もしもTot Musicaの代わりにうっせぇわを歌っていたら   作:匿名希望の雑草さん

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毎度ながら単行本未刊行のネタバレ注意です。


11話

 ウタワールドに桜が咲いた。兵士達は戦うことをやめ、住民たちは心を取り戻す。錆びついた剣が、銃がみるみる内に砕けて粉々になり、そこから草花が芽吹く。朝日が昇り、吹雪は止み、それでも塔の桜は咲き誇っていた。

 

 コンコンと靴で地面を叩けば可愛らしいロリポップの花が現れた。もう一つ叩けば大きな綿あめの綿毛がニョキッと生えてくる。

 

「くれるの!?」

 

「うん、あげる」

 

 嬉しそうに飴を舐めるナミとチョッパーを見ながら、私はウタワールドの機能の大部分を取り戻したことを実感した。

 さて、私は手を叩きこの融合された国を元の形に戻す。木々は割かれ大地は割れ、家々は分断されそれらが元あった場所へと戻されていく、鳥は寝床から離れ国々を見渡し、世界が変わるのを目の当たりにした。

 

 私達の目の前には山を削って作り上げた城と城下町が現れた。急勾配の激しい地形に支えるようにそびえるハープ状の建造物。耳をすませばどこからともなく聞こえてくるサックスの音色。そして沿岸の海王類の骨で囲われたライブ会場。

 

 私ね。いっぱい色んなところを見てきたけどやっぱりここが一番好きなんだ。優しい王様に日々音楽の研鑽をする国民達。同い年の子がたくさんいて、私が歌を歌えばどこからともなくアコーディオンやヴァイオリンが現れてセッションをしてくれる。そんな素敵な場所。

 

「すげー!」

 

「ルフィ!ここがエレジアだよ」

 

 面白がるルフィに苦笑しながら告げた。

 

______

 

 賑わいを見せるエレジアに興味津々のルフィに何かを感じながら、みんなで徒歩で目的地まで移動する。大通りは様々な楽器を取り扱う店や各種教室でいっぱいだ。同時に飲食店も多くてルフィは入りたそうにしていたけれど無理を言って先をいそぐ。あまり時間は残されてないのが惜しいな。

 

「ここが地下への入り口ね」

 

 エレジアの地下水路には肌寒い空気が立ち込めていた。Tot Musicaの事を調べた時にここに隠された空間があることは分かっていた。当時は見つけられなかったけれど今回は見つける。

 

 じっとりと湿度が高まるのを感じながら進んでいく。流石にチョッパーにお願いしてナミには帰ってもらった。もちろんダダをこねていたけど未来のナミが使っている武器を渡すと機嫌を直したようだった。地下には操られた兵士達が押し込められるように大勢いたけれどルフィの覇王色で道を開けてもらう。

 

 私は耳を澄まし見聞色でどこに空間があるか探った。私の見聞色は完全に聴覚特化の性能だ。周囲の心の音を聞き取ることが出来る。空間に誰かがいるならその声が聞こえてくる。暫く進むと聞き取りづらいけどなにか話すような声が聞こえた。

 武装色で壁に穴を開けると古い書物庫が現れた。

 

 古い場所。つんと埃の匂いが立ち込めここが古くから閉鎖されていた場所だと教えていた。途中現れた機械仕掛けかなにかの兵士をみんなで倒してあたりを散策してみる。適当な本を1つ取って呼んでみたけれど知らない言語で書かれていたから全くわからない。ここにある書物だけでかなりの歴史的価値がありそうね。現実で考古学者を呼んで解き明かしてみたい。ルフィが上を見上げて声を上げていたので私も見上げてみると巨大な天井画があった。

 

 怪物のような巨大ななにかとそれと戦う人間たち、隙間にびっしり書かれた古代文字。これがTot Musica…国を滅ぼす力だと聞いている、古代兵器に匹敵する怪物とも、これがウタウタの実によって形造られたものならどれだけの感情が込められているのだろう。Tot Musicaは救世主の到来を待ち望む歌だ。【祈りの間で惑う 唯 海の凪ぐ未来を乞う】、気持ちはわかるよ。世の中には心無い人達がたくさんいて、それでも彼らも時代の被害者なんだ。立場が違えば見方は変わってくる、ふるわれた理不尽は憎悪となって凝縮し、まるで寒暖差や月によって揺れ動く海のように世界を揺るがす。だから凪の到来を私たちは望むのだろう、このどうしようもない世界が少しでも良い方向へ向かうように。

