もしもTot Musicaの代わりにうっせぇわを歌っていたら 作:匿名希望の雑草さん
幼い頃、ルフィ・エース・サボ・私でみんな別々のタイミングで海を出ることを約束した。そしてサボが天竜人に船ごと沈められた数日後、私は約束よりも早く海を出た。
衝撃的だった。なんてことのない毎日行うルーティーンかのように簡単に人を殺す人たちがこんなにもいるなんて。『横切ったから』という理由で船を沈められたサボ。『景観を損ねるから』という理由で燃やされたグレイターミナルの人々。シャンクス達の戦い方とは全然違う一方的な殺戮。
『助けて…』『海賊が襲ってるぞ』『お母さん!!』『国は俺たちを見捨てたんだ』
私と同じくらいの青髪の女の子が目の前で切られて燃やされるのを見て、涙をこらえてエースとルフィを探した。山から見たゴア王国の夜景を今でも覚えている。明るい街並みの街頭は人々を暗闇から救い、壁を隔てたグレイターミナルの炎は人々を飲み込もうとしていた。
【煌めく街の明かりは 色を変えて 蔑んでる】
数日後にサボが天竜人に殺されたと聞いて私の心は怒りの憎悪で満たされた。こんなこと許しちゃいけない。どうしてこんなことをする人達が偉そうにしているの?今の私には力はないけれどもう我慢できない。船でゴア王国を出よう。そして力をつけていつかここに戻ってこよう。
みんなの怒りや悲しみはよくわかった。私が新時代を作る。
ルフィは一緒に行こうと言ったけど、私は海賊は約束を破ったりしないと頑なに断って最後にはほとんど夜逃げの状態で船を漕いだ。この自殺も同然の旅路にルフィを連れては行きたくなかったから。
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ライブ前日
「知ってる?徹夜組はあなたで11組目」
「ウィッハハハハハァ!わざわざ当日まで待ってやる必要はないからな!」
前日に襲撃をかけてくる勢力がいることは予見してたよ。そのためにバギーデリバリーに警護を頼んでおいた。それでも私が対処したほうがいい相手もいる。例えばこのジーザス・バージェスとか、確か黒ひげ海賊団の幹部だったっけ。
「そろそろ私も寝ないと明日のライブに支障をきたしそうなの。ダメ元で聞くけど明日にしない」
「それはできない相談だな!!」
「だよね。それじゃあ」
「おっと耳栓!」
【ねぇ、あんた分かっちゃいない】
曲名は【阿修羅ちゃん】。
瞬間赤色の車が現れバージェスへ追突する。クルマに乗るのは青白ツートンカラーの髪の少女。私の十八番の一曲。
「ハッハー、地獄行き最終バスにご乗車の方は道路の真ん前にお集まりくださいってなぁ~!!」
「ぐ、俺は耳栓をしているはずだ。なのになぜ歌声が聞こえる!」
バージェスが阿修羅ちゃんの突撃攻撃をなんとか受け止める。さすが四皇幹部、膂力と武装色を十分に鍛え上げているね。なら私も参戦しよう。私は武装色の覇気を纏ってバージェスの無防備な胴体に内部破壊攻撃をお見舞いする。
「え~もう終わりか~」
(ごめんね。そろそろ私も寝たいから今日はおしまい。また明日ね)
「絶対だからな!明日危なくなったら私を呼べよ!心配する私の身になれ!」
(はいはい)
あっけなく倒れたバージェスをバギーズデリバリーの海賊傭兵に引き取ってもらい眠りにつく。私はすでにウタウタの実を覚醒状態にしている。耳栓をしていても、たとえ耳が聞こえない人であっても歌を届かせることができ、ウタワールドにいる歌の化身たちを召喚できるのだ。
とはいえ昔あった歌声でウタワールドに引き込む能力は無くなっちゃったけどね。あれは子供の純粋さが要になる能力で私は時間切れみたい。あのときベルメールさんを助けるために歌ったのになぜか眠らなくて、それでベルメールさんは…。
『どうして眠らないの!眠れ!眠れ!嫌!やめて!!ベルメールさん!!!!』
