異世界転生で欲張り過ぎてしまいました   作:真紅或は深紅

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24話  討伐行への所感

 

 狂乱の一夜が明けて新しい一日が始まった。

 

 燃え落ちた山賊砦の炎も下火となり今は遠くから白い煙が立ち上る感じに見えている。騎士団は山狩りをして俺が砦の裏側で狩りまくった連中も含め山賊の死体を原則全部回収したようだ。任務とはいえ頭が下がる。あと連中の懐を余さず漁るなどという真似をしなくて良かった。

 

 騎士団の帰還に先駆けて南門からフルトの街に入ることにする。勿論、人前に出る際に自身に洗浄魔法をかけて身なりも整えて怪しい雰囲気を出さないようにする配慮も忘れてはいない。

 

 山賊砦の炎が見えて昨夜の捕り物が伝わっているようで、門番役の衛兵達も浮き足立っている雰囲気だ。またいつものごとく挨拶をしつつ銀貨二枚の短期滞在で街に入ろうとしたら、今日は衛兵に呼び止められ詰所に連行されてしまった。

 

 おお、生まれて初めての真贋の鐘チェックだ。

 黒判定の時の確保要員らしき筋肉質な男を傍らに、不機嫌そうな表情の担当官らしき中年女性がいきなり淡々と質問を始める。

 

「貴方は昨日騎士団が殲滅したダインの山賊砦の構成員ですか?」

「貴方は昨日騎士団が殲滅したダインの山賊砦の協力者ですか?」

「貴方は山賊行為を働いたことがありますか?」

 

 と思ったら、簡単に否定できる質問ばかりで拍子抜けだった。

 これで「貴方は犯罪行為に手を染めたことがありますか?」とかだったら範囲が広すぎたりグレーの部分があったりで返答に困る人も多いだろうけど、こういう質問だったら何の問題も無いな。

 勿論、にこやかに答える俺に真贋の鐘は沈黙で答えて質疑応答は終了だ。

 

 考えてみれば昨日の今日だから、フルトの街に逃げ込もうと考える山賊がいてもおかしくない。まあ逃げようとした奴は俺が残らず女神様の元に送ってしまったから、いない気がしないでもないが。

 

 尋問部屋から出た俺に衛兵さんが済まんなという苦笑のポーズをしていたので、手を上げて大丈夫ですという挨拶をしておいた。

 

 まずは商業ギルドに寄って準備しておいたダンテさん宛ての手紙と送金処理の依頼を行う。何分初めてのことで勝手がわからず対応の窓口のお姉さんに暖かい目で見られながら手取り足取り教えて貰う形になってしまった。次回以降はスマートにやろうと心に誓う。

 

 せっかくの商業エリアということで、次は道具屋に寄ると今回の連日の野営経験で無くて不便さを感じた幾つかの物品を購入しておく。

 

 こんな感じで時間を取られているうちに騎士団の帰還予定の時間になっていたようだ。

 せっかくだから見ていくかということで、人ごみに紛れて昨日戦ってた騎士団の中の人がどういう連中なのかを確認することにした。

 

 うん、どちらかといえば肉体派の人間が多そうだ。顔に険が無い辺り陽の当たるところを歩いている者たちで間違いないな。辣腕の隊長さんの緻密な指示の元これまで散々苦しめられてきたダインの山賊達を完膚なまでに叩き潰し、一人も逃亡者を出さずに山賊砦を殲滅した会心の討伐という話が広まっている。

 

 いや、俺の目の前に一杯出てきてたのは何だったんですかね?

 まあ、確かに俺がやっつけたのは所詮主戦力じゃない雑魚ばかりだけど。

 

 手を振りながら通り過ぎていく今回の功労者である騎士団と衛兵の混成部隊の面々を少し黄昏た気分で見送っていると、列が終った後の通りの向こうに見知った姿を見つけてしまった。リズだ。

 

 前回娼館酒場に放り込んだときの生ける屍状態に比べると大分回復したようで普通に健康そうな女の子に見える。びっくりしたような表情で目が合った俺を見つめている。

 

 と思ったら大股で歩き出し通りを渡ってこちらに来た。

 目の前になんだか胡乱気な様子で立ちながら俺をじろじろ眺めてくる。

 

「よう、リズ。元気してたか?」

「……」

 

 一応、フレンドリーな感じで声をかけてはみたが、リズの俺に対する胡散臭そうな物を見る目は変わらない。なんか嫌な予感がするな。

 

「えっと……」

「ちょっと付き合いなさいよ。こんな所で油売ってるんだから、時間がないわけじゃないでしょ」

 

 げげ、今からリズに付き合うのは確定かよ。

 と思ったら、左手で俺の右手を掴むとずんずんと歩き出した。少し進んでから気が付いたけど、これは例の娼館酒場の方角か?