 

「待ってたよ、宿主」

 

 カツンカツンと靴音が地下に響く、その方向を見ると私そっくりの顔をした銀髪の少女がいた。

 

______

 

「私のことを知りたいって言ってたよね」

 

 幼い頃の私を銀髪にして、ついでに褐色の肌に背中に翼と炎を背負った欲望てんこ盛りの姿。こう、裁判所がまともに機能していれば世界政府を訴えたい。どこかに10億の懸賞金首が訴訟できる場所はないの?私と彼女が会ったのは二度目のはず、いやもしかしてこの子は

 

「【夜のピエロ】なの?」

 

「ええ、そうよ」

 

 彼女は一瞬【夜のピエロ】の姿に変わった。

 【夜のピエロ】は船の中で天竜人や海軍・海賊・世界政府を全て破壊したいと言っていた。露悪的とさえ感じられる口ぶりだったけどなにやら事情があるのかな。

 目的はないって言っていたけれどこの子の話になにか糸口があるかもしれない。

 

「おまえウタにそっくりだな!なんか似たようなの見た気がするな」

 

「うーん、パシフィスタって知ってる?」

 

「パシフィスタ?えーっと、そうだクマか!!」

 

 パシフィスタって世界政府の兵器だよね。黄猿のビームに機械の頑強さを備えた兵器、暴君クマの体そっくりにしているって話だけれど。

 …うわぁ。

 

「ひょっとして私量産されてるの?」

 

「そうだよ。セラフィムって兵器なんだって、絶滅した種族の血統因子と強い人物の血統因子をかけ合わせて造る最新兵器。ついでとばかりにサイズを大きくしているみたいだけど、この機体はジャルマック聖が生産ラインから特別に造った一体よ。だから普通のサイズなの。ジャルマックが自慢げにべらべら喋ってたから調べる必要もなかった」

 

 セラフィム…炎をまとう天使という意味だったよね。天竜人は自らを神としているからさしずめ下々に裁きを下すための尖兵として作り上げたのでしょう。…多分私みたいに一度捕まっている人はセラフィムになっていると考えて良さそう。『特別に造った』の意味は聞かないでおこう。想像もしたくない。ハンコックも…エースも…十中八九造られているよね。

 

 正直かなり嫌悪感を感じてる。今この場にルフィやエース、サボ、他の大切な人たちのセラフィムが出てきたら極端な選択を選んでしまいそうだと思うくらいに。

 

「じゃあどうしてあなたはその体になっているの?」

 

「簡単だよ【マザーランド】。ウタウタの実は意識を失ったものを操れる」

 

 正確にはウタウタの実で眠ったものの体を操る事ができる。どうして歌でそんな事ができるのかわからないけれどそういうものなんだ。

 

「宿主は今日私の歌を歌ってたでしょ。意識のないこの子はウタウタの実が発動していた時に眠っていたも同じだからこの通り、私が思うままに体を操れるようになった。私は二度目の生を手に入れたんだ」

 

「じゃああなたが言っていた達成された目的っていうのは」

 

「ううん、元々は【夜のピエロ】が歌われるだけでよかったの。私の存在を少しだけこの世界に残せるから。あとはTot Musicaを歌ってくれるように誘導するつもりだったんだけど、私は肉体を手に入れた。現実世界へ戻るための手段を手に入れた。なら、せっかくだから大嫌いな世界を直接めちゃくちゃにしようかなって思っているわ」

 

 ウタワールドにいる住人たちの中で歌の化身を名乗っていた者たちは殺されることでウタワールドに取り込まれてしまった人達。死の出来事が実感として存在している。私は殺されたことはないからわからないけど、理不尽にころされれば恨みつらみなんていっぱいあるよね。死んだ後に続きがあるのなら、復讐だってやってみたくなる。

 

 本来なら得られるはずだった幸せを。人間であった頃の思い出を、想えば想うほど狂おしく感じてしまう。そんな感じかな。

 

「ウタ、私を見て」

 

 瞬間、目の前にグレイ・ターミナルが現れた。

 

______

 

 目の前に私がいる。幼い頃の、セラフィムではない本物の私が。

 

【どうして あの日遊んだ海のにおいは どうして すぎる季節に消えてしまうの】

 

 歌姫を目指す私は、グレイ・ターミナルでも人を呼んで歌っていた。

 幼い私はどことなく緊張して見える。この場面は、もしかしてグレイ・ターミナルで初めて歌った時の記憶かな。

 ルフィに手伝ってもらって舞台を用意して路上ライブスタイルでやったんだっけ。

 

