野営で一泊して街道を進み、翌日の昼過ぎにはフルト南門の外壁前に辿り着いた。公的には無関係ということでデイルさんたち一行と離れ、俺は普通の旅人用の出入り口に並ぶ。タワバの街で作った冒険者カードは見せるつもりはないので、今日を含めて三日後の期限が書かれたとりあえずの滞在許可証を銀貨二枚で発行してもらって街に入った。
王国中部圏有数の都市ということで建物も立派で人ごみもすごく、かなりの賑わいが感じられる。入り口近くの指定場所でデイルさんたちと再合流して、まずはデイルさんの商会に向かう。
門から続く大通りをしばらく進んだ後の幾つ目かの十字路で右に曲がり、表通り並みとまではいかないがそれなりに人通りのある大きな道を行くと、デイルさんの名前が書かれた商会に到着した。デイルさんは迎えに出た奥さん、娘さんとの感動の対面もそこそこに、険しい表情で店の従業員に対して馬車への襲撃があり即座の後処理が必要であることを告げた。
馬車と共に商会の倉庫に誘われてアイテムボックスから荷下ろしを行う。あと今回の襲撃で犠牲になった従業員と冒険者三名の遺体を出したが、冒険者に関しては商会の人力台車を貸し出してもらいそちらに乗せて運ぶことになった。げんなりすることに身元確認のため袋につめた山賊の首七人分のおまけが俺の担当だ。
人力台車に関しては昨日から殆ど喋らないリズが全員自分の幼馴染だから自分が運ぶと言い張った。少し心配したが大した距離はないから良いだろうということで、冒険者ギルドまでとその後の教会までの遺体の運搬はリズの役目ということになった。
力仕事が明らかに駄目そうなデイルさんはともかく、女の子に台車を引かせて後ろから手持ち無沙汰で袋を担いで着いて行く俺を見る街の人の視線はなんだか冷たい感じがした。
冒険者ギルドの受付でデイルさんが今回の商隊の護衛依頼の契約書を見せ事情を説明したところ応接室に招かれる形になった。立ち会ったハマンさんという名前の副ギルド長とカルロさんという事務職員を前に、デイルさんが自身の視点で山賊の襲撃がどのようなものだったかを詳しく解説した。
頷きながら説明を聞いている副ギルド長は穏やかな雰囲気の頭の薄い歳のいったおっさんという風貌だったが、実は高レベルの強者という雰囲気をそこはかとなく醸し出している。勿論、副ギルド長に鑑定をかけてみる等という命知らずの真似はできない。
戦闘の経緯に関しては、冒険者としての責任の一部と思っているのかリズが中心となって説明し、所々聞かれた点に関しても簡潔かつ客観的に話していた。
俺に対してはたまたま襲撃現場に立ち会った腕に結構自信がある冒険者登録予定の現在無職の一般人ということで、俺目線での戦闘の様子を聞かれただけだった。
「相手が山賊なのは明白だったので、商隊に助力することにして山賊側を背後から襲いました。最初にリーダーを倒せたのは運もあったと思いますが、残りの六人に関しては大した腕前とは思いませんでした」
「最後の二人は男女二人組で戦っていた護衛の人たちを殺害した後、劣勢を悟って山側に逃げようとしたので俺が追いかけて殺しました」
うん、別に嘘は吐いてない。風魔法のことを言わなかっただけだ。デイルさんは何も気付いていなかったようだし、リズはこちらに目を向けたけど追加して何かを言うことはなかった。魔法が使えるのは原則貴族の血が入っている者だけで、俺は先ほど田舎から出てきた流れの剣士として自分を説明したばかりなので、リズとしてはこの場でことさら状況を複雑にすることもないと思ったのかもしれない。
持ち込んだ七人分の山賊の首に関しては、俺が最初に後ろから刺したリーダーの男が賞金首として登録があるのが確認された。実力的にもレベル20より下だったので悪党としては最底辺レベルだ。これで問題無く山賊認定されて報奨金と残りの人数分の所定の賞金が支払われることになったので、デイルさんと目配せして護衛作業に関連して発生した褒章ということで全部リズに渡すことにした。
結局、事件としては大した実力も規模もない山賊一味が、山賊の縄張り争いにならなそうな場所を選んで、これまた小規模の初級冒険者パーティに守られた通りがかりの商隊を襲った単発的な事件という結論になったが俺的にもまあそんなものだろうと思う。
冒険者ギルド的には一応確認のため襲撃現場への調査要員を送るそうだ。何が起きるということもないだろうが、風魔法で倒したり土魔法で止めを刺した奴らに剣で傷を上から付け直しておいたのは良かったと思う。
ついでというか聴取が終って部屋を出るときに、副ギルド長からこのフルト支部で登録して活動する気はないのか?と尋ねられた。テオという名前からして15歳だし、最底辺とはいえお尋ね者を討ち取っているのだから有望な新人候補になるとでも思われたのかもしれない。
父の知り合いの下級貴族の子弟が北部にあるギルドで一緒にやらないかと誘ってくれているので残念ながら……と予め考えておいた言い訳を使って辞退しておいた。
冒険者ギルドでの用事が済んだので次は商会に戻って亡くなったヤンという従業員の遺体も伴い教会へ向かう。今回の襲撃で亡くなった四人に対する葬儀のためだ。デイルさんの本業の商業ギルドの方は商会で分かれた生き残りの従業員が連絡するので問題ないそうだ。
