はつゆきさくら―Ghost Graduation― 作:小谷翔平
病室で再会してからの俺達三人が仲良くなるのに、時間なんて掛かりやしなかった。
そりゃそうだ、三人共に両親を失って、同じ場所で生き長らえた仲だ、呪いとまでも言えてしまう様な絆で結ばれたも同然の俺達は、数日ですっかり兄弟の様な関係性になっていた。
「ふーん、それじゃランはオレよりおねーちゃんだけどオレの方が桜よりおにーちゃんだな!」
「それじゃあ、ゆうきくんだからゆーおにいちゃん?」
「だな!」
「私のことはおねーちゃんってよんでね!」
「……それはなんとなくはずかしいから『姉貴』で」
「ぶー、ゆうきのいけずー」
最初は現実を受け止めきれず泣いていた二人も、俺が積極的に関わり始めてからというものの笑顔になり俺の周りは騒がしくなっていた。
それに……
「おにーちゃんのいもうとはわたしなの!」
「もうどっちもいもうとでいいだろー? しずかだっておねーちゃんほしかったんだろ?」
「うー……それなら……」
しずかとも仲直りする事が出来た。
コイツにも一応両親が死んだ事は伝えてある、が目の前で見た訳でもなく幼いしずかは分かっているのかいないのか、二人がいなくなった事は理解していても当時はその辺が曖昧だった。
下手に理解してトラウマになっていたよりはマシなのかも知れないが……
何にせよ、守れるものは守っていかねばならない。
幼いながらに俺がそう決意するのに時間など掛からなかった。
「お父さんのあとをつぐ? オレが?」
「ええ、そうです。ゆうき君、キミはまだ小さいがキミのお父さん、敦さんの跡取り息子です。跡を継ぐに相応しい能力だって持ち合わせている。我等がカスガ復権の為に是非お力添えを」
「……オレは、しずかと、さくらと、ランを、まもっていかないといけないんだ。だから……三人とはなれたくない……もっと大きくなってからじゃダメなのか?」
だから、俺はすぐ様親父の跡を継ぐという選択肢は取らなかった。
言ってる意味を当時なりに『親父と同じくらい強くなれる』と解釈して聞いていたが、それはそれとして親父の遺言や自分の意志を守りたい方が強かったからだ。
かと言って完全に断る気も無かった、俺は結局のところ自分の力では何も救えないと分かったからだ。
今の無力な自分では救えないものを将来救う為に、親父の跡を継ごうという意志もまた、大きかった。
「……分かりました。では、せめてキミが……いや、次期首領である貴方がそのポジションに着きたいと思うまで陰ながら生活のサポートをさせていただきます。引いては狙われる危険性を踏まえ遠くの街に家を据え、世話係を家に送っておきますので、何か申し付けたい事があればその世話係までどうぞ」
「わかった! ありがとうおっちゃん!」
「……荒金です」
「ありがとう荒金のおっちゃん!」
「……」
正直、カスガの言う祝事やら政治やらに興味など今でも一切無い。
俺はそんなしがらみや権力の為に力を振るうのでは無い。
ただ守りたいものがあったから、その為に権力や力を手に入れるだけだ。
それから俺は桜とランを家族同然として家に住まわせ、しずかと四人兄弟の様に暮らす事になった。
俺も、しずかも、桜も、ランも、それぞれ心に傷を抱えながらも新しい家族が増えた様で、過ごす内に本当の家族の様な、大切な、特別な存在になっていき。
そしてやがて月日は流れ。
9年の時が経った。
俺と桜は高校二年生となり、しずかは一年生、ランは三年生として、平穏な日々を過ごす事が出来ていた。
まるであの時のテロが嘘だったかの様に。
「はつゆき〜」
「……」
「はっちゃ〜ん」
「はっちゃんなんて呼ぶくらいなら初雪にしろ、アホ桜が」
間の抜けた様な声が廊下に響き渡る。
周りの視線が面倒だから適当に返しながら、背中に当たる柔らかい感触に一瞬ドキリと胸が跳ねながらも呆れ返る。
このバカはもう少し自分の容姿やスタイルが良い事を自覚した方が良いだろう、と。
「ふっふっふ〜、はっちゃんはそうやってぶっきらぼうに見えて実は優しいの良く知ってるんだよ〜?」
「だからはっちゃんはやめろと言ってるだろドアホ、あともう少しスキンシップは控えろ」
「なんで?」
「……お前はもう少し自分が女だと言う事を自覚しろ、俺相手じゃなきゃお前みたいな天然ドアホ今頃襲われてるぞ」
「……? 私はこういうの、初雪にしかしないよ?」
「……」
何自然と告白紛いな事言ってんだかこのドアホは。
恋だのなんだのと言った自覚も無い癖に一丁前に口説き文句なんて言いやがって。
「初雪?」
「チッ、帰るぞ。……姉貴としずかは?」
「お姉ちゃんとしーちゃんならお買い物するからって、先に学校出てったよ」
「そうかよ」
「もしかして心配?」
「んな訳あるかよ、アイツらなら不良如き片手で捻り潰せるんだぞ?」
「そう言って本当は心配なんだよね、ウンウン分かるよ〜」
「お前は俺の何なんだ」
「家族」
「否定はせん」
正直、コイツや姉貴、しずかに恋人が出来る日が来たら流石に落ち込むのだろうなとふと感じてしまう時がある。
家族だからどういう気持ちが正解なのか分からないが、日に日に成長するアイツらを見ていて、異性という事を意識しているのを自分で実感してしまう。
全くやってられん、今更俺がアイツらに恋だと?
