山岳域へ入った途端の山賊との遭遇。現時点ではかなりの遠方であり俺自身が襲われたわけでも無いため、聞きしに勝る山賊の活動ぶりだな……という以外の感想は沸いてこない。
襲われているのは単独で往来していた商人の荷馬車のようで、視界の範囲内で冒険者風の護衛が四人と馬車の上に登り震えている商人が二人。登場人物の全員が男だ。襲っている山賊の方も男ばかりの七人組で、数の優位を活かして護衛の冒険者達を着実に追い詰めている。
と見ているうちに冒険者が一人二人と斬られて均衡が崩壊した。後はもう予想通りの展開で、残りの二人もすぐに囲まれて倒されると山賊達は商人二人を馬車から引き摺り下ろした。商人たちは命乞いをしているようだったが、山賊達はその様子を見て笑いながら何の躊躇もなく殺してしまった。場合によっては助けに入ろうかと考え距離を詰めてはいたのだが、横合いから介入する間もないあっという間の出来事だった。
山賊達は見る限り無傷のようだ。商人のいなくなった馬車に取り付いて積荷を物色している。一番の下っ端らしい男が馬を馬車から外して街道とは外れた方向に連れて行った。やはり馬はそれなりの財産価値があるものと見なされているようだ。リーダーらしい男の指示の元、部下の五人は背負いかごに選別したらしい荷物を分散して持ち山へ向かって歩き出す。見せしめのためかご丁寧にも荷馬車には火をつける徹底ぶりだ。
隠行スキルを使いながら六人組になった山賊を追尾していく。さて、どうしたものか。
索敵スキルで見ると、街道沿いから山道に入った時点で六人とも輝点は戦闘状態を示すものでは無くなっている。おあつらえむきにかなりの急傾斜の崖のような箇所に山賊達は差し掛かった。これは仕掛ける絶好の機会じゃないか?
前の三人が崖を越えようとする時点で、俺は風魔法を起動して先頭を行くリーダーの頚動脈を狙って放つ。間髪を入れずに山賊達の後ろ半分がいる崖っぽい急斜面を土魔法で崩した。
絶叫を上げながら山賊のリーダーが倒れ、「襲撃だ!」と叫びながら崖の上の二人が周囲を見渡す。
残りの三人は一人がかなり下の方まで転がり落ちて行き一人は崖の途中にへばり付いていて俺の前には最後尾にいた最も下っ端らしい男が殆ど無傷な様子で着地している。
俺は剣を手に山賊達の前に姿を現し、眼前の下っ端に鑑定をかける
『ドガ 人族 23歳
ジョブ:盗賊 レベル11 …』
げっ、思ったよりレベルが高い。俺と一つしか違わないぞ。
内心での焦りを隠して下っ端に斬りかかり剣を合わせて力任せに押さえつける。よし何とかなりそうだ。一安心した俺は横目で崖にへばり付いている男を睨み、崖中で土槍を生成して太腿に突き刺す。絶叫を上げながら男が転がり落ちてくる様子に一瞬注意をそらした下っ端の体を崩して剣を持つ手元を斬り付けてダメージを負わせる。
「でめえ、何しやがる」
「魔法剣士だ、注意しろ!」
山賊達は口々に喚くが、とりあえず剣を手放した下っ端の首筋に向け手をかざし風魔法をぶつけるとそのまま横倒しに倒れて動かなくなった。先ほどのダメージが効いていて無事風魔法は致命的な深手を負わせれたようだ。これで一人。
視線を横に向け、先ほど太腿を土槍で貫かれて崖から落ちてきた男に鑑定をかける。剣も手放してしまったようで、俺の方を見ながら這いずって少しでも遠ざかろうとしている
『人族 レベル15』
好都合だ。
「寄るんじゃねぇ。お前何者だよ」
「さあ、何だろうな」
「み、見逃してくれよ」
「ダメだな。お前たちさっき命乞いしてた商人を笑いながら殺してただろう。見てたぞ」
レベルと精神的な強さは特に関係ないのか、今にも泣き出しそうな顔でガタガタ震えて命乞いする男に大股で近づいて剣で首を刺す。これで二人。
