異世界転生で欲張り過ぎてしまいました   作:真紅或は深紅

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05話  経験値への疑念

「どうなってるんだ。この世界のレベル上げのシステムは?」

 

 『ゴブリン レベル3』とさっきまで表示されていた魔物の死体から魔石をほじくり出しながら俺はぼやいていた。

 

 ギルドで低レベル冒険者ヤス(仮称)に加害対象と認識されたことで、受付嬢のお姉さんへの返事とは裏腹に、俺は速攻で街を出て魔物討伐にやって来たのだった。

 

 ゲームの中での魔物退治とは違い、実際に魔物を退治しようとするとまず魔物がいる所まで辿りつかないといけない。このタワバの街では街の北東の領域のほぼ全面に渡って勾玉型の魔物の森が広がっているのだが、魔物の森に来るまでには街の東門を出て分かれ道を右に行って岩場の多い小山を上って峠に出てそこから左に曲がって魔物の森に向かって降りていく必要がある。

 

 冒険者ギルドで貰ってきた羊皮紙に記載されている所要時間だと、一日の半分くらい陽が出ているこの季節、夜が明けた頃に開門される街を出て、陽が暮れる頃の閉門時に街に戻ってこようとすると、その三分の一の二刻を行きに費やして、また三分の一を帰りに費やして、残りの三分の一の時間で狩りをする必要がある感じになるようだ。

 

 途中の経路も急峻な場所が多いようで、街から峠に行く道も、峠から魔物の森へ行く道も馬は使えないらしい。街と魔物の森を往復する予定の自分には関係ないのだが、峠から分かれ道を右に行って他の街へ続く道へ行く方だけは、そこから道が滑らかになるらしく馬が利用できるようになるらしい。

 

 峠からすぐ近くに勾玉の尻尾に当たる部分があるから。ここで良いんじゃないかとふと思って良く地図を見たら、勾玉の背骨に当たる部分には魔素が湧き出る地脈みたいなものがあって、強い魔物の住処になっているようだ。新米冒険者の俺には全くお呼びでない場所みたいでこのアイデアは捨てた。

 

 ちなみに峠は見晴らしの良い岩場の荒地になっていて、道の分岐がある場所のごく近くに都合よく窪みのある大岩があって男女二人で座って景観を楽しめるようだ。間違いなく意図的に岩を削った魔法使いがいるに違いない。俺も機会があれば是非、宿屋の看板娘のお姉ちゃんを誘ってみたいものだ。

 

 話を戻すと、要するにもう昼も近い時間に街の門を出てのこのこ魔物の森にやってきた俺には、狩りをするのに大した時間が残されていないということだ。

 

 危険を承知で冒険者生活1日目で魔物の森の入り口に近づき、一匹だけでいる所を見つけた『ゴブリン レベル2』をレベル1の隠行で近づいて攻撃力+2の剣を使ってぶった斬ったところまでは順調だった。だが、ゴブリン討伐後に自分を鑑定してみてもレベルは剣士1のまま、その後3匹『ゴブリン レベル2』を斬ってもレベル1.挙句の果てに探して見つけた『ゴブリン レベル3(身体強化スキル持ち)』を怖い思いをしながら数度の打ち合いの末、倒した後でもまだ俺のレベルは1のままだった。

 

 くそー、レベル上げの途中経験値が表示されないのが何もかもいけないんじゃないか!

 

 森に来る前に想定していた展開だと、ゴブリンを一匹倒せばレベル2になってもう数匹倒せばレベル3、一日頑張ればレベル5くらいにはなってヤス(仮称)との差も逆転するだろうと思ってたら、全然想定外の展開だ。この世界の女神様ではない方の女神さまに文句を言いたくなるのも、自分的には妥当な所だと思えてしまう。

 

 テオとしての人生を過ごしている途中で気付いたのだが、この世界レベル差は殆ど絶対だ。同一職業の者同士、例えば剣士二人で片方がレベル5、片方がレベル3だとした場合、同じ条件で両者が対戦すると10回のうち9回以上はレベル5の方が勝ち、もし片方がレベル6なら、100回やって一度もレベル3の人間が勝てないのが普通くらいの差がある印象だった。前世の記憶を取り戻した今になって思えば、レベルが1違うのは標準偏差が1シグマ違うのと同等なのではないかと考えてしまう。

 

 そう思うと、多分この世界のシステムは同レベルや格下と評価される相手を倒しても殆ど経験値が入らない仕組みになっているのだろう。勝つ確率の低い格上の相手を倒さない限りレベルアップは果たせないというのが段々確信めいてきた。

 

 あれ、そう思うとさっきの『ゴブリン レベル3』は鑑定に身体強化のスキルやらそれ以外にも情報が出ていたぞ。つまり俺と同等か格下ってことじゃないか?

