異世界転生で欲張り過ぎてしまいました   作:真紅或は深紅

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13話  消失者への追憶

 私は初心者向けと呼ばれることの多い、エレウシス王国冒険者ギルドのタワバ支部で受付の窓口を担当しているバネッサと申します。今回は今年の春にこのタワバ支部を震撼させた出来事について少しお話しをさせて頂きたいと思います。

 

 その日は春にしては眩しいくらいの陽差しがある晴れた平日の営業日でした。

 朝の依頼受付けの混雑も終わり、ギルド職員の間に安息感が漂い始めた頃にその事件は起きました。

 

 まるで市場で見かける養殖鳥のような変わった髪型をした乱暴そうな大男がギルドに押しかけて来たのです。

 

「おい、俺は『闇の牙』のゴンゾだ。ここに新米冒険者のテオって奴がいるだろう。そいつを俺に差し出せ。ぶっ殺してやる!まだ街にいることはわかってるんだ!」

 

 ギルド建物の入り口から大股で窓口に近づいてきた男は対応に出た私に対して開口一番怒鳴り声を上げました。どうやら街で近頃とみに悪評が広がっている、定職に就かない若者たちが集まって作った非合法組織の一員のようです。

 

「テオ君は半月ほど前に最初の冒険者登録にきて以来一度もここに顔を出していませんけれど……」

「白ばっくれるなよ。あいつが何度も狩りに出て街と森を往復してるのはわかってるんだ!」

「いえ、テオ君は一度もこのギルドで依頼を取りに来てもいませんし、常設の討伐依頼を果たした報告や買取りも行っていません。彼の作業記録はこのとおり空欄のままです。テオ君が何をしたっていうんですか?」

 

 大男は怒鳴り続けていますが、私には訳がわかりません。

 

 いかにも買ってきたばかりですという感じの新人向けの装備を身につけて冒険者登録に来たテオ君の様子が思い出されます。渡された自分用の冒険者カードを嬉しそうに眺めていたのが印象的でした。

 

 登録したのにテオ君全然ギルドに来ないなあと、私自身が不思議に思っていたのですから。

 

「あいつは、リカルドとヨナを殺した。落とし前をつけようとして出てったペドロや、ホセ、ルイス、ミゲル、ラロを皆殺しにしただけじゃなく、尻拭きに行ったルカス兄貴や、フリオ、ルペ、マルコ、トマス、ガルシア、ウーゴ、ブルーノ、アデルノまでも殺りやがったんだ!」

 

 更に声量を上げて大男は叫び続けますが、私はもう何がなにやらです。この間冒険者登録をしたばかりのレベル1のテオ君が何を間違えれば今聞いた十数人もの人たちを殺すなどということになるのでしょうか?

 

「おい、てめえゴンゾとか言ったな。俺の城の中で何を騒いでやがる」

 

 いつもは怖いばかりですけれど、こういう時だけは頼りになるギルド長の登場です。

 長年に渡り現役冒険者として活躍し、引退後にここタワバ支部のまとめ役として任命されたギルド長のレベルは長年ここの窓口に座ってる私でもちょっと他に見たことのない高さです。ギルド長より一回り大きいこの男が何をしようとしても、びくともしない安心感があります。

 

 私自身の危機はとりあえず去ったみたいですけれど、この後どうなってしまうのでしょうか?

 

「だから、テオとかいう奴を出せと言ってるんだよ!」

「なんでうちの新米冒険者がお前のところの人間を殺さないといけないんだよ。

 何の関係もないだろうが」

 

「てめえところにダグとかいう小汚ねぇ中年男がいただろ。あいつに新人冒険者を狩らして上納金を納めさせてたら、今度テオという新人をやるって言ったきり消えちまったんだよ。そのテオって奴が殺ったに違いねえ。ダグの後を引き継がせるはずだったリカルドとヨナも消えちまうし、その後も次から次へとうちの組織の人間を……」

 

 大男は憤慨していますが、言っている事はとんでもないことです。自分で理解していないんでしょうか?

 途中まで静かに聞いていたギルド長も、内容を把握した途端顔を赤らめ次の瞬間渾身の力で大男を殴り倒していました。幾つもの机や椅子をを巻き込んで飛んでいった大男は気絶してしまったようです。

 

「衛兵を呼んで来い。今すぐだ」

 

 ギルド長の声に男性職員が飛び上がり衛兵の詰め所へと駆け出して行きました。

 

 

 それからは目の回るような展開でした。

 

 ギルド長の告発で詰め所に連れて行かれた大男には真贋の鐘を使った尋問が行われ、少なくともこの三年間の十人以上の新人冒険者の殺害に関与していたことが判明しました。この平和な街タワバではにわかに信じられない程の大量殺人事件です。

 

