もしもTot Musicaの代わりにうっせぇわを歌っていたら 作:匿名希望の雑草さん
「我らに救いを!救世主Tot Musicaの再来を!」
吹雪は勢いをまし、それでも兵士たちは戦っていた。ウタワールドを深く深く潜ってきたこの場所は永遠に戦争を続ける地獄の都だった。
兵士たちの装備を見るとどれも出身国はバラバラだ。私が訪れた国、知らない国、ずっと昔にあったであろう古い国、私が救えなかった国。複数の国の兵士が入り乱れ殺し、殺され、そしてまた新しい兵士が送り込まれていく。そして口々にあの言葉を叫ぶのだ。
「え~あいつ誰だっけ?チョッパーんとこの~」
「オイコット王国の兵士もいるね…別に何度も殺される必要なんてないわよ…」
窓越しに戦場を見ながらルフィは頬杖をついた。リビングには暖炉があり大きな窓から戦場を観戦できるような造りになっている。私が訪れた国の一般的な貴族層の家がそのまま形になっていて、私達はここを拠点に行動していた。
ここは私が訪れた都市、私以外の誰かが訪れた都市が一つになった場所だった。上を見上げればエレジアの象徴であるハープを模したような巨大なアーチが、遠くを見れば煌々と輝く監視塔が、近くでは楽譜が焚書されている風景が見える。
兵士たちが戦う姿に混じって生活をする人々が見える。彼らも今の私には救えない。話しかけても虚ろなうわ言だけを喋る人。明らかに狂ったようにまくし立てる人。兵士たちに殺されても次の瞬間には同じ顔立ちの人物が通りがかった。
過去に存在したウタウタの実の能力者やウタウタの実によって閉じ込められた人の記憶がここに保存されているのだろう。空白の百年を超えて、私の目に映る燦々たる廃墟。
ウタワールドでの数日間、次の一手を打てずにいる。
方針としてはこのウタワールドでの戦争を終わらせることで決まっている。そうすることでウタワールドの主導権をTot Musicaから奪えるか試したいんだ。
最初にルフィの覇王色の覇気で兵士を気絶さてみたんだけど次から次に新しい兵士が来るため拉致があかない。五線譜で捕縛しても効果なし。改めて策を練っては試し練っては試しで数日経ってしまった。
そういえばルフィとこうやって家の中で過ごすのは久しぶりだ。…そう思うとちょっと恥ずかしい。フーシャ村にいた時は船の中で寝泊まりしていたし、ダダンに預けられてからは雑魚寝が主だったから、こうしてひとつ屋根の下で家族みたいに暮らすのはなんだか…け、結婚してるみたいで意識してしまう。
私はこうやってルフィと静かに暮らしたいのかな?…なんとなく違うと思う。私は自由に冒険しているルフィが好きだから一つの土地に定住するのに抵抗感がある、でもなんだろう、それだけじゃないような…恋愛感情?それとも…
まあいいや。
グツグツと音を立てるシチューをかき混ぜる作業に集中する。こうやってかき混ぜないと底が焦げちゃって焦げ臭いがするシチューができてしまう。数年前に少し目を離した隙に焦げたときはショックだったな。
そっとドアの開く音がして振り向くと外に出ようとするナミの姿があった。
「ナミ!外は危ないからみんなで行こうって言ったでしょ」
「いーじゃん!私も役に立ちたい!」
いつものようにベルメールさんとナミの言い争いが始まる。
本当に仲がいいね。ああやってベルメールさんと暮らすナミを見るだけで心が洗われる。
しばらくして沈静化するとルフィが口を開く。
「おっし!ナミ!メシ食ったら一緒に外に冒険に行くか!」
「うん!」
「ウタ!メシはまだか!」
「今出来上がるよ!」
最後に一口味見、うんいい感じ。全員分のお皿にシチューを注いで食卓に出す。
「いただきまーす!」
「これは鴨肉ね」
「オムライス好き!」
みんなガツガツと食べていく。気になることがあったのでナミに話しかけてみる。
「今日はどこに行ってきたの?」
「え、えーと、友達に会いに行ってたの!」
ふむ、友達に会いに行ってかつ私達の助けになるもの。
「ベルメールさん、この世界のノジコって無事なの?」
ナミにとってお姉ちゃんのノジコだろうか、でも隠すほどでもないしどうだろう。