 

 しかし、これはまずいことになった気がする。安全を確認しながら黙々と格下の相手を真面目に討伐し続ければレベルアップするというのなら、元日本人で社畜気質の俺向きと言えるんだが、毎回命がけののるかそるかの格上相手の戦いをしないとレベルアップの経験値にならないということになると、雑魚魔物の討伐なんて事実上意味がないということになる。

 

 上位貴族が自分たちの子供に『養殖』をやるとは聞いてたけど、これは確かに自分より上位の手下に魔物を半殺しにさせて止めだけ自分の手でやってレベルアップというのは効率的だわ。面倒なことに幾つもレベル差のある存在を仕留めても、上がるレベルは常に1だけというのがこの世界の仕組みなので、上位貴族は成人の儀式を終えた嫡男を体面を保てるレベルに引き上げるために一人当たり20匹も30匹も魔物を用意して殺させるらしい。上位貴族さん、ぱねぇ。俺もそっちの子供にしておけば良かった気ががんがんしてきたぞ。

 

 いかんいかん、泣き言を垂れ流してる場合じゃない。配られた手札で……どころか、自分で選んだおいた手札に文句を付けるなんて、おこがましいにも程があるというやつだよな。

 

 もう夕暮れ時が近づいているけれど、これからどうしたものか。ヤス(仮称)にロックオンされてる状態では、今日レベルアップしないまま諦めて帰るというのはしたくない。ここは門から徒歩二刻くらいの距離の場所なので、街の門が閉まる夜が更ける前の時間に間に合わせるならもう引き返さないといけない時間だけど、仕方ない、倍プッシュだ。つい先ほど思いついたアイデアを試してみることにして今日は野営して何か狩る。探査スキルがなければ恐ろしくて到底出来ない選択だよな。

 

 何が出るかな、何が出るかな……とやけくそで歌いながら森の手前で挑発的に火を起こして、ゴブリンのついでにやっつけておいたホーンラビットを結構な幅と流れがある川辺で捌いて焼きながら次の獲物を待つ。この辺は田舎暮らしで害獣退治をやっていたテオの経験が活きるよなあ。俺だけだったらこんなに簡単に兎丸ごとの解体処理なんて出来ない所だったぞ。

 

 食事が終わって焚き火を消せば、さあ本気の時間だ。野営跡にさらにナイフで内臓を傷つけた数匹のホーンラビットを放り出し、風魔法で血の匂いを森に送り込む。待つことしばし、探査に反応。団体さんの登場だ。森と逆側に後退しながら森から何が出てくるかを鷹の目で見張る。そういえば鳥目という言葉があるが、鷹とかは夜間でも通常の人間とは比較にならないくらい見えてるから問題はない。

 

 森から姿を現したのは狼を一回り大きくしたような見える印象の魔物五匹だった。鷹の目と共にその中の一匹に鑑定をかける。

 

『グレイウルフ レベル4』

 

 人間と違って魔物は鑑定を受けることに対して鷹揚なようだ。鑑定を掛けたことで俺自身に索敵が点灯することもなく悠々と焚き火跡に近づいてくる。ほっとして残りの四匹にも鑑定を掛けたところ三匹がレベル4で一匹がレベル5だった。このレベル5の奴が群れのリーダーということなのだろう。そして大事なことは鑑定の結果に種族とレベル以外の情報が表示されなかったことだ。要するにこの五匹はどれも世界システム的に俺より上位の存在ということになる。これは大漁すぎて困ってしまう展開だが、とりあえず当初の方針でやるしかない。

 

 息を潜めて見守ること暫し。焚き火跡まで到達して辺りを警戒するかのような様子を見せていたグレイウルフは安全と見なしたのかホーンラビットの肉をかじり始めた。群れの中に優劣があるのかの肉を齧り出したのはレベル5の一匹ともう二匹で残りの二匹は周囲の警戒をしているようだ。よし、仕掛けるぞ。

 

 肉を齧っている三匹は十分密集しているが、そのすぐ付近に俺の風魔法1でくるまれた状態のまま置いてあった魔物除け匂い袋を三匹の鼻先で破裂させると共に周囲を警戒している二匹との中間でも追加の匂い袋を続けて破裂させ追撃をしかける。

 

 効果は絶大だった。鼻先で匂い袋を破裂されられた三匹は狂乱状態で自らの鼻先を草や地面にこすりつけている。残りの二匹の方は悲鳴を上げながら仲間を見捨てて一目散に森へと逃げ去っていく。

 

 とりあえずの脅威が無くなったことを確認した俺は、身体強化をかけた状態で三匹の前に飛び出すと、アイテムボックスから取り出した槍で転げまわっているグレイウルフの腹目掛けて無我夢中で突きを繰り出し続けた。グレイウルフが激しく転げまわるせいでなかなかちゃんとした一撃を与えられなかったが突きを何回か繰り返すうちに確かな手ごたえを感じる回が出たため、目標を変えてまた渾身の突きを繰り返した。

 

 血まみれになった三匹は地面に横たわりながら錯乱を続けていたが段々と動きが小さくなってきた。と思ううちにレベル4の一匹が一声泣いて息絶えたようだ。これはやったか?期待を込めて自分を鑑定だ。

 

『テオ 人族 15歳

 

ジョブ 剣士 レベル1

スキル 火魔法1 水魔法1 風魔法1 土魔法1 回復魔法1 治癒魔法0 洗浄魔法1 浄化魔法0 収納魔法1 鑑定魔法1 探査魔法1 隠行魔法1 強化魔法1 剣術1 槍術2 

 

…』

 

 あれ、なんか違う。剣士レベル1で槍術2。それじゃダメだろ!