崖の上の二人は俺を睨みつけているが、何とかして崖を降りて俺と戦おうとする様子は見せていない。俺が男を崖から落とした様子を見て魔法攻撃を警戒しているようだ。ならば残りは一人。俺は踵を返し足早に山を降りる方角へと向かう
崖から落ちた後に急斜面を転がって行った男を途中で見つける。右足首を酷く挫いた模様で立てないようだ。攻撃方法を決めるために、とりあえず鑑定をかける。
『人族 レベル14』
本来ならば格上で対処に迷うところなのだろうが既にダメージを与え済なので攻撃は通る。軸足にして何とか立ち上がろうとしている男の左足の腱に風魔法をぶつければ簡単によろける。さらけ出したわき腹に剣を突き刺せば口から血を吐き動きを止めた。これで致命傷となったはずだ。
もう充分だろう。長時間この場に居続けると山賊側の増援など何が起きるかわからないので手早く撤収することにする。急ぎながらも慎重に山を降りて、街道に合流する先ほどの襲撃現場へと戻ってきた。索敵で調べても近づいてくる輝点は存在しないが、とりあえず危険域を離れることにして身体強化をかけわき目もふらず北を目指す。残念ながら商人や冒険者の身元確認や埋葬で時間を取られるリスクは取れなかったので総てそのままの状態で置き去りだ。
走っている途中で自分に鑑定をかけたが、今日の山賊達への襲撃で崖から落ちた二人を殺害したことで予想通り剣士レベルが2上がって14になった。風魔法のレベルは下っ端を殺した分が上がっただけでまだ11か……
襲撃現場から距離をとって一心地着いて止まった後に再度鑑定をかけてみる。恐らくレベルの高かったリーダーも時間の経過で死んだのだろう。風魔法のレベルも無事12となっていた。これで今日の一件も終了だ。
自分よりレベルが高い人間が五人もいる集団にその場の思いつきで仕掛けるというのはどうにも褒められない行為だった気がする。剣の補正効果がもう使えなかったのも大きかった。結果は良好だったとはいえ一つ間違えば碌でもない事態になっていた可能性もある。
鑑定結果を眺めて頭をかきながら何やかや考えていた俺の視界に何か黒いもやが横切った。驚いて身じろぎしたところ黒いもやは俺と一緒に動いている。動きを止めて確認してみると、黒いもやがあるのは俺の左手?
アドレナリンが大量に出ていて気付かなかったようなのだが、どうやら左手の手のひらを切っていたようで血が出ている。鑑定で黒いもやになっているのは、この怪我していた手の平だ。ということは鑑定の機能でアナログ式の身体の状態異常箇所表示が働いているということか。
確認してみよう。左手の手の平を見て鑑定をかける。手の平の傷の部分を中心に円形の黒いもやがかかっている。手の平に回復魔法をかける。手の平の傷が小さくなるにつれ黒いもやは薄く小さくなり傷の治りと共に消滅した。予想通り身体の状態異常表示で間違いない。
これは役に立ちそうな気がする。というより何故、前回タワバの宿屋で回復魔法のレベル上げを試したときに気付かなかったんだという自分の間抜けさへの呆れの方がより大きい。
こうして山賊達との初めての邂逅は、レベルアップと多くの反省点と鑑定の新しい知見を得て終了したのだった。
山賊のレベルは街中にいる半グレの連中よりも概して高い。注意しないとな。
(16話に続く)
テオ 人族 15歳
ジョブ:剣士 レベル14
スキル:火魔法2 水魔法2 風魔法12 土魔法5 回復魔法3 治癒魔法0 洗浄魔法1 浄化魔法0 収納魔法2 鑑定魔法1 探査魔法1 隠行魔法3 強化魔法1 剣術14 槍術4
…
次回、16話は4/12 22:40に予約投稿済です。