「ええ、ココヤシ村でお留守番よ。【ギラギラ】ちゃんが面倒を見てるけどあそこにはもうタコの魚人くらいしかいないから安全。グレイ・ターミナルも同じで平和だわ」
「私はココヤシ村には戻らないからね!」
じゃあ誰だろう。ナミにとって友達と言える人物。まあ、せっかくの食卓だし考えごとは中断して食事を楽しむことにした。
______
今日はエレジアにあると聞いているTot Musicaに関するものの発見を行う。ここは複数の国が混ざってしまっているけれどその国にあった場所は存在していることはわかっている。だからエレジアにあるとされているTot Musicaについて記された書物なりを手に入れることができれば有利に進むことが出来るはず。
ナミの方はルフィがいるから安心ね。
「これは…」
無事にエレジアの地下への入り口を発見した私達の眼下に広がるのは私達に銃を向けている兵士だった。
これはビンゴってことだよね。不都合な事実がここにある。さっと後退し相手の出方を伺う。背後から夥しい数の銃声や砲声が聞こえる。街中の兵士が私達を狙っているようだ。
ある程度離れると不意に砲声は鳴り止み元の兵士たちが殺し合う戦場へ戻った。
「…ウタ?」
不意に私は立ち止まる。そしてエレジアの教会の天井に飛び乗った。ベルメールさんもそれについて来る。
「ベルメールさん、私が2つの国を滅ぼしたのは知ってるでしょ」
「…あれは世界政府が行ったことよ。まあ、海兵だった私に言えたことじゃないけど」
私は遠くを見つめる。今も殺し合う兵士達を見て恐ろしい気持ちになる。
「私は、戦争を娯楽のように扱って観戦する2つの国が許せなかった。娯楽のために命が消費されるなんて、そのせいで死んだ子どもたちのことを思うとなんとかしたくて、ボニーと一緒にチームを作って戦った。それは後悔していないよ。結果的にどっちも滅んじゃったけどね」
たとえもう一度やり直したとしても私はもう一度同じことをするよ。…そう私は繰り返してしまう。今もそう、1人でも多くの人を救うためにライブを開いて、ここにいる兵士達と私、どう違うのだろう。
「1つ気がかりがあるの、私はあのときボニーの力で子供に戻ることでウタワールドに引き込む能力を使ったの」
ウタウタの実の能力者にとってあらゆる勢力を崩すのは簡単だった。
私はあのときボニーの能力で子供の姿に戻ることでウタワールドへ引き込む能力が使えることを発見した。
あとはSSG電伝虫を通して各国の権力者に対して歌を歌うだけ、みんな眠ったら待機していた仲間がクーデターを起こし政権を乗っ取る。それだけ。
たったそれだけで世界情勢を動かせてしまうウタウタの実は世界政府から警戒されるに足るものだ。おおよそ1つの実がもっていい力の範疇を超えている。
まあその後に統治しようとした時は本当に問題だらけで怖かったんだけどね。私の判断ミスで誰かが死ぬってわかってたから、どうにかしようとして毎日夜遅くまで話し合って。上手く行かなくて反省して。あんなに怖いのにどうして天竜人はあんなに簡単に人が死ぬような決断ができるんだろう。
「いままであの時にウタウタの実が使えたのはボニーの力で子供に戻ったからだって思ってた。ウタワールドに引き込む能力は子供の時限定だと思っていたから。だけどそう考えるには虫がよすぎる、まるでだれかが介入したみたいに」
ベルメールさんはなにか考え込むように腕を組むと、
「Tot Musicaの歌詞は覚えてる?」
と言ってきた。
「覚えてるよ」
「こんな歌詞があるんだけど」
【死をも転がす救いの讃歌 求められたる救世主】
【祈りの間で惑う 唯 海の凪ぐ未来を乞う】
うん、こんな歌詞だった。Tot Musicaの歌詞は国を滅ぼすとか、魔王だとかそういう前評判とは裏腹に世界を救おうとする荒々しくも優しい祈りの歌…ベルメールさんの言いたいことが少し分かった。
「Tot Musicaが力を貸してくれてるってこと?」
「もしくは妨害していたか。私が死んだ時に使えなかったのはTot Musicaが邪魔をしていたんじゃないかしら。ほら、あの時結構やんちゃしてたでしょ」
ウッ、忘れてなかった…。ナミと一緒に盗みを働くためにウタウタの能力を使ったことはある…それが原因だと言うの?