多分相手を歌に共感させて夢心地にするのが条件なんだと思う。まるで夢の中にいるように熱狂させて夢と現実の境目をあやふやにすることでウタワールドに引き込めるんだ。
あの時のアーロンの一味はひどく怒っていて私の歌が入り込む事が出来ないほど刹那的で頑固だった。だからなおさら眠らせられなかった。
今の私の歌はその逆。強い現実で殴りつける。『まるで車に追突されたかのように錯覚させる』のだ。これなら怒れる魚人にも声が届く。どっちが良いかはわからないけれど、私は幼い頃に見ていた私の中にある私だけの世界から追放されてしまった。
バギーズデリバリーの海賊傭兵には収拾つかなくなったら起こすように言ってるけど大丈夫かな。S級の巨人族軍団は全員やめちゃったからバギーからA級の海賊傭兵を多めに送ってもらったけれど少し不安。
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ライブ当日。撃ち合いが止まらない。
世界中から私目当てにライブ会場に押しかけようとした結果、敵対勢力同士の大海戦が繰り広げられていた。遠くから見ているだけでも海軍・ビッグマム海賊団、そして百獣海賊団がしのぎを削っているのが見えた。
「たまらねぇな!!!このライブ感!!!ライブだからな!!!」
朝イチで駆けつけたモルガンズがアタッちゃんと一緒に写真を取りまくっている。
「そんなに面白いの?」
「そうさ。戦争は最高の娯楽だからな!人は自分以外に降りかかる暴力が何より楽しいのさ。お前もホールケーキアイランドの件を飛び上がるほど楽しんでたじゃないか。死人が出てるんだぞ!」
………
否定できない。
「おっと地雷だったか?ならさっさとこのバカみたいな戦争を止めるんだな」
…はあ
(私はこのクソ鳥に賛成だな。気に入らないやつは全部右ストレートだ)
(あんたがシャンクスの娘を名乗ったからこうなったんでしょ。モルガンズを責める権利は無いよ)
歌の化身達から聞こえてくる。そうだね。私にできるのは歌うことと殴ること。
(お!私の出番かな?)
「ちょっとライブ前に運動してくる」
「観客誘導ってやつか?」
「そんなとこ」
【ねぇ、あんた分かっちゃいない】
阿修羅ちゃんを呼び出して車に乗る。阿修羅ちゃんがボタンを押すと車は空へと飛び上がりたまたま目についた百獣海賊団の船へと向かった。私は【阿修羅ちゃん】を歌いながら心の声で阿修羅ちゃんに指示を出す。
(アクセル全開。追突コース!)
「仰せのまま!!!宿主様話わっかる~!!」
ぶつかる前に車から飛び出し、ウタウタで出現させた音符に乗る。車はそのまま船へぶつかりポッカリと穴を開けた。その穴の近くで怒った様子の男女の二人組が姿を表した。風貌からしてたぶん幹部のページワンとうるティだ。
「てめぇ!ぺーたんにぶつかったらどうするアルか!」
「おいやめろ挑発するな姉貴!」
「やめろだとォ!?」
「はーい、そこまで!!戦闘はおしまい!今日はライブなんだからこれ以上したらただじゃおかないよ!」
もちろんそんな事言っても止まるわけない。ページワンとうるティは私の同年代で百獣海賊団の幹部、噂じゃ海賊船の上で幼少期を過ごした私と似た者同士でしょ。止まらないよ。
「知るか!!言っておくけどなあ!お前の歌はウルトラ好きアルよ!紅白頭!!」
止まら…え?
「はあ!突然何いってんだ!」
「カイドウ様がお前を欲しいって言ってんだ。さっさと捕まってワノ国で好きなだけ歌いやがれ!」
そんないきなり好きって言われると恥ずかしい…
「違うよ!お前はビッグマム海賊団がいただくよ」
「いいや、海軍が身柄を拘束する。お前らも含めてだ!」
「うるさい」
【ドメスティックでバイオレンス】
特に嗜虐的な二人と音符の戦士たちを呼び出してビッグマム海賊団と海軍に襲わせる。そしてふわりとうるティの前に降り立つ。
「な、何アルか」
怖気づくうるティの手を掴んで胸の方に寄せる。もちろん歌ったままだ。
(感想聞かせて!)
