シンジがさらわれてから二日後。
ミサトの生命力と治癒力はすさまじいものがあり、腹部と顎にしたケガはなおっていた。
ネルフ、トレーニングルーム。
ミサトはそこにいた。
黒いスポーツブラとトレーニング用の短パンにミサトは羽織っていた・
100㎏あるバーベルを持ち上げている。
汗の雨がトレーニングルームの地下でたまり、大きな水たまりになっていた。
ミサトは甘かった。
そう、甘かったのだ。
もっと強ければ…私がしっかりしていればシンジ君が目の前でさらわれることはなかった。
「フンッ!!!」
バーベルを持ち上げた。
これで100回目だ。
あの男、あのゾンビのような大男。
許せない、私のシンジ君を…。
「ミサト」
赤木リツコは話しかけた。
「何よ」
「あなた、何を考えているの…これは交渉で解決できるのよ。」
「できるならすればいいわ、奴らは同じことを繰り返すそれだけよ!!」
「…ねえ、ミサト…。」
「しつこいわね!あきらめないわよ!」
リツコはいたずらそうに笑って首を横に振った。
「あなた、知らないと思うけどシンジ君の服に発信機をしかけておいたの。」
「え?」
ミサトは動きを止めた。
「それによると、彼は奈良県にある地下施設で興行を行っている…そこはゼーレの大物が所有する土地で私たちも安易に踏み込めない。…でも。」
「でも?」
「選手としてなら参加できるわ。」
ミサトはリツコに微笑んだ。
「最初からその気よリツコ…私は最初からずーっとその気。」
「もうすでにエントリーはしておいてるわ、ほら…アンタの大事な物預かってあげるから。」
ミサトは思い出した。
そして、微笑むと首元のペンダントを渡した。
父の形見だ。
「じゃあ、あとのことは任せるわよ。」
ミサトはタオルで汗をふくと、立ち上がった。
善は急げ…。
やれるうちにやっておく。
その頃、奈良県内の巨大なホテル地下では今日も男たちが争っていた。
彼らは世界中の秘密組織やマフィア、多国籍企業、軍需産業、テロリストたちだ。
だが、その全てがある男の前に散っている。
グリムリーパー。
彼こそはチャンピオンなのだ。
そして、彼を倒せるものそれだけが…碇シンジを得ることができる。
そのホテルのVIPルームで、試合の様子を見ている男がいた。
ブクブクに太った男は葉巻を加えていた。
そして、白いスーツ黒いサングラス。
いかにも胡散臭い風貌をしていた。
男の名前は蛭谷ヘイゾウ。
ゼーレのメンバーであり、派遣会社「バソナ」の会長であった。
そして、イタリアンマフィアのメンバーの一人でもあった。
元々、日伊ハーフであった蛭谷の父はイタリアンマフィア「ファルコーネ一家」の若頭でもあった。
その関係で彼もイタリアンマフィアの構成員として働いていた。
ゼーレ・イタリアンマフィアそのバックボーンをいかし、日本の暴力団もうまくコントロールしていた。
シンジは手錠をつけられ、その男とともにいた。
「フフフフ、不満か?」
蛭谷は尋ねた。
シンジは無言でツンとしていた。
この三日間ずーっと人とあっていなかった。
そこへきたのがこいつだ。
「まあまあ、そこまで怒らんでもかまわねーじゃねえか。フフフ…。」
「なぜこんなことをするんですか?」
蛭谷は葉巻をすてるとシンジをみつめた。
「フフフ、お前はお父さんがどういう男か知ってるか。」
シンジは黙った。
結局、父さんがどんな人なのかよくわからない。
「知らんようだね。俺は君の父上をよーくしっとるんだ。若いころ、私は今より細くて若く女によーくモテていた。20年以上前のことだな。」
シンジは男をみた。
「その時京都に住んでいた俺はそこで大学に通っていた。若かったのだ。そして、町である女をみかけた。同じ大学の学生だったんだ。そして、その女に話しかけたんだ。するとその女は厭そうな顔をしてきた。誰にでも笑顔のはずのはずのその女は俺にだけ嫌そうな顔をした。」
「それで?」
「殴ろうとした、すると…背後に男がいた。それが貴様の父だ。父は無礼にもこの俺を殴り飛ばした。すぐに配下の者が応戦したが…その結果俺の初犯はくだらない喧嘩になってしまったのだ!!」
シンジはびっくりした。
まさかこの人は父の同窓生で、ナンパを邪魔されてケンカになって警察に捕まったことを恨んでいるのか?!
