異世界転生で欲張り過ぎてしまいました   作:真紅或は深紅

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20話  危険域への進出

 

 フルトでの滞在を終えた俺は旧南北街道を進んでいく。まずはフルトを出て荷馬車で二日ぐらいの距離にある嘗ての鉱山都市、今はフルトに吸収移転され廃墟となった都市ダインを横目に見ながらの旅程になる。

 

 南北街道という名前ではあるが実際は移動しやすい形に経路を取っているため、旧南北街道に出た当初はすぐに北には進まない。

 

 フルトから見た旧南北街道の道行きはこんな感じだ。フルト南門を西向きに出た道がしばらくするとカーブして北西向きに変わる。その後少し進むと段々北向きのカーブの傾きが緩くなって今度は南西向きに変わることで北方向に飛び出すこぶが出来る。その後また南向きのカーブの傾きが緩くなって反転、最終的には北北西向きになるまで進路が変わって全体として北を目指す感じになる。その過程で今度は南方向に飛び出すこぶが出来るという按配だ。

 

 南方向に飛び出したこぶの部分と街道を跨いだその先がダインの旧市街地に当たる部分で、都市が放棄されて二百年ほど経っている今ではどこもが森の木に覆われているそうだ。

 

 昨日、酒場で仕入れた情報によると、この旧街道が南に飛び出している部分から先で山賊被害が多発しているらしい。北部地域から移動してきて新たに居ついた山賊の集団があり、山賊全体としての人数と戦力が増加している模様とのこと。

 

 この数ヶ月で北部方面に向かう街道での山賊被害は目に余るほどで、対処を求める声が日に日に大きくなっているようだ。フルトの領主もそろそろ重い腰を上げ、領軍の騎士団を使った山賊討伐をするのではないかとの噂もある。

 

 襲撃場所から山賊の拠点は街道が最終的に北方向へ進路を変え出した地点から先の街道の南側に当たるどこかの部分にあるのではと目されているものの、その一体には放棄された鉱山の廃坑なども多く拠点になりそうな場所はまだ絞り込めていないらしい。騎士団による山賊達の拠点捜索は難航している雰囲気だ。

 

 この様なとりとめの無いことを考えながら、殆ど荷物が入っていない形だけ膨らんだ背負い袋を持った一人旅の早足で、フルトからダインに向けての道のりを行く。

 

 探知魔法で索敵をかけると街道脇のそこそこに人の存在を示す輝点が現れるため、最初は山賊砦の偵察員なのかと思い慄然とした。だが、近づいて確認してみると単に街道から少し山に入って山菜やきのこ類などの食材を採取する者たちと判明した。作業時間込みで徒歩でフルトから日帰りで到達できる距離を越えると、その様な者たちの姿も見られなくなり街道周りの輝点の反応は消失する。

 

 人気がなくなり静かになった街道を更に進む。

 

 荷馬車などと比較すると軽装の俺の徒歩でも明らかに倍以上の速度は出る感じだが、リズの一件でばたばたして出立が遅くなったので、普通に商人にお勧めされていた北向きのこぶに差し掛かる前の地点で野営することとした。

 

 翌日、変わらぬ速度で北向きのこぶを越えて進むと、昼過ぎには南向きのこぶに差し掛かる感じとなった。このまま進めば街道は徐々に進路を変え、最終的にはアボンを目指す方角へと向きを転じることになる。

 

 だが、俺の歩みはこの時点で無意識にその速度を落とした。今後の方針をここで定める必要があるからだ。

 

 ここで俺には二つの選択肢がある。次の冒険者登録予定地であるアボンに直行するのか、山賊達を相手に立ち回ってレベルを上げてから行くのかだ。

 

 何故レベルを上げてから行くというのが選択肢に入るかというと、それは今度俺が向かおうとしているアボンという街周辺で出る魔物たちに原因がある。アボンで出る魔物たちは魔法で倒せる物が多く、アボンの冒険者ギルドは魔法使いたちが多く登録してレベル上げに励む場所と認識されている。

 

