異世界転生で欲張り過ぎてしまいました   作:真紅或は深紅

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18話  酒場娘への道草(前編)

 翌日、フルト滞在二日目は午後一番の商業ギルド入り口でのデイルさんとの待ち合わせで始まった。一昨日が野営の見張りで徹夜になっていたので、多分デイルさんが充分睡眠を取れるように配慮してくれたのだろう。

 

 デイルさんに伴われて商業ギルドで登録の手続きを行う。前回と違って今回はこの商業ギルドを経由してダンテさんとやり取りをする目的があるので、登録に嘘八百を書くこともできない。出身地の記載は代官領の部分まで正しいものを記載しておいた。ただ俺のジョブが剣士で商業ギルドへの登録は副業のためなので商人としてのレベルやスキルの確認作業はないので気楽なものだ。

 

 勿論、デイルさんは約束を守ってくれてアイテムボックスのことは秘密にしてくれたので、商業ギルドに知られる心配もない。推薦人の欄に署名してくれた後は、温和な調子で商業ギルドの職員と今回の東部からの帰還時の山賊トラブルについての話をしている。

 

 俺のことは今回の馬車襲撃で助っ人に入ってくれたのでお礼の褒美が何か良いかと聞いたら、副業として商売にも興味があり商業ギルドに登録してみたいというので力添えすることになったと無難な受け答えをしてくれている。

 

 こんな感じで商業ギルドの登録はデイルさんの後押しのおかげか結構簡単に出来てしまった。登録料についてもお礼の一部だと言い切られて結局デイルさんに出してもらった。商業ギルドの会員証は銅製で、この前タワバで作って貰った雨に塗れたらすぐにも錆びてしまいそうな鉄の冒険者証より大分立派な印象だ。流石に登録に推薦人が必要なだけはある。

 

 これで予定は無事終了。デイルさんに最後にお勧めの武具屋を聞いて解散となった。

 

「今回は本当にありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。命を助けて頂いたのですから今回の事ぐらいではまだまだ返しきれない恩があると感じております。また機会がありましたら是非わたくし共の商会にお立ち寄り下さい」

 

 うん、デイルさんは最後まで良い人だった。

 

 デイルさんと別れた時点でもまだ陽が高かったので早速武具屋に寄ってみる。

 とりあえずの目的はタワバの街で半グレ集団から手に入れた防具や剣を手放し俺の現在のレベルでも使える出来れば補正強化レベル+2の剣を購入することだ。

 

「なんだ、新顔か。ふん、一応商業ギルドの登録証は持ってるんだな」

「うちの代官領の徴用兵向けの装備の一部が払い下げになったんだ。買い取ってくれ」

「荷物はどこにあるって?おいおい、アイテムボックス持ちかよ」

 

 どう見ても若者冒険者な俺の格好と商業ギルドの登録証を見ながら武器屋の店主は不思議そうに言うが、俺は考えてきた台詞をまくし立てて強引に話を進める。強面の店主の前でアイテムボックスからぼとぼとと防具や剣を落として並べると、店主も普通に一つずつ手に取って見ながら取引の雰囲気に入った。

 

「徴用兵向けってことで期待はしてなかったが確かに大したものはないな。防具と剣、全部合わせて金貨五枚ってとこだな」

「ああ、それで良い。引き取ってくれ」

 

 一通り見終わって店主は残念な得物認定をした。

 まあ予想通りの展開ではあるが、防具屋の値段付けがどの程度正しいのかは実は俺には全く検討もつかない。

 唯一点、デイルさんが良心的な店と言っていたのを信じるだけだ。

 

 鑑定に機能評価だけじゃなく現在価値評価とかをつけてくれてたら良いのにと切に思う。

 

「じゃあ、買取の書類を用意するから少し待ちな」

「あと、実はこっちが本題なんだが剣を見せてくれないか? 領軍の騎士が使うような普通の両手剣で補正強化のある奴。機能面でなるべく良いものを頼む」

「予算はどれくらいだ?」

「金貨十五枚」

「わかった、相当の値段の剣を幾つか見繕ってくる」

 

 店の奥に入ろうとする店主に今日の本題の剣を見せてくれと頼む。

 当然ながら予算を聞いてくる店主に剣一本の値段としては結構背伸びした額を伝える。

 

