異世界転生で欲張り過ぎてしまいました   作:真紅或は深紅

2 / 26
01話  成人への儀式(後編)

 僕とニナとの婚約の話が決まっていたけど、今日の成人の儀式で白紙になった。

 

 なんだ、それは?

 

「父さん、なんでそんな話になってたの?」

 

 尋ねる自分の声が震えていることに僕は気付いた。

 

「テオ、お前も知っているだろう。旦那さんが亡くなってからパメラさんとニナちゃんの家はずっと苦しい。

 パメラさんはなんとか一人で回せる程度の果樹園をやってるんだが、冬の厳しい寒さで、もう今年の収穫が期待できない程にやられてしまってる樹が多いんだ。

 兄さんはそれを心配していて、パメラさんの所に援助を出そうとした。

 そしてこの村でニナちゃんと最も仲の良いお前を婚約させることで、お祝いの名目で施しを与えたいと俺に言ってきたんだ。

 俺もお前の将来を考えた結果了承した。ニナちゃんのお父さんがなくなったせいで今は放置されているが、パメラさんのところにはかなりの広さの耕作可能な土地がある。

 お前がパメラさんの所に行って農作業に専念すれば、三人分どころではなく充分に余裕のある生活をすることができて、お前のためにもなると思っていた」

 

「それなら、婚約抜きで援助することはできないの?」

「特定の村人への肩入れと見なされてしまうような施しは出来ない。

 施しを受けられない者に不満がでる。

 兄さんと共に村を差配する一員としてそれは決して許されない。

 誰にも納得できる理由が必要だ。

 婚約なら結婚時に渡す分の前渡し分として融通することが出来たが、

 今日あった成人の儀式でお前が家を出て行くことになった以上、この話はここで終わりだ」

 

「でも……」

「テオ、お前は先ほど、我儘で色んな人に迷惑をかけてるのは知っている、

 一人でやっていくと俺に約束したんじゃなかったのか?

 その舌の根も乾かないうちに、一体お前は俺に何をしてくれと言いたいんだ」

 

 父さんが厳しい顔で僕をなじる。

 だけど、一息つくと表情を和らげて、諭すように僕に言った。

 

「父さんと母さんは、今回の一件のことを謝りに今からパメラさんのところに行ってくる。

 俺たちが戻ったらお前はニナちゃんに会ってこい。こういうのは早い方が良い。

 心配しなくてもお前に責任がないことは誰もが知ってる。

 お前には後味の悪い思いをさせてすまなかった」

 

 そういうと父さんと母さんが立ち上がって、あっと言う間にパメラさんの家に向かって行ってしまった。

 もう食卓に残っているのは僕と兄さんの二人だけだ。

 

「しかし、本当に神託で剣士の職業を授かるとは驚いたな。昔からお前っていつもはぼーっとしてるけど、たまにみんながびっくりするようなことしでかすんだよな。冒険者になって一山当てたら、こっちにもおすそ分け頼んだぞ」

 

 感慨深そうに呟いた兄さんは、ちゃかすような言葉を僕にかけてから席を離れた。

 

 一人になった僕は、今日の成人の儀式のときに見たニナの表情を思い出す。

 なんで気付かなかったんだろう。あの表情はニナがお父さんを亡くしたときに見せてたものとそっくりじゃないか。

 

 取り留めのない考えに振り回されているうちに、父さんと母さんが帰ってきた。

 次は僕の番かと思って、腰を上げかけたところを父さんに止められた。

 

「パメラさんによると、ニナちゃんはまだ心の整理がつかないみたいだ。

 明日の朝なら大丈夫とニナちゃん本人が言ってるから、そのくらいの時間にテオは来てくれってパメラさんに言われたぞ」

 

 こう言われてしまっては、いくら心が急いてもどうしようもない。

 

 いろいろ疲れたし父さんと母さんに、もう少し詳しくパメラさんとニナの様子を聞いてから、僕はもう寝床部屋へと行くことにした。

 

