はつゆきさくら―Ghost Graduation― 作:小谷翔平
――少年は、大事な人達の死を受け入れ『卒業』した
少年は再び、止まっていた時間を、自ら止めていた時間の針を、動かし始める
だが、もしも
もしも、少年の過去が
ほんの少しだけ、救われていたなら
未来が、変わるなら
これは、過去がほんの少しだけ救われた、とある少年の
「お父さん……お母さん……」
それは、楽しいパーティーのはずだった。
まだ幼かった俺は、どうしてもパーティーに参加したくないと駄々を捏ねる妹を心配しながらも両親と華やかなホテルで、訳の分からない話を聞くのはさておいたとしても豪華な食事を楽しんでいた。
――アイツの分も、帰りに少しだけ持ってってやるか。
俺の事なんて嫌いだと、家を出る前に喧嘩みたいになって言い飛ばしていた我が妹だったがそんなのチビっ子の、言葉の意味を深く理解していないただの売り言葉に買い言葉である事くらい明白。
妹と二つ程度しか年齢の変わらない俺でもそう分かるくらいの意地っ張りだったから、俺がしっかりしないといけないんだという意識も早くに芽生えていたのかも知れない。
折角のパーティーでの豪華な食事なのだ、アイツだけ味わえないのもやはり寂しいだろうと食事終わりに、両親に見つからない様にこっそりタッパーに詰め込んで持っていってやるかと考えていた。
だが、そんな微笑ましいくらいの思考は、ずっと続くと思っていた平和は、爆発音と共に吹き飛ばされた。
気付けば俺はボロボロの姿で横たわり、ボヤケた視界の奥に俺の母親が事切れているのが見えた。
信じたくなかった、大好きな母が死んでいるなんて。
周りにも沢山の人間が物言わぬ屍として横たわっている凄惨な光景にパニックになりながらも、俺は必死にもう一人の大切な肉親……父親を探していた。
「お父さん……どこ……」
「ゆ……うき……」
「お……父さん……」
父親は近くにいた、どうやら咄嗟に近くの俺を守る様に庇ったらしく、小さい俺から見てももうダメなのが分かる程の傷を負っていた。
「ク……ソ、こんな事に……なるなんて……」
「しっかり、してよ……」
「私は……もうダメだ……」
「そんな……」
「だがッ、だが……ゆうき……お前に……頼みがある……お前にしか……頼めないんだ……」
親父は俺の手を、最後の力を振り絞って握り締めた。
俺はどうして良いか分からず、でも、最後まで温もりを感じていたくて、握り返していた。
「な、なに……?」
「しずかを……頼む……」
しずか……俺の妹の名前だった。
放っておけない、意地っ張りで、生意気で、それでいて最愛の家族。
だから、大切な家族から託されて。
断れる訳が無かった。
俺は、震える手でもう一度親父の手を握り締め、深く頷く。
「おれは、おにいちゃんだから。いもうとをまもるのはあたりまえさ。だから……しんぱいしないで、お父さん……」
「ああ、良かった……済まない……そして……あり……が……」
親父の最期は、安心した様な笑顔だった。
だがいくら分かっていても、こんな現実受け入れられる訳が無かった。
絶望に打ちひしがれる……そのはずだった。
「うっうぅ……たす、けて……」
「痛いよぉ……」
しかし俺は、その声でハッとした。
その声は、確かにしずかとは違った。
違ったが、その声の主は間違いなく俺やしずかとそこまで年齢の変わらぬ、少女達の声だったのだ。
――俺は、親だけでなくここで何もせずにこんな、俺と同じ様な子を見捨てるのか? 見殺すのか?
