はつゆきさくら―Ghost Graduation― 作:小谷翔平
「えーっと、それで何とかしてアキラ君達を放浪させるんじゃなくて何処かに住む場所を用意して助けたい……って事で良いのかな、ゆーちゃん?」
「俺はただ『一度ああなった以上勝手に死なれるリスクがあるのは面倒だからその可能性を排除したいが何か提案はあるか』と聞いただけなんだが?」
「お兄ちゃんは誤魔化すのが下手ですねえ、数少ない気の合う同性の話なんですからそんな事言われたらそう思うのが普通ですよ」
二学期も終わりを迎えようかと言うとある冬の休日の昼間。
姉貴とサクヤは買い物に出掛けて俺以外に残っているのは桜としずかだけ、一線を超えるのは桜との婚約式を終えるまでしない事にしている為まあ何もする事も無く暇だった。
だがそこでふと、少し前に路上で泥酔爆睡していたアキラ含む四人のアホ共を思い出しどうにもまたやらかしそうで嫌な予感がした。
基本的に他の三人はともかくアキラの頭は悪くない、悪くないのだが自暴自棄なのかヤケ酒をしてるところを良く見る。
また路上で寝て死体にでもなったら流石に寝覚めが悪い、気の合う奴の死んでる姿なんて気分が悪い。
んな訳で気紛れに話を持ち掛けてみたんだが……ムカつくのはさておき図星ではあるので話は続けさせてもらうとするか。
「……チッ、まあ良い。それでだ、せめて固定の寝床でも用意しとけば他の馬鹿三人は知らんがアキラは帰って寝る程度の常識があるから帰巣本能で帰ってくるだろうと言う話だ。で、何かあるか?」
「そうだねえ……それじゃあいっその事、ゆーちゃんが安心出来る様に
「成程……基本的にお兄ちゃん以外の男なんて真っ平御免ですが……お兄ちゃんの大切なご友人とあれば例外ですね」
「……何処を使わせる気だ?」
「それは適当な空き室一つに詰め込んでおけば良いでしょう、どうせ寝に来るだけでしょうし」
「ご飯は……」
「どうせカンテラの料理はいつも余るんだ、それを与えれば満足な食事になるだろ。後案は姉貴とサクヤが了承すればそれで行く、目の届く範囲にいれば面倒も減るしな」
雑な気もするが現状よりは大分マシな生活を送れるだろう。
アキラどころか全員家出して放浪中とか呆れて物も言えないレベルの生活をしているみたいだしな。
「良かった~、これでゆーちゃんもアキラ君達も安心だね!」
「ランとサクヤに聞いてから、ですけどね」
「……ま、助かった。ありがとう」
実際放り込むとしたらここしか無いだろうと考えてはいたから、相談に乗ってくれた事には純粋に感謝しておきたいところだ。
「えへへ~」
「お兄ちゃんでも素直にお礼言うんですね」
即座にしずかに対してだけ前言撤回したくなった。
コイツは本当に照れ隠しでの余計な一言が多いんだよ。
「あ? お前は俺の事なんだと思ってんだ? 言ってみやがれ」
「お兄ちゃん兼恋人ですが?」
「フン、まあ今回だけ許してやる」
「……チョロいですね」
「でもそういうところもかわいいよね~」
「お前ら本当に一言多いんだよ、そんなに脳天チョップ喰らいてえか? あ?」
だが正直な話素直さで言えばコイツらが何の躊躇も無しに俺との関係を口にするから一本取られたと言えばそうとも言えるのが何とも釈然とせん。
もう少し恥じらいを持てっての。
どうでも良いがその後帰ってきたランとサクヤに相談したところ速攻で賛同を得られたがその後の俺を弄ってくるところまで含めてしずか、桜をコピーしろとは言ってないと言いたかった。
揃いも揃って俺との関係性を口にするのがそんなに恥じらい無いのか? テメーら鋼メンタルか何かかよ、と溜め息を吐くのだった。
「ありがとうございました〜また来てね〜」
「おーう! いやーアイツらの言ってた通り確かに飯も美味くて安いし、美人ウェイトレスは眼福だし悪くねえな」
閑古鳥が鳴く人形喫茶店ことカンテラ……そんなこの店だが、最近客足が微妙に増えている。
それも妙にガラの悪い学生連中ばかりだ。
俺としてはランの店であるカンテラが人気になるならそれに超した事は無いと思っているが、客層が妙な連中なのがどうにも引っかかった。
だが迷惑な客でもなく、ガラや口調は悪いがそれ以外は普通に仲間内で飲食をするだけの存在だ。
不思議には思うがそれはそれとして、邪魔にならないなら気にする必要も無いだろうと過ごしている。
「店長、最近お客さん増えたねー」
「……妙な連中ばかりだが邪魔にならないなら、まあ好ましい事ではあるな」