 ミリーの寝床の動きを見ていると、どうもミリーは起きているようだ。

 僕が寝床を覗き込んでいても顔を出さないところから見て、ミリーもまた心の整理がつかないのだろうと思って、僕は声をかけずに自分もそのまま寝てしまうことにしたのだった。

 

 

 

「いらっしゃい、テオ君。無事の成人と職業『剣士』の獲得、どちらもおめでとう。ニナは部屋にいるわ。会ってあげて」

 

 次の日の朝、訪れた僕をパメラさんは笑顔で迎え入れてくれた。

 僕の方は今回の一件のことをしどろもどろ何とか謝ろうとしたけれど「テオ君のせいじゃないんだから」の一言で済まされ、昔はよく訪れていたけど近頃は入っていないニナの部屋へと導かれた。部屋の中には着飾ったニナが立ち姿で僕を待ち受けていた。

 

「どう、素敵でしょ?成人のお祝いにお母さんが用意してくれたの」

 

 飾りは簡素なものの、ニナの着ている鮮やかな青に染められた衣服は、ニナの持つ清楚な雰囲気を余すところなく引き立たせていた。

 この地方の風習により、成人したことで髪を結った今日のニナはいつもよりずっと大人びて見える。

 

 服を着たニナを一目見たパメラさんによると、村中の男の人が求婚の列を成したというパメラさんの若い頃にそっくりらしい。

 

「ああ、見違えたよ、ニナ。素敵な大人の女性に見えて本当に綺麗だ」

「ありがとう。テオの朴念仁ぶりもたまには役にたつわね。本当にそう思っていてくれるのがわかるもの」

 

 ニナは苦笑しながら僕に寝床に椅子代わりに座るように勧める。

 パメラさんがいると話し難くないかと思って外に行くか聞いたけど、ニナはここで良いという。

 

「せっかくの服が汚れちゃうといけないし、家の中で話すことにしたいわ」

 

 確かにこの服ではニナは外でずっと立ったままでいないといけないので、ニナの言葉はもっともだ。

 あれ、ニナは何故、昨日の成人の儀式にこの服を着て来なかったのだろう?

 

「テオが何を思ったかわかった気がするけど、順番に話すからとりあえず聞いて」

 

 どうやらニナには僕の考えていることが筒抜けらしい。

 

「まずは謝らないとね。せっかくの成人の儀式の日にテオ、貴方に嫌な思いをさせてしまってごめんなさい。改めて言うわ。テオ成人おめでとう。そして貴方の念願だった職業『剣士』の獲得おめでとう。本当は昨日言わなければいけなかったんだけど、言えなかった私をどうか許して」

 

「ニナそれはもう良いんだ。今日、僕はニナと少しでも二人で楽しく過ごせる話がしたいんだ」

「だめ、テオもちゃんと聞いて。うやむやにしてしまうのは良くないわ。」

 

 これまでのニナとの関係が変わってしまうのが怖くて、僕は何もかも無かったことにしたかったけど即座にニナに拒否された。考えてみればあたりまえだ。月がもう二回満ちたら僕はこの村を離れる。僕とニナとの関係が元に戻ることなどあり得なかった。

 

「この前の満月の日に、村長さまがうちに今回のテオとの婚約話を持ってきて下さったの。

 気が進まないようなら勿論断ってくれて良いと村長さまはおっしゃったけど、私は天にも昇る気持ちで一も二もなく了承したわ。

 私がどれだけテオのことが好きでも、村長さまが他の村の有力な家との繋がりの方が大切だと判断されれば、お母さんと二人きりで貧しいだけの私はテオと結ばれることは決して許されない。その可能性の方がずっと高いと思っていたのに、皆にお膳立てされ、祝福されて私がテオと結婚できるって言うのだもの。私、幸せで気が狂いそうな気分だったわ」

 

 昔一緒に見た旅芸人一座の女の人のように、ニナは大きな仕草でお芝居のように言葉を紡いだ。

 