「い、いやだ……そんなの……」
俺は這いずった。
幸い身体のあちこちが痛むものの、親父が身を挺して守ってくれた身体はそれ以上の怪我が無く、それで『アイツら』をあの時救えたのだと今でも思っている。
その先にいたのは、ぐったりとした状態で倒れている雪のような銀色の髪色の少女と、茶髪の少女。
茶髪の少女は顔に傷を負っているものの致命傷という様子は無いが、銀髪少女の方は腹部から血を流して意識が朦朧としている感じだった。
「死んじゃ……ダメだ……!」
何とか傷口を塞ごうと、親父に習っていた応急処置の一つとして、俺はシャツを脱ぎ捨ててそれを布として彼女の出血している部分へと巻き付け包帯代わりにする。
これである程度の出血は止まるだろう。
そして瓦礫まみれでも俺達三人が目立つ様に、三人同じ場所に、比較的安全な瓦礫の下に固まる。
本当なら電話があれば誰かに助けを求められたのかも知れないが、爆発で全ておじゃんになっていたから最早出来る事など無かったのだ。
「キミも……だいじょうぶ?」
「あなたが、声をかけてくれたから……がんばれる……」
「よかった……おまえも、がんばれ……きっと、たすけにきてくれる人がいるから」
「う、ん……」
それでも、気丈に声を掛け続けた。
たかが初対面のガキ二人、それでももうこの場で誰かを失う事なんて俺には耐えられなかった。
何より、しずかと重なって見えてしまった以上、ここまで来て見捨てる事なんて出来なかった。
『オイ、誰か生存者はいるのか!? いたら返事をしてくれ!!』
声が聞こえた。
紛れもなく、救助隊の声だと分かった。
「う、動けな……」
「オレがいく。オレがいちばんうごけるから! だからまってて! かならずたすけるから!」
「うん……うん……!」
『クソッ!! このエリアも全滅なのか!?』
ここを逃しても、少し経てば見つけてもらえるだろう。
だがそれでは銀髪少女の命が危ない、俺はそれに気付いていた。
だから痛む身体にムチを打ってでも遠くに聞こえる救助隊に向けて叫んだ。
「おれたちが!! 生きてる!! だから……たすけてくれ……!!」
喉が焼ける様に痛む、身体も激しく痛む、そんなでも気にしていられなかった。
助けたい、その一心で。
「こ、こんなところに子どもが三人も……!? 隊長、隊長!! 生存者を発見しました!! すぐに応援を!!」
「はぁ、はぁ……ゲホッゲホッ」
「良く頑張ったな、もう少しだけ頑張れよ」
「お、オレはだいじょうぶ……それよりもあっちの二人をさきにはこんであげて……」
「分かった、偉いな君は。きっと三人共助けてやるぞ……!」
俺が次に記憶に残っているのは、病室のベッドの上で目が覚めた時だった。
きっと声を振り絞ったせいで、気絶していたのだろう。
「うっ……ここは……?」
「おお、起きたかい? ここは病院だよ。君は助かったんだ、良く頑張ったねえ」
目が覚めた時、いたのは高齢の男性医師だった。
温和な笑みで、心がホッとする様な、不思議な医者だった。
しかし俺にはそれより先に聞かねばならない事があった。
それは俺が助けた二人の少女の事であった。
「ぎ、ぎんぱつの女の子とちゃぱつの女の子は!? オレのとなりにいた二人!! っいたた……」
「おやおや、無茶をしちゃダメだよ。あの子達なら無事だよ、君が見つけて、応急処置をしたり声を掛けていてくれたお陰だね。ありがとう」
「ほ、ほんと!? よかった……よかったぁ……」
気付けば涙を流していた。
両親を失った悲しみや絶望は大きかった、だがそれ以上にそこで立ち止まらず助けられた命がある事が、何より俺の心を安堵させていた。
「会うかい? あの二人も……あの爆発で両親を亡くしていてね。君に会ったら少しでも元気を取り戻してくれるんじゃないかって思ってね……どうだい?」
その言葉を聞いて迷う事など、あり得ない。
「あのふたりがオレと同じなら……オレが元気を分けてやらないといけないからな!」
親を失った悲しみは、親を失った者でしか分かち合えない。
だとしたら、あの二人に寄り添えるのは、きっと同じ場所で親を亡くした俺以外に存在しないのだろう。
そして、この出会いこそが、俺の『新しい家族』になる事を、俺はまだ、知らないでいた。
『大野ゆうきが軽傷』を達成
『大野敦がゆうきに復讐ではなく大野しずかの事を託す』を達成
『大野ゆうきが〈銀髪少女〉と〈茶髪少女〉を救出』を達成
《Ghost Graduation》ルート開放まで残り55%――