この第0章だけは異世界恋愛ファンタジー風味になっています。
転生前の記憶を持たないテオ君は、とある開拓村の単なる農民の子供です。
00話 成人への儀式(前編)
「テオ、ちょっと良いか?
ミリーも寝たことだし、明日の成人の儀式について少し話があるんだが」
夕食後の家族の団欒も一区切りして、大人同士の会話に退屈して眠ってしまった妹のミリーを寝床に運ぼうと思い席を立った僕を父さんが呼び止めた。声の調子が真剣だ。父さんがこのような言い方をするときは、ちゃんと相手をした方が良い。
「うん、良いよ。どうしたの?」
ミリーを寝床に入れて戻った僕を前にして父さんは居住まいを正した。
「明日は成人の儀式が行われる。お前も去年俺と一緒に見に行ったから、どんな感じで成人の儀式を受けるのかは知ってるよな?」
「うん、まず場所はいつもと同じで村の広場だよね。
そこに巡回神官様と助手の人と村長のノア叔父さんの三人がいて、
三人の前に長い大きな机があってそこに神官様が持ってきた水晶球が載ってるの。
今年成人の儀式を受ける村の子供たちは全員、少し離れて神官様たちと向かい合って立ってて、並んで待ってると一人ずつ順番に呼ばれるんだ。
神官様に呼ばれたら水晶球の前まで行って立って神官様にお辞儀をすると、
神官様が水晶球に手を当てるように言うからそれまで待って水晶球を触るんだ。
そうすると水晶球の神官様側に、触れた人に神様が用意してくれたその人向けの職業が古代文字で浮かびあがるの。
それを神官様が読み取って『おめでとうございます、なんとかさん。あなたに用意されていた職業は農民です』とかって告げるんだ。
『ありがとうございます。神様が私に用意して下さった職業を尊び、自分の人生を導く指針とさせて頂きます』って答えて、神官様にお礼をして自分の場所に戻るんだ。
全員の分が終わったら、ノア叔父さんが前に出てきて『神のご意志により、今年成人する村の子供たち皆にふさわしい職業が無事示された。この開拓村を見守って下さっている神に感謝を。これにて今年の成人の儀式は終了する』って言うの。
後は、また並んでた順番で、今度は父さんと母さんと一緒に三人で神官様にお礼のご挨拶に行って今日のお代を払っておしまい。
これで大丈夫かな?」
父さんに、成人の儀式の手順を尋ねられた僕は、間違いがなさそうなことを確認しながら去年見に行った時の記憶を辿りって答えていく。
「よし、手順とお前が応えないといけない定型の句については大丈夫だな。
あとは注意しておく点だ。
今年いらっしゃる巡回神官様は去年と同じクラディウス様だ。
温厚な方で誰にでも親しく声をかけて下さる方だから感じにくいかもしれないが、クラディウス様はこの地方の領主様と差し向かいで二人で食事をされるほどの偉い方だぞ。
クラディウス様がおっしゃる言葉に異議を唱えたり、ましてやお話をされてる途中で言葉を遮ったりなどするのがどれほどとんでもないことか、これでわかるよな」
「うん、領主様と差し向かいなんて、クラディウス様、実は雲の上の身分の方だったんだ……」
「特に今回の成人の儀式では、頑固なお前のことだ。もし神託で『農民』が職業として示された場合に、間違いがないか確認してくれとかもう一度やらせてくれとか言い出してしまいかねないと俺は心配している。
ここで父さんと約束してくれ。今回の成人の儀式でお前の意に沿わない職業が示されたとしても、一言たりと不満を言うことは勿論、不服そうに見える態度を取ることは決してしないと。代わりに父さんは、もしお前に神託でお前の望む『剣士』が職業として示されたらお前が村を出て冒険者になることを無条件で認め、兄さんにも必ず認めさせて見せる」
「う、うん。わかった。『剣士』以外の職業が示されても、僕は絶対に何も言わない」
父さんの迫力に気負されそうになりながら、僕はなんとか答えを返した。
そうだ。何が起きても、それは神様がお決めになられたことなんだ。
「よし、それで良い。
じゃあ後は明日の予定を言っておくぞ。
儀式を受ける子供は主役なので準備が終わってからゆっくり来いと言われてるから、
俺と母さんとお前の三人はぎりぎりの時間に家を出る。
ロベルトとミリーは去年のお前と同じで儀式を見る側だ。ユリアさんも一緒だ」