 魔法が使えるのは原則家名持ちの貴族に限られる。どういうことなどだろうと昔から不思議に思っていたのだが、記憶を取り戻して鑑定を使えるようになって理解に至った。両親が魔法を使える場合にのみ、最初からレベル1で魔法が使えることで本人も魔法が使えることを自覚するようだ。俺自身は女神さまの元でどのレベルの魔法を使うかをポイントで割り振った感じになってしまっていたので気付かなかったという顛末だ。

 

 つまり潜在的には魔法の素養がある人間はもっと多いが、レベル0で発現しないせいで気付かないまま生涯を終えてしまっている者も多いということなのだろう。

 

 話が脱線してしまったが、今度行くアボンの街の冒険者ギルドは魔法使い達が大勢いるところなので家名持ちは勿論、貴族の次男坊、三男坊といった家柄の良い者がいる可能性が高い。出来る限り最初からレベルを上げておいてトラブルを避けたいというのが結論だ。

 

 上級貴族の子弟は最低レベル20を目標にして養殖をするし、お付きの寄り子の子弟も恩恵に預かる場合が多いことから、とりあえずレベル20達成が再度のギルド登録時の目標となる。

 

 現在の俺のレベルが15なので格上の山賊をを最低後五人刈る必要があるが、リスクを多少ここで犯しても後々のことを思えば割りに合う可能性も高いと考えられる。何より前回の経験を活かせれば、横合いから介入することで正面から多数の山賊を相手にしないでうまく立ち回ることも可能だろうと思えるからだ。

 

 

 駄目だ。完全に山賊を相手にレベル上げをする理由ばかりを頭の中に浮かべようとしているのが自分でもわかる。

 

 山賊の被害を受けているのは専らフルト住民で俺には特に実害はない。デイルさんやリズが山賊被害を受けたのは増殖する山賊達の縄張り争いの余波みたいな物で、単純に運が悪かったとしか言いようが無い。

 

 山賊をなんとかするのは第一義的にフルト騎士団とかの役割であって、何も俺が自ら望んで関わりに行く必要などはない。被害が続発しているのに未だに手懸りが掴めないのは騎士団の失態であって、無論、俺には微塵も責任はない。

 

”なのに何故、ここで俺が手懸りを掴んでしまうんだ……”

 

 俺は南のこぶを回り込んで、道の先が山合いを進む感じでしばらくの間北東方向からの視界が遮られていると確信した時点で、素早く街道をはずれ南側に当たる森へと入り込んだ。

 

 探査魔法の索敵には、先ほどから北東方向に一つの輝点が浮かび続けている。山賊の襲撃が多発している南北街道の南こぶの周辺を警戒するのにちょうど良さそうな少し張り出した山裾の小高くなっている峰の辺りだ。全く動かないにも関わらず戦闘状態扱いのこいつは恐らく山賊砦の見張りだろう。

 

 騎士団の不手際に舌打ちしたくなったが、それは違うだろうと思い直す。

 彼らが無能なのではなく俺が転生時に取得した探査魔法の技能の方がごく稀少ということなのだ。貰い物の力を理由に彼らを下に見るなどという傲慢な感情を抱くべきでは無い。

 

 偶然に得たこの機会を積極的に活用すべきなのか?

 

 俺はリズの哀しみの復讐でもしたいんだろうか。確かに恋人も幼馴染も一度に失ってしまったリズは可哀想だ。だが、それが俺がいつもよりリスクを取ってまで山賊達に相対しなければいけない理由にはならない。

 

 山賊を相手にすることは良い。

 

 だが、俺は最低限のリスクしか絶対取らない。これだけは守らないと自分が何をしているんだか分からなくなる。

 

 そう結論付けると、俺は山賊狩りを目的とした具体的な行動の方針を検討することにする。

 

 安全第一の長期戦に備えてまずは拠点作りからだろう。山賊達は廃都市ダインのあった領域のどこかに拠点を持ちそこから襲来してきていることはほぼ確実だ。不意の遭遇を避ける意味でも、こちらの位置取りは領域の南方にするのが安全だろう。

 

 襲撃の多いのはフルトから見て街道が南に湾曲している部分から先の区間とのことなので、その区域全体を南側から監視できる場所を選ぶことにする。

 

