街の中には半グレ集団のメンバーがうろちょろしてると思うと、このまま普通に街に戻るのはどうみても危なすぎる。初日の鑑定結果から見てもチンピラ兄ちゃんの大半が現在の俺のレベルを超えているわけで、そんな中にのこのこと乗り込んで行くのは自殺行為だ。
というわけで今日は徹夜、ではなくて雨だけど野宿に挑戦ということにしよう。
チンピラ兄ちゃんとの抗争を考えると、また頑張ってレベルを上げないといけないので拠点はブラックウルフを倒した川向こうにした方が良いだろう。
決断した俺は街から出て少しのところにある川を渡る橋を使うために、街の方へと引き返すことにした。しかし、これでもまだ俺の考えは甘かったらしい。街に戻らないで街の外にある橋を渡るだけなら問題ないだろうと思っていたところ、橋へと向かう分かれ道の所で休憩していた男が、俺を認識した途端に索敵警告を点灯させたのだった。
『人族 レベル6』
この男、さっきの兄ちゃん達の成果確認係かよ……
仕掛けてくるかと思ったが、そいつは俺が橋を渡って離れて行くのをそのまま黙って見送るだけだった。行く先を尾行されるかと思って出来る限り早足で移動しつつ警戒したが、それはなかった。
もう陽が暮れる時間が近いので、俺が生きていることが確認されても、今から俺を殺しに多数の人間が街から出てくるとは考え難い。
今日のところは一安心だが、これはそのうち一人なら少し高いレベル、そうでないならその辺の低レベルな兄ちゃんたちが複数人で送り込まれて来そうな気がするな。
その辺は仕方がないと割り切って今日の野営の準備をすることにする。
その名もずばり「かまくら作戦」
いつもの調子で過ごそうとすると、一晩中雨に打たれて多分寝るどころではなくなりそうだ。それなら、土魔法で自分が寝起きと食事できるだけの大きさがあるかまくらを作って、寝るときは空気の通り穴を除いて完全に口を塞いでしまえばよいという考えだったりする。
魔物が出てくるいつも狩場である森からは程よく離れた粘土質の開けた荒地の高い所にかまくら建設だ。雨の中だけど頑張れ俺の土魔法4。
土魔法4でかまくらは中々難しかったよ……
転生前に読んでた異世界ものだと主人公が手をかざすと土魔法であっと言う間に強固な壁が立ち上がるけど、自分で実際にやってみると色々とうまくいかない。
大き目の落とし穴かと思えるような土堀り跡の横に、俺一人が這って入って横になれる大きさのかまくらが出来上がった時にはもう夜もどっぷり暮れていたのだった。
熊レベルの魔物がぶつかってくれば間違いなく破壊されそうだけど、時間をかけて固めた分、レベル10くらいの剣士がいくらぶったたいても欠けない程度の硬さはある雰囲気なのでよしとしよう。横になって寝心地を確認しても今日の天気でも水分が染み出してくる恐れなど全くない優良品質だ。朝になって太陽が出てきたら光が入るように空気穴の位置も調整済だ。そういえば雨って止むのかな。
最悪の場合を想定すると朝の開門と同時に半グレ集団の刺客がこちらに向かって動き出してくる可能性があり、ヤス改めダグおっさんをやってから二人組がやってきた間隔を思えば数日の猶予がある可能性もある。相手が一人なのか?複数なのか?レベルがどうなのか?という情報がない限り、無理をして徹夜で今日のうちに何かを仕込んでおくというのも難しい。明日も雨かも知れないけれど、とりあえず食って寝て夜が明けてから万全の体調で何かをする方が良いだろう。
一仕事終えた俺は、想定に沿って安全が保証されている今日の夜を満喫するため、ゆっくり夕食を取りその後かまくらに潜り込んで入り口を塞いで十分な睡眠を取ったのだった。
夜の間に魔物が出て恐ろしい思いをすることもなく、かまくらに差し込んでくる陽の光で俺は目覚めた。夜も結構降っていたはずなのに今日はなんだか快晴だ。十分眠ったおかげで体調は良いし頭もはっきりしている。ついでに今からすることの目星もついた。
今日は森に入ってみよう。