「あの日まで、私、間違いなく貴方が剣士の職業を得るのを応援してたはずなの。貴方が村を出て行くことは私には耐え難く哀しいことだけど、貴方の去ったこの村に残される私の暮らしは貴方が想像するよりずっと酷くて惨めなものになるだろうけど、貴方の大切な願いが適うなら、それは私にとっても大きな喜びであるはずだったの。それなのに私は変わってしまった」

 

 ニナの言葉は僕に突き刺さった。僕の想像していた未来では、冒険者として大成して村に戻る僕を家族と共に笑顔で出迎えてくれるニナの姿しかなかったのだ。

 

「成人の儀式後にテオと婚約できると聞いたその瞬間から、多分、本当に私は狂ってしまったの」

 

 一転して哀しげな表情になったニナは、自らの罪を告白するように言葉を続ける。

 

「貴方を見て優越感を覚えていたわ。『剣士を夢見てる子供の貴方はまだ知らないけど、もう貴方は私と結婚して私の家に入るのが決まってるの』ってね。『剣士になれなかった貴方はとても傷つくだろうけど、大丈夫。私が全身全霊を挙げて貴方を癒すから。これからずっと傍にいて、もうこれ以上、貴方の心が傷つくようなことがないように、私がずっと守り続けてあげるから』って。なんて独りよがりで傲慢な考え」

 

 とうとうニナは両手で顔を覆って泣き出してしまった。

 

「こんなに子供の頃から一緒だったのに、どんなに貴方が剣士になりたいか私は知っていたはずなのに、貴方の願いを、そして貴方の幸福を心から望むことをしなかった私の醜さを、神様は見ていらっしゃったんだわ。そして罪にふさわしい報いが私に与えられの」

 

「この服もそう。せっかくお母さんが用意してくれて成人の儀式に着ていけばって言ってくれたのを、成人の儀式が終わった後、テオがアランさん、ハンナさんと一緒に婚約の話をしに来てくれるときに見せてびっくりさせたいからって私が我儘を言ったの。無理をしてくれたお母さんの気持ちまで台無しにしちゃった。きっと、これからこの服を着る度にそのことを思い出すわ。本当に私、どうしようもない馬鹿なの」

 

 ニナは自分のことを責め続ける。

 何か悪いことが起きたときニナが他人を責める言葉を吐いているのを見たことがない。

 それは間違いなくニナの美徳なのだけど、自罰的な所はやや困りものだ。

 

 こういう感じになってしまったニナの気分を浮上させるのは、長い付き合いの経験上なかなか難しい。どうしようと思っていると、僕の頭に朝出てくる時もそのままだった、ミリーの不機嫌顔が浮かんできた。

 

「それを言うなら、ミリーはどうなるの?

 この一ヶ月、ミリーは僕の顔を見るたびに『テオお兄ちゃんが剣士になんてなれるわけないもん』『お兄ちゃんの職業は農民に決まってるもん』って言い続けてて、昨日の成人の儀式が終わってからは、ずっとご機嫌斜めで僕はまだおめでとうの一言も貰ってないよ。

 そうだとすれば、ミリーの心は汚れてるの?ミリーの心は浅ましすぎるの?

 僕は勿論、そうは思わない。間違いなくこれまでも、そして今この瞬間にもミリーは僕のことが大好きだってことを信じてるよ」

 

「ニナは考えすぎだよ。単に神様が僕の願いを適えてくれた。

 きっと、ただそれだけのことなんだ。

 僕はニナのことが大好きで大切だ。

 ニナも僕のことが大好きで大切だ。

 それはいつだって間違いのないことなんだ」

 

 僕は寝床から立ち上がると、泣いているニナを抱きしめてその頭を優しくなでた。

 ニナが嗚咽を漏らしながら僕の胸に顔をうずめ、僕の背中に手を回して抱きしめ返してくる。

 

 ニナ相手には今まで披露する機会がなかったけれど、家にはミリーがいるから泣いている小さな女の子を慰めるのは実は結構得意だったりする。

 女の子が落ち着くまで、何も言わずに時間をかけてゆっくり抱きしめ続けるのが大切だ。

 