 記憶を取り戻す前のテオの感覚だと信じられないレベルの大金だと感じるに違いないが、色んな場所から収入を得た俺にとっては出せない額ではない。剣の良さは命に直結するし、このレベルの大きさの都市に寄る機会がそうあるとは思えないからここで良いものを買っておきたい。

 

 ほどなく戻ってきた店主は俺の前に三本の剣を置いて、自分は買取りの書類を書き始めた。俺が見るのに時間がかかると思ったということだろう。

 

 まず一本目、装飾が綺麗で明らかに高級品の雰囲気が漂う一品だ。鑑定をかけると確かに攻撃力+2(レベル28以下用)の判定結果が出る。やはりここの店主は真面目に商売をしているようだ。二本目は普通に高級品の印象の剣。ただ鑑定をかけると攻撃力+2(レベル29以下用)と出て最初の剣よりレベルが一つ高い所まで攻撃力+2が有効であることがわかる。最後の三本目の剣は無骨な作りで握りの所に少し深い傷がついていて中古感に溢れている。鑑定をかけると攻撃力+2(レベル31以下用)の判定だ。

 

 これはもうどれを選ぶかは明らかだろう。俺は三本目の剣を手に取ると振った感触を確かめる。良い感じだ。とりあえず一本目と二本目の剣も持って振ってはみるが大した違いが感じられないとなれば判断基準は揺るがない。

 

「決まった。この剣でお願いしたい」

 

 俺は三本目の剣を手に取り店主を呼んだ。

 ちょうど買い取り書類の記入を終えた所らしい店主は、まず早かったなという顔をしてその後俺の選んだ剣を見て目を細めた

 

「何だかわからねえ奴だが商売相手にするには悪くないようだ。これからもこの街に来た時は俺の店に寄ると良い」

 

 険しい表情で俺を見てぶっきらぼうに言うと、今度は剣の売却の書類を書き始めた。

 

 こうして俺は新しい相棒となる剣を手に入れて店を後にした。この剣を持つだけで自分と一つ上のレベルの相手との同一条件での戦いで身体強化を含めてレベル2の差をつけることが出来る。以前の考察に従い正規分布での標準偏差2シグマ差を仮定すれば凡そ敗北確率3%以下で勝てるということは大きなアドバンテージだ。これからのレベル上げの戦いに極めて役立つことだろう。

 

 武具店を出た足で大都市ならではの品揃えがある衣料店などに行き、今後使う可能性が高くなるだろう少し高級目の服や小物を買い揃えておく。

 

 将来の必要性を考えて書店に寄って王政府発行の正式版の商法や刑法の書籍を購入するのも忘れない。貴族典礼などは流石に手が出ないので平民向けの貴族に対するマナー本のような物を買っておいた。

 

 食料の調達など物資の補給も追加して行い、予定していた用事はあらかた終了した。後は旅立つ準備としての情報収集でこの街ですることももう終わりだ。

 

 夕暮れ時。俺は街の大通りを抜け西側区域にある旧市街地に隣接する歓楽街へと足を進めた。デイルさんに教えて貰った情報収集に向いた施設の中で、治安的な意味で危険はあるが得るものも多いに違いないと指定されていた酒場に入るためだ。

 

「ここかよ……」

 

 到着した酒場は外観の雰囲気からして明らかに怪しげな場所だった。要は酒場と売春宿が一体化した施設で一階の酒場で飲んでるうちに意気投合した店のお姉さんが居れば、二人で二階に上がって一晩かけてもっと仲良くなれるというシステムだ。

 

 逡巡していても仕方がない。俺は意を決すると『猫と狼亭』と看板に描かれた店の両開きの扉をくぐり中へと入った。

 

「とりあえず麦酒と付け合わせのつまみを。後、南北街道を北に行くのに有用な情報を持ってそうな客が見つかったら教えてくれ」

 

 長時間の滞在になる可能性も考慮して、不機嫌そうな顔で食器を磨いている中年男から少し離れたカウンター席の端に陣取る。お品書きを持ってきた化粧の濃い妖艶な雰囲気を醸し出すお姉さんに注文と一緒に要望を出し銀貨を五枚握らせる。前に聞いたダンテさんの話によればこういう持って行き方で大丈夫なはずだ。街道の正式名称を言ってみたのは俺も気負っているせいかもしれない。

 

「嫌だわ。何、大人ぶりたい年頃なの坊や」

 

 ダメだった。

 

 くすくす笑い出すお姉さんと俺の組み合わせに、まだ夜というには早い時間帯から店にいる恐らく常連客の視線が集まる。

 目立たないようにしようと決めてたのに、どうしてくれるんだよ……

 