「こいつ脳内に!」
(見聞色で無理やり繋いでるの!そんなことよりどうして私の曲が好きになったの!?)
「え、なんでってそりゃあ…右ストレートでぶっ飛ばすような個性が好きだから」
(うんうん)
「【踊】が一番好きなんだ。気に入らねぇことも邪魔なことも全部ひっくるめてぶ…ぶっ飛ばす見てぇな」
「2回ぶっ飛ばすって言った…」
「はあ!?言ってねぇし!!?ぺーたんの耳に2回入っただけだし」
「それが2回言ったってことだよ!!」
(フフ、そっか)
「ウタ…さん」
「(姉貴が敬語使った…)」
(私の歌を好きでいてくれてありがとう。あと船壊してごめん。ライブ楽しんでね)
こういう素直なファンは貴重だから大切にしていきたい。たとえ敵同士であっても。歌って不特定多数に届くべきものだから誰であってもファンなら尊重するよ。もちろんライブ中に邪魔するなら別だけどね。
少し心が楽になったかな。顔がまっかっかになったうるティをおいて上機嫌に音符で空を舞う。
「ちゅうもーく!!」
注目したことで大量の砲弾がウタ目掛けて飛んでくる、がそれらを全て避けて逆に阿修羅ちゃんをお見舞いする。
「みんなの砲弾が鳴り止むまで阿修羅ちゃん飛ばすからね」
しばらくしてようやく鳴り止んだので話を進める。
「素直にライブに参加する方は観客席を用意してるからスタッフの指示に従ってね。参加しない方は帰って。それと海軍、世界政府の皆さん。私にTot Musicaを開放する意思はありません」
こんなこと言って海軍や世界政府が帰るならとっくの昔に和解している。だからこれはポーズでしかない。
ふう。
「それじゃ、ライブ会場で待ってるからね!」
よし、観客誘導は完了っと。疲れた。少し眠ろうかな。そんなことを考えていると「ウタ!」とどこか懐かしい声が聞こえてきた。声の先を辿ってみるとライオンの船に麦わら帽子のドクロマークの船があった。
来てくれたんだ。ルフィ。私の幼なじみで5番目の海の皇帝さん。
船に降りるとナミがいた。髪を伸ばしてスタイルもバツグンのイケてる女子って感じ。
「ナミ久しぶりだね。ルフィがココヤシ村を救ってくれったって聞いたよ」
「…うん」
私はナミに抱きつき消え入りそうな声で言った。
「…ごめんね」
すぐにココヤシ村に行けなくてごめんね。あの後暴君くまに物理的に遠い場所に飛ばされたりして帰れなくなっちゃったけどそんなこと関係ないよね。私はあなたを助けられなかった。
「うん、許すわ」
「ナミ…」
「泣き顔をファンに見せる気?昔の話はこれでおしまい。私に対して後ろめたく思うならライブを成功させなさい。返事は」
「……うん」
「よし、うちの船長が呼んでるわよ」
「ウタ!」
振り向くと懸賞金のポスターに載っている満面の笑顔そのままのルフィがそこにいた。
『一緒に新時代作ろうね』
『おう!』
懐かしい記憶が流れてくる。私とルフィがいるだけの単純な世界の記憶。あの風車を見せてくれたときに私は世界の広さを知った。想像していた世界は確かにそこにあった。
「ルフィ!」
「ウタ!」
ぎゅっとルフィに抱きつくと周りのクルー達。ナミとサンジ、ゾロ、ウソップ以外のメンバーは驚いた顔をしている。
「久しぶりだね」
「ああ、なんか変わったな」
「ルフィも、雰囲気は昔と同じはずなのにどこかシャンクスと似てきたんじゃない」
「ししし、そうかもな」
お互い色々なことがあったね。でもこれからは一緒に冒険したいな。
使用楽曲
阿修羅ちゃん
ドメスティックでバイオレンス
夜のピエロ
思っていること
何だこの湿度高い子は!?ライブ開いた理由8割「ルフィに振り向いてほしいから」じゃん!
あと、なんでこの鳥ゴードンポジに収まってるの?
1話に設定が多いのは続くのか不安だったからです。このままさらに続いたら削除します。