「私にとって初めて聞いた歌だったの、この歌に私は救われた」

 

 【夜のピエロ】はセラフィムの姿のまま、私の歌を聞いている青髪の子の横に座った。みずぼらしいツギハギだらけの服を来た青髪の少女は輝かんばかりの笑顔で幼い私の歌を聞いていた。

 

「この子が私。グレイ・ターミナルに捨てられた少女、見て、この嬉しそうな顔。ずっと苦しかった生活であなたの歌だけが救いだったの」

 

 うん、見てるよ。グレイ・ターミナルに住んでいた人達は本当に嬉しそうに聞いてくれて私も嬉しかった。その中にいたんだね。なら結末は…

 

「あなたの名前はなに?」

 

「ないよ、くそオヤジはつけてくれなかった」

 

「…そっか」

 

「私ずっと寂しかったの。一人ぼっちで苦しくてお腹が空いてて、このまま誰にも相手にされず背景に紛れ込むだけの存在でいるのが怖くて仕方なかった。誰も愛してくれないのは、つらい。あなたに声をかけて友だちになれたらどれだけ良かったか。だけど声をかける勇気はなくて、それで結局、あなたの歌だけを抱えたまま死んじゃった」

 

 場面が変わり可燃ゴミの日に移った。轟々と燃える火の中で海賊に切られてぽいっと火の中に捨てられる少女。海賊に捕まって身動きが取れない私。なんとか抜け出した私が少女を助けようと火の中を見て、少女のガラス玉のような目と目が合う、もう死んでいた。私は今度こそルフィとエースを探しに駆け出した。

 

 そして景色が元の地下室に戻った。

 

「これが私だよ」

 

 【夜のピエロ】は泣き出しそうな顔でそう締めくくった。

 …ルフィがなにか考え事をしている。ルフィもなにか想うことがあるのかな。

 

「だから私は憎いの、だから私と一緒に復讐を手伝ってくれるなら私は…」

 

「…ルフィ?どうしたの?」

 

「…」

 

 ぐぬぬと何かを考えた末ぽんと手を叩きルフィは言い放った。

 

「よし、じゃあ今日からお前の名前はすずだ」

 

「へ?」

 

「ルフィさっきからそれ考えてたの!?」

 

 ルフィなりに考えた結論なんだろう。すごく正しいと思う。過去なんてルフィは引きずらないし詮索もしない。話したいならそうするけれど無理強いはしない。でも話してくれたなら自分なりに考えて行動してくれるんだね。

 

「おれも一人ぼっちの気持ちはわかるからな。おれ達と仲間になりたくて、そんで名前が欲しかったんだろ。だからいま考えた。ナミの母ちゃん!料理作ってくんねぇか!?」

 

「あ、ああ」

 

「ねえ、宿主!あなたの幼馴染っていつもこうなの!?」

 

「言われてるぞ」

 

「まあ、子供の頃からあんな感じだよ。すず」

 

「みたいだぞ」

 

 むず痒い顔をしてポリポリと頬をかくすずは名前を呼ばれて満更でもなさそうだ。

 

「ねえ、もういいんじゃない?外の世界で暴れなくてもここで少し遊んで、それから改めて考えるのはどう?」

 

 すずにとってこの世界がつらいものなら私はこれからもあなたをウタワールドに受け入れるよ。あなたは外の世界での肉体を手に入れたのだからどちらを選ぶのも自由だよ。

 

「私はあなたの寂しさや憎しみは理解できないよ。でもみんなで冒険して夜に歌を歌ったり宴を開けば少しは気持ちが晴れるんじゃないかな」

 

 このライブを通してルフィと冒険して少しだけ変われた私のようにね。

 

 

 …ああ、そっか。私ルフィみたいな冒険がしたかったんだ。

 みんなで泣いて笑って騒いで、みんなを傷つける人をぶっ飛ばして、でも殺さないで、やりたい事をやってやりたくない事は一切やらない。そしてみんなで歌う。そんな楽しい冒険が。

 

 

 

「ねえすず、私の仲間になりなよ」

 

______

 

「…こんな私でいいの?」

 

「私はすずがいいの」

 

「ウタウタの能力を止めてベルメールさんを殺しちゃったのは私なのに?」

 

 ん?ああ、あの時ウタウタの実の能力が使えなくなったのそういうことだったんだ。

 

「え、私を殺したのはアーロンよ。よくわからないけど事故なんでしょ」

 

「そうだけど…」

 

 ベルメールさんが納得しているなら私がとやかく言う必要ないよね。じゃあこの話はおしまい!

