな」

 

 敵がいないことを『魔法の地図』で確認すると、背中から斧マスターキーを取り出しその場で数回素振りをする。

 だが、すぐにテフラは肩をすくめた。

 どうやら普段との違いが分からなかった様子だ。

 

「だめだ、自分じゃわからねぇぜ。でも、ハピネスは見てて感じてたってことだよな」

「うーん、私は戦闘なんてやったことないから、本当に状況から感じただけなんだけどね」

 

 素振りでは普段と同じ感覚なのか、テフラは灰髪を掻いて眉根を顰める。

 そのテフラにハピネスが乾いてきた翼をパタパタと振り回して、ハピネスがはたから見ていて感じたことをいくつか上げる。

 

「まず『八本脚』戦は普通に武器を扱えていたでしょう? で、この階層に来てから調子がおかしい。だったら少年の不調はその間にあるよね」

「ワカメ丸に特殊能力があるとかはどうだ?」

「……もしもあの敵にそんな能力があったら、ステゴロで何体も倒した少年はもう力が出せないんじゃないかな。だからそれ以前で考えるよ!」

「それもそうか」

 

 思い出すのは『八本脚』戦。

 テフラは敵の触手に攻撃する時、しっかりとマスターキーの威力を増幅させることに成功していた。

 ハピネスが一番注目しているのは、最後のトドメの後だ。

 

「少年、もしかして体の方が本気で敵を殴ると反動が来るって竦んじゃってるかもしれない」

 

 トドメの後、テフラの腕は痺れてしばらく使い物にならず緑色の丸薬で無理やり回復した。

 緑色の丸薬とは本来テフラが大ダメージを受けているときに使っているアイテムである。

 逆説的に考えると、緑色の丸薬を使わざるを得ないほどのダメージを武器を振っただけで受けたのだ。

 その説明を受けると、テフラもありえないことじゃないのかなと深く考える素振り。

 ハピネスは話を続ける。

 

「『パワーアップの薬』って自分の限界以上の力を出してしまうんだと思う。だから『八本脚』を倒せたわけだけど、自傷ダメージがある劇薬だったんだ」

「でもあれがあの時の最善だったからな」

 

 赤い液体の入った小瓶『パワーアップの薬』の効果時間が短くて良かったとハピネスは思った。長々と効果があると、使用者の肉体を限界越える代償の反動で、テフラは潰れてしまっただろう。

 ボス戦の最中でテフラが動けなくなってしまっていたら、アイテムのデメリット効果を知らなかったとはいえハピネスは強い嘆きを抱えることになっていたはずだ。

 そんなハピネスの思いを露とも知らず、テフラは朗らかに笑う。

 

「ちょっと斧を強く振る時は、普段以上に意識をして強く振るってみるぜ。気がついてくれてありがとな、ハピネス!」

「……」

 

 例えば『八本脚』戦でやったような全身を使った回転攻撃などをテフラはイメージして答える。

 腕の力だけじゃなく全身で遠心力を加えれば、自身の体が竦んだところで威力は出るはずだ。

 

 テフラの体が無意識に拒むレベルの反動に色々思うところはあるハピネスだったが、使いこなすことができればマスターキーはとても強い武器だと分かっている。反動が来るとはいえ、今後使っていけばきっとこのダンジョンを突破する希望になるだろう。

 だが、ハピネスとしてはテフラには無理をして傷ついてほしくはない。

 

 少し逡巡したのちに頷き返す。

 結局使えるものは使っていくしかないのだ。

 

「……うん。でも、隙が大きくなるから気をつけてね。さっきの戦闘でも言ったけど、少年は本来盾と手斧で戦っていたんだからね?」

「おう、同じミスはしないように気をつけるぜ!」

 

 分かってる、とテフラはハピネスを指で撫でた。

 ハピネスはその言葉を信じて、テフラの指に目を閉じて体重を預けるのだった。

 

 

 ◇

 

 

 天井が徐々に陰ってくる。

 今は地図の形である『乙』の右上まできたところだ。

 テフラの持つ『魔法の地図』には赤い光が行き先の方で数点光っている。

 どうやら戦闘は避けられない。

 しかも同じ部屋に数匹いる。

 そっとその小部屋を覗き込むと……、宝箱が一つとワーウルフとワカメ丸。

 

「多分あの宝箱はミミックじゃねぇかな……」

「うんうん。この階層の他の宝は石ころ積み上がってるだけだもんねぇ」

「それに、ワカメ丸とワーウルフを同時に戦うのは正直面倒だな」

 

 斧を使うと増えるほぼほぼ分裂してしまうワカメ丸。

 ワーウルフはステゴロで戦うには少々タフすぎで、デカく単純に強いモンスター。

 

 そしてなにより、テフラとハピネスは二人してため息を吐いた。

 

「少年、ワーウルフの飛ぶ爪斬撃で、ワカメ丸増えそうじゃない?」

「奇遇だな。俺も今思ったところだ。ついでにワカメ丸から素手で潰すと斧がしばらく握れない」

「ぬるぬるするもんねぇ」

 

 単純に嫌なモンスターの組み合わせだなぁと狭い通路に隠れながら、テフラは頭を悩ませる。

 チラッと自身の投擲石の入った肩掛け鞄を見て、その後にハピネスと視線を合わせる。

 