 山賊達と違って手にした戦利品を苦労して運ぶ必要もないので、街道からは少し離れるが小高い場所で見晴らしが良い上れる木がすぐ近くにある小高い場所を拠点と定めた。勿論、一度実際に木に登って周囲を見渡し山賊襲撃観察に支障が出ないか確認済だ。

 

 前回時より二つレベルが上がった土魔法を使いタワバで作ったかまくら風の容器を再現する。

 

 土壌に魔素がないせいなのだろう。この森には魔物はいないが、索敵をかけると結構な数の獣がいるようだ。一頭だけならまだしも狼の群れなどに襲われれば面倒なことになりかねないので、安全安心のための備えは必要だ。

 

 木の根が張り出している場所では土の掘り返しが面倒なので、少しだけ開けた場所を探して一心不乱に作業を行う。前回の経験が活かされているのか想定内の時間で土のかまくらは完成し、陽が暮れる前には身の安全が確保済みとなった。

 

 俺の見つけた山賊の見張りらしき輝点が日暮れと共に移動して拠点に戻るのを確認できれば話は一番早いと思ったのだが、残念ながら夜になっても輝点が動き出す気配は見られなかった。

 

 今後の事も考え次は明日以降の話にすると決める。時間経過がないアイテムボックスからフルトの屋台で購入しておいた調理済みの料理を取り出し貪り食い、後は眠って英気を養うこととした。

 

 獣被害などの心配がないかまくらでゆっくりと快眠した翌日、山賊襲撃の現場に出会うための待機に入った。索敵を使えば人の存在が感知できるので、索敵範囲外から人を示す輝点が出現したときだけ、拠点近くにある木に登って何か起きないか監視するだけの簡単作業だ。

 

 ぼんやりとした時間を過ごしていると、フルト側の街道方向から索敵に輝点が現れた。時間的に見て俺が一昨日野営した場所辺りから朝に出発してきた商隊か?と思い注意を向けると、後続して次々と輝点が増え続け最終的に三十を越える数まで膨れ上がった。

 

 この状況はなんだと思いながら、木に登り鷹の目を使って様子を確認する。結論としては馬車が八台も連なった商隊だった。北に行く商人同士で繋がりのある者が安全のために同時に出発する形を取ったのだろう。冒険者も二十人を越える数が護衛として付き添っている。

 

 商隊が目の前を通り過ぎ索敵の範囲を出るまで様子を伺い続けたが、結局、山賊は出現しなかった。まあ当然の成り行きというべきだろう。冒険者二十人を相手にするなら平均して質が悪いであろう山賊は、頭数を三十人は用意しないと被害を抑えて商隊襲撃を成功させるのは難しい。俺が山賊でもこの商隊は見逃す判断にするだろう。

 

 その後は特に何も起きないまま、ただ時間が過ぎて行く。フルトの都市規模から考えると信じ難い程の閑散ぶりだが、山賊被害でそれ程までにこの街道での流通が細っているということだろうか。

 

 だが、夕方近くになり今日はもう駄目かと思い始めた頃、新たな展開が始まった。

 

 先ほどとは違い街道のフルトに向かう方面側から輝点が現れた。確認してみると馬車は三台で商人が四人、護衛は男の冒険者が六人の構成だ。

 

 今度はどうなるのかと思いながら近づいてくる商隊を見ていると、予想外にも北東方面から幾つもの輝点が索敵の範囲内に現れてきた。旧ダイン市街というにはかなりフルト側に寄った街道が北に湾曲している地点あたりからだ。輝点の数は12。街道に出てきた時点で視認したが、ご丁寧にも物資運搬用の手押し車も複数用意されている。一番下っ端らしい二名を残し残りの十名が馬車の襲撃に向かう。

 

 ここからは俺も出番だ。直接の視認は少しの間諦めて木から下りて襲撃現場になるだろう場所から少し離れた茂みへ手早く移動して隠行をかけて待機する。襲撃後の追尾のための下準備だ。

 

 山賊達はかなり高速で街道を直進していくが商隊の移動に依然変化は見られない、湾曲している先の風景が山すそに遮られて見えないせいで山賊達の存在に気付いていないようだ。山賊達が二手に分かれ奥側に陣取った連中が弓を準備すると、程なく商隊の姿が現れてきた。弓の射程に入ったであろう所から更にしばらく待って山賊達の弓攻撃が始まった。

 

「山賊の襲撃だ、気をつけろ!