 

 すずは必死に断る理由を探しているようだった。幼い頃の私の顔で焦りながら考え事をしているのを見てちょっと恥ずかしい気持ちになってきちゃう。

 

「きょ、今日だって」

 

「いや、今日は私のやらかしだしセラフィムは海軍のやらかしでしょ」

 

「…」

 

 …よし、まどろっこしいのはなし。私も大概思い込み激しいんだから手を取って思い切りぶつけてやる。

 

「私、あなたの友だちになりたいの」

 

「…!」

 

「すずは私と友だちになりたくないの?」

 

 ぐるぐると氷解する。この子は悪びれていただけでただの私のファンだよ。今回はたまたま話し合う事ができる立場にあって、友だちになる機会が与えられた。

 もしもこの場にルフィがいなかったら、すずは【夜のピエロ】の仮面を被ったまま、私と決別して悲しい終わり方をしていたかも。

 

「じゃあ…私の復讐に手伝ってくれるの?」

 

「えーっと、あなたが死んだのってもとを正せばジャルマックのせいだよね。右ストレートで殴る権利をあげる」

 

 そもそも別にジャルマックをぶっとばすのは最初から変わってないし、機会があったらぶっ飛ばすが絶対にぶっ飛ばすに変わるだけ。

 

 気に入らないやつはみんなぶっ飛ばせばいいから目的は特に食い違ってないよ。

 

「Tot Musicaも受け入れてくれる?」

 

「いいよ、いくらでも受け入れてあげる。私も決心がついたよ」

 

 私の考える正しさは理解しようとする意思だよ。シャンクス。

 

 色んな人を見てきた。自分の正義を信じる人、自分の憎しみを関係のない他人にぶつける人、自分の偉さに胡座をかく人。私の仲間を傷つけるのは許せないしぶっ飛ばすよ、慈善事業じゃないからね。その人の立場や価値観を理解して、止めなければもっと多くの人を悲しませることになるなら私は戦う。

 だけどもしも救いを求めているなら、私はTot Musicaの手だって握るよ。

 

 頭によぎるのはさっき見たDr.ヒルルクの夢の果てであるあの桜。あんなふうに人々の心を救う曲を作ってみたい。だって歌は寄り添うものだから。心に桜を咲かせることだって、出来る。

 

「…わかった。私ウタの仲間になる」

 

「うん!よろしくね!!」

 

 あの時救えなかった子を今度こそ救えた。そういえばこの子って私の血統因子を持っているんだよね。そのこの子にルフィが名前をつけたから実質…あぁ…とりあえずすずの頭をなでて平静を保つ。

 

「仲間ってなんの仲間なのさ」

 

「…ベルメールさん、それはもちろん海賊だよ、今まで本当にあちこち迷ってばっかりだったけど私は海賊に戻るよ、みんなで冒険してたくさん笑うの。それで冒険がうまく言ったらみんなで歌おう!ベルメールさんもどう?」

 

「…!ナミとちゃんとお話したいからね。ナミと仲良くするならいいわよ」

 

 よし、それなら。

 

「ルフィ!!」

 

「!」

 

「海賊同盟を結ぼうよ!これからは同盟相手で仲間でライバル!!私は世界の歌姫になる、ルフィは海賊王になる。その先にあるお互いの新時代のための同盟だよ!!」

 

「ああ!」

 

 すごく迷ったし、すごく回り道もした。だけどようやく私は目標を見つけたよ。シャンクス。

 世界の歌姫になって何をしたいのか、それはみんなの心に桜を咲かせることだよ。どんなに貧しくても、どんなにつらくても、その歌を聞けばなんか上手くいく気がする。前向きになれる。そんな歌を作るの。

 できるよね。だって私はシャンクスの娘だもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

使用楽曲

Tot Musica

世界のつづき




ずっと温めていたラスボスが秒でルフィとウタに懐柔されましたが私は元気です。今回の話は2話にちらっと出てます。

ウタには電伝虫では声の届かない子たちの声を聞いてほしかった。そして向き合ってほしかった。

…ルフィのエミュをしようとすると構想が弾け飛ぶのなんでだろう…結果ルフィが名前をつけたウタの血統因子を受け継いだ子という謎の概念が爆誕しました。シャンクスの脳が破壊されちゃう…

でもみんな幸せになれそうだからOKです!
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