 

 予想にたがわずリズは『猫と狼亭』の前まで俺を連れてくると、まだ陽が中天にある時間帯で営業中とは思えない店内へと俺を誘う。

 

 当然のことながら店は開店準備中の様子で、店の中には店長、前回来店時に俺に最初に声をかけてきたお姉さん、マリアなどが絶賛お掃除中の雰囲気を醸し出している。俺達二人に気付くと店長は興味深げな表情を見せ、マリアは俺達の繋がれた手を見て口を開けたり閉めたりあたふたしている。

 

「お客捕まえてきたから。店長、今空いてる二階の部屋ある?」

「おう、一番奥の部屋なら大丈夫だ」

 

 と思ったらリズのいきなりの爆弾発言。

 店長もにやにやしながら、即座に承諾の返事を出す。

 

「ありがと。じゃあ、テオ行くわよ」

「行くわよって、お前……」

 

 がっちり掴んだ俺の右手を離すことなく店長に一言答えると、リズは俺を引きずるようにどしどしと店の階段を上がっていく。これはもうそういうことなのか?

 

 店の連中は呆然としたような変な表情で俺達を見てるぞ。

 

 部屋に入って扉を閉めるとリズは寝台の布団に潜り込み俺を誘う。服は着たままだ。どうやら話をしようと言いたいらしい。完全にリズの言いなりだな……と思いながら俺は従う。

 

「あんた、昨日の山賊狩り参加したでしょ?」

 

 寝台に横たわり俺に顔を向けながらリズが問いかけてくる。いきなり直球の質問だ。

 

「どうしてそんなことを考えた?」

「分かるわよ。あんた人殺して来ましたって顔してるもの」

 

 やんわり否定しようとした所に追加の一撃。俺、人殺した顔してるのか?

 疑問が表情に出ていたのか、リズが笑う。

 

「普段、穏やかな人間が人を殺すとその後しばらくおかしくなる。あんた今、いつもと全然違う、獣の瞳と雰囲気してるわよ」

 

 いつもと違うと言われても、そんなに俺はリズと一緒に過ごした期間は無いはずなんだが……

 

「あたしの前の恋人のゼオンがそうだったのよ。あんたに少し似てたわ。まあ腕も将来性もあんたの方が随分上なんでしょうけどね」

「……」

 

 リズはため息交じりに答える。元の恋人の名前を挙げるけどそれにどのような思いが込められているのか俺には伺い知ることは出来ない。とにかくそもそもの質問が当たっているだけに答えに困ってしまう。

 

「ねえ、一体何人の山賊を殺したの?」

 

 なんだか無邪気な表情でリズは重ねて俺に山賊狩りの成果を聞いてくる。

 

「ここだけの話にしてくれるか。この前リズと離れてから18人で、そのうち昨日が12人かな」

 

 思わず真面目に答えてしまった俺にリズが目を丸くする。これは、信じてないだろうな。

 

「すごいじゃない!」

「信じるのか?」

「信じるわよ。あんた自分を大きく見せようとしてホラ吹くような奴じゃないもの」

 

 と思ったら信じて貰えた模様。何か変な所で信用があるな。

 でも俺がやったことは実際は人に向かって威張れるようなことじゃない。

 

「でも殆ど雑魚なんだ。俺、実力ないから……山賊砦の連中の大物は全部騎士団がやっつけたんだ」

「あんた若いんだから仕方ないわよ。そんなに頑張って怪我らしい怪我も無いみたいだし、私から見たら充分驚きよ。あんまり無理して死んじゃったりしたら元も子もないんだから」

 

 リズがしょぼくれながら答える俺を抱え込んで頭を撫でるようにして慰めてくれる。その仕草と表情に目を奪われる。

 先ほどリズの言ったことは何にせよ当たっているのかもしれない。

 

 山賊達を殺して気持ちが昂ぶっていること。そいつらが実力的にはどいつも下っ端に過ぎないことが自分でも分かってて不満なこと。山賊砦の首領を含めた実力者たちを根こそぎ殲滅してフルト住民の歓呼を浴びている騎士団の連中を羨んでいること。そしてこの鬱屈した気持ちを誰かにぶつけたいと思っていたことすらも……

 

「それからね。私に絡んできてあんたが殴り倒した連中捕まったのよ」

「どういうこと?」

 

「あいつら山賊砦の内通者で荷運びの手伝いやってたんだって。柄悪いし何考えてるのかと思ったら、好き放題やって街にいられなくなったら砦に行けば良いと思ってたらしいわよ。底抜けの馬鹿ね。昨日、衛兵に捕まって全員最低でもフルト追放は間違いないって良い気味だわ」

 

 そう言って屈託なく笑うリズの姿に安心する。

 

「そういうわけで山賊退治は私もとっても助かったから、あんたにはご褒美をあげないとね」

「ご褒美?」

 

 言いながら身体を起こしたリズが寝台上で服を脱ぎ出す。

 

「そう、ご褒美よ。いらないとか言ったら許さないわよ」

 

 横たわった俺から見るとボリュームのある形の良い乳房が下側から堪能できる扇情的な光景だ。

 

 リズが俺に覆いかぶさり顔を両手で挟んで唇を寄せてくる……

 

 後のことはもう覚えていない。リズによると「あんた、本当にケダモノだったわよ」とのことだ。だけど所どころ思い出せる範囲だとリズも恋人を亡くしてから久しぶりということで充分ケダモノだったような気がするので、俺だけ責められるのも少し釈然としない気がする。

