異世界転生で欲張り過ぎてしまいました   作:真紅或は深紅

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04話  冒険者への登録

 宿屋のお姉ちゃんに冒険者ギルドが空いてそうな時間を聞いて、昼食まで後一刻というくらいの頃合いに冒険者ギルドの建物を訪れる。この時間帯を選んだのはギルド内で接触するだろう人間の数をできる限り減らすためだ。テオであった時の俺は朝一で冒険者登録してそのまま狩りに行くつもりだったのだから、記憶を取り戻した俺と人格や行動に違いが出るのは仕方のないことなのだろう。

 

 受動的動作の索敵に鑑定を紐付けて、もし自分に害意のある人間がいたらレベルがわかるようにしておいたのだが、とりあえず反応がないことに安堵しつつ人の少ない板張りの屋内を受付へと進み、空いている受付嬢のいる窓口へ声を掛けた。

 

「新規の冒険者登録を行いたいのですけれど」

「あら、見ない顔だけどここのギルドは初めて?」

「いえ、冒険者ギルドに来たこと自体初めてですけれど」

「そうなの?じゃあ、まず申請書類を書いて、その後適性検査ね」

 

 二十歳台半ばくらいに思われる知的な印象のする受付のお姉さんの慣れた感じのやり取りで登録処理は進んでいく。

 田舎暮らしのテオは書類とかは苦手だったろうけど、元日本人の俺には名前と個人情報、犯罪歴のないことの宣誓と犯罪しません宣言の記入くらいお手のものだ。少し考えた後、手早く記入が必要な入力欄を埋めていく。

 書類と一緒に出す登録料の銀貨3枚も昨日までのテオだったら手痛い出費だったかもしれないが、追加物資を得た今の俺には何ともないぜ。

 

「テオ君かあ。そうか、十五歳だものね」

 

 俺の記入した書類を見て受付のお姉さんが微笑んで呟く。どういうことかというと実は俺の生まれる前年にこの国の第二王子が誕生していて、二百年前くらいに生きた同じ名前の高名な王様がテオという平民あがりの勇者を生涯の友として重用したことから、王子様の誕生を聞きつけた平民が自分の子供の出世を願ってこぞってテオという名前をつけていたのだった。

 

 俺の村でも普通なになに村のテオという感じで子供の名前は被らないようになっているのだが、俺の場合は隣村から越してきた夫婦にテオという同じ歳の小柄で元気な子供がいて、これまでの人生で俺は村の中で「でかい方のテオ」とか「地味な方のテオ」とか呼ばれて生きてきたのだった。

 

 実はこれも偶然じゃない。転生部屋で女神さま(女神様ではない)に転生条件を聞きまくった際に、この世界に一番ありふれた名前にすることも、比較的体格に恵まれるようにすることも、容姿は良く見れば割とましなのにぱっと見には平凡で存在感が薄くて地味なことも全部お願い済みの案件だ。

 

 そもそも自宅から馬車で数日で行ける街に、国で一番初心者向けと言われる冒険者ギルドがあること自体が偶然であると思ってはいけない。すいません、生まれた場所もやらせです。何もかも目立たず安全に異世界を生きていくための布石なんです。

 

「じゃあ、水晶球に手を置いて」

「はい」

 

 成人の儀式と同じ感じで受付のお姉さんが奥から出してきた水晶球に手を触れる。

 ちなみに水晶球が表示するのはジョブとレベルだけ。多分、成人の儀式に使われる物と製造元が一緒なんだろう。これがスキルまで表示されるようなら個人情報も何もあったものじゃないけど、それなら鑑定スキル自体が殆ど価値なしになってしまうし、そんなことはあり得ないのだった。

 

 ちなみに今回取ったスキルの中で単体で一番高額だったのは鑑定だった模様。女神さまによると鑑定のスキル持ちは本当に稀少な存在で、ほぼ間違いなく王宮や上位貴族に取り込まれているので、冒険者として普通に活動していればまず出会うことは無いだろうとのことだった。

 

「剣士レベル1。成人の儀式を受けたばかりなのね」

 

 普通に二人だけの会話の感じで水晶球を覗き込んだお姉さんが言ったその瞬間だった。

 自分の右斜め後方に突如、索敵が反応した。

 

『人族 レベル3』

 

 

 

 

 まじかよ。女神さまにお願いして周到に用意したはずの俺の平穏な冒険者生活の予定が、いきなり音をたてて崩れていく……

 おいおい、冗談じゃないぞ。俺の設定した索敵の条件って殆ど完全に命を奪うレベルの害意がないと反応しないんだぞ。異世界定番の新人冒険者への嫌がらせとかじゃなくてなんで殺意なんだよ。

 

「とりあえず、ジョブに冒険者の適性はあるようで安心したわ。それじゃあ、注意点の説明を……」

 

 お姉さんは俺に書類を見せながら、ギルドの昇格や報酬システムや罰則規定などについてその後も説明し続けたが、索敵の加害対象警告を受けた俺は後ろを振り向かないように自制心を発揮するだけで精一杯でそれどころではなかった。