「わ、私が悪いことをしちゃったからベルメールさんが死んじゃったの?」
もしそれが本当なら、私は大切な人を殺してしまったことになる。
「ウタ、人は誰しも失敗だらけよ。かく言う私も子供の頃は悪ガキだったし、だからウタは悪くない。私を殺したのはアーロン一味よ」
そう言われると少し心が軽くなる。
そんなふうに考えていると一際大きな砲声が聞こえた。
「あれは…海軍?」
大勢の海軍が押し寄せてくる。どうやら本格的に私達を攻撃しに来ているみたい。
「どうやら…ウタの記憶通りに来たみたいだね」
______
「ウタ!!」
海軍相手にしばらく戦っているとルフィが走ってきた。息は上がっていない。それでも急いできたのは分かった。
「ルフィ!ナミはどうしたの!」
「預けてる!」
誰に預けたのかはわからないけどとりあえず無事のようだ。
「ウタ!急に海軍が襲ってきたんだけどどうしたんだ!」
「ここは私の心の中だから、この世界の海軍はこの国を滅ぼそうとしてるんだと思う。見て」
私が指が指す方向に大きな森のようなものが近づいているのが見えた。恐ろしい速さで増殖を繰り返す木々、あれの枝に刺されるとみんな養分を吸収されて殺されてしまう。
「私が訪れた国はあれに飲み込まれたの。多分海軍の兵器か何かだと思うけど」
「よし!じゃああれを止めればいいんだな!」
ルフィはそう言うと準備体操を始める。ルフィならあれに対抗できそうな気がする。
「ルフィ、私も戦うよ」
「わかった!そうだウタ、あそこにある塔が見えるか!?」
ルフィが指す先には監視塔のような場所があった。
「あそこを守ってくれ!」
「分かった」
なんで守るのかわからないけどルフィの言う事なら信じるよ。
______
私は塔を登る。時間はないけどこの塔に何があるのか見ておきたかった。
塔の頂上は寒く、雪が降り積もっていた。
「あれは…チョッパー?」
頂上では綿あめ大好きチョッパーが何やら作業をしていた。その傍らにはナミがいて作業を手伝っている。
「ナミ!」
ナミが私に気づいて歓迎する。砲声が轟く戦場の中で酷く儚げに見えた。そっかナミの言う友達ってチョッパーだったんだ。
「あ、ウタ。ルフィから聞いてる!おれは今薬を作ってんだ」
チョッパーの高い声が私の耳に届く、彼が持っているフラスコはモクモク煙が立っていて人が飲むものには到底思えない。
「薬ってどういう薬なの?」
「戦争に効く薬だよ!」
せ、戦争?いや、そもそもそれは薬で治るものなの?主義主張とか資源の取り合いで起こるものなのに。
「おれは万能薬になるって誓ったんだ!戦争くらい直す!!!」
「でもどうやって…」
私の問にチョッパーはドクロにサクラの旗を見せる。それはサクラ王国の旗…
「おれを育ててくれたドクターは人間の心の病気を研究してたんだ、疲弊し抑圧された心を救うための薬を生涯を賭けた研究成果がこれなんだ」
人の心を…救う薬。体じゃなくて心に効く薬なんて聞いたことがない。
「そんなの…」
「おれのいた国じゃこの薬で国民全員が治ったんだ、今回も治る。だってこれは“奇跡”の薬だから!!」
そんなに力説されると信じてみたくなる。
「ウタ、おれウタの仲間が殺されたって聞かされてから言っておきたいことがあったんだ。」
「!」
「ウタ」
『人はいつ死ぬと思う?』
まるでチョッパーの姿に老年の男の姿がダブって見えた。
『心臓を銃で撃ち抜かれた時…違う』
『不治の病に冒された時…違う』
『猛毒キノコのスープを飲んだ時…違う!!!』
『…人に 忘れられた時さ…!!!』
「これが人づてで聞いたドクターの最期の言葉だ。」
チョッパーがポツリポツリと経緯を話す。桜を見て不治の病が治った男の話。チョッパーが知識がないせいで毒キノコをドクターに渡したこと、それを喜んで食べたこと。そして病に臥せった医師を助けるために城に赴き、最後には自害したこと。
人はいつ死ぬと思う?
気づけば涙を流していた。温かい言葉…私の心にすっと入ってくる。人命を助ける医者がそんなことをいうなんて、本当に心から誰かを救いたかったんだ。そして彼はチョッパーの心をも救った。
人を救うってきっとそういうことなんだね。
ありがとう。チョッパー、やっと区切りがつけれそうだよ。
そしてチョッパーのドクターであるDr.ヒルルクにも感謝を告げる。私も忘れないから。あなたがこの世界にいた事。私の心も救ってくれた事。今度心を治す医師の歌でも作ってみようかな。
「出来たぞ」
チョッパーがそう言って出したフラスコは桜色に染まっていた。
「今から発射準備をする!それまで守ってくれ!」
「わかった!」
私は塔から飛び降り待ち構える。どうやらかなり近づかれていたみたいだね。傷だらけのルフィとベルメールさんが塔のすぐそこで黒髪の男と戦っていた。
「ごめんルフィ!私も戦うよ!!」
「おう!」
私はきっと男を見つめる。腕が樹木に変わっていて私の仲間を殺したあいつだとわかった。現実の世界にいた海軍大将だったんだね。
私は武装色と見聞色の覇気を駆使して戦っていく。この人すごく強い。ルフィがギア4という奥の手で戦ってもなお倒れないのはさすがだ。しかもあっちの攻撃があたったら負け。今の私達だと倒すのはむずかしいだろう。でも今回は時間を稼ぐだけだから私達に分がある。
「いけ!チョッパー!!」
数分後、塔を中心に満開の桜が現れた。
使用楽曲
Tot Musica
え、10話まで続いたんですか!?
ヒルルクとウタにはシューベルトの曲が関連しているという共通点があります。(ヒルルクはエレンの歌第3番でウタは魔王)
こう、プロットとしてやりたい場面があってそれに帳尻合わせる形で書いているのでどうしても不自然な箇所が出ているような気がします。プロットではなく設定資料集的なのを作ってそれをかけ合わせて行う方法を試してみたいです。
また、ちょっと毎週投稿に限界を感じているのでこれからは不定期更新で行こうと思います。
こぼれ話
当初はヒルルクとウタを話し合わせるつもりでしたが引き継がれることの大切さを考えたため、ヒルルクの心はチョッパーを通してウタに引き継がれることになりました。