そうか、兄さんとミリーは一緒に行くわけじゃないんだ。
こういう行事だと兄さんは確かに婚約者のユリアさんと一緒に人目に出るべきだよな。可愛そうにミリーはお邪魔虫だけど、まだ10歳だから許されるよな。
「成人の儀式が終わったらお前の成人を祝って家族で少し豪華な飯を食おう。兄さんが成人の儀式を終えた神官様たちを送りだした後にうちに来ることになってる。そこでお前のこれからのことを相談するからな。俺の話はこれだけだ。明日に備えてゆっくりと寝ておけ」
父さんの言葉を背に、僕はミリーと一緒に使っている寝床部屋へと戻っていった。
総ては明日、成人の儀式で示される神託次第だ。
開拓村の広場は成人の儀式を見ようとする大勢の人たちで賑わっていた。
見物人の最前列に兄さんとユリアさんとミリーの姿がある。
今年成人の儀式を受ける村の子供は五人。
子供たちは少し間隔を開けて並んでいて、子供たちの少し後ろに各々の両親が控える感じになっている。
僕の他には男の子と女の子が二人づつで、男の子のうちの一人は僕と同じ名前だ。
女の子のうちの一人は幼馴染で僕と一番仲の良いニナだ。
ニナにはもうお父さんがいないので、今日の成人の儀式のためにお母さんであるパメラさんのお兄さんが隣の村から昨日来て父親役をしてくれているらしい。
ニナは歳のわりに少し小柄で、僕と同じ金色の髪と青い瞳をしている。
歳が同じで母さんとパメラさんが仲が良かったことから、僕とニナはもう子供心がつく頃には一緒にいたような記憶がある。
朝ご飯を食べて少しするとパメラさんに連れられてニナがうちに来るか、母さんに連れられて僕がニナの家に行くかして顔を合わせる。夕方になるまで一緒に過ごしてそこでお別れ。今思うと母さんとパメラさんは子育てを二人で一日交代でしていたのだろう。一人見るのも二人見るのも確かにそう手間が変わるわけではない。
こうして僕とニナは母親たちが目を離してもとりあえず大丈夫だと思うくらい成長するまで双子のようにして過ごしたのだった。
子供の頃から僕が大柄でニナが小柄という違いもあって、外見や僕らの雰囲気から事情を知らない人には、僕と後ろをついて回るニナの二人は間違いなく兄妹に見えてしまっていたらしい。開拓村をたまにしか訪れない人の中には今でも勘違いしたままの人がいることを、この間ニナと二人で歩いていて声をかけられた時に知ってしまった。
少し前ではちょっと痩せ過ぎていて年齢を間違われることの多いニナだったけど、近頃は無事年頃の女の子としての身体つきになってきたような気がする。たまに取ったうさぎなどを差し入れしている僕の貢献もあるかと思うと、少し誇らしい気持ちになる。
顔立ちも整ってきて、パメラさんに似た大人びた顔つきを見せることもあって、そんなときは傍にいる僕もどきどきするような思いをする。
今日の成人の儀式のためにおめかししているに違いない、もう一人の女の子のエマと較べるとニナの着ている服は粗末なものだ。それでもニナの可愛さは隠し切れない。
見物人の視線の大半はニナに集まっている。僕と同じだ。
「全員揃ったようですね」
助手の人に手渡された僕たちの名前と来歴や特徴が書かれた紙を横目に、一人一人楽しそうにゆっくりと顔を見たクラディウス様が準備が整ったことを確認する。
「それでは、今年の成人の儀式を始める」
ノア叔父さんが頷いて前に進むと、今年の成人の儀式の始まりを宣言した。
「それではエマさん。こちらに来て水晶球に手を当ててください」
一番左端に立っていたエマがクラディウス様に呼ばれて行く。神託で農民の職業が示されたエマは笑顔でクラディウス様に挨拶をして戻ってくる。
三番目に呼ばれたニナにも農民の職業が示された。戻ってくる途中に目が会ったニナは僕にはにかんだような笑顔を見せた。僕以外の四人までが終わった時点で、例年と同じく全員に神託された職業は農民だった。
さあ、今度は僕の番だ。
「最後はアランさんのお家のテオ君ですね。さあ、こちらに来て水晶球に手を当ててください」
クラディウス様の言葉に促されて僕は水晶球の前まで進むと、クラディウス様に一礼してそっと水晶球に手を触れた。水晶球に表示された職業を読み取ったクラディウス様は少し驚きの表情を見せたあと僕に優しく語りかけた。