 

 昨夜が徹夜だったこともあり気が済むまでコトを楽しんだ後に爆睡してしまい、目覚めたら翌日の朝だったのには自分でもびっくりした。

 

 リズは俺より早く目覚めて普通に朝食準備とかで働いていたらしく、目覚めるとすぐに豪華目の朝食タイムだった。

 

「とにかく、あんたのおかげでマリアと出会えたことにはとても感謝してるわ。ありがとう」

 

 久しぶりだった……というリズの言葉でわかるように、昨日までリズは客を取るかどうかを店長にもマリアを含めた他の店員にも明言していなかったらしい。それが突然、客だと言って俺を店に連れて来たのだから、皆が目を丸くするのも無理はない。マリアがいるからここで働くという理由で、リズは自分の中での心の整理をつけたらしい。

 

「あとマリアがなんとも言えない顔してたから、よほど急ぐ用事がないんだったらここでもう一泊していきなさいよね」

 

 マリアを抱くには気をつかわないといけないから、出来れば順番が逆の方が良かったかもと一瞬思った。だけど昨日のケダモノ俺では手加減できなかったかもしれないから、今日で良しとするしかない。

 

 そういうわけで、リズの中では現時点ではマリアが一番大事なようだ。なんでリズに決められてしまうのかは分からないけれど、ここにもう一泊するのは既定路線らしい。この店で最高級らしい二階の一番奥の部屋ということで、店長からの請求は容赦ないものになりそうだ。

 

 マリアが部屋に来る夜まで時間が空いた俺は、記憶を思い出しながら昨日までの出来事を部屋付きの高級そうな書斎机でひたすら日記に書きとめておくのだった。

 

 リズと散々ケダモノ状態で励んでしまって今日は悟りの境地に達していた俺が、マリアにちゃんと優しく接することが出来たのは言うまでもない。

 

 マリアに聞いたところ俺という客を取れたことで『猫と狼亭』の一員としての自信を取り戻し、あの後は元気に掃除や料理に取り組んでいたとのこと。つまり俺以外の客はまだ取っていないらしい。店長も何考えてるんだか。

 

 当然というべきかマリアは殆どこの前と一緒の感じで、錬達のお姉さんになるのは遥か遠い道のりの雰囲気だった。

 

 『猫と狼亭』に二泊もしてしまった俺は、何故か当然のように次回予約の約束金がまたも請求に含まれていたマリアとリズに見送られて旅立つことになった。

 

 今日の店外お出かけは市場での旅立ち前の物品購入だ。店の仕入れを手伝うこともあるというマリアに連れられて、かなりの日数を山賊狩りに費やして消費してしまった食料品を買い込めば準備完了。マリアに店を選んで貰ったおかげで、前回自分でやった時と比べると質も量も格段の違いだった。一仕事終えた後甘味処に寄ってマリアとリズの労をねぎらって無事おしまいだ。

 

 流石に二人には今度フルトを離れると次会えるのはいつになるか分からないと説明しておいた。俺を見送るマリアの表情はなんか固くて涙目だが、リズがしっかり手を握っている。二人で仲良く過ごしていって欲しいと切に願う。

 

 何度かお世話になった南門を出てフルトの街を後にする。

 

 無論、冒険者ギルドに立ち寄って副ギルド長のハマンさんに挨拶をするなどという真似はしない。ハマンさんに渡した情報は真偽不明の参考資料扱いになるはずなので、今回の山賊狩りに俺は完全に対外的には無関係だ。

 

 勿論、自分自身のレベル上げと、洞窟から逃げ出した山賊達の懐から一部拝借した利益だけで充分元は取れている俺には何の不満もない。

 

 感慨深い思いで旧南北街道を進んでいく。前回遭遇した山賊の襲撃地点となっていた湾曲部を抜けてしばらく西方向に進んだ後、街道は北西の方向へと進路を変えた。このまま街道を進めば次の目的地である冒険者ギルドがあるアボンの街に到着する。

 

 伝書鳥のやり取りが既に行われているのか、途中で立ち寄った中継地で出会う商人達の表情も明るい。これまでのようにできる限り大規模の商隊を組まなくてもフルトへの荷物を運べるとなれば、当然の結果と言えるだろう。

 

 今回は急ぐ旅でもなく北部商人からの情報で旅中の安全も事前に確認済みだ。

 気儘でのんびりとした一人旅を数日続けると、山岳地帯を抜けて平野に森があるような雰囲気に景色が変わってきた。

 

 アボンの到着まであとわずかだ。

 

(25話に続く)

 




結果論として出会って三日の美少女を傷心に付け込んで娼館送りにしてしまった形の主人公。
正しくハードボイルドです(一方でマリアとリズへの行為後の避妊確認は全く頭に無かった模様)

とりあえず主人公視点の今章の物語はこれで終わりです。
25話は騎士団隊長視点による山賊砦襲撃の裏面回になります。

次回、25話は4/30 18:10に予約投稿済です。
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