「興味あるくせに。無理しちゃって」

 

 いや、俺本当にそう思ってないから。だって、貴方見た目は良いけど身体ダメでしょ。

 俺にしなだれかかってくる豊満な身体つきのお姉さんを手の甲を使いぞんざいに遠ざける。鑑定をかけたところ服越しの下腹部にうっすら黒いもやが出てるから、多分軽度だとは思われるがまず間違いなく性病だろう。残念ながら俺的にはご遠慮させて頂きたい。

 

「何、本当に興味ないの。若いのに枯れてるわね。それじゃ、また今度」

 

 人の心の機微を見るのに敏なのか。ちょっとびっくりしたようにお姉さんは俺を見て肩をすくめた。渡した銀貨を持って店長らしい恰幅の良い強面でハゲの大男の所に行ったから、俺の要求は一応伝えてくれてみたいだ。

 

 程なく麦酒とつまみがやってきたのでちびちびやりながら、店員から声がかかるのを待つ。ちなみに料理を持ってきた新しいお姉さんも同じく下腹部にうっすらと黒いもや持ちだった。異世界は厳しいぞ。

 

 そんな感じで半刻くらいの時間を潰した頃だろうか。俺の所にまた新しい店員がやって来た。今度は店にいるのが不思議な感じのいかにも男慣れしてなさそうな若い女の子だ。くせのある短めの金髪で殆ど化粧っ気の無い童顔に潤んだ小動物系の瞳をしている。痩せ気味の小柄な身体で胸も薄い。勿論、下腹部にもやなんか出ていない。

 

「北部の商都市ブルクを拠点にしてこちらと頻繁に往復しているお客様がいらっしゃいました。ご案内可能です、なのですが……」

 

 俺の要望どおりの客が来たようだ。でも、ですが……というのは?

 

「お客さまのご用事が済んだら、わ、私のお相手をして下さるのが紹介の条件です!」

 

 目を瞑って両手を握り締めながら少女がやけくそ気味に言う。おいおい、何だそれは。本気なのか?

 酒場で情報を聞くのに女の子のお買い上げが必要なんて話、聞いたこと無いぞ。

 

「気が進まないなら、そんなこと無理にやらなくて良いと思うんだが……」

 

 ちょっと良くわからない展開にいきなり入ってしまって俺は戸惑いを隠しきれない。

 なんとか否定の言葉を引き出せないものかと思って声をかける。

 

「いえ、店の掃除や料理だけでなく少しは働いてこいと店長にも強く言われましたので、お願いします。『ああいう若くてしかめっ面した奴は、お前みたいなのが絶対好みだから大丈夫だ』って断言されました。駄目だったら、私怒られてしまいます」

 

 見上げるポーズでお願いされてしまった。どうにも素で言ってるようにしか見えない所が悪質だ。

 

「いや、でも……」

「お客様さえ宜しければ、是非、お願いします!」

 

 この女の子、このまま自爆特攻でもやらかしそうな意気込みだぞ?

 

 店の奥を見渡すと先ほど邪険にしたお姉さんがにやにやしながらこちらを見ている。

 横にいる店長認定したハゲの大男に視線を移すと、目が合った途端に俺を鼻で笑うような仕草を見せた。どいつもこいつも……

 

「わかった。用事がすんだら呼ぶから……」

「ありがとうございます。マリアの名前でお呼びください、お待ちしています。では、お客様にご案内します」

 

 しばらくの間互いに顔を見つめあった後に根負けした俺が承諾すると、花が咲いたような笑顔で返事された。俺みたいなのに指名されるのが、そんなに嬉しいものなのか……?

 

 予定外の一泊が確定してしまったが、なんとか北部を拠点とした商人を教えて貰う事が出来た。

 

 酒と料理をおごるから旧南北街道の話をしてくれと頼むと、『俺に他の商人が知らない話をしろ。その分だけ情報を与える』という話になった。それならばということで、この三日で俺に起きた山賊騒動のうちで報告済みの一作日の事件の方を臨場感たっぷりで披露してやった。

 

 冒険者ギルドで聴取された時に山賊被害は口止めが必要かと確認したが、全くその必要は無いとのことだったので全オープンだ。アイテムボックスや風魔法などの俺自身の秘密に関わる部分を除いて襲撃場面を微に入り細に入り解説したらいつの間にか他のテーブルからも話を聞きに人が集まって来て大賑わいと成るほどだった。

