その日は思っていたよりも早く訪れた。
月が中天にかかる深夜のフルト側見張り要員の交代時間の少し前。フルト側から近づいてきた輝点が見張り要員の傍らに近づいて留まったと思うと、見張り要員が交代して一人が砦に向かったすぐ後に輝点の一つが消滅した。交代直後を狙って見張り要員を消したに違いない。
俺は大急ぎで拠点を出てアイテムボックスに収納すると、索敵が街道にかかるように南方へ移動を行った。
ほどなくフルト側から大量の輝点が街道沿いに近づいて来た。全体で100を越える数があるようだ。見晴らしが良さそうな場所で大木に登り様子を伺うと、完全武装した20名以上の騎士と80名くらいの衛兵と後部要員の混成部隊が篝火を焚くこともなく街道を静かに進んでいく。山賊砦への急襲が目的であるのは間違いない。
大人数の移動にしては統制がとれている。砦に近接する場所まで到達すると馬を管理する数名の者を除いて皆粛々と森へと分け入っていく。しばらくの移動後に山賊砦が眼前に近づくが砦側が気付いた様子は全くない。
騎士の指令で何名かの者が矢をつがえて見張り櫓を狙ったかと思うと、見事に二、三本の矢が刺さって見張り要員は崩れ落ちた。
後方要員が流れるような作業で組み立て式らしい充分な長さがあるはしごを数本砦の防御柵に立てかけると、騎士が次々と柵を乗り越えて砦へと入っていく。
さすがにこの時点になると大勢の人の動きに砦内から何事かと顔を出す者がいるがもう遅い。騎士は総て砦内に入り込んでいて今は次々と後続の衛兵が砦へと降り立っている。
「騎士団の急襲だ!」
「馬鹿やろう。見張りは何をしてやがったんだ」
寝起きで統率の取れていない山賊連中を完全装備の騎士達が文字通り蹂躙していく。
これはもう決まりだろう。
ならば俺は俺のことをしないと。索敵で見ると慌しい輝点の動きの中で明らかに廃鉱に存在する出口を目指しているような物が見受けられる。悠長に構えている場合ではない。
隠行をかけながら砦外に残る衛兵たちを迂回して廃鉱出口へと急行する。俺が到着したときには既に先頭集団の四人が森の中へと脱出しつつあった。戦意をなくして逃亡している連中なので索敵上で戦闘状態にはなっていない。
まだ少し距離があるが連中の後姿を夜目で捉えることが出来た。身体強化をかけて追いつつ足止めを兼ねて連続して風の刃を幾つも前方に放り投げる。かなりの傷を与えたようで途端に動きが乱れる山賊達。各々喚いて足を引きずりながら少しでも遠くに逃げようとしているが無駄なことだ。
鑑定をかける。レベル14が一人、レベル15が二人、レベル16が一人。駄目だ、レベル上げにならない。
多少の失望を感じながら最初の三人を土槍で身体を貫いて止めを刺し、最後の一人を風魔法で絶命させる。ここはもう良い。次だ。
改めて索敵を見ると新しく砦を離れたらしい輝点が複数確認できる。
そのうちの一つはこちらに気付かないようで、ほぼ真正面から近づいて来ている。
隠行で身を潜めて身体が交差する寸前まで引き寄せてから、横凪ぎに刀を一閃する。肉に深く切り込み骨を一部掠めて振りぬいた重い感触が伝わってくる。ああ、これは良い。
『人族 レベル19』
倒れた男の首元に剣を刺して止めとする。更に次だ。
最も近い輝点は街道を目指しているのか少し南寄りの方向に移動していっている。
身体強化をかけて追いかけて姿を捉えると、戦闘状態にないことを再確認してそのまま横合いから交錯して身体を刃で突き刺す。
『人族 レベル22』
うつぶせに倒れた男の背中を再度突き刺し止めとする。
こんなもので満足していてはいけない。更に次の最近接の輝点を目指す。
次の輝点は二個組だ。残念ながら二つとも戦闘状態の表示になっている。
これはもうまともに行くしかない。鑑定。
「気をつけろ、何かいるぞ」
鑑定の行使を感じた二人組は暗闇の中、互いに背をあずけて剣を構える。
『人族 レベル21』
『ジグ 人族 26歳
ジョブ:剣士 レベル19 …』
よしどちらも剣の補正効果と身体強化を使えば押し切れる。
判断した俺はレベルの低い男側の正面に立ち剣をぶつける。力任せに剣を持つ手を跳ね上げるとそのまま袈裟懸けに斬り下ろすと男は膝を着いて崩れ落ちる。残った男が振り向き斬りかかってくるが、その刃を数度受け止めると剣に力を入れて押し返し、体勢が崩れたわき腹に致命の一撃を突き込んでいく。
最初に倒した男は風魔法で頚動脈を切り絶命させ、残りの男は首を突き刺す。
