この03話から読み始めても実は殆ど支障がないような親切設計になっています。
唐突に目が覚めるとベッドの上だった。なんだか結構ぼろい感じの部屋だなと思いつつ記憶を手繰るとこれまでの経緯が思い出されてきた。顔なじみの行商人のダンテさんに連れられて故郷を離れ一週間ほどの旅をして、この辺境の街タワバに辿り着いてダンテさんとの別れ際に紹介された宿屋に潜り込んで一息ついたら安心して昼間から寝てしまって起きたのが今ということだ。
俺の名はテオ。ここから少し離れた開拓村の村長の弟であるアラン父さんとそのまた隣村の村長の娘だったハンナ母さんとの間に生まれた次男坊で成人の儀式を終えたばかりの15歳だ。家には他にも自作農である父の跡継ぎの3歳上のロベルト兄さんと5歳下の妹ミリアリア(愛称ミリー)がいる。要はこの地方の習慣に伴い、家を継がない俺は成人したと同時に晴れて邪魔者となるため身の振り方を即座に決める必要に迫られていた。
体格はがっしりしているものの好戦的な性格でもないのに以前から冒険者になると宣言していた俺は、周りからは普通に考えてどうみても無理だろうという目で見られていた。それでも村の害獣狩りに積極的に参加したり家の裏で村長の家から借りっぱなしにしてた剣を黙々と振り続けていたおかげか、二ヶ月前に村にやって来た巡回神官の手で行われた水晶球に問う成人の儀式で無事農民の子には珍しい職業「剣士」を授かったのだった。
この世界では成人の儀式の職業選択は神託のように捉えられているので、村長であるノア叔父さんを交えた家族会議が行われた結果、俺が村を離れるのを大泣きして嫌がった妹ミリーの反対を除いて俺の冒険者の街タワバ行きは無事了承された。なお俺がいなくなった我が家には今頃ロベルト兄さんの婚約者のユリアさんが引越してきて新しい生活が始まっている頃なので、ミリーの気も紛れてご機嫌も直っているはずだ。
さて、長々というわけでもない自分の人生の振り返りを行ったことには意味がある。何故なら俺テオは先ほど目覚めた瞬間に、自身が元日本人の転生者である記憶を取り戻したのである。ブラックIT企業に勤めていて徹夜明けにふらふらになりながらアパートへの家路を急いでいた俺は通学時の学童の女の子を守ってトラックにはねられ命を落としたせいで、その善行により異世界で新しい人生のチャンスを掴んでいたようだ。転生の理由あるあるだな。田舎から出てきてちょうど知り合いが一人もいなくなった瞬間に、前世の記憶と人格を取り戻すなんて女神様タイミング読みすぎだろ。
なんだか妙な感覚だ。この世界に転生してから今日までのテオとしての記憶が全部あるのに、目が覚めてたから主人格となった前世サラリーマンの俺の印象だと臨死体験して謎の転生部屋?で今いる世界でどんな人生を送りたいか選んでくださいと聞かれた時から、そのまま時が続いてたかのような気分だぞ。
しかし、俺は一体何を選択してるんだ……
女神様、というより女神様の作った対人間用コミュニケーションインターフェースで俺の心も読めちゃう自称神の化身の「女神さま」は、今回の転生先であるこの世界を概観するプロモーションビデオみたいなのを見せてくれた後に、おすすめの転生コースを示してくれていた。それは高位貴族の嫡男に剣聖のジョブを持って生まれるのだったり、継承権の低い王族に賢者のジョブを持って生まれて研究三昧、みたいな生まれながらにして勝ち組確定なものばっかりだったのに、何故俺は今農民の子供になってるんだよ……
いや、自分でも分かってるんだ。異世界転生の定番スキルを一通り全部とろうとしたらポイントが足らなくなって良い所の生まれや最初からの上位職を全部諦めるはめになったということだ。俺は自分自身に鑑定スキルをかけながらため息を吐いた。
『テオ 人族 15歳
ジョブ:剣士 レベル1
スキル:火魔法1 水魔法1 風魔法1 土魔法1 回復魔法1 治癒魔法0 洗浄魔法1 浄化魔法0 収納魔法1 鑑定魔法1 探査魔法1 隠行魔法1 強化魔法(剛力、俊足、遠見)1 剣術1 槍術1
HP 17 MP 4086 STR 7 INT 5 VIT ……』
一言で纏めると欲張り過ぎ。火水風土の4系統が使えて、異世界転生定番のアイテムボックスと鑑定と探査と気配遮断ができて自分自身の怪我が治せるなんて、いくら前世で偉人になる予定の子供を救った善行があるからといって全くポイント足りませんわ。更に他人を癒せる治癒魔法とか幽霊が退治できる浄化魔法とか贅沢にもほどがあるという。治癒魔法と浄化魔法にいたっては0になにを掛けても0で自分では鍛えようがなくて、例えば回復魔法とかを使い続けていくうちに派生で治癒魔法1がいつか生えてくるかもしれないという可能性だけを転生ポイント使って買っているなんて、どこまで未来志向なんだよ俺。
あと結局の所、世界に対する影響度の大きさで選択できるものの幅が決まるみたいで、魔力量に関してものすごく大きく取っても出口である使用魔法のレベルを極限まで小さくしておけば蛇口の小さい風呂みたいな感じで許されてしまった印象で、魔力量だけは現時点でも恐らく誰にも負けない大きさがあるようだ。これも将来のためにという奴だな。