 

 というわけで俺の山賊体験は北部商人にとっても好評裏に終わり、俺の欲しかったフルトから先の旧南北街道の情報もかなり手にいれることが出来た。この先は山岳地帯に入るので、地形的に気にした方が良い場所や野営に向いた箇所が聞けたのは幸運だった。何より肝心の凡その山賊の活動範囲と街道上で山賊に襲われる可能性が高い地点、本拠地のありそうな区域を絞れたのは大きいと思える。

 

 結構な時間を費やしてしまったが一通り欲しかった内容を聞き終えたので、商人に礼を言ってその場をお開きとした。となれば次のお仕事?にかからないといけない。

 

 カウンターに近づきマリアを呼んで欲しいと話すとすぐ来ると言う。

 どうせ上がるからということで階段下で待つことにする。

 

 程なく夜着を身に纏って羽織物を上体にひっかけた準備万端の姿のマリアが現れた。

 どうみても風呂上りの雰囲気で癖っ気があると思った髪も乾ききっていない感じでしっとりしている。元々薄かった化粧も落としてあるようだ。

 

 店の空気もなんだなんだという感じになり、酒場のテーブルで飲んでる客の幾人もがこちらの方を見つめている。どうやらマリアのこの姿は日常的なものではないらしい。

 

「お待たせしました」

「ああ、全然待ってないから大丈夫」

 

 うっすらと顔を上気させているマリアが俺に笑いかけながら近づいて来て、手を取ると二階の奥の方の一室へと俺を導く。

 

 下の喧騒とした酒場の雰囲気から思うと小奇麗で落ち着いた感じの部屋だ。使用目的を考えれば当然なのだが、寝台と荷物置き場を除けば大した空間は残されていない。とはいえ充分及第点と言えるだろう。

 

 寝台に腰掛けると眼前に壁が向かってきてしまう雰囲気なので、この体勢での会話は想定していないのかと考えていると早々にマリアが履き物を脱いで素足となって寝台へと上がった。

 

 普通に考えればこれから二人ですることは彼女にとっての通常業務のはずなんだが、どうも先ほどから調子を外されてばかりなので安心できない。ここは確かめておくべきだろう。

 

「確認しておくけど、勿論、初めてってことは無いよな?」

「はい、三回目ですので全然大丈夫です。今回は上手くやれそうな気がします!」

 

 肘を曲げた両手を胸の前で握ってマリアが力説する。どうみても不安しかない……

 どうして、こうなったのだろう。

 

 俺はこれまでの経緯を思い出しながら頭を抱えるのだった。

 

「さあ、お客様もどうぞ」

 

 マリアは自信満々な様子で掛け布団をめくって寝台の奥側へと俺を誘う。この世界にも部屋の奥の方がお客さま席という暗黙の了解があるのだろうか。まあ人間は右を向いた側に人がいると安心を感じると聞いたことがあるから、マリア的にはこの順で良いのかもしれない。

 

 店のお姉さん方に聞いてきたから大丈夫というマリアの言葉を鵜呑みにするのはどうみても無理だ。

 

 マリアのテンションが下がらないように相手をしつつ話を聞きだす。

 

 最初の時は怖くなったマリアが途中でギブアップしたのを、怒り出した客が金を一切払わないと言い出して店長沙汰。

 

 二回目はマリアは頑張ろうとしたんだが相手の気の良いおじさんの方がお金はちゃんと払うからもう今日は止めようということになっておしまい。それが後で店長にばれて「ちゃんと働いてもいないのに知らん顔して金だけ貰うとは何事だ」とマリアが大叱責される事態になったらしい。

 

 それ以来、自分からお客に声を掛けられ無くなって、近頃は掃除と料理に専念していたとのことだった。

 これ俺にどうしろと言うんだ。

 

 ……

 

(19話に続く)

 




旅立ち時のニナちゃんの忠告をけろっと忘れてしまっている模様の主人公は一体何をやってるんだか……

(2024/04追記:誤字報告を頂いたのですが作者は投稿した話に改をつけて読者を混乱させて良いものか迷ってしまう派なので修正は少しお待ち頂けますと幸いです。三章の投稿前に多分一章の主人公の呟き周りで内容修正を入れるかと思いますのでその時に一緒に対応致します)

次回、19話は4/18 21:10に予約投稿済です。
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