「私渾身のネタで笑ってくれる人間はまだ現れてないけどね」
「スマン、客より妙ちくりんなのは綾のネタだったわ」
シロクマや綾もこの客足増加には割と好感触らしい。
ただ綾お前のネタは不良連中でも引きつった笑いしか産んでないからやめた方が良いと思うぞ。
「全く酷い事を言うね。でもゆきち、キミが割と気に入ってくれてる事を私は知っているよ」
「……本気で思ってるのか?」
「まかのろんさ……ふふ、振ってくれてありがとうゆきち」
だが実は俺は何故かこのネタを少しだけ、本当に少しだけ好ましく思って聞いている節がある、何故かは分からんが。
だから本当に思ってるのかとか言ってフリをした訳ではない、絶対にない。
「フン……身内サービスだ、他人相手なら絶対にやんねーぞ」
「身内と思ってくれているだけでも、私は嬉しいのさ」
「そーかよ、そりゃおめでたい思考なこって」
「店長優しいもんね~」
「バカかお前は、俺が優しいとか天地がひっくり返っても有り得ねえよ」
まあ、少しだけ綾の自信満々に笑う顔が拝みたかったと思っていたりもするが絶対に言わん。
言ったら必ず弄られるのが確定してるからな、そんな分かりきった事わざわざ言う程俺は馬鹿では無い。
「さてと。申し訳ないけど私はここいらで上がらせてもらうね」
「はんっ、ここはたかがバイトだろうが。自分の受験くらいもう少ししっかり優先させても俺は文句言わねえぞ」
「頑張ってね〜」
「……ふふ、やっぱりゆきちは優しいね」
「チッ……ったく、勝手に言ってろ。どうせ客も少し増えたくらいだお前がいなくても楽に回せるんだよ」
本当、綾と話してるとペースが乱されて仕方ない。
そしてそれを良しとしている俺がいるのも気に食わない。
更衣室に下がっていく……と、扉の前で一度こちらに振り返る。
「ありがとう、ゆきち、シロクマ」
「えへへ~」
「……ふんっ」
純粋な笑顔に少しドキリとさせられたのを感じて、やはり俺はコイツと話すとロクな事が起きないと溜め息を付きながらも口角が上がるのを感じるのだった。
「よし、カンテラの売り上げは順調に上がってるね」
「へへっ、俺達の宣伝効果のおかげだな」
「とはいえ世話になってる家の店だからな、もっと貢献したいとこだ」
「俺達みたいな不良に手を貸してくれる様な人達だし」
路地裏、不良四人組はカンテラの月別売り上げを見ながらうんうんと唸っていた。
この四人はアキラを筆頭に初雪と深い関わりがあり、紆余曲折を経て『野垂れ死なれると困るから』と廃ホテルの一室に住まわせてもらっている。
この寒い時期にそんな大恩をもらったからにはと内緒でこっそり不良仲間に『安くて美味い店がある』と宣伝を入れて売り上げに貢献している。
だがそれでは限界があると、新アイデアを模索している途中であった。
「もう少し萌えを意識した制服を提案するとか」
「あの人ああ見えて過保護だからあの二人にハレンチなモン着せたら殺されるぞ」
「それは勘弁」
「じゃあ新しいメニュー開発とか」
「俺達に料理の才能あったか?」
「無いなあ」
しかし中々難航している。
アキラ達四人組はこういった事には今まで無頓着だった。
それが災いしたのか、ここ数時間ずっと唸りっぱなしである。
「そもそも大々的にやるのはそれはそれで迷惑掛けそうだからな。もう少しってのが中々なあ」
「……いっそ、白咲ヤンキースに声掛けるか」
「うっ……学園の連中に声掛けるのは結構ハードだね……」
「って言っても白咲は結構大きいとこだし、アキラは確かにきちぃかもしんないけど……」
「……いや、分かった。やろう」
「マジか」
「僕だっていつまでも逃げてばかりじゃダメだからね。恩の一つも返せないんじゃ意味が無いよ」
アキラは、諸事情で学園を辞めた身だ。
今更そう言った人間に声を掛けるのは気まずさを通り越して苦痛を伴うだろう、しかしそれを承知の上で彼は立ち上がった。
それは、アキラの止まっていた時間が少しずつ動き出した瞬間だった。
初雪の時間が、あの時から少しずつズレて大切なものを守る決断をしたように、死なずに17歳の冬を迎えたアキラ。
彼の進む道の行く末に、きっと春はあると信じて。
本来はアキラを放置して死なせてしまう不良連中
本来はそんな不良連中に怨みを抱くアキラ
そんな二つの関係性も、心に余裕の出来た初雪によって纏めて改心させられてある程度イキイキと生きています
これは初雪だけの物語ではなく『救う事が出来た初雪』によって変わっていく周りのキャラの物語でもあると思っています