 しばらくするとニナの嗚咽も止まったようで、今は静かの僕の腕の中で身じろぎしている。

 もう話かけても大丈夫そうな雰囲気だ。

 

「僕達は子供の頃からずっと一緒にいるけど、こういうことはしたことなかったよね」

 

 僕がニナの方を見ながら感慨深げに言うと、普通の調子に戻ったニナは腕の中で顔を横に向け呆れたという調子で返してきた。

 

「違うわ、私と貴方が意識してちゃんと抱きしめ合ったのは五歳のときからで、十歳を越えてからは毎年必ず一回はしているのよ。貴方が覚えていないだけ」

「何も思い出せないことからみて、そんなはずないと思うんだけどなあ……」

 

 僕の言葉にニナは不満なようで、腕の中から僕を見上げながら心持ち頬を膨らませる。

 

「じゃあ言うわよ。去年こうしたのは、貴方がうちに取ってきたホーンラビットのおすそ分けを持ってきたときよ。思い出しなさい」

「去年ホーンラビットを持ってきたとき……ああ、確かにここにホーンラビットを持ってきたらニナが大喜びで飛びついてきて、こんなに喜んでくれるならもう一匹持ってくれば良かったなあって思ったよ」

 

「テオは本当に馬鹿ね。ホーンラビットなんて貴方に抱きつくための、ただのおまけに決まってるじゃない。なんなら一昨年も、その前の年の話もしましょうか?」

「そうだったんだ。僕は全然気付いてなかったよ」

 

 ニナが僕の背中に回してる腕に少し力を込めたのがわかった。ああ、確かに僕は馬鹿で子供だったに違いない。

 

「ねえテオ、私が貴方をこのまま寝床に誘ったら貴方はどうするの?」

「えっ、だってすぐそこにパメラさんがいるんだよ」

 

「お母さんはいないわ。貴方が来たら果樹園を見に行くって言ってたもの。当分戻らないわ」

 

 さあ、どうするの?という顔でニナが僕をみる。

 困ったことにニナの顔を見る限り、これはニナから僕への謎掛けだ。

 

 ニナは本気かもしれないし、本気でないかもしれない。

 昔から言葉遊びや謎掛けで僕はニナに勝ったことがない。

 

 そして今日の謎掛けはもし僕が選択を誤ったら、どうみても取り返しのつかない掛け金の高さだ。

 

「ごめん、今日の所は持ち帰らせて。よく考えないとやっぱり駄目な気がするんだ」

 

 僕はいきなり両手を上げて敗北宣言して、勝負を降りることにしたのだった。

 

「それって責任感じゃなくて、責任逃れとか甲斐性無しの方に近いような気がするわ」

 

 やれやれと言う表情でニナがぼやく。ニナの中で僕の株が下がったことは間違いないようだ。

 

「まあ、貴方ならこういうことになるんじゃんないかと思ってたわ。

 お母さんにもそういってあるから、そのうち帰ってくるんじゃないかしら」

 

 結局のところ、僕の振る舞いは想定の範囲内だったようで、ほどなく帰ってきたパメラさんにご挨拶して、僕とニナとの二人の時間は嵐の展開を迎えることなく穏やかに終わったのだった。

 

 ただ何も無かったというわけではない。

 僕はニナとの間に約束を交わした。

 

 パメラさんとニナには、村長であるノア叔父さんが持ってくる話を断ることは決して出来ない。それならば、ノア叔父さんが話を持ってくる前に僕が頑張って、話を持ってこさせなければ良いのだ。

 

 僕は冒険者になり力をつけ一日も早くニナとパメラさんを養うに足るだけの実績を上げると約束した。村に仕送りをし続けノア叔父さんにパメラさんとニナへの援助は自分一人でやり遂げるから、ノア叔父さんは二人に関して行動を起こす必要はないと手紙を添えるのだ。

 