 俺は慌ててアイテムボックスから剣を取り出すと、まだ息のある二匹にざくざくと突き刺した。ほっと一息ついた途端もう一つの可能性に気付いて更にざくざくとレベル4の方のグレイウルフに追加の攻撃を入れて先に絶命させた。

 

『テオ 人族 15歳

 

ジョブ 剣士 レベル2

スキル 火魔法1 水魔法1 風魔法1 土魔法1 回復魔法1 治癒魔法0 洗浄魔法1 浄化魔法0 収納魔法1 鑑定魔法1 探査魔法1 隠行魔法1 強化魔法1 剣術2 槍術2 

 

…』

 

 よし、今度は予定通りだ。座り込んで安堵のため息を吐いている間にもう一匹のレベル5の方も絶命寸前だ。神様にお願いしつつこいつにも鑑定。ああ、だめだ。こいつ『統率』のスキル持ち。それがわかるということはこいつは人間換算でレベル2の現在の俺と同等ということだ。これでは、こいつが死んでも俺のレベルアップは起きないな。

 

 最後の一匹が死んだが、予想通り俺のレベルは2のままだった。

 こうして今日の俺の戦いは終わった。最低限の成果は得たことだし街に帰ろう。

 

 まだ夜になって大したことのない時間帯だが、夜にも街に絶え間なく光が溢れる元の世界とは違い一帯は既に闇に包まれようとしている。夜目が利く鷹の目のスキルを持っていなければ地面にある道を確認しながら街に戻るのも一苦労だったろう。

 

 逆に夜空には星から降ってくる淡い光が溢れている。月も明るい。恐ろしいことに表面に浮き出ている模様は見慣れたものだ。そう思って夜空を眺めると、カシオペアと北極星と北斗七星が簡単に確認できてしまった。女神さまが言っていたこの世界ヴィロナスというのは完全に地球と無関係な異世界というよりは、恐らく地球に対する平行世界とか分岐世界に当たるものなのだろう。

 

 森から街の門の前まで移動して盛大に篝火の焚かれている門のすぐ脇の安全地帯で朝の開門を待つことにする。街の衛兵が常駐している場所の至近で突っかかってくる馬鹿もいないに違いない。なにより、後出しで考えてみると自分より格上の五匹相手の戦闘って、運が良くなかったらダメだったんじゃないかという気がしていて自分の取ってしまった行動を深く反省したのだった。

 

 夜明けと共に門が開き、街ではいつもの一日が始まる。

 疲れた脚を引きずって宿屋に辿りついた俺を迎えたのは、朝の開店準備をしている看板娘のお姉ちゃんだった。

 

「昨日帰って来なかったから、いきなり魔物とかにやられちゃったんじゃないかと思ったわよ」

「初めて森の方に行ってみたら閉門時間に帰って来れなかったんです」

「あんた、冒険者向いてないんじゃない?

 まあ良いわ。朝ご飯食べる?」

「はい、ご飯頂いてから寝ます」

 

 俺が年下とわかっているせいか妙に気安いお姉ちゃんなのだった。

 なんにせよ、初めての魔物狩りはちょっと疲れた……

 

 

(06話に続く)

 

 




現地人テオ君なら森に着いた所で初心者狩りの冒険者に襲われて、今話が最終回になっていたことはまず間違いありません。そう考えればテオ君の中身が初々しさのかけらもない社畜サラリーマンになってしまったことも、読者の方に許して頂けるんじゃないか?と思いながらの執筆でした。。

1)レベルアップは人間レベル換算で自分のレベル+1以上の相手を、自分のジョブに対応するスキルを最後の攻撃に使って殺したら発生して、自分のレベルと対応するスキルのレベルが+1される。
2)自分のジョブに対応しないスキルを最後の攻撃に使って、人間レベル換算でそのスキルのレベル+1以上の相手を殺したら、そのスキルのレベルが+1される。
3)鑑定は人間レベル換算で自分のレベルと同じ数字(自分のレベル+1未満)だったら成功する。
と思っておいて頂けましたら大丈夫です。

今回でてきた生き物だと物語に明示的に出てこない(主人公が知れない)設定で以下のような計算になります。

人間レベル:ゴブリンレベル = 1:2.5(ゴブリンレベル3=人間換算レベル1.2なので倒してもレベル2にはなれない)
人間レベル:グレイウルフレベル = 1:2(グレイウルフレベル5=人間換算レベル2.5なので倒してもレベル3にはなれない)

次回、06話は9/16 21:40に予約投稿済です。
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