う、器が小さすぎる。
そのために…。
「あいつのせいで俺はナンパに失敗して喧嘩をした恥知らずということで…一族から笑いものにされたのだ!…この恨みはらせでおくべきか!!」
「…はあ…。」
シンジは深々とため息をついた。
こんなみみっちい奴に誘拐されるって。
「で、僕をどうしたいんですか。」
「お前を売り飛ばす。お前はエヴァパイロットだ。お前の次はエヴァ初号機をオークションにかける。それが俺様のお前の親父への最大の復讐になるのだ!!ぐわはははははっ!!」
ぐわははは・・・って。
笑いたいのはこっちだよ。
シンジが心の中で毒づくと次の試合が始まった。
編み込まれた鉄の鎖の間を6角形のリングが覆っている。
それはまるでコロシアムのようだ。
「ご来場の皆様、本日第二試合を始めます。突如組まれたカードです。」
シンジは目を凝らしてモニターをみた。
すると、蛭谷も無線から連絡を受けたのか反応をしていた。
「第二試合、身長170㎝ 体重80㎏ 無敗のテコンドー王者キム・ヨンハ!!!!!」
キム・ヨンハ。
スポーツに疎いシンジでも知っている。
確か5年前のオリンピックのテコンドーで金メダルをとった。
だが、それと同じ年に女性への殺人容疑とそれをとめた男性二人を殴り殺した容疑で有罪になった男だ。
「対しますは…なんと女性です。」
女性?
「しかも、軍所属!!!」
軍所属。
何やら胸騒ぎがしてきたぞ。
「日本人です!!!」
観客の大歓声がとどろいた。
「名前は…葛城ィ…ミサトぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
なんだって!?
ミサトさんだ!!!
やっぱりミサトさんだ。
「フフフ、小僧。喜べ。お前の友人がやってきたらしいぞ…お前をとりもどすためにな。」
一回戦で勝てば、二回戦そしてそこで勝てば…ここの守護神であるグリムリーパーと戦える。
そうすれば、きっと…シンジ君は帰ってくる。
ミサトはそう思い込んでいた。
蛭谷のゲスな言葉を無視した。
シンジはモニターの中に映っているミサトだけを凝視したのだ。
その頃、リングではミサトとテコンドー使いの男のにらみ合いが始まっていた。
キム・ヨンハ、逆立った髪の毛が特徴的なテコンドー戦士はミサトをあざけるように笑った。
「フハハハハハハ!!!なんだあ?!女かあ!?」
ヨンハは元々韓国を代表するテコンドー選手だった、回転飛び蹴りは彼の必殺技でありテコンドーを代表する必殺技だった。
それが、くだらない痴話げんかで終身刑を喰らった。
そしてここで、韓国のマフィアと手を組み生きている。
目標は碇シンジ。
狙うのはたった一つだった。
それさえ手に入れればあとは韓国政府が世界を支配できる。
「あばずれ。」
ミサトは言った言葉をわすれなかった。
「なんですって?」
「アバズレ、お前をボコボコにしてやる。終わった後たっぷりかわいがってやる。お前の中にぶちこんでやるよ!!」
ミサトは呆れた。
こいつがいいたいのはそういうことなのか。
「ぷっ」
思わず笑みが漏れてしまった。
そして、大きな声で笑い始めた。
「あははははははは!!!」
「何を笑ってる?差別かてめーは?」
ヨンハの小さな目は怒りに燃えていた。
「で?」
ヨンハの頭からビキッという音が聞こえた。
「殺す。」
ヨンハはその頭が浮かんだ。
そして、試合は始まった。
横で観ていた蛭谷はほくそ笑んだ
「残念だったな、ヨンハはテコンドーの金メダリストだ。」
「へーそう。」
だが、シンジに心配はなかった。
「そうか…。」
そして、微笑みとともに言った。
「ミサトさんに勝てない。」
蛭谷はキョトンとした顔をみせた。
そしてその時だった。
アナウンサーの声が聞こえた。
「本試合は1本勝負になっています。打撃を受けて10カウント内部で反応がない場合は敗北という形をとらせていきただきます。」
ミサトは服を脱いだ。
ゲスな男子たちの「おおおおおおおおお」というコメントが聞こえるが無視だ。
スポーツブラとスポーツ用の短パンに着替えた彼女はグローブを装着した。
そして、ゆっくりと相手の側に近づいてきた。
「では、始めましょうラウンド・・・・1ファイッ!!!!」
テコンドーの男の動きは早かった。
「きえぇぇぇぇ!!」
奇声をあげ、大技の左足による飛び蹴りを放った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
観客の声が響く。
興奮している。
「小僧…お前の女は死ぬな。」
蛭谷は煽った。
だがシンジは冷静だった。
「それはないね。」
シンジにはわかっていた。
あの男よりもミサトさんのがずっと早い。
あのテコンドーの男よりも。
そして、シンジは正しかった。
ミサトは早かった。
シュッ…!