 

「ふう、やっぱりこういう規則の話を聞くのは面白くない?」

「いえ、そういうわけではないのですけれど……」

 

 心ここにあらずの俺に気付いたのか、やれやれという感じで受付のお姉さんは話を切り上げることにしたようだ。少し席を外すと、羊皮紙一枚と手の平に収まる大きさの鉄製の板を俺に渡してきた。

 

 羊皮紙の方は魔物の森周辺の地図だ。後でよく確認しないとな。

 登録料はちょっとお高いと思ったけど、こういうサービスが着いてくるなら納得だ。

 

 鉄製の板の方も確認すると、冒険者ギルドの紋章とタワバ支部の文字、登録日の今日の日時と俺の名前が刻まれている。

 

 おお、これが身分証替わりの冒険者カードか。

 

 お姉さんから渡された自分専用の冒険者カードを俺はしげしげと眺める。元の世界の自動車免許と一緒で説明の間に申請者個人の名前を彫ってカード作成の作業を終わらせるシステムになっているらしい。

 

 残念ながら、王国共通の引き出し機能も、ギルド間の超高速通信による情報共有もあるわけがなく、このギルドに預けたお金はこのギルドで対面でのみ引き出し可能だそうだ。成果を引き継いで別のギルドに登録したい時は、ここのギルドでの累計成果証明書をお金を出して書いてもらって別のギルドの登録時に冒険者カードと一緒に提出することで、継続してランクを上げていくことが出来るらしい。

 

「なんにしても、近頃新人の冒険者の子が最初数回のクエストで戻らない事故が増えてるから、テオ君も十分に注意して依頼をするようにするのよ」

 

 冒険者カードを見て一瞬だけ舞い上がっていた俺は、受付のお姉さんの言葉ですぐさま素に戻って思考を巡らせる。そういうことか……

 

 心配顔でお姉さんは俺に警告するけど、それ多分違ってます。

 俺の右斜め後ろにいる人間(仮称ヤス)が初心者殺しの犯人、PK野郎だと思います。

 

「テオ君はすぐに常設依頼を果たしに行くの?」

 

 朝に張り出された割の良さそうな依頼が全部剥がされてしまったのか、隙間だらけの依頼掲示板の方を向きながら受付のお姉さんが言う。まあ、登録初日でレベル1の新人がやれるような仕事が外部依頼の形で出てくるなんてことはないよな。新人にやれることといえば、雀の涙程度の報酬しか出ない常設の薬草取りとか小物の害獣魔物狩りと相場は決まってるもんな。

 

「いえ、街に来たのも初めてなので今日は登録だけ済ませて少し街の中心部を回ってみようと思います。そこまで財布の中身は危機的状況ではないので、依頼をやりに行くのは少し慣れてからにしようと思います」

「うん、それが良いかも。これからゆっくり頑張ろうね」

 

 

 受付のお姉さんの応援を受けつつ右回りで一瞬だけ後方を見渡しながら後は一目散にギルドの建物から出て行く。索敵に写った対象は動いていないようで、脳内画面で中心から徐々に遠ざかってそのうち範囲外へと消えていった。

 

 目を合わせないように気をつけながら瞬間的に目に焼き付けたが、貧相な体格の目つきの悪い中年の小男だった。レベル1と言った途端に反応したところを見ると新人冒険者を専門に襲撃しているということだろう。新人冒険者など録に奪うほどの金も装備も持っていないだろうに冷静で自分の安全に拘る狡賢い奴だ。

 

 最後のお姉さんの言葉はありがたかった。あの問いかけで多分やつは今日のところは俺を尾行して害しようという気がなくなったに違いない。

 

 冒険者ギルドの僅かな時間の滞在で疲れ果ててしまったが、まだ時刻は昼前だ。

 俺は索敵で尾行がついていない事を再度確認してから街の外に出て魔物の出る森の方へと向かう。無論、街の外に出る際には貰ったばかりの冒険者カードが活躍したことは言うまでもない。

 

 さて、状況を整理して考えるとのっけから悲劇的展開だが、まだ救いはある。

 鑑定で判明したヤス(仮称)の実力がレベル3ということだ。これならなんとかなるかもしれない。

 

 俺は最速でのレベルアップを目標にして、貰った羊皮紙を眺めながら魔物が出る森の方向へ足を速めるのだった。

 

 

(05話に続く)

 

 




主人公が自分の仕込みを自慢してたら罰があたってどつぼに嵌るお話しでした。

現地人テオ君なら今話が01話からの続きになって、朝一番に着の身着の儘、剣だけ履いて冒険者ギルドに登録に行って、受付のお姉さんに「この子、大丈夫かな?」とか思われながら冒険者登録して、そのまま元気良く初心者狩りの尾行が付いてることも知らずに魔物の森に出発していたことでしょう。

次回、05話は9/14 22:10に予約投稿済です。
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