森に入って奥の方に行ってみたら予期せずワイルドボアと遭遇してしまい、頑張って隠行魔法を使ってやり過ごしたら隠行魔法がレベルアップしました。
うん、意味もなく危ない橋を渡ってるな。
幸運は連続して起きるようなもんじゃないから、気を引き締めて今度こそ堅実に行くぞ。
とりあえず今日のところ森はもう十分だ。気を取り直した俺は森の中で来た道を戻り入り口を目指す。探査魔法を起動して先ほどのワイルドボアみたいな怪しい動きがある輝点はないか注意しながら足早に道を進むと、ほどなく探知内に輝点がなくなる領域が広がってくることで出口が近いことが実感されてきた。
ちょっと危なかったけど、隠行魔法がレベルアップしたし森の中の様子もわかったし中々有意義だったよな。
そう思った瞬間、今度は探査魔法の領域の一番上に輝点が五つ入ってきてじりじりとこちらに近づいてくる。
今度はなんだ?と思ったけれど輝点があるのは森の外で、森の出口に向かっている俺に対して輝点が上からまっすぐ近づいてくるということは、こちらに向かって道の上を移動してるってことじゃないか。まず間違いなく人間だな。
俺と関係ないこの森で狩りをしようとしている冒険者パーティとかだと嬉しいんだけど、半グレ集団の新しい刺客の可能性の方が大きそうだな。でも、俺は森の中にいるのに何でまっすぐ俺の方に向かって進んでるんだ?
考えているうちに森の入り口まで戻ってきてしまったけど、ここから森を抜けて道に出たら出所不明の五人と鉢合わせしてしまう。俺は森を出ることを止めて先ほど確認した森の入り口付近で身を隠せそうな樹のうちで一番森の入り口に近いところに身を潜めた。ここからなら鷹の目を使えば森の外からやってくる連中の様子を確認できる。
待つだけのじりじりした時間が過ぎてようやく輝点に対応する五人組が姿を現した。
昨日やりあったリカルドとヨナとか言った連中と似た装備の格好と雰囲気。どうみても半グレ集団の構成員五人です。ありがとうございました。
そして連中はなにをしてるかというと、そういうことかあ……
朝早くに俺が道の上のぬかるみにつけた足跡を追ってここまでやってきたようです。
朝からの快晴で今はもう大方土の上は乾いてしまっている。
そんな中についてる妙に新しい足跡はそりゃ間違いなく俺のものだよな。
森の入り口までたどり着いた五人は、俺が素通りした入り口横の広場で立ち止まって休憩モードに入ったようだ。五人のうちで一番若そうな男が荷物番みたいな感じで剣を手元にして体育座りしていて、残りの四人は完全にだらけていてひっくり帰ってひなたぼっこをし始めた奴までいる。
そりゃ、危険な森の中に入らなくても森から出てくる所を待ち構えてれば確実だよな。
そしてそんなに早い時間に俺が出てくることもないという予想もまあ納得だな。
だが、少し待て。これは俺にとってものすごいチャンスなんじゃないか。
アイテムボックスから獣の狩りに使う粉末の麻痺毒を取り出した俺は、風魔法で麻痺毒をくるみそのまま休憩している五人の方へと漂わせる。五人がごく近い位置に固まっているのも都合が良い。よし届いた。後はもうほんの僅かの時間さえ経てば……
突然、荷物番をしていた男が立ち上がった。げっ、上手くいったかと思ったのに失敗してたのか……と思いきや、男が残りの4人をゆさぶってもどいつも口からよだれを垂らしながら横たわって身体を痙攣させているだけだ。よし、少なくとも四人に麻痺毒は効いている。
気を取り直した俺は、剣を持って不安そうに回りを見渡す荷物番に対して鑑定をかける。
『人族 レベル6』
よし、大丈夫だ。
俺は樹の裏から飛び出すとそのまま走って森の入り口を抜け荷物番に相対する。
「てめえがテオとかいう奴だな。ペドロ兄貴たちに何やりやがったんだ。
ぶっ殺してやる」
俺という存在が現れてある意味逆にほっとしたのか、荷物番は元気を取り戻して威勢よく啖呵を切ると俺に向かって剣を振りかざしてきた。
レベル差は1、ヤスのときと同じ条件だ。
+2の補正を持っていなければ俺が勝つ。お前はどちらだ?