気がつくと東の方向の空が僅かに明るくなっている。山賊砦が燃えているようだ。戦いの終局も近いかもしれない。
まだいける。気を取り直した俺は更に砦の外に出てきている輝点を探す。
いた。幸いなことに今度は戦闘状態ではない。
斜め後方から身体強化で近づくと静かに振りかぶりそのまま背中を斬り下ろす
『ベン 人族 27歳
ジョブ:盗賊 レベル19 …』
踏みつけて風魔法で頚動脈を切り放置する。次だ。
新たに見つけた輝点は戦闘状態なので先に鑑定をかける。
『ラグ 人族 24歳
ジョブ:剣士 レベル19 …』
震えながら剣を構える男に無造作に近づき正面から振りかぶって斬り捨てる。
これもはずれだ。風魔法で頚動脈を切る。時間がない。
少し北側に離れたところに新しい輝点。これも戦闘状態だ。
視認できる地点まで近づいて鑑定をかける。
『人族 レベル23』
相手は剣は持っているが防具は装着していない。
大丈夫なはずだ。レベル2差なら充分以上に勝機はある。
俺は大股に近づくと剣を振りかざし斬り合いに入る。
何度か打ち合ううちに防具越しに響くような打撃を貰うが問題ない。
剣筋を変えて突き込んだ刃は無事相手の懐に深々と刺さって致命傷となった。
索敵に写る輝点の動きを見る限り、砦内での戦いは殆ど終局したようだ。
だが俺の戦いはまだ終わりじゃない。最後に新しい戦闘状態を示す輝点が砦を離れて森に入ったのを確認した俺は身体強化で後を追尾する。
視界に入った男はこれまで相対した者たちよりレベルが高そうだ。男に気付かれないように追跡を重ねた俺はしばらくした後に男が暗がりの中、高低差のある足場の悪そうな場所にさしかかったのを確認する。好機だ。
俺は土魔法を起動して男の足元の土の部分をごっそり崩す。男は体勢を崩しどうすることも出来ず低所に向けて転がり落ちていく。落ちた先でどこか負傷したようでまともに立ち上がれない様子の男に、触れている地面から土槍を食らわして追撃をかける。これは深手になったようだ。
男は剣を手に立ち上がろうとしているが、もうまともに戦闘ができる状態にはない。
男の眼前に姿を現した俺は剣を横殴りにはじいて地面に倒れた男の横腹に剣を突き刺した。これで終わりだ。
『人族 レベル29』
男は何か言いたそうに口を開け閉めしながら自分が転がり落ちてきた崖の方を未練がましく見つめていたが、そのうち目の力を失って絶命した。
まもとに相対すれば勝てるはずのない相手に対してはこのような手段しかない。
勝ち方に拘るなどというのは強者の贅沢にしか過ぎないと自分を戒める。
一息ついた俺は最後に倒した男が見ていた方向に注意を向ける。すると男が落ちてきたと思われる途中の木の枝に大きめの皮袋らしきものが引っ掛かっているのが確認できた。
転ばないように気をつけながら崖を上り、木の枝から再度落とさないように慎重に中身の詰まった皮袋を回収する。
中を覗くと見慣れない意匠の物を多数含んだ大量の金貨や金塊、彩り豊かな宝石や魔石、更には宝飾品類でも入っていそうな鍵付きの箱などが存在している。逃亡時にこいつは火事場泥棒でも仕掛けたのだろうか?
成り行きということで袋をアイテムボックスに収納してから崖を上りきり、男を追跡してきた元の森の山道へと復帰した。
こうして今日の俺の戦いは終わりを告げた。騎士団の山賊砦急襲作戦に便乗した雑魚山賊狩りで目標以上のレベル上げを果たせたことを幸運と思いたい。
砦方面へと引き返していくと空の明るさが増している。砦となっていた作業場全体を包み込むような一体化した巨大な炎となっているようだ。山合いにあるこの地ではあるが、恐らくこの炎が生み出す明るさはフルトの街からも確認できていることだろう。
山狩りのつもりなのだろうか。分散して幾つもの輝点がこちら側の森に入ってきたことに気付いた俺は炎に背を向けてそっとこの場を離れることにする。
山賊狩りももう終わりだ。
(24話に続く)
テオ 人族 15歳
ジョブ:剣士 レベル23
スキル:火魔法2 水魔法2 風魔法19 土魔法10 回復魔法3 治癒魔法0 洗浄魔法1 浄化魔法0 収納魔法2 鑑定魔法1 探査魔法1 隠行魔法3 強化魔法1 剣術23 槍術4
…
主人公は『シュレーディンガーの宝箱(開けた時に何が入っていたかが物語的に確定します)』を手に入れたようです。
次回、24話は4/28 18:40に予約投稿済です。