 実行犯はなんとこの冒険者ギルドのダグさんでした。年を取っているけど生真面目に用水路の害獣退治などをしてくれる人だと思っていたのに、新人冒険者の連続殺人犯だったなんて、びっくりしてしまって声も出ません。何より、私が受付登録をした新人冒険者の子供たちがダグさんの手にかかって命を落としていたのだと思うと、何も気付かず日々をのうのうと過ごしていた自分のことが恨めしく思えてなりません。

 

 証拠が得られたことで、その日のうちに街中の衛兵が動員され『闇の牙』の拠点が急襲、制圧され何十人もいた構成員は総て捕縛されました。組織の金庫番のベルナルドという男がお金の出入りの詳細な記録と几帳面な日記をつけていたため、事件の解明は容易でした。この男が頭目のマテウスに初心者狩りを最初に進言していたようです。新人冒険者の被害者は足掛け三年間で十九人。総てが成人の儀式を終えて一年以内の男の子や女の子でした。

 

 私自身も詰め所からの依頼があり、ギルドの応接室でギルド長にも同席してもらいながらテオ君に関しての印象を聞かれるままに話しました。でも、私が話を終えると衛兵さんは頭をかいて困った様子になってしまいました。

 

 何がいけないんだと聞くギルド長に対して、衛兵さんはこれまでの『闇の牙』構成員への尋問でわかった、今回の事件のテオ君に関係した部分について私たちに話してくれました

 

 証言によると、テオ君の殺害に向かった十数人もの人間がそのまま組織に戻らなかったのは事実のようです。そしてそのうちの五人に関しては確かに殺害されているとのことです。

 

 現場である川向こうの森の入り口の広場まで衛兵さんが確認に行ったところ、確かに簡易埋葬された五人分の死体が確認され、ブラックウルフなどに散々に食い荒らされた後だったもののその死因は全部刀傷で、驚いたことにそのうち四人は首筋を正面から一撃で刺殺されていたとのことでした。

 

 更なる情報として、組織の見張り役を担当していた遠見の能力を持つ男が、呼子の笛の音に五人が応答しなくなったことに気付いて、遠見の能力が使える位置まで近づいて様子を観察した所、五人は既に死んでいて、死体から剣や財布を剥いでいるテオ君の姿を確かに見たそうです。

 

 遠見の能力で自分が現場の様子を確認していたことに気付いて、すごい形相と速度で追いかけて来たので命からがら逃げ出してきた。間違いなく身体強化で遠見と俊足が使える能力持ちで、纏っていた雰囲気は到底新米冒険者とは思えないものだったと、逃げ延びて組織の他の構成員と合流したときに遠見の男が報告していたとのことでした。

 

「雰囲気が到底新米冒険者のものとは思えないっていうなら、そりゃ実際に新米冒険者じゃないんだろう」

 

 衛兵さんの話を聞いていたギルド長が呟きました。

 

「えっ、でもテオ君のことなんですよね?」

 

 私はきょとんとして首をかしげてしまいましたが、衛兵さんは何かに気付いたようにはっとした表情になっています。

 

「テオって奴はさっきバネッサが言ってたように、ガタイが良くて短い金髪と青い目をしたどこにでもいそうな奴なんだろ。なら、ガタイが良くて短い金髪と青い目をした別の若い冒険者にテオって奴が着てたぴかぴかの初心者装備を着せさえすれば、あっと言う間に身代わりの出来上がりだ。遠見の男が見たのは組織が探してる男と風体が一致している男というだけで、元々テオの顔を知ってるわけでもない奴が本人だと断定できるわけがない」

 

 ギルド長の言葉は続きます。

 

「多分、最初にテオを殺ろうとしたダグが、その場で『闇の牙』との関係のことを話したかなんかで、組織に狙われたことを知ったテオの奴が、個人的に誰か高レベルの冒険者に身代わりを頼んだとかなんだろう。身代わりの中身をやった冒険者が、五人を即座に殺せる高レベルの剣士で遠見と俊足のスキル持ちだったってことだな。別人だよ、別人」

 

 ギルド長の説明は納得できるものでした。

 衛兵さんも多分そうに違いないと首を縦に振っています。

 

 だとしたら、テオ君は身代わりを頼んだ高レベルの冒険者の人に匿われながら今も安全な場所にいる可能性が高いということでしょうか?そうであれば嬉しいことです。

 

「遠見の能力持ちの野郎は人の顔を見張るのが本職なんだろう?バネッサも人の顔を覚えるのが仕事みたいなもんだし、締め上げて似顔絵を描かせてバネッサに見せれば、別人かどうか多分はっきりするだろ」

 

 自分の推理にご満悦なようでギルド長は一件落着といった雰囲気で深々と長いすに背をもたれさせます。ですが、それを聞いた衛兵さんは困り顔です

 

