「ねぇ…アンタって貧乳派?」
目の前に座っている女…恋人である彼女から突然、そんなことを言われた。
飲んでいたコーヒーを漫画のキャラのごとく吹き出すことはなかったが、誤って気道に入れてしまい、むせかえる羽目になった。
「な…なんでいきなりそんなこと聞くんだよ…」
「だって今日、アンタの友達から聞いたし。タカヒロのやつ、実は貧乳好きなんだぜーって」
そんな会話をつい最近友達とした気がする。巨乳派か貧乳派かで盛り上がってしまい、クラスの女子からは白い目で見られたような…
「で、どうなの?ホントにアンタって貧乳好きなの?」
尚も畳み掛けてくる彼女。どうやら逃がしてくれる気配はない。さて、どう答えるべきか…
「その顔…まさか図星?てことは、アンタはあたしの胸に何の魅力も感じてなかったってこと?」
俺が答えられぬ間に、彼女はさらに追撃をかけてくる。たしかに彼女の胸は大きい。一般男性なら、それこそ一瞬は釘付けになってしまうくらいのボリュームはあるのだ。しかし、あの時の友達への答えと俺の真意は違うのであって…
「ふーん…じゃあつまり、今まではあたしより小さい胸の女見てたんだ。これ、浮気判定していい?」
「ちょ、待てって!流石にそこまでは…!」
「だってそうじゃん!彼女より違う女見てたんなら、それって浮気ってことでしょ⁉︎」
目に見えて彼女の機嫌が悪くなった。元々嫉妬深くて怒りっぽい性格ではあったが…とにかく、このままでは別れ話にまで発展しかねない。かくなる上は…
「ねぇ、聞いてる⁉︎ 黙ってないでなんとか言っt……⁉︎」
椅子から立ち上がり、渾身の力で彼女を抱きしめる。そして本当の気持ちを伝えるべく、口を開いた。
「お、俺さ…一番に好きなのはお前の胸だ。てか、彼女が一番じゃないなんてあり得ない。これだけは信じてくれ」
一瞬、彼女は息を呑んだように見えたが、すぐに口を開いた。
「そんなの…どう信じろっての?今までのこと思い返したら、アンタあたしの胸全然見ないし…」
「それは…!彼女だからこそ、そういうとこばっか見るのはダメだなって…!胸ガン見して胸だけが好きなんでしょなんて言われたら、否定しようがないし…!」
「何よそれ…普通逆でしょ?彼女だからこそ、もっとたくさんそういうとこも見るべきじゃないの?」
たしかにその通りかもしれない。でも俺は…
「お前さ、前に言ってたろ?胸がデカいせいで男からエロい目線ぶつけられるのが気に食わないって。だから俺はそういう奴らと同じに見られたくなかったんだ…」
つまりはそういうことである。あの時友達に思わず貧乳派と答えてしまったのも、結局、俺は他の巨乳が好きなだけの男とは違うんだぞ!っていう意地からなのだ。
「ふーん…なるほど、そういうことね。とりあえず納得したわ」
ようやく納得してくれたらしい。声色から察するに、少しは機嫌も良くなったのだろう。
「納得はしたけど…まだちょっと不満。とりあえず後ろ向いて」
彼女に言われるがまま、俺は彼女抱いている腕を解いて後ろを向く。と同時に、背中にふくよかな感触が当たった。
「どう?当ててんだけど…感想は?」
少し拗ねたような口調で彼女は尋ねてくる。それに対する俺の答えは一択。
「柔らかくて気持ちいい。ありがとう」
男として、彼氏として嘘偽りなく正直にそう答えた。というか、リアル当ててんのよをこの身で体感できる日が来ようとは…
「ふん…当然でしょ。こんなこと、アンタにしかしないんだから」
どうやら完全に彼女の機嫌は治ったらしい。俺は安堵して振り向こうとする。
「なぁ、そろそろいい?俺、振り向きたいんだけど」
「なんで?このままでいいじゃん。アンタの背中、あったかいし」
離してくれる気配がない。むしろさっきより力を込めて抱きしめられてる。これはこれで悪くないんだが、やっぱり俺は…
「えっと…俺も気持ちいいんだけど、やっぱお前の顔見てたいからさ…手、放してくれる?」
瞬間、彼女の動きが止まった気がした。あれ?と思い、首だけ振り向こうとするが…
「バカ!こっち見んな!そっち向いてろ!」
めっちゃ怒られた。今の発言の何がいけなかったのか…それを聞いてみようと口を開きかけた瞬間、彼女が先に口火を切った。
「は、恥ずすぎて今、顔めっちゃヤバいから…ホント向こう向いてて…お願い…」
消え入りそうな声でそう言われた。今の発言に恥ずかしがる要素がどこにあるのかイマイチ分からなかったが、とりあえずこのままでいいかと振り向くのを諦めた。
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どれくらい経っただろうか。背中に当たる感触にそろそろ慣れ始めてきたころ、ようやく彼女が両腕の拘束を解いてくれた。
「堪能できた?あたしの胸の感触…」
「あ、うん。ありがとう。やっぱ彼女の胸は最高だな」
我ながら酷いセクハラ発言だとは思うが、彼女は気にしたふうもなく、いつものように笑って言った。
「バーカ、当たり前でしょ?アンタの一番の女なんだから」
…俺はやっぱり、胸より彼女の笑った顔が一番好きみたいだ。気がつけば彼女の小さな体を抱きしめていた。
「もう…どんだけ抱きしめれば気が済むの?よくわかんないわね、アンタって」
「仕方ないだろ…お前が可愛いのがいけない。俺は悪くねぇ」
「はいはい…そういうことにしといてあげるわよ」
彼女の呆れた声を聞きながら、俺は一生彼女から離れられそうにないなと心の中で自嘲気味に笑ったのだった。
こんな感じに超軽めのモノをボチボチ投稿していきます。