冒険者ギルドが街の入り口付近にあるのに比べて、教会は街の大通りのかなり奥の貴族など上流階級が住む区域の近くに位置している。上流階級の人間も平民階級の人間も等しく通える施設という建前からの必然であるようだ。道も少し上がっている感じなので人力台車を引くリズに一声かけて俺も後ろから力を添えて押す感じにする。女の子独りに台車を引かせるより街の人の視線が厳しくないぞ。
教会の敷地に入って近くまで来て見ると礼拝堂はかなり大きい。石造りで5階建てくらいの高さがあり、この世界に生まれ変わってから俺が見る最大の建物で間違いない感じだ。勿論、家名を持たない平民が入れる区画など高が知れているのだろうが、それでも荘厳さと威圧感が奏でる教会礼拝堂の有り難味はかなりのものだ。
デイルさんが受付を済ませるのを、手押し車と一緒に俺とリズの二人で建物の外で待つ。もうすぐ別れになってしまうのが解っているので、リズは仲間三人の顔を見続けている。
デイルさんが担当になったらしい初老の男性である司祭様と恰幅の良い中年男のお付きの人と共に戻ってきた。司祭様に導かれて敷地内をしばらく進んで、葬儀の場になっている中央部だけ窪みのある小高い丘になっていて残りが綺麗な芝になっている奥まった広場へと案内される。
予めデイルさんに言われて普通の衣類のみを纏った姿になっている四人が俺とデイルさん、俺とリズの手で窪みの中に横たえられる。お付きの人は遺体運搬の力仕事の人手が足りない場合の要員のようだったが、今回はデイルさんもリズも自分でやりたくて俺という助っ人もいたので出番が無いことになったようだ。
司祭様が祈りの句を唱える。現世での勤めを果たした彼らが女神様の身元に帰って魂が安らかに過ごせますようにとの内容だ。後もう少しだけ早ければという後悔のあった俺もデイルさんとリズと共に黙祷をしながら手を合わせて祈りを捧げる。
王国の葬儀は貴族階級だけが埋葬で他の一般人は原則火葬ということで、司祭様が祈りの終わりの言葉を告げて俺たちに顔を上げて心の準備をするように促す。しばらくの溜めの後に前世で見た火炎放射器の動画のように、灼熱の炎が司祭様の両手から放たれ四人を包んだ。高レベルの火魔法なのだろう。
どのような仕組みになっているのか炎に包まれた遺体があっと言う間に形も残らず灰になるのを、俺はデイルさんとリズと共に見送ったのだった。
「ヤンさん、ゼオンさん、ダンさん、ミアさんは、間違いなく女神様の元にお戻りになられました」
司祭様の言葉に俺たち三人は深く頭を下げ感謝の意を示して葬儀は終った。
デイルさんとリズは書類記入と支払いがあるので建物の中へと入っていった。手持ち無沙汰になった俺は、敷地の外までの見送りまでが仕事らしいお付きの人に尋ねてみた。
「教会だと冒険者が怪我した場合に治療をしてくれる、治癒術士の方がいると聞いたのですけれど」
「ええ、いらっしゃいますよ。ちょうどあそこに見える人たちの中で白い修道服を着た女性たちが治癒術士の皆様です」
これから何かの行事なのか、結構な人数の一団が教会敷地内を他の建物に向けて移動している様子が見て取れる中、確かに簡素な白い修道服を纏った女性が数名いる。あの人たちが治癒術士なのか。とりあえず一番後ろを歩いている下っ端らしい若い修道女に鑑定をかけてみる。
『タリサ 人族 16歳
ジョブ:治癒術士 レベル1
スキル:回復魔法1 治癒魔法1 洗浄魔法1
HP 8 MP 11 STR 3 INT 3 VIT ……』
確かに治癒魔法のレベルがある。でも最低レベルだな。これなら他の人も恐らく行けそうということで、先頭を行くお局感のある修道女にも鑑定をかける。
『エバ 人族 29歳
ジョブ:治癒術士 レベル3
スキル:回復魔法3 治癒魔法3 浄化魔法1
HP 9 MP 21 STR 4 INT 3 VIT ……』
なんだか予想外の結果というか、レベルが全然高くない。俺の回復魔法がレベル3でこのお局修道女の治癒魔法がレベルも3で回復魔法もレベル3ということは、俺の現在の回復魔法で回復できる傷の程度しかこの修道女は自分も他人も治せないということになるのか?
「あの、腕や足を欠損した場合にはお金を出して教会にお願いすれば、治癒して頂けるというわけではないのですか?」
俺は横を向いて恐る恐る尋ねてみる。
「ああ、そのように勘違いして教会に見えられる方もいますが、教会で出来るのは傷口を塞いでそれ以上体調が悪くならないようにするだけですよ。女神様の神話に出てくるような腕や足を失っても治癒で簡単に元通りになるなどということはありません」
にこやかな笑顔で断言されてしまった。それだと夢も希望もないな。
「ただ王都にいらっしゃる今代の聖女様は、剣で斬られた手首から先を治癒魔法で確かに再生したという逸話があるそうです」
と思ったらいる所にはいるのか。聖女様、一度見てみたいものだよな。
とりとめもなく考えているうちに、デイルさんとリズが戻ってきた。
二人から葬儀への参加を丁寧に感謝された後、俺たちは教会を後にしたのだった。
こうして怒涛のフルト滞在の一日目は終った。デイルさんには明日の用事もあるので商会に泊まってはどうかと誘われたが、これ以上気を使わせるのも何かと思い翌日の商業ギルドでの待ち合わせ時間を決めて分かれることにした。リズも宿だけ紹介してもらいお別れということになったようだ。
後片付けまで全部すると山賊襲撃は大変だということが良く解った。見ていた限り山賊退治の報奨金自体は大した物ではなかったし、次回は必ず現場での山賊の処分だけで済まそうと心に誓った俺だった。
(18話に続く)
次回、18話は4/16 21:40に予約投稿済です。