「それが、その遠見の能力持ちの男は今回捕まえられていないんです。

 奴らの話だと街にはいたようなんですが、それこそ遠見の能力を使われて逃げられてしまったみたいです」

「おいおい、締まらねえなあ。俺様のせっかくの名推理に変なオチつけてんじゃねえよ」

 

 ギルド長は呆れ顔でぼやいていますが、私は思わず笑ってしまいそうになりました。

 

 ついでにということで、衛兵さんの要請でテオ君の冒険者登録時の申請書も見せたのですが、テオ君の出身地はタワバの街よりかなり南にあるエレウシス王国でも指折りに大きな商業都市でした。これでは家族に本人がどのような人間なのか話を聞いたり、家族への連絡があればこちらに知らせて貰うなどの方法を取ることもできないと、衛兵さんは結局諦め顔で帰って行きました。

 

 やはり今回の一件の全体像を明らかにするためには、テオ君本人が姿を見せるのを待つしかなさそうです。

 

 

 

 翌月、タワバの街の中心部にある広場で公開処刑が行われました。

 

 対象者は七人。そのうちの三人が新人冒険者狩りの関係者でした。一人は『闇の牙』の頭目マテウス、一人は組織の頭脳兼金庫番のベルナルド、そして最後の一人は実行部隊で新人冒険者狩りの担当だったあの大男ゴンゾです。残りの四人は今回の件とは異なる別の殺人事件の当事者でした。

 

 非合法組織『闇の牙』は解体されました。尋問の結果判明した総ての犯罪に対する処罰として、重犯罪者級として北の鉱山送りになった数人を含め、捕縛された構成員の総てがタワバの街を追放処分になり、人々は街が安全になったといって喜んでいます。

 

 

 結局、その後もテオ君がこの冒険者ギルドに姿を現すことはありませんでした。

 

 ギルド長は、テオ君がもし今も無事にすごしているとしても、このタワバの街の噂が届かないほど遠くにいるかもしれないし、どこかの街にいてタワバの噂を聞いても、街に戻って組織の残党に狙われる危険性を考えれば、その場所での暮らしを続けた方が良いと考えるのが自然で、子供ながらに高レベル冒険者に身代わりを頼もうと思いつくテオ君なら、きっとタワバの街に戻らない方を選ぶだろうから、もう期待しない方が良いと言われてしまいました。

 

 

 今日も冒険者ギルドのカウンターは依頼の受付を行う冒険者たちで溢れています。

 その中にテオ君の姿がないことは少しだけ残念ですが、冒険者に成り立ての若い男の子や女の子たちの姿が数多く見られることを、私は本当に心から嬉しく感じています。

 

 

(第一章 完)

 

 




>>まるで市場で見かける養殖鳥のような変わった髪型をした乱暴そうな大男
03話に出てきたモヒカン男が再登場して物語を〆てくれました。一晩中タワバの街を主人公を探して駈けずり回った挙句、空振りになってキレてしまって、上役に断りもせず冒険者ギルドに乗り込んでしまったようです(モヒカン刈りをしている男性の知能に対する風評被害が……)

>>確かに簡易埋葬された五人分の死体が確認され
半グレ集団の上役は一応構成員の福利厚生にも気をつけているようです。

>>間違いなく身体強化で遠見 と俊足が使える能力持ち
回収した剣を普通に地面に置いていれば草葉の陰で見えないということでアイテムボックス持ちであることはバレなかったということでご了承ください。

半グレ集団を残して強くなったテオ君に将来潰させるかとも思ったのですが、それまでの期間悪を蔓延らせることもないだろう……ということで、モヒカン男に炎上役をお願いしてしまいました。後先考えずにキレるDQNが一人いるだけで組織が傾くのは異世界でも同じと思って頂けたら嬉しいです。

ここまで読んで頂いてありがとうございました。
頑張れテオ君。とりあえず第一章は生き抜いたけど新人冒険者である君の戦いはこれからだ!

第二章の初級冒険者編の展開も今のところ頑張って考えてはいるのですが、とりあえず一区切りつくことですし、やっぱり反応や感想が全然こなかった……等の主として作者のメンタル面の理由でゴールしちゃった場合は、読者の皆様には広い心でお許し頂けますようどうぞ宜しくお願い申し上げます。

作者の予想だと、どこかのマンガで読んだ介護施設で石川さゆりさんの持ち歌を歌うアイドルの卵のように、誰でも読んでくれる人を探して次は実験で人気商業作品の二次創作の短編とかを投稿してたりする自分の姿が一番ありそうな未来の気がしていますので、その時には(もはや既定路線?)またどうぞ宜しくお願い致します。

9/8 第一章の公開前の予約投稿作業を終えて

9/30 とりあえず評価はオレンジで感想二つでフィニッシュということになったようです。何がいけなかったのか反省点は今から良く考えてみたいと思います。

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