半グレ集団の構成員は原則みんな俺より高レベルだと思って良い。
身体強化と武器の補正を使ってもレベル10を超える敵がいた場合、正面からやりあえばまず間違いなくこちらに勝ち目はないだろう。
だが俺には奴らにはない強みがある。「遠見」「探査」「隠行」などの稀少スキルを持っている者がいるとは考えなくて良いはずだ。それらの稀少スキルを有効に使用できるフィールドに奴らをおびき寄せれば勝機が出てくる。あるいは俺が森に逃げ込んで奴らがついて来ないとすれば、それも俺の逃げ切り勝ちということだ。
とにかく森に入ってみて入り口付近に近い浅い所である程度の時間過ごせるかどうかの確認をしたいと思う。
出発しようとして後ろを振り返ると俺の昨日の力作のかまくらが朝陽に輝いている。
うん、これはダメだな。どこのオーパーツだよ。俺はかまくらの横にある穴をざざっと土魔法で拡張してかまくらを埋めて上から軽めに土を掛け直す。かまくらは中に空間があるとはいえ、がんがん圧縮して体積は少なくなってるからぱっと見で証拠隠滅完了だ。今日の夜に使いたければ、土魔法で掘り返せば良いだろう。よし、今度こそ出発だ。
一昨日の夜、ブラックウルフを狩るためにホーンラビットを置いた餌場を超えて森の入り口へと進む。森の入り口の真横には樹木を払うことで人為的に作られたと思われる、庶民の住宅の敷地程度の小さな広場が存在していた。数人の冒険者グループが森に入る前、或いは森から出てきてすぐに小休止できるように作られた場所なのだろう。雑草などが蔓延っていないことを思うと、現在でも現役で使用されているに違いない。
かまくらから出てきて大した距離を移動したわけでもない俺には休止は必要ないということで、広場を横目にそのまま森へと突入する。森は樹木に覆われているため、森に入った途端にあっという間に光が遮られ薄暗い雰囲気に包まれるが、森に入る前と同様に森の中にも一応道は続いているようだ。ブラックウルフの群れが今入って来た森の入り口から出てきたことを思うとこの道は人間だけではなく、獣や魔物も普通に利用しているようだ
元々の道が川沿いになっていたため森に入っても右手からは川のせせらぎのの音が聞こえてくる。川が森を越えて流れていることを思うと、このままどんどん進めば魔物の森を横断して森の向こう側に出るのだろうかと一瞬考えたが、それまでにどれほどのレベルの魔物とどれほどの数遭遇するのだろうかと想像を巡らせた途端に自分には到底無理だと思いなおした。
というのも森に初めて入るということで、森が範囲内に入る頃から一定以上の大きさの生物を指定して探査魔法を使用しているが、森の領域内には予想外なほど数多くの輝点が表示されている。
鷹の目を使って輝点の場所らしきものを確認すると魔物類ではなく普通の獣が大半のようだが、ちらほら魔物らしきものも遠目に確認できている。これで魔素が濃くなる森の深い場所になって獣類が魔物にどんどん置き換わっていったらどうなるのか俺的には想像もしたくない情景だ。
俺が目指すことは森の浅い場所で強い魔物に遭遇することなくある程度の時間過ごすことと、半グレ集団に追われてこの森に逃げ込んだ場合に奴らをやり過ごせるように身を隠す場所がどこにあるかを確認することだと思い返して、森に入ってからは周囲の地形や樹木の茂り方の様子などを確認しながらごくゆっくりと進んでいく。
意識して周囲を見渡すと、身を隠す場所に関しては森の中に道が通って植生が押しやられたせいか、森に入ってすぐの道の両脇には俺が身を隠すのに十分な太さの樹木が幾本も生い茂っている。これは僥倖だ。奴らに追われて森に入ってもすぐさま隠行を使って木の幹の裏に隠れれば、森の入り口近辺で奴らを撒いてしまえる可能性が高いということだ。
実際に使用する場合に備えて幾つかの大きめの樹木の裏に実際に回ってみて自分が隠れようとする場合に問題なく実行できそうか確認しておく。よし、どれも特に問題なく大丈夫そうだ。