ついでに転生部屋での記憶をほじくり返すと、物語でたまに出てくる時を遡れる魔法とかは世界全体に影響が及ぶということで微塵も取れる気配なし。そこまでいかないはずだけど転移魔法も箸にも棒にも掛からない高額スキルだった模様。
まあ最初から取れないものは諦めるとして、残念だったのは人に較べて数倍とかの速度でスキルを上げることができる速習魔法も手に入らなかったことだ。これはやり方を考えつつ人より何倍も努力しないと一杯あるスキルを十全に活かせないということなんだよなあ。これは本当に困ったことだ。
そもそもこの世界では魔法が使えるのは極一部の人間、それもほぼ貴族階級に限られるから俺の記憶がもどらなかったらテオは多分、自分が魔法を使えるのではないかと一度も思いもしないまま人生終えていた可能性が高そうだよな。
さて、ここまでが反省の時間でこれからは次からの展開に備えないといけない。まずは手持ちのものを確認しよう。テオの持ってきたものは出掛けに叔父さんである村長から正式に譲り受けて来た剣が一本と着替えとかが入ったずた袋と宿に一週間も泊まればなくなりそうな路銀だけ。テオの時の俺、良くこれだけの持ち物で意気揚々と村から出てきたな。世間知らずにもほどがあるぞ。
というわけで、元日本人の俺の出動だ。転生前に欲張って考えたということはそれなりに準備をしていないわけがないということでアイテムボックスの出番になる。女神さまにアイテムボックスに入れるものも一緒に指定して良いが確認しておいて本当に良かった。
確認して一安心。転生時に指定したとおり新米冒険者用の装備一式に、薬草取りや狩りに使う小道具、薬用ポーション、食料、着替えに季節一つ過ごせそうな程度の現金が入っていた。剣に関しても攻撃力+2(基礎レベル10以下用)のものが入ってたので(ついでに槍も)、叔父さんの剣はいきなり予備になってしまってごめん。
まだ陽も高いようだし、あとは今日のうちに思いついたことの確認をしておくか。
盗られても良いように、家から持ってきたずた袋に入っていた着替え以外の物をアイテムボックスに入れ直して宿を出る。
ここからは実験の時間だ。
探査魔法をかけながら宿を出て表通りから今朝入ってきた門に向かって歩いていく。
大切なのは探査魔法を起動するときにかける範囲指定と検索条件で、検索結果が探査をかける領域内で表示可能な一定数を下回っていることだ。
これはある意味当然のことだ。
例えば、昆虫を指定して探査魔法をかけようとしても、意味のない程多数の存在が検索結果の対象になって表示できなくなるだけの話だ。
今回は一番簡単な例ということで、人族を対象にして探査魔法を起動している。
確かにレーダーみたいな印象の映像が頭の中に浮かんできて、光点が存在する人に対応しているようだ。視界が遮られている建物内にいる人間もちゃんと数えられている模様。建物がまばらになり人の行き来も減ってきたところで周りを見渡して人気のない建物の裏に回って今度は隠行魔法を使ってみる。隠行魔法と探査魔法の二重起動は問題ないようだ。
誰にも見られていないことを確認した上でアイテムボックスから初心者用防具装備を取り出し装着する。宿で凡そ確認していたけど自分の身長に装備がビタリと合っているのは女神様の心遣いというやつかな。単に俺がアイテムボックスの中を確認した瞬間にふさわしいものを顕現させたという方がありそうかも。この辺は観測理論みたいなもんかもしれないな。
とりあえず新米冒険者装備の俺が出来上がったので、人に見られていないか確認しながらまた大通りの方に戻る。
今度は街の中央部にある市場に向かう。噴水のある広場の四辺に食い物屋や八百屋を中心とした出店の屋台が並んでいて結構な人出となっている。冒険者ギルドのある街らしく冒険者姿の者も多い。そろそろ夕刻なので街の外に出ていた者が戻ってきているのかもしれない。
ぱっと見の印象としては、思ってたよりみんな不潔でない格好をしてるような気がするな。俺もスキルで取ったけど洗浄魔法みたいな生活で使える魔法があるのが原因として大きいのかもしれない。
人ごみに紛れながら今度は鑑定を試してみる。
ちょうどこちらに背を向けているモヒカン頭の冒険者風の大男がいたので鑑定をかけてみる。
『人族 レベル12』
おい、これだけかよ。なおかつ俺の鑑定に気付いたらしい大男が物騒な気配を撒き散らしながら辺りをきょろきょろ見渡してるじゃないか。あぶねー
要はレベルが高い存在に対する鑑定は弾かれてレベル以外の情報はわからないし、鑑定対象の相手に気付かれる危険性があるということだな。あれ、ちょっと待て。ふと気付いた俺は目の前の青果を売っている小柄な屋台のおばちゃんを鑑定する。鑑定に気付いたらしいおばちゃんが不思議そうに俺に目を向けてくる。
『人族 レベル4』
こら、このレベル4っておばちゃんが『商人 レベル4』って意味で、おばちゃんにどんな戦闘力があるかってことじゃないだろ!どうなってんだ!