「おめでとうございます、テオさん。あなたに用意されていた職業は剣士です。
先ほど村長さんにお話しを少し伺ったのですが、テオさんはずっと剣士の職業を望んでいらしたとのこと。良かったですね。神様はテオさんの願いを聞き届けてくださったようです」
「ありがとうございます。神様が私に用意して下さった職業を尊び、自分の人生を導く指針とさせて頂きます」
望んでいたはずの神官様の言葉だったのに、いざ実際に聞いた僕は呆然としていた。
上の空でもなんとか言葉を返せたのは、何十回も繰り返しお礼の練習をしていた賜物だった。
ついぞこの村では現れたことのない職業『剣士』という宣言に、広場に見物に来ていた村人の間にざわめきが広がる。
ぎくしゃくとした動きで元の位置に戻る途中で、父さんと母さんがなんとも言えない表情で僕の方を眺めているのが目に入った。自分自身でもまだ実感がないのだから、父さんと母さんが信じられないのも無理はないなと僕は思った。
「神のご意志により、今年成人する村の子供たち皆にふさわしい職業が無事示された。この開拓村を見守って下さっている神に感謝を。これにて今年の成人の儀式は終了する」
僕が最後だったことを思い出したようで、慌てて前に出てきたノア叔父さんが宣言して成人の儀式は終了した。
次は父さんと母さんと一緒にクラディウス様にお礼を言う番だ。
同じ名前で僕より小柄なテオ君の家族の後ろに並んで前を見ると、もうニナがパメラさんたちとクラディウス様にお礼を言い終わったようで踵を返して近づいてくる。そういえば剣士の職業を啓示された後にニナの顔を見てないなと思って手を上げた僕は、ニナの様子が普通でないことに気がついた。
真っ青な顔をしてうつむき加減に歩いている。明らかに何か変だ。どうしたんだろう。
顔を上げたニナと目が合った。目を見開いたニナは僕の方を見て何かを言おうとして幾度か口を開けたり閉じたりした後、突然顔を背けてそのまま僕の横を走りすぎていった。
ニナを追おうとした僕の手を誰かが掴んだ。父さんだ。パメラさんが僕に向かって任せてという感じで手を上げてニナを追ったので、僕は気になりながらもクラディウス様への挨拶を先に済ませてしまうことにした。
ニナのことが気になっていたけど、父さんが昨日話してくれたとおり今日は予定が詰まっている。早めに昼食を食べてノア叔父さんを迎えないといけない。挨拶を終えた僕たち三人は足早へ家へと急いだが、僕は途中で幾人もの村人に肩を叩かれ剣士の職業を得たことをひやかされた。
僕の成人の儀式を祝う我が家の昼ご飯は父さんが言っていた少しどころではない豪華さだったけど、それを補って余りあるほどに微妙な雰囲気に包まれていた。
父さんと兄さんがいつになく声を上げて盛り上げようとするなか、母さんはどこかで借りてきたかのような笑顔を貼り付けたまま、話題を振られたときだけ返事を返すおかしな挙動を繰り返していた。食事の準備のために兄さんたちと一緒に我が家まで来てくれていたユリアさんは今すぐにでも理由をつけて帰りたそうな雰囲気を醸し出している。
最後にいつも我が家の太陽かつ希望の星であるはずのミリーは呪詛の言葉を吐き続けながら不機嫌な顔で我が家では珍しい肉のたっぷり入った料理の皿と格闘していて、僕の方には視線も向けない。
「お兄ちゃんが剣士になんてなれるわけないもん」と近頃ことある度に僕に突っかかって来ていたミリーが不機嫌なのと、ユリアさんの様子は理解できるとして、残りの父さんと母さんと兄さんの様子がなぜこんなにもいつもとかけ離れているのか、成人の儀式の結果が予想と違う物だったのはわかるけど今一歩釈然としない感じがする。
他の誰にも相手にされない父さんと兄さんの世間話は、用意された食事の皿が無くなることでようやく終わりを告げた。
「テオのために用意したのだから好きなだけ食べて良いのよ」と食事の間に何回母さんの言葉を聞いたのか思い出せない。微妙な雰囲気の中とにかく食いまくった僕は自分でも頑張ったと思う。
母さんとユリアさんが後片付けをして、まだ我が家に入っていないということで家族会議を辞退したユリアさんが家を離れてしばらくした後、今度はノア叔父さんが我が家にやってきた。