更に言えばしずかは実の妹だ、そんな存在に恋幕を抱くなど人間として言語道断だろうが。
自分の気持ちに呆れ、溜め息を漏らしてしまう。
「どうしたのはっちゃん、学校出てからずっと溜め息付いてるよ?」
「別に、大した事じゃない。桜は気にするな」
「そう?」
そう。
大した事ではない。
今は恋幕などに現を抜かしている暇なんぞ無いのだ。
俺はふぅと息を吐き出し、今の自宅である『廃ホテル』に入っていく。
俺は『大野ゆうき』でありながら『河野初雪』である。
後者は偽名だ。
何故ならば、9年前に起きた爆破テロの犯人を突き止め全員残らず顔を拝んだ上で豚箱にぶち込む為だ、大野家の人間とバレては意味が無いのだ。
――親の仇討ち、と言えば復讐の様に聞こえるだろう。
実際この長い年月の間俺はあの爆破テロを忘れた事は無かった。
きっと親父が守ってくれなければ俺は記憶を失っていたとさえ、直感的に感じている程だ。
それは『今の家族』の事も『両親』の事も、どちらも忘れてしまう事に他ならない。
そう思う度にゾッとするし、親父には心底感謝している。
だからこそ、親父の無念を晴らす為に俺はこの街に戻ってきた。
そして俺は、あの事件の日に死んだ人間の魂の殆どを取り込んでいた。
親父が霊媒師……というのは荒金が教えてくれた事だ。
なんでもカスガの首領というのは代々強力な霊媒師で、それを大野家が継いでいたらしい。
そして……この街に元々住まう精霊の巫女として、桜の家系……玉樹家が存在していたとか。
(ま、本来桜は精霊を取り込んで幽霊化するみたいな事を言われていたが……そこは運に感謝しないといけないだろうな)
そこに住まう精霊が、あの事件で自ら達の血を濃く受け継ぐ人間が多く死んだ事で厄災を起こし掛けそれを無意識の内に桜が全て鎮静化させていた。
ただ、本来であるなら取り込んだ影響でこの世の者では無くなりゴースト……幽霊化してしまうはずだったのだが、どうやら俺や親父の姿を見て歴代の玉樹家の精霊やゴーストが力を貸してくれ、ギリギリ実体を保てているらしい。
それでもそれも、俺がこの事件の首謀者から実行犯まで全てぶん殴って捕まえて、豚箱に突っ込んで爆破テロの真相を公に公開する前提があるからサポートしてくれているだけに過ぎない。
だから本来巻き込みたくなかったが、家族全員で今ここで暮らしている。
「お姉ちゃん、しーちゃん、サクヤーただいま〜」
「おかえり、ゆー君、さーちゃん」
「お兄ちゃん、桜、おかえりなさい」
「……今日はシチューよ」
「分かった」
あと、実体化を保ててる要因の一つとしてこのサクヤ……荒金が世話係として置いてったコイツの存在があるが、まあ面倒だから割愛しても良いだろう。
何者か話すと面倒だが、一応サクヤとの付き合いも長く、大切な存在であるのに変わりは無いのに間違いはないのだから。
大切な家族を守る為の準備は、目前まで整った。
(後は……そろそろ約束を果たす頃合いだろうな。気に食わない事も多いが、最善手なのは間違いねえ)
『家族』の団欒とした姿を遠目に。
もう、何も失わない為の覚悟を――
『《玉樹桜》《ラン》《大野しずか》《コノハサクヤ》と同居し始める』を達成
『《穏健派カスガ》の庇護下に入る』を達成
『《内田川邊市》に戻ってくる』を達成
『覚悟を決める』を達成
《Ghost Graduation》ルート開放まで残り5%――
『家族』の本名と偽名一覧
大野ゆうき→河野初雪
大野しずか→河野閑
玉樹桜→河野桜
涼谷藍→河野風蘭(ラン)
コノハサクヤ→古葉咲夜
※しずか、ランの本名設定及び初雪以外の偽名は全てオリジナル設定です
しずかはドラマCD『ゴーストトラベル』にて過去の記憶を一時的に思い出した初雪が宮棟閑に対して「しずか」と呼んでいた事等から、文字は不明ながら初雪の妹と確定
宮棟閑=『大野家』の『しずか』と言う音の名前が本名の河野初雪(大野ゆうき)の妹
そこから起因して『大野しずか』と設定しました
※ランの年齢設定は曖昧だったので勝手に初雪の一つ上(綾と同学年)にしました