目が合ってしまったので仕方なく林檎みたいな果物を買ってあげました。
鑑定使えない、いや使えないのはレベル1の俺の方か……
とりあえず探査を自分に害意のある対象がわかる受動的動作の索敵に替えて、再度モヒカンにロックオンされてないことを確認しながらそろそろと市場を離れた。この索敵の条件付けというのは最初の一回目に探査魔法を起動したときに頭の中に浮かんで来た。要はレベル1時点で使用可能な探査魔法のモードということだろう。
鑑定は安全第一で鷹の目(遠見)の魔法と一緒に使うことにして、それの練習もしながら宿に向かった。練習台になったチンピラ兄ちゃんたちはご愁傷さまだが、街のチンピラ連中のレベルは平均一桁後半だということがわかったぞ。
索敵を有効にしながら宿に入る。
「あら、なんか勇ましい姿になったわね」
「街で一揃い買い物をしてきたんですよ」
声をかけてきた俺より少し年上に見える宿屋の娘らしいお姉ちゃんと会話を交わす。割と長身で愛嬌のある顔に長い栗毛の髪を邪魔にならないよう紐で縛って垂らしているのが健康そうで良い感じ。今の問いかけも俺がわざわざ目の前に立ってアピールしたのを、ちゃんと気付いて聞いてくれているのが好印象だ。
アイテムボックスから出してきた装備をつけて部屋からそのまま出てきて、お姉ちゃんに不審がられるわけにもいかないので、実はこのやり取りは必要だったりする。あと俺たちの会話を何人かが見ているようだったが、索敵には何も反応が出ていない。
これでもし、誰かがヒットするような明日の朝にでも宿を替えないといけないと心配していたのだけれど杞憂だったようだ。ほっとしながらそのまま一人席につき夕食を摂る。うーん、テオの時は全然気にならなかったけど、異世界の飯調味料が効いてなくて美味しくないぞ。贅沢は敵だけど、これはこれから辛いかもしれないなあ。
「思ったより安く上がったので、もうしばらく分の宿代を先に払っておきますね」
「まあ嬉しい。でも予め言っておくけど前払いの割引きはないからね」
部屋へ上がる別れ際に数日分の宿代に当たる枚数の銀貨を渡しておくと、お姉ちゃんが笑顔で返事をくれる。なんにせよお客が優良で宿が安心で看板娘が美人で胸が大きいのは良いことだ。この宿を勧めてくれた行商人のダンテさんありがとう。
こうして記憶を取り戻した俺の異世界一日目は無事終わった。
明日は懸案の冒険者ギルド登録だ。何も揉め事が起きないと良いんだがな。
それよりなにより、俺、ニナちゃんのことこれから一体どうすれば良いんだよ……
(04話に続く)
単に下書きしていた時には実はこれが最初の一話だったという……
今後、レベルやスキルや魔法周辺でありとあらゆる怪しげな説明が主人公の口から出てきますが、作者妄想による所謂『ボクの考えた素敵な魔法世界』というやつになりますので、広い心で読み流してお許し頂けましたら幸いです。
>>俺、ニナちゃんのことこれから一体どうすれば良いんだよ……
おっぱい星人の田中テオ君はとりあえず現実逃避に走るようです。
会社の休暇で帰省した最終日に、後は新幹線で帰るだけだからと思って実家で飲んで良い気分になって酔っ払っていたら、近所に住んでて良く知ってる高校生の女の子が遊びに来て、お兄さんぶって悩みごとを聞いているうちに「なんなら僕がお嫁さんに貰ってあげるよ」と言ってしまっていたのを、次の日の朝、東京のアパートで目覚めてから思い出した(今ここ)状態かも。
次回、04話は9/12 22:40に予約投稿済です。