後は隠れる間もなくまっすぐに追われた場合に備えて、入り口から見てある程度の深さまでこの道と周囲の状況を把握しておけば良いはずだ。先ほどから確認してみても大型の獣や魔物は確認できない。今が陽がまだ高くなっていく時間帯なので大型の魔物などには動きがない可能性が高い。
楽観的な判断に影響されていたのだろうか。気付かないうちに俺は少しばかり森に深く入り込みすぎていたらしい。
気がつくと探査魔法に俺の森の入り口への退路を遮断するかのように、森の外縁部を一定の速度で移動してくる輝点が出現していた。このままだと俺が頑張って入り口にたどり着くより先に、輝点の方が道を塞ぐ形で入り口付近に到達する。一体なんだと思いながら近づいてくる輝点の存在を鷹の目で確認した俺は愕然とした。ものすごく大きな猪型の魔物、ワイルドボアだ。
鑑定を掛けるまでもない。俺より遥か高位の存在で俺がどのような攻撃をしかけようが傷一つ付けられないことは確実だ。以前に聞いたワイルドボア討伐の話を思い出す限り、俺がブラックウルフに使った匂い袋や普通の獣用の毒やら睡眠薬やらも殆ど効果がなかったはずだ。
もはや森の入り口向けて動き出すことも出来ず棒立ちになる俺を尻目に、ワイルドボアはとうとう俺が入ってきた道に辿りつくと今度は森の奥、俺の方に向けて移動を始めた。
こいつ、要は自分の縄張りを周回してたってことか。
今更、ワイルドボアの行動の理由らしきものについて思い至ってもどうにもならない。このままの場所に居続けてはまともにワイルドボアに遭遇してしまう。どうする?更に森の奥に逃げ込むべきか?
多少の逡巡の後、俺はワイルドボアの注意を引きかねない派手な移動は取らず多少の移動で身を隠すことを選択する。高位の魔物相手に身を隠すだけの行動というのは果たして意味があるのか?自分で自問自答してみても経験がないことなので、今から自分がしようとしていることが賢明な行為なのか、それとも単なる自殺行為なのか判断が全くつけられなかった。
俺に出来ることは自分の通った後に洗浄魔法を掛けながら自分の身体の何倍もの太さがある樹の幹の裏に隠れて、隠行魔法を使用しながらワイルドボアが通り過ぎてくれるのを待つだけだ。
自らの存在を出来る限り目立たせないように隠行魔法のみを使ってどのくらいの時間ひたすら耐え忍んだのか?確かになにか恐ろしい存在感の空気が自分にゆっくりと近づいてきて横を通り過ぎそして段々と離れていったような感覚があったような気がする。
気がつくと俺に纏わりついていた重苦しい雰囲気の空気はもう無くなっているような気がしていた。俺は探査魔法をつけることなくゆっくりと樹の幹の裏から出て道に戻り森の入り口の方へ向け歩きだした。
何か不思議な感覚があったので俺は自分自身を鑑定してみた。
俺の隠行魔法はいつの間にかレベルアップしてレベル2になっていた。
(10話に続く)
テオ 人族 15歳
ジョブ:剣士 レベル5
スキル:火魔法2 水魔法2 風魔法5 土魔法4 回復魔法2 治癒魔法0 洗浄魔法1 浄化魔法0 収納魔法1 鑑定魔法1 探査魔法1 隠行魔法2 強化魔法1 剣術5 槍術4
…
異世界ヒヤリハット案件。
というよりは、道をぼーっと歩いていたら突然轟音を上げてダンプが真横を通り過ぎて行って後で考えたらとても怖かったみたいな感じかもしれません。
>>鷹の目を使って輝点の場所らしきものを確認すると魔物類ではなく普通の獣が大半のようだが
普通に魔物指定で探査をかければ良いのに気付いていないようです。
そして今回とうとう会話文の無い完全な主人公の独白回になってしまいました。最初は前回の時点から受付のお姉ちゃんに紹介された同じく新米の女子冒険者と二人で行動する形で考えてみたのですが、主人公が何かやる度にに女の子から突込みが入る感じになってしまい、収拾が付かなくなってしまいました。秘密の多い効率厨の主人公と、純粋に初心者なパートナーはどうにも折り合いが悪そうです。
次回、10話は9/24 19:40に予約投稿済です。