ノア叔父さんが食卓のお客様席に座り、僕のこれからを決める家族会議が始まった。
「まずはテオ。成人おめでとう。
村にいるどの若者にも見劣りしないくらい、お前が元気で健康に育ってくれたことが、わしはまず何より嬉しい。
アランもハンナさんもよくやってくれた」
ノア叔父さんは僕が成人したことを祝ってくれて、父さんと母さんにねぎらいの言葉をかけた。
父さんと母さんも笑顔で頷き返す。
「そして今日、成人の儀式でテオは職業『剣士』の神託を得た。
この開拓村では初めてのことで正直驚いたが、これも喜ぶべきことなのだろう。
クラディウス様からも、『テオ君には、これからいろいろあるでしょうが頑張ってくださいと伝えてください』というありがたいお言葉を別れ際に頂いている」
叔父さんは言葉を続ける。
「アランから聞いている。村を出て冒険者になるためにタワバの街に行く。それがお前の希望ということで間違いないな」
「はい、叔父さん」
「よし、ならばこのことについて賛否を問い、この場にいる全員の賛成を持って決定事項とする。
成人の儀式で示される職業は神のご意志だ。わしはテオが旅立つことに賛成する」
「俺も賛成する」
「わたしも賛成します」
「俺も賛成するよ」
ノア叔父さんの言葉に、父さん、母さん、兄さんが続いた。
だが、家族で何か決めるときは、何も考えずに常に母さんと同じ言葉を繰り返せば良いと子供ながらに了解しているはずのミリーの言葉が続かない。
信じられないという顔で家族、特に母さんの顔を繰り返して見るばかりだ。
「テオお兄ちゃんが村を出て行くの、ミリーは絶対賛成しないもん!」
誰も自分の味方をしてくれる者がいないと分かったミリーは決意を込めた声で宣言した。
「ミリー、あなたなんてこと言うの!
ノア叔父様とお父さんが賛成していることに異議を唱えるなんてしてはダメ!」
母さんがびっくりしたかのようにミリーを叱る。
「ちゃんとお母さんと同じように『わたしも賛成します』って言うの」
「嫌、絶対に言いたくない!」
「ミリー、いい加減にしなさい!」
泣きながら一人きりで反対の意志を示し続けるミリーを母さんが叱った。
それでも、どうしてもミリーは納得できないのか首を横に振り続ける。
「わかんない、ミリー全然わかんない!
お父さんもお母さんもロベルトお兄ちゃんも、昨日までと全然違うこと言ってる。
みんな言ってたもん。頑固者のテオお兄ちゃんも成人の儀式で神様に職業を示されれば、俺たちと一緒に村でやってくしかないことに気付くだろう。
そうしたら、俺たちの言うことにも耳を傾けてくれるだろうから、そのときに話をすれば良いだろうって。
それなのに、どうしてこうなるの?
ニナお姉ちゃん、あんなに幸せそうだったのに!
パメラおばさんもとても嬉しそうだったのに!」
突然、泣き叫ぶミリーの口からニナとパメラさんの名前が出てきた。
どういうことだ?
驚いて顔を上げると、父さん、母さんそしてノア叔父さんが気まずそうな顔をしている。
兄さんが肩をすくめて立ち上がった。
やらかし顔で今度は黙り込んでしまったミリーを促して、肩を抱きながら寝床部屋へと連れていく。
「俺との約束を破ったことで、ミリーは家族会議から退場だ。これでテオが村を離れてタワバの街に行って冒険者になるという議題は全員一致で了承された。さあ、兄さん。続けてくれ」
「父さん、今ミリーがニナとパメラさんの名前を言ってたけど……」
「その話は後だ。今はお前の将来のことを決めるために、わざわざ兄さんに来てもらって話をしている途中だということを忘れるな」
いつもはミリーを猫かわいがりしている父さんが、平然とした様子でミリーを無視することを宣言して話を進めていく。
「お、おう。じゃあ、そういうことで良いんだな。
テオに剣士の職業が示された場合のことをアランと予め話し合っておいたので、その時に決めたことを伝えておく」
ノア叔父さんが話してくれたのは、冒険者になろうとする俺のために考えられたこれからの予定だった。
ここから馬車で数日くらい北に行った所にタワバという街があり、その街に隣接する形で魔物が沸いてくる森があるので、その街にはこの国で有数の冒険者ギルドが存在している。