空気を切る音が虚空に響いた。
そして、男の飛び蹴りを迎撃するようにミサトのカウンターがさく裂した。
「スローすぎて欠伸がでるわね‥。」
テコンドー戦士ヨンハの膝にあたったミサトの蹴りは彼の膝と全身に電撃を走らせた。
「・・・・・ッヌ~~~~~~~~~~!!!!」
ヨンハは地面に着地すると、一瞬よろめいた。
そして、大きな息を吐きながら涙をこらえた。
バカなバカなバカな…。
レフェリーはふとミサトをみた。
ケロッとしている。
何もダメージなど感じてはいないようだ。
ヨンハもそれに気づくと一瞬声がでた。
「ちょ、チョっ…」
ヨンハはこんなはずがない。と焦った。
女に、しかも『日本人」に偉そうなマネを…。
「ちくしょ、ちくしょ・・・・・・・・・・・・・・・・・ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ヨンハは再び蹴りを入れようとした立ち上がったその時だった。
「次はこっちの番。」
という声が響くとミサトの姿が見えなくなっていた。
「どこだ?!」
その時だった、彼の天空が暗くなるのがわかった。
「まさか…」
ヨンハは上空をみつめた。
そこにはミサトの太腿があった。
飛び上がっていた。
それは飛び上がってしかける、かかと落としの光景だった。
そして、ミサトは叫んだ。
「天に変わって…お仕置きよっ!!!!」
がごぉおおおおおおおおおん!!!
ヨンハの頭を打ち砕いたミサトの太腿、頭蓋骨に衝撃が入るとテコンドー最強の男はそのまま地面に崩れていった。
レフェリーはカウントをとりはじめた。
「1、2、3、4・・・・。」
一部始終をみていた蛭谷は震えあがっていた。
まさか、そんな…。
あいつは女だぞ?
いくらなんでも、女だ!!!それが…。
「ありえん。」
そんな蛭谷をシンジは白い目でみていた。
薄笑いとともに。
「連れてくるならもっと強いのを呼んだ方がいいよ。」
レフェリーのカウントは続いた。
「5!!!6!!!7!!!8!!!9・・・・10ッ!!!!!!!」
10カウントだ。
ヨンハは立ち上がらなかった。
そして、そのままオクタゴンの中に入ってきた医療チームに運ばれて行った。
ミサトは天を睨んだ。
「この中にシンジ君がいる…。」
観客はどよめいた。
モニターでみていた蛭谷はのけぞった。
あの目は飢えた狼だ。
殺される…。
蛭谷が次に思い浮かべたのは、狼に食われる自分の絵図だった。
「あの女、狼だ‥。」
狼?
そうだ、狼か。
「フフフフ…ならば、巨象をぶつけてやるか…。たった1匹の狼では巨象には勝つことはできン!!!!」
そんな中だった。
控室で試合をみていた男がいた。
ブクブクに太った、それはモニターをみていた。
「ククク、ヨンハみたいな小僧じゃ前菜にも届かねえッ…!!!このわしがぶち殺してやるしかないッ!!!!」
褐色の肌をした200㎝320㎏の片目の巨漢はほくそ笑んだ。
この男の名前はドン・ファレ・ウマガ。
彼こそがミサトの第二試合の相手なのだ。