 ニナは村長であるノア叔父さんがパメラさんとニナに良かれと思って何か新しい話を持ち込んでくるその日まで、変わらず僕を想い続けると約束した。

 

 僕が頑張ってニナとパメラさんを村に迎えに戻るその日まで支え続けることが出来れば、冒険者になった僕でもニナとパメラさんの家族になることができるだろう。

 

 

 

 その後の村を離れるまでの少しばかりの期間、僕はまたいつものようにたまに父さんと兄さんに頼まれて家の畑の仕事をしたりしながら空いた時間で剣を振り続けた。そして陽が沈む前の少しの時間にニナと散歩して、今日の一日に互いに起きた出来事を話し合った。

 

 そして予定を外すことなく、出発予定日の前日に開拓村に行商人のダンテさんが現れた。

 ニナと僕はダンテさんからお勧めを聞いて、少し奮発してお揃いの装身具を買って互いにいつも身につけることにした。

 静かに抱きしめ合った別れ際に、ニナは湿っぽくなるといけないので実際の出発のときには自分は見送りに行かないと宣言した。

 

 

「元気でやるんだぞ」

「どんなときもご飯だけはしっかり食べるのよ」

「無理せずほどほどにな」

「冒険者向いてないってわかったらすぐ帰ってきた方が良いと思うよ」

「ミリーちゃんのことは心配しないで」

 

 家族全員そしてユリアさんからの自分の活躍に対する期待感の薄さを表わす見送りの言葉を受けながら、僕は馬車に乗り込もうとしていた。

 

 そこに新たな人影。パメラさんに連れられてニナが姿を現した。

 予想した通り、少しバツの悪そうな表情をしている。

 

「結局、来ちゃったわ。やっぱり顔を見れる機会を自分から捨てるのは良くないわね」

「僕は嬉しいけどね」

 

 パメラさんや家族の前だから、あんまり情熱的な言葉を貰ってしまうと少し恥ずかしいのだけど。

 

「私が知ってるあなたの一番の取り柄は、考えて考えて人の思いつかないやり方を思いつくことよ。何かしようとする時にはとにかく一旦止まって考えてからやり始めてね。それを言いに来たの。じゃあ、元気で。酷い怪我なんかしちゃだめよ。死んじゃったりしたら許さないんだから」

 

 ちょっと恥ずかしい期待をしていた僕は肩透かしにあってしまった。

 ニナの言葉は僕への気持ちの表れとかではなく、半ばお説教のような感じの助言だった。

 これだけ?と思ったけど、ニナは満足したように皆の横にまで下がっていってしまったのでこれでお別れということだろう。

 

 最後に父さんが僕のことをくれぐれも宜しく頼みますとダンテさんに言って、馬車は出発した。

 姿が見えるうちは皆の見送りに応えた方が良いというダンテさんの言葉に甘えて、僕は荷台の後ろから大きく手を振り続けた。

 

 村の出口から伸びている道は少し前方にあるちょっとした林を迂回するため右へと逸れた後、元に戻るため今度は逆に左へと方向を変えた。手を振りながら見送ってくれていた家族やニナの姿が視界の中を大きく流れてあっと言う間に消えていった。

 

 開拓村へはもう戻れないかもしれない。

 違う、そうじゃない。戻るんだ、それもニナが待ってくれている間にだ。

 

 弱気になりかけた自分を無理やり鼓舞する。

 

 

 冒険者になって頑張って稼いで、少しでも早く恥ずかしくないだけの額のお金を村に送れるようになるんだ。

 

 ノア叔父さんにお金を届けるのと一緒に、ニナに本人が望まない人生を決めさせるような話を持ち込ませないようにお願いすることは、きっと不可能なことじゃない。

 

 そうだ。僕が頑張りさえすれば、きっと村もニナもその間僕のことを待っていてくれるはずなんだ。

 

 

 

 開拓村からタワバの街までの数日間のダンテさんとの馬車の旅は、僕にとって実りの多いものだった。

 