 結構な数がいるぞ。畜生、ガロが弓でやられた!」

 

 山賊の攻撃に護衛の冒険者たちは慌てて臨戦態勢を取り前に出ようとするが、最初に出てきた男の冒険者はあっという間に額を弓で貫かれ倒れて動かなくなった。既にこの時点で戦力差は1対2だ。

 

 更に護衛側が一人弓で倒れた後、山賊達が剣を振りかざして商隊に襲い掛かり乱戦になったが先は見えた印象だ。

 

「止めてくれ。荷物は渡すから、今すぐ乱暴は止めて残っている者の命だけは助けてくれ!」

「馬鹿が、顔を見られてるのに見逃すわけ無いだろ。諦めろ」

 

 更に護衛が二人が斬られた時点で、商隊の主と思われる恰幅の良い男が全面降伏を名乗り出るが襲撃のリーダーらしき男は馬鹿がの一言で拒絶した。

 

 最後に残った二人の護衛が寄ってたかって剣で串刺しにされ、引きずり出された四人の商人がなぶり殺しにされる一部始終を俺は横から見届けることになったのだった。

 

 見た感じ護衛の平均年齢は高く実力は俺よりも上そうだったので、俺が現場にいたとしても襲撃が始まった後では何も出来無かっただろうが後味の悪いことに違いはない。奴らの拠点を見つけて少しでも割を合わせるしかない。

 

 山賊達は追いついてきた手押し車から背負い籠を手に取り荷馬車から各々価値があると踏んだ商品を物色して持ち去っていく。戦闘に参加しなかった下っ端は男たちに先行して手押し車に山ほどの積荷を載せられて脂汗をかきながら来た道を戻っていくはめになっている。

 

 凡その略奪が終ったのか山賊達は三台の馬車を街道の脇へと寄せ、馬を外してから崖のような感じになっている所から落として証拠隠滅らしい処分を終えた。リーダーである男の言葉に山賊達は頷き索敵で見る戦闘状態モードも解除される。これで襲撃は一区切りといった雰囲気だ。

 

 街道を逆方向のフルトに向かって移動し始めた山賊達を、見張り男に見つからないよう街道脇の森の浅い場所を通りながら追尾する。索敵の輝点を追いかけるだけなので見失う心配は全くないが、何も障害物が無い街道を進む山賊達に比べて茂みを通らなければいけないこちらは少し進むにも面倒で仕方ない。

 

 やってられないなと思い始めた頃に状況が動いた。

 

 馬車を襲撃した場所からかなり外れた、湾曲しているこの旧南北街道のちょうど一番北側に張り出している部分で山賊達は街道を離れ森の奥へと進み出したのだ。襲撃時に街道に出てきた場所と同じなのはまあ予想通りだ。輝点を見失わないようにだけ気をつけて結構な間をおいてから一行の通ったであろう山道に合流して後を追いかける。

 

 すると大した時間も掛からずに山賊達の進む方向に索敵に大量の輝点が現れてきた。これはまず間違いなく大当たりだろう。結局、この街道で局地的に最も北方向に張り出した場所から索敵スキルに掛からない最低限の余裕分の距離を取った所に山賊達の拠点があるということだ。

 

 確かに商隊を襲う手間や不正な手段を用いてフルトに往来する手間を考えれば合理的な位置取りと言えるだろう。商隊を襲う地点を街道を移動してまで少し離れた奥側の場所にしているのは廃都市ダインを目くらましの囮にして拠点を探され難くするために違いない。そう思えば今まで拠点が見つかっていない理由も納得できる。

 

 俺は隠行魔法を使いながら輝点が蠢く地点へと慎重に接近する。程なく視界に鬱蒼とした山の谷あいに隠れた、鉱山として昔稼動していた作業場の一つを再利用したらしい建築物の姿が入ってきた。入り口部分を頑丈に先の尖った木材を並べた塀で遮断し、奥に見張り櫓のような物、更にその奥に大きな建物がある。この規模ならば間違いない。これがフルトを脅かしている山賊団の本拠地だ。

 

(21話に続く)

 




次回、21話は4/22 20:10に予約投稿済です。
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