心の中で呟いて剣をぶつけると、押し勝った感触が伝わってくる。そのまま相手の剣を跳ね上げて仰け反らせたところで右側に回りこみ、防具の隙間で無防備にさらされているわき腹に剣を突き刺した。俺の勝ちだ。
倒れ込んでもがき苦しみながら、何かを取り出そうとでもしているかのような動きをしている荷物番を、足で踏んで抑え付け動きを封じながら首を刺して絶命させた。
いつ魔物が出てくるかわからない森の入り口での刃傷沙汰だ。
振り向きざまに残りの四人に鑑定をかける。
『人族 レベル8』『人族 レベル8』『人族 レベル9』『人族 レベル10』
間違いなく今日の俺は信じられないくらいについている。舞い上がり過ぎて失敗しないよう注意しながら、レベルの低い男から順番に首を刺して確実に絶命させる行為を繰り返した。
全員が息絶えたところで、剣と財布を各人から奪いそして最初に殺した奴が見ていた荷物をアイテムボックスに入れてこの場での作業を完了させた。
一息吐くと、自分自身に鑑定をかけて現状を確認する。
『テオ 人族 15歳
ジョブ:剣士 レベル10
スキル:火魔法2 水魔法2 風魔法5 土魔法4 回復魔法2 治癒魔法0 洗浄魔法1 浄化魔法0 収納魔法1 鑑定魔法1 探査魔法1 隠行魔法2 強化魔法1 剣術10 槍術4
…』
予想通り、俺のレベルが一気に5段階上がっている。
そして半グレ集団の構成員を更に五人殺してしまった。
もうレベル上げなどと言っている場合じゃない。即座に街を離れるべきだ。
この現場はブラックウルフなり他の魔物なりが好きなように片付けてくれるだろう。
死体の隠蔽処理を行わないことで、少し注意すれば刀傷があることや、剣や財布がなくなっていることに気付くだろうが、街を離れる俺にとってその辺はもうどうでも良い。
土魔法を使って5人分の片づけをする時間の方が今は惜しい。
俺はやり残したことがないか周囲を見渡した後、振り向いて街の方へと歩み始めた。昨日と同じなら、橋を越えて少し行ったところの別れ道の所に、また見張りと成果確認役を兼ねた男がいるに違いない。
橋を渡ってすぐに隠行魔法を使って姿を隠し、道でないところを突っ切って分かれ道を通らずに進みある程度距離を置いたところで、街を出る道へと続く峠に向かう道に合流する。思いついたアイデアに大きな穴がないか見直してみる。これで何とか行けそうか?
自分の考えに自分で納得すると不安が収まりようやく少し落ち着いてきた。
陽射しは快適で心地よい風が吹いていて、鳥の鳴き声や笛の音が遠くで聞こえてくるのどかな春の日に、俺は一体何をじたばたやってるんだ。冷静に行くぞ、冷静に。
うん?遠くで笛の音が聞こえて……
探査魔法を起動させると範囲ぎりぎりの前方に輝点が一つ表示されている。
この道は殆どまっすぐということで、鷹の目を使って確認してみると、半グレ集団の構成員らしい雰囲気の男が驚愕した表情で俺の方を見つめている。ご丁寧に右手には今吹いていたであろう呼子の笛が握られている。まずい、こいつ俺と同じ遠見魔法持ちだ。
再度焦燥状態に陥った俺は、身体強化を使って遠見魔法持ちに向かって全力で駆け出す。だが、俺の期待とは異なり遠見魔法持ちは恐怖の表情を見せて即座に反転すると橋のある方向へと一目散に逃げ出した。差は縮まっていくものの元々の距離があるため追いつくにはかなりの時間が必要そう。これはダメだ。
俺は走るのを止め考えを巡らす方に注力することにする。
短い時間だったが全力疾走をしたせいか、かなり距離を戻っている。今いる場所は既に朝出てきたかまくらのある粘土質の広場の近くだ。俺が走るのを止めた後も逃げ続けているのか、探査魔法の示す輝点は俺が走るのを止めた時点の所からどんどん遠ざかり範囲外へと消えて行った。俺の監視より仲間との合流を優先させたようだ。
さて、どうする。さっきまでのアイデアはもう無理だ。
橋のこちら側にさっき殺った五人以外の半グレ集団の構成員が既にいて、更に人数を呼ぶための笛を鳴らされてしまっている。普通に橋を渡れるとはもう考えない方が良い。
ならば橋を渡らなければ良いということだ。
俺は目の前にある粘土質の広場に近づき朝埋めたかまくらを土魔法で掘り出してくると、上の部分に裂け目を入れて開くと力をかけて強度を保たせるように気をつけながら、縦に長く全体を引き伸ばした。
土魔法で奮闘することしばらく。
俺の目の前には土でできた一人乗り用の大きさのボートが鎮座している。槍の先に土魔法で土板をくるんだオール付だ。
最後の仕上げに水魔法でボートとオールの表面に氷の層をコーティングすると、身体強化で持ち上げたボートを川辺へと運ぶ。
見た目だけでこんなもんかと思って作ったけど重心とか大丈夫か?
とりあえず水面に浮かせてみたけれど、特に問題があるようには見えない。
川の中に探査魔法をかけると反応が一杯出ていて役に立たない。
もし川の中に魔物が山ほどいてこちら側に遡ってくるようだったら、タワバの街が無造作に川辺に作られているはずがない。この反応は単なる魚だ、魚。よし、行ってしまえ。
自分で勝手に納得するととりあえずいつでも川岸に戻れるように準備しながら恐る恐るボートに乗り込む。無事普通に水に浮かんでいて安定性も大丈夫な感じ。良かった、とりあえず問題はないぞ。
騎虎の勢いということで、そのまま対岸に向けて漕ぎ出す。水面を眺めていたときに水底が見えないのでもしやと思ったけど、やっぱり深さはかなりあるようで。槍のオールを伸ばしても底に届かない。水の流れは見た感じ速くないので大丈夫そうだけど、うかうかしていて下流に行ってしまうと魔物の森の遊覧船になってしまう。
身体強化した身体で槍のオールを頑張って漕ぐことしばし。水の魔物に襲われるなどの事態も起きず、無事対岸に辿り着いた。
川岸を登って少し行き道に出ると見覚えがある場所だった。
初めて魔物狩りをした夜にグレイウルフを狩った餌場の少し上流だ。
これなら街方向に少し戻って峠に出て、そこから街を出る道を選べば良い。
今度こそ、やったか?
(11話に続く)
主人公はカチカチ山のタヌキに対抗して泥舟を作ったようです。
また、今回は前回の反省から頑張って会話分を一行登場させました(汗)
次回、11話は9/26 19:10に予約投稿済です。