「そう何度も使える手じゃないが、今回はワカメ丸だけ投擲石で仕留めるか」

「うん、今は時間がないしそれがいいね。少年、五個でトドメだよ」

「問題は、五個も投げている間にワーウルフがこっちに気がつかない……ってのは無理だよなぁ」

 

 小部屋の中をうろうろと、彷徨うワーウルフとワカメ丸。

 幸いなことに、狭い通路であるこちらに寄ってくる気配はない。だが、早めに行動をしなくては『掃除人』の来る時間になってしまう。

 宝箱もあることだし、アイテムを放出してもいいかもしれない。

 

「『吹き飛ばしワンド』と『鈍足ワンド』どっち使う?」

「『吹き飛ばしワンド』がいいかも。『鈍足ワンド』は宝石がもうないけど、投げれば効果はまだ使用できる上に、手持ちだと一番強力だからね」

「……おう、そうだな。んじゃそうするか!」

 

 鞄から投擲石を取り出し、強く踏み込み投擲!

 そして狭い通路の中が戦闘場所とならないように、部屋の中に突入していく。

 狭い通路の直線では、ワカメ丸の転がり攻撃もワーウルフの飛ぶ爪斬撃も横に避けることが出来ないと言う判断だ。

 

 ワカメ丸に投擲石があたり、ダメージが入る。

 そしてワーウルフがテフラに気が付き、()()()()()()()()大きな咆哮を!

 

 ――――そして、大きな咆哮を受けた宝箱『ミミック』がその場で、牙を剥き出しにして正体を表した!

 

「ヤベェ!?」

「とにかくワカメ丸から! 分裂されると厄介だよ少年っ!」

「おうっ! ……って、跳んだぁ!」

 

 どうやら開幕にしてくるワーウルフの咆哮は、ミミックの擬態を解く程度の威力があったようだ。

 宝箱からドドメ色の舌がベロンと飛び出し――跳んで、テフラの頭上から襲い掛かる。

 その様子はまるでテフラに今まで後ろから斧を振り下ろされていた仕返しのようにも思えた。

 生贄ダンジョン二階以来のちゃんとした擬態解除である。

 擬態を解いたワーウルフも、え、お前跳べるの!? と少し驚愕の様子。

 

 そして飛びかかったミミックが迫った時――。

 

 ゴン! 横から空中で身動きできないミミックに、勢いよく駆けつけた『鏡面の盾』が真横からバッシュして地面に叩き落とした。

 

 ポテン、とミミックがダンジョンの床に逆さまに落ちる。

 

「「……」」

「GUR……」

 

 バタバタと逆さまに落ちたせいで、起き上がれないミミック。

 大きな舌は生えているが、ミミックに手足はなかった。

 部屋に妙な沈黙が訪れる。

 成し遂げた『鏡面の盾』はテフラの周りをくるくると回ってキラリと鏡部分を光らせた。『鏡面の盾』にもしも表情があればおそらくドヤ顔だ。

 

 ハッ! とその様子に意識を取り戻すテフラはワカメ丸に続いての石ころを投げ始めた。ワーウルフも思い出したように再び咆哮を上げた。ワカメ丸は慌てふためいている。

 

 妙な空気の中、戦闘が開始される!

 

 その後『吹き飛ばしワンド』を二回使ってテフラはワーウルフとワカメ丸、そして地面でもがいていたミミックのモンスターの群れを倒すのだった。

 

「……少年、ミミックがなんだかかわいそうに思えてきたんだけど」

「いや、俺はこれからも後ろから倒すぜ。安全だし」

 

 このダンジョンでここまで活躍のできないモンスターに何か感じるものがあったのか、ハピネスは少し同情気味だ。

 しかし、テフラは絶対に今まで通り倒すという意志を見せる。

 それが安全だから、仕方ないのだ。

 

「ウゥン。あ、ドロップアイテムだよ少年」

「やっとまともなアイテムか!?」

 

 カラン。

 ダンジョンに食われていったミミックは赤い宝石の中で炎が燃え盛る杖を落とした。

 今まで見たことのないタイプの宝石。

 効果がわからないので、肩のハピネスをみる。

 彼女が知らなければお手上げだが、どうやらハピネスは知っている様子。

 

「ええっと、これは……振ったら少し先まで炎の壁ができる杖だよ! 他の杖と違って遠くまで光が飛んでいかないから気をつけてね」 

「へぇ。面白いのが手に入ったな!」

 

 ぴょこぴょことハピネスは全身を使って喜びを示している。なかなか使える杖なのかもしれないとテフラは思った。

 その杖は『火柱ワンド』と名付け、二人は先に進んでいく。

 この階層もあと少し。

 その後、二人はつつがなく探索を進め『乙』型の最奥である左上で階段を見つけることができた。

 

 地図上、青い光点の残り二つも見つけたが、やはり山積みされていた石だった。

 今回のように複数敵がいる状態でワカメ丸と戦う際に必要になるので、文句を言わずにテフラは鞄に詰め込んだ。

 

 天井の光が完全に黄昏に染まる前に、テフラとハピネスは次の階層に進んでいくのだった。

 




季節柄体調を崩しやすい季節なので皆様もご注意ください……。
予約投稿ミスったけどヨシ!(現場猫)

現在アイテム
E:斧マスターキー
E:『鏡面の盾』
未鑑定『太陽のペンダント』
投擲石(30)

『鈍足ワンド(0)』
『吹き飛ばしワンド(2)』
『火柱ワンド(3)』
白パン1 生ワカメ五食分 緑色の丸薬十粒
塗り薬 包帯
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