父さんとノア叔父さんが、この開拓村を訪れる行商人の中で一番信頼しているダンテさんに予定を聞いた所、春が盛りになる前くらいにこの開拓村とタワバの街を結ぶ経路を使う行商の予定があるということで、その時に馬車に同乗させてもらうことで僕はタワバの街まで行くことが出来るだろうとノア叔父さんは言う。
それなら、僕がこの開拓村にいるのももう少しで、春本番の頃には僕はもう冒険者になっているということか。
頭の中で空想しているのがばれたのか、ノア叔父さんはたしなめるように言葉を続けた。
沸いてくる魔物が住み分けられていて段階を追って弱い魔物から強い魔物を狩るようにできることから、タワバの街の冒険者ギルドは初心者向けだと見なされている。ただ、ここ数年は強い魔物が出てくるわけでもないのに、新人冒険者が依頼から戻らないことが以前より格段に増えていてその点が少し心配だとのことだった。
「テオ、それじゃあ俺からの成人の儀式のお祝いだ。お前が勝手に持っていってここの庭で振り回しているこの剣。今日からこれは正式にお前のものだ。実際に目で見たことのないお前にはなかなか思い当たらないだろうが、冒険者の身につける装備というのは、どれもこれも目が飛び出るくらい高額なものだ。お前が身一つでタワバの街に行って買えるものなど一つもない。お前の助けになるのはこの剣だけだ。大切にしろ」
そう言ってノア叔父さんはいつもの置き場と違い、何故かこの場所に持ち込まれてあった僕の愛剣を差し出してくる。
「はい、わかりました。タワバの街に行ったら肌身離さず持つことにします」
そう答えて恭しく受け取ったけど、既に僕の中では自分の物扱いだったから、あんまり有り難味は沸かなかった。
「よし、大体の話は終わった。アラン、これで良いか?」
「ああ、兄さんありがとう。後のことは俺たちだけで十分だ」
ノア叔父さんと父さんが確認をして今日の家族会議は終わりになり、いつも忙しいノア叔父さんはゆっくりする間もなく我が家を離れた。
「兄さんを交えての家族会議は終わった。
テオ、総てお前の願ったとおりになったはずだ。文句はないな?」
「うん、父さん。文句なんて何もないよ」
ノア叔父さんはいなくなったけど、父さんと母さん、そしてミリーを寝床部屋に放り込んだ後あやしていたに違いない兄さんもまた戻って席に着いている。
「色々な人にお願いしたり、迷惑をかけたりしながらお前はこの村を出ることになる。
場合によってはもう戻らないかもしれない。
これから一人でやり抜いて行く覚悟はあるな?俺に約束しろ」
「僕の我儘で色んな人に迷惑をかけてるのは知ってる。これからタワバの街に行ってどんなことになっても自分の責任だし、絶対に弱音なんか吐かずに僕は一人でやってみせるよ。約束する」
僕も冒険者という仕事が簡単ではないことはわかってるつもりだ。
父さんが肘をついて何か告げようとしているようだけど、絶対に泣き言なんか吐かないと心を決める。
「よし、なら先ほどお前が俺に聞いてきた問いに答えよう。
今日、成人の儀式でお前が職業『農民』を与えられたなら、お前はニナちゃんと婚約してパメラさんの所に婿養子に行く約束になっていた。
兄さんが提案してきた話で、俺とハンナ、ロベルト、ミリーが賛成した。
ニナちゃんとパメラさんも了承済みだった。
知らないのはお前だけだった。
成人の儀式の神託後に俺からお前に話すことに決まっていた。
だが、この話はお前が『剣士』の職業を得たことで白紙になった」
僕とニナとの婚約の話が決まっていたけど、今日の成人の儀式で白紙になった。
父さんの言葉は、心に築いたはずの僕の未来への覚悟を一撃で粉砕して通り過ぎた。
(01話に続く)
01話は8/31 19:10に予約投稿済です
主人公のお父さん、単なる農民のはずなのにこんなに覚悟ガンギマリで良いのか?
と一瞬思いましたが開拓村の村長さんの弟でサブリーダーだからという理由でよしとしました。
就職活動で日本中の若者がアピールしている通り、副部長とかサブリーダーという役職はとても意識が高いものと相場が決まっているのです。
>>我が家の昼ご飯は父さんが言っていた少しどころではない豪華さだったけど
優勝決定戦に敗れたお相撲部屋さんの千秋楽後の夕食状態です。
注)章や話数は0から始まることにさせて頂きました。