 ダンテさんが馬車を駈って続けて来た国中を巡る行商の旅の中で体験してきた苦労話は、生まれてから今まで開拓村から出ることの無かった僕にとり驚きの連続だった。

 

 安宿で荷物を置いて部屋を離れて厠に行ったら、部屋に戻った時にはもう荷物は無くなっているものと思えと言われたときには目から鱗が落ちるような気分だった。

 

 村人全員が知り合いの小さな開拓村と人々が行き交う大きなタワバの街では、本当に何もかもが違うのだろう。自分も早く慣れないと。

 

 こうしてダンテさんに旅や街の生活での注意点を聞いているうちに馬車はタワバの街へと到着した。ダンテさんはお勧めという宿屋さんの前に馬車をとめ、馬車を見ていてくれるよう宿屋の娘さんにお願いした後、僕を連れて中に入り奥に居た宿屋の主人に僕を紹介してくれた。ダンテさんとの旅もここで終わりだ。

 

「じゃあ、テオ君も元気で」

「はい、ダンテさんも。これまで色々とありがとうございました」

 

 宿屋の前でダンテさんと別れの挨拶をした僕は、宿に戻って手続きをするとこれから泊まることになる部屋へと案内された。

 父さんと予定したのと較べてふた回りくらい高級な宿屋だけれど、ダンテさんの言う通り安全には代えることはできないのだろう。

 

 これからは何をするにも自分独りだ。

 

 とりあえず疲れをとることにしよう。せっかく奮発して泊まった高級な宿屋さんの寝床を僕は満喫することにした。

 

 家とは違う寝心地を堪能しているうちに、僕の意識はいつの間にか夢の世界へと運ばれていた。

 

 夢の中で大人になっていた僕は、知らない場所でニナと仲良く一緒に暮らしていた。

 

 

(第0章 完)

 




ここまで読んで頂いてありがとうございました。

頑張れテオ君。
でも、すまない。君の出番はここまでだ。
話が進めばわかるけど、君のような純朴さでは、この殺伐とした異世界サバンナを生き抜いて行くことは到底不可能なんだ。

そして、くじけるなニナちゃん。村に迎えに来る次に会う時のテオ君は中身がまるで別人だけど、君にはテオ君の作る身分差ハーレムの幼馴染枠がきっと用意されている。お姫様の隣で落ち着かない優雅な生活を送れる日が来るのは、そんなに遠くないはずだ。

(2024/04追記:前話の『テオ君のお父さんは村のサブリーダーなので意識高くて当然』という話と同じで『テオ君の作る身分差ハーレムの幼馴染枠がきっと用意されている』というのは軽い冗談のつもりでした。作者自身は「現実問題として身分差ハーレムは女性側メンバー各々の価値観、生活習慣の違いで到底上手くいくとは思えないよなあ……」という印象で、他の作者さんのファンタジー作品に結構登場する身分差ハーレムエンドには否定派とまでは行きませんが深い懐疑派の立場です。紛らわしい書き方をしてしまい大変申し訳ありませんでした)

最後にテオ君、ニナちゃんの謎掛けに対する君の答えは0点だ。女の子が求めているものは考え抜かれた期待値の大きな未来に向けての行動なんかじゃなく、現在生きている今この瞬間の気持ちの盛り上がりを満たしてくれる行動なんだ。あと何故ニナちゃんがわざわざやってきて旅立ちのときにあんなことを言ったと思う?テオ君が旅先でこれから出会うであろう女の子との、盛り上がる心に任せた一夜の過ちを根こそぎ排除しようとしているに決まってるぞ。

次回からは新章に入り、記憶を取り戻した元日本人ブラックIT企業やさぐれ社畜転生者テオ君の新たな冒険者生活の戦いが始まります。

第0章が終わって一区切りついたので、第1章の始まりには少し時間を頂くことになりますがお許しください(汗)
全話凡そ書き終わっていますので、出来はともかく隔日の予約投稿で章末まで進むことは現時点でお約束します。

02